Vol.164 ライバルを意識した都市経営を考えてみないか  -名古屋市が想定すべきライバル都市はどこか-

日本の三大都市と言えば、東京都(特別区部)、大阪市、名古屋市となるのが相場だが、名古屋市のライバル都市はどこだと捉えれば良いだろうか。長く民間シンクタンクに身を置いた筆者は、折々にライバル社を意識しながら活動をしていた。ライバル社の強みと自社の強み・弱みを念頭に置いた自社発展への取り組みを模索したものだ。都市経営に置き換えても、同種の発想が時として必要ではなかろうか。

1.人口規模に見る名古屋市は  -国内4位だが三大都市と言って良い?-

まず、人口規模を確認しておかねばならない(図表1の左側)。圧倒的なのは東京特別区部の973万人で、グラフを見ても突出していることが一目瞭然だ。問題は、その次以降の順位だが、2位は横浜市で378万人、3位は大阪市で275万人、そして4位が名古屋市で233万人となる。横浜市の人口規模は巨大で、大阪市との間に100万人もの開きがあり、大阪市と名古屋市との間には40万人の開きがある。人口の規模だけから単純に見れば、名古屋市は3位に入れない。

但し、国土計画における大都市とは、人口規模だけで規定されるべきではない。筆者は、人口規模に加えて拠点性が兼ね備わっていることが大都市の具備すべき条件だと考えている。拠点的な都市とは、周囲に背後圏を抱えて都市圏を形成し、その母都市と言える都市だ。大都市には社会経済の発展を牽引する役割が求められるはずだから、拠点的でなければならない。

この拠点性を表現する指標として昼夜間人口比(昼間人口/夜間人口×100)がある。図表2で見ると、横浜市は昼夜間人口比が100を大きく下回っている(92.55)。これは、横浜市に住む人口に対して、昼間に横浜市で暮らし働いている人口の方が少ないことを意味している。通勤・通学による市外への流出超過が大きいために生じる現象で、いわゆるベッドタウン的な性格を表している。横浜市民の多くが、東京都に通勤・通学している訳で、横浜市は東京に依存した都市という性格が強く、拠点的・自立的な都市とは言い難い。因みに大阪市の昼夜間人口比率128.42で東京特別区部(126.85)よりも高く、拠点性が極めて強い。名古屋市は111.23で東京特別区部、大阪市に次いで高い。

従って、拠点性を兼ね備える大都市は、上位から東京特別区部、大阪市、名古屋市の順となり、名古屋市は三大都市と言って良い。但し、人口の伸び率(2020/2010)を見ると(図表1の右側)、福岡市は1.102で東京特別区部よりも高く、政令市の中で最高値を示している。成長性では、福岡市を視野に入れておかねばならないだろう。

2.地域内総生産(GRP)に見る名古屋市は   -国内4位だが横浜市に肉薄-

次に、経済規模を見ておきたい。図表3(左側)で政令市の地域内総生産(GRP)を比較している。東京特別区部を省いているが、東京が1位であることは前提として見て頂きたい。それに続く上位の順は、大阪市が19.5兆円、横浜市が14.0兆円、名古屋市が13.3兆円となる。経済力で見ても、大阪市の国内2位の地位は揺るがない。名古屋市は横浜市に及んでいないが、図表3(右側)をご覧いただくとコロナ前までは肉薄していたことが分かる。残念ながらコロナ禍で少し引き離されはしたものの、名古屋市と横浜市は経済力でほぼ拮抗しており、サイドバイサイドの推移を見せていると捉えておきたい。

3.オフィスビル市場で見る名古屋市は   -福岡市に後塵を拝する-

少々趣は変わるが、大都市の都心に集積するオフィスビルの賃料を比較してみたい。図表4は、主要都市のオフィス地区に立地する賃料を都市単位に平均したものだ。これを見ると、東京都心5区が最も高く、次いで福岡市、名古屋市、横浜市、大阪市と続く。福岡市の賃料水準の高さに驚くのは筆者だけではあるまい。福岡市では天神ビッグバンと呼ばれる都心再開発が積極的に進められており、新規の大型ビルの竣工が続いたことが背景にあるように思える。オフィス賃料は、古いビルの継続賃料は上昇が遅いが、新規ビルは地域相場に照らして高い賃料水準で供給されるので、全体を引き上げる傾向が強い。福岡市の都市開発力が、オフィスビルの市場性を強含みにしていることが伺える。

