Vol.158 西三河の人口減少が警鐘を鳴らす愛知の課題  -付加価値創出型の産業振興戦略が鍵に-

愛知県人口動向調査の2023年年報によると、愛知県の人口は748.1万人で4年連続の減少となった。依然として首都圏に人口が吸い出されている状況だが、県内では三河地域の人口動態が弱含みの傾向を強めている。特に、モノづくり産業集積の心臓部としてけん引してきた西三河地域に元気が見られない。その結果、愛知県土構造は尾張依存型の色彩を強めている。三河地域の活性化戦略を考える事が県土の発展に向けて重要な課題だ。

1.人口減少を続ける愛知県人口  -外国人頼みの社会増と加速する自然減-

愛知県の人口は、2019年のピーク時(755.4万人)から7.4万人が減少している。2023年の対前年比は△0.22%で、減少率は横ばい傾向だが県の趨勢として減少期に入ったことは明らかだ(図表1)。今後5年以内に県人口は740万人を切る可能性が高い。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年までに愛知県の人口は約40万人減少することが見込まれているから、現状のペースよりも減少傾向が加速していくと見なければならない。

人口増減は、自然増減と社会増減によって構成される。愛知県の自然増減の推移を見たものが図表2だ。これによると、2023年の愛知県の自然増減は、出生数が51,517人に減少した一方で、死亡数が81,590人に増加し、△30,073人の自然減となっている。自然減が徐々に加速している状況だ。

自然増減はトレンドが維持される傾向が強いため、短期的に増減が入れ替わることはなく、少子高齢化は全国的な傾向の中で愛知県でも進行しているから、これに歯止めをかけて自然増に転換していくことは短期的には勿論のこと中期的にも見込めない。自然減をカバーする規模の社会増がなければ人口は減少することとなる。

愛知県の社会増減の推移を示しているのが図表3だ。これによると、2023年の愛知県の社会増減は、転入数が181,316人で、転出数が163,995人となったことから、17,321人の社会増加となった。わずかに社会増は増えているが、自然減が3万人規模であるため、これをカバーするほどの規模がなく、県人口の減少へと繋がった。

社会増減は、短期的に増減が入れ替わる性質を有しており、社会情勢、自然災害、産業立地や都市開発等によって変動する。政策による影響が発現しやすいため、筆者は社会増減に関心を持って見ている。但し、市町村の基礎自治体とは異なり、県単位の社会増減は広域的であるが故に政策効果は出にくいのであるが、それでも県土振興を図る上で重要な指標の一つとして見なければならない。

愛知県の社会増減の地域別内訳を図表4で見ておきたい。地域別を判明できるデータで集計しているので合計値は図表3と合致しないが、構造を見て取ることはできる。ポイントは2つだ。第一は、外国からの社会増が最も多いということだ。図表3のグラフで見たようにコロナパンデミックの中にあった2020~2021は愛知県の社会増は明らかに縮小したが、これが復調している傾向が見て取れる。これは、外国人の転入超過が戻ったことで愛知県の社会増加が復調しているのだが、外国人を除くと△9,320人のマイナスだ(図表4の黄色網掛け部)。つまり、国内だけの社会増減を見れば転出超過となっている訳だ。

第二は、首都圏との関係だ。愛知県への転入超過が多いのは東海地域と北陸・甲信地域からだが、首都圏への転出超過が1.3万人もあるため、△9,238人のマイナスとなっている(図表4の青色網掛け部)。つまり、国内に限った社会増減では、首都圏以外の地域との関係はほぼイーブンであるのに対し、首都圏への流出傾向が著しい構造だ。この構造は、長期的に続いており、愛知県が脱出できない課題となっている。

愛知県の人口動態が弱含みとなる原因は首都圏との関係だけではない。愛知県への社会増の主たる流入元である東海・北陸・甲信地域の若年人口が細っていることだ。つまり、愛知県にとってのパイが縮小傾向にある中、首都圏への流出拡大が止まらず、さらに自然減の拡大が追い打ちをかけている構図だ。

2.急速に弱まった西三河地域の人口増加力   -長年にわたる人口増加地域の弱体傾向-

今回、筆者が着目したいのは、愛知県内の地域別の人口動態における西三河地域の変化だ。図表5は、地域別人口動態についてコロナ前の2019年と今回の2023年を比較したものだ。人口、人口増減、社会増減、自然増減を比較している。

2019年までの西三河地域は、名古屋市に次いで人口増加傾向が強く、社会増とともに自然増でもあった。全国の自治体で少子高齢化による自然減が進行する中、この段階まで自然増を続けていたのは特筆に値する現象である。