一方、大阪市と横浜市は、オフィス地区の設定エリア数が多い。各エリアによって賃料水準に差があるため、全体の平均水準を下げているようだ。但し、大阪市の梅田北地区や、横浜市のMM21地区などは、新規の大型ビルの供給が継続しており、そうした地区では名古屋市よりも高い賃料水準となっている。

もう一つ着目しておきたいのは、東京都心5区との格差だ。東京のオフィス賃料水準を100とした場合の指数を見ると、横浜57、名古屋61、大阪57だ。平均賃料水準で東京都心5区に対して、その他の主要都市は4割ほど低い。東京のオフィス賃料の高さを再確認しておくことも重要点だ。

4.名古屋市のライバル都市はどこか   -ライバルは横浜市、学ぶべきは福岡市か-

名古屋市は、日本における三番目の大都市と言って良い。国土における大都市は、国土の発展を牽引する役割が期待されるのであるから、名古屋市はこれに応える都市づくりを展開していかねばならない。

そのためには、自市の強みと弱みをよく把握し、時流を見据えた将来への発展戦略を立案する必要があり、名古屋市もそうした取り組みを行っている。現在、新しい総合計画を策定中で、その中ではこうしたシナリオが構築されようとしている。

但し、都市経営という観点に立った場合には、より鮮明に成長戦略を打ち立てる必要がある。名古屋市が持続的に発展しつつ国土の発展に貢献していくためには、若者層が大量に東京に流出している状況に歯止めをかけねばならない(vol.157)。そのためには、名古屋市の付加価値創出力を高めていくことが重要だ(vol.152、154ご参照)。名古屋市の付加価値創出力を高めていくためには、情報通信産業をはじめとした高付加価値型の知識集約産業の集積を高めることが必要で、同時に、本社機能を誘致していくことも非常に重要だ。

リニア中央新幹線開業後には、名古屋市の東京へのアクセス性が飛躍的に高まり、かつ東京特別区部に比して名古屋市は圧倒的に諸コストが安いという比較優位性を持っている。これを活かして本社機能を誘致し、高付加価値型産業の集積を高めるための名古屋市独自の政策を打つことが、つとに有効であると筆者は考えている。

但し、その実現に向けて立ちはだかる都市もあろうし、有効な政策を立案するために学びを得るべき都市もあろう。例えば、本社移転を名古屋市に誘致しようとした場合には、横浜市が立ちはだかるに違いない。横浜市は首都圏に立地して、東京都心よりもオフィス賃料が安く、みなとみらい21地区を代表に新たな都市整備を進めていて、継続的なオフィス供給を実現している。東京マーケットからオフィス機能の誘致を画策する際には、強いライバルだと考えねばならず、これに抗すべき戦術が必要だ。

また、人口で高い成長性を示し、平均オフィスビル賃料水準で名古屋市、大阪市、横浜市を凌駕する福岡市の取り組みは研究対象とするべきだろう。外形的には、都心の再開発を計画的に推進してオフィス機能をはじめとした都市機能の高度化を進めているように見えるが、その陰でいかなる政策が後押しして奏功しているかを学び取らねばならない。

そして、現状では背中が遠くに見える大阪市の状況や取り組みも、常に視座に置いておくべきだ。大阪市の実力は強い。しかし、経済力指標で見る限り、大阪市も成長力が弱っているように見えるから、打開策を必死に模索しているはずだ。その手の内を探っておくことも参考になるだろう。

ライバルを意識して成長戦略・戦術を講じることは民間企業では基本だが、自治体には根付いていない。しかし、都市経営は競争でもある。しからば、名古屋市役所の中に、大阪市、横浜市、福岡市を分析するチームを置いてみてはいかがだろうか。さしたる人数は要らない。しかし、配置された担当者が集中的に分析すれば、必ず注目すべき事項が見つかるはずだ。これを参考にして政策立案の中に組み込むことが、競争力のある都市経営に結び付こう。  折しもJR東海は、リニア中央新幹線の開業について、正式に2027年を断念して最も早くて2034年開業を目指すと公表した。今から10年後である。沿線自治体は、今後10年の間に準備・実現すべき取り組みを洗い出す良い機会と捉えるべきだろう。これを機に、ライバルを意識した都市経営を展開してみるのも一考だと思うのだがいかがだろうか。

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