その理由は、西三河地域がモノづくり産業集積の心臓部で、世界的メーカーの本社・拠点工場が群雄割拠しているため、毎年まとまった採用があり、これによって生産年齢人口の厚みが保たれていたことによる。採用された若者たちは、地域で世帯形成して出産・子育てをするライフスタイルが定着していたから、自然増加を続けることができたのだ。

しかし、2023年の西三河地域は社会増が急速に細るとともに、維持していた自然増が自然減に転換したばかりか、その自然減のボリュームは一気に拡大し、地域人口を減少へと転換させた。この西三河地域の人口動態の変化は2020年から起きていたのだが、コロナ禍収束後もその傾向が強まっており、これが愛知県の人口動態に影響を与えている。

そこで、西三河地域に限定して、日本人と外国人別に分解して集計し、実態を深堀りしておきたい(図表6)。西三河地域は外国人居住者が多いので、これを区分することで特性を把握し易くなるからだ。ここでは、2019年(コロナ禍前)と2023年を比較した。

西三河地域の社会増減は、2019年から2023年にかけて日本人の社会減が拡大し(▲4,108人)、外国人の社会増は2020年時に一旦は減少に転じた(表中にはない)のち2023年までに復調しつつあるが2019年の水準に戻りきっていない(4,224人)。この結果、社会増は116人と大きく縮小した。

自然増減については、外国人では大きな変化がないが、日本人で自然増だったものが▲4,106人と大きな自然減に転換した。この結果、自然増減は▲3,548人となり、社会増よりもマイナスが大きくなった結果、同地域の人口増減が▲3,432人となった。

ここから読み取れることは、西三河地域の最大の特質であるモノづくり産業において外国人雇用が戻りきっていない事、日本人の地域外流出が拡大している事(特に若者の地域外流出が大きい)、その結果日本人による人口再生産力が低下している事、などが伺える。

こうした西三河地域におきている人口動態現象は、モノづくり王国として繁栄してきた愛知県の社会経済に大きな転換期が訪れていることを示唆していると言えよう。

3.三河地域の活性化戦略の鍵は何か   -モノづくり産業に頼り過ぎない産業振興-

三河地域の人口において、社会増トレンドが更に弱まり、人口再生産力が一層に低下していくことが地域の不活性化に繋がることは言うまでもない。そして、それは愛知県の県土振興に大きな影響を与えることになるから、三河地域の活性化戦略を考える事は県として重要な課題だ。本稿では、主として人口動態側面から見たポイントを整理しておきたい。

三河地域には優秀な県立高校がいくつもあり、教育水準が高い事が知られている。但し、高校を卒業したティーンエイジャーたちの多くは、進学に当たり名古屋や首都圏、近畿圏へと流出する。名古屋市への転入超過数が多い県内トップ3は、豊田市、岡崎市、豊橋市の順となっている。ここまでは仕方ないとして問題は、名古屋市内の大学を卒業した若者たちの多くが首都圏へと二次流出することだ(vol.157ご参照)。世界のトップメーカーの集積をもってしても、三河地域に還流する地元出身者が少ない実態があり、モノづくり愛知の心臓部からの若者流出傾向は一層に強まっていると理解しなければならない。

若者たちの多くは、モノづくり産業に畏敬の念を持ちつつも、自分の職業観として選択しない人々が増えているように筆者には映る。そして、ミッションドリブン志向を強める若者たちは、経済処遇と社会貢献を両立できる活躍機会を求めて付加価値創出力の高い都市へと吸い寄せられていくのだ(vol.154ご参照)。

愛知県の製造品出荷額は長年にわたり国内トップだが、実は付加価値額で比較すると相対的に弱いのが現実だ。「世界トップメーカーに就職して安定を求める」という志向に若者たちは魅力を感じなくなっている。若者流出に歯止めをかけていくためには、付加価値創出力の高い知識集約型サービス業等の集積を高めることが必要だと筆者は強く感じている(vol.152ご参照)。それは、名古屋市も三河地域の拠点都市も同様で、各々の立場で課題克服型の産業振興をしていかねばならない。

産業振興の視点は、①付加価値創出型業種の振興、②地元企業のミッションドリブン型経営への転換、③スタートアップ事業の育成などがあげられる。③は既に各自治体で着手済みだと思うが、①と②を加えて再検証と政策立案を願いたい。三河地域で起きている地域課題は、愛知県にとっての重要課題だ。産業振興政策の立案にじっくりと検討時間を注ぎ、戦略的なプランの構築を期待したい。

Vol.157 名古屋市人口の横ばい傾向に潜む都市経営的課題  -首都圏への負け越しを打ち破るシナリオ-前のページ

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