Vol.122 子育てをするなら「名古屋市で!」と言われるために  -保育と公教育の高質化に重点を-

名古屋市では、現行の子どもに関する総合計画「なごや子ども・子育てわくわくプラン」の計画期間満了(R6年度末)が近づき、次期子どもに関する総合計画策定の検討が始まった。教育・保育部会に招聘された筆者は、主として未就学児童の教育・保育の問題について議論に参画する。重要論点の一つは、児童数が減少期に入り、待機児童対策(量的拡大)から保育の質の向上へと重点課題をシフトさせるために、如何なる対策が必要かだ。筆者の目線から見た対策と、その先に見据えたい「子育て先進都市名古屋」となるための道程を展望してみたい。

1.未就学児童は減少しているが保育需要は増加  -共働き夫婦の増加が続いている-

名古屋市は、2011(H23)年4月の時点で、保育園の待機児童数が1,275人に達し全国ワースト1となった。以来、待機児童対策として保育園の拡充に注力し、2014(H26)年以降は待機児童数ゼロを堅持している。但し、希望する特定の保育園への入園を待つ世帯(通称:隠れ待機)は存在(R5.4時点で840人)している状況で、依然として保育ニーズは高い状況だ。

一方、名古屋市における教育・保育を取り巻く環境は確実に変化の兆しを表している。図表1は、名古屋市の未就学児童数(小学校に入る前の児童数)と、そのうち幼稚園・認定こども園を利用している児童、保育園を利用している児童(0~2歳と3~5歳の各々)の推移を示している。

未就学児童数の推移(図中の青色棒グラフ)を見ると2016年以降減少傾向となり、近年は減少が加速していることが分かる。しかし、3~5歳の保育園利用児童(図中のグレー線)は増加を続けており、0~2歳の保育園利用児童(図中の黄色線)は微増となっていて、いずれも減少していない。つまり、未就学児童が減少する中で共働きを希望する夫婦の割合が増加し続けているため保育ニーズは減少に転じていない。こうした中で、幼稚園・認定こども園利用児童は減少の一途を辿っており、2020年には3~5歳の保育園利用児童と数の上では逆転現象が起きている。つまり、名古屋市では未就学児童の減少が加速中で、ニーズは幼稚園から保育園にシフトしていると概括できよう。

但し、図表2に示すように保育需要の増加分(図中のオレンジ線)は鈍化傾向を示している。こうしたことから、未就学児童の減少傾向によって早晩に保育ニーズが減少へと転換する可能性が示唆されていると解される。従って、待機児童対策に端を発した保育園の量的拡充は転換期を迎え、保育の質の向上へと重点をシフトする必要があるというのが基本認識だ。加えて、名古屋市が子育てに適した都市として選択されるためには、小学児童を安心して預けることができる環境を整備するとともに、公教育の質を高めてより強固な信頼を得ていくことが必要だろう。

2.増やしてきた保育園を需要相当にソフトランディングさせる手法  -評価システムの導入を-

筆者は、待機児童対策が待った無しのさなか、新設保育園への株式会社法人の参入を認める議論に参画するとともに、量的拡充の中核を担った賃貸型保育園の法人選定にも携わってきた。株式会社法人は、マーケット(保育需要)が減少に転じた場合には撤退や縮小に対応する事が想定されるため、需給バランスにおける調整弁としての機能を果たし得ると考えた。また、賃貸型保育園の募集は募集定員枠が大きかったため、多くの応募法人があったが、各応募法人が掲げる保育理念や実践における保育の質においては少なからず差異が存在していると率直な感想を持っていた。従って、保育需要が減少に転じた局面では、株式会社法人による調整弁が機能する事を待つ(自然淘汰を含めて)だけではなく、保育の質に課題を有する保育園を供給減の対象にすることが望ましいと概念的には考えていた。

ところが、何を理由に特定の保育圏に定員減を迫るかについて、現状では決定的な根拠と仕組みが存在していない。しからば、その根拠と仕組みを新たに作らねばならない。そこで着眼したいのは、現在導入が進行中の保育園のICT環境だ。名古屋市の公立保育園では2022年度から保育園専用システム「コドモン」の導入が始まった。民間園では先行して同種のシステム導入が進んでいる。このシステムのアンケート機能を利用して保護者アンケートを実施し、子どもの笑顔の代替指標として保護者の「満足度」をデータ化することを提言したい。市内の全園を対象に全保護者による満足度を名古屋市当局が集計すれば、保育の質を判定する標準化された指標を一つ得ることになろう。これが客観的な判断材料の一つとなり得るのではないかと思うのだ。

但し、この指標だけで即断するのは早計であろうから、評価が低かった園には名古屋市が行っている監査によって原因を探索し、指導するプロセスを入れると良いだろう。指導した結果、改善が見られない場合に限り、定員を減員するという仕組みを作ることが可能ではなかろうか。導入されたICT環境を利用するので労力はさほどかからない。 また、この評価結果をオープンにすることも検討に値しよう。例えば、地図ソフト上に満足度調査結果をスコア化して表示すれば、保護者はどこに評判の良い保育園があるかを容易に探し当てることができる。保育園の運営者も、評価が高ければモチベーションが上がり、低ければ改善への動機となるはずだ。

こうした評価指標に基づく定員削減によって需給調整を進めれば、余剰を放置することなく名古屋市全体としての保育の質の向上へと結実していくと思うのだがいかがだろうか。保育園に限らず、幼稚園も同様に検討する事が望ましいと思う。未就学児童の教育・保育の質の底上げにつながると考えるからだ。恐らく、多様な副作用が発生する懸念が持ち上がるのだろうと思うが、そうした意見にも傾聴する姿勢を持ちつつ、検討が始まった次期子どもに関する総合計画の策定議論に当たり、これらの事を提言していきたいと考えている。

3.「小1の壁」の打破は急務  -トワイライトルームの拡大を優先すべき-

保育の需給調整と質の向上を図ると同時に急務となるのは「小1の壁」の打破だ。名古屋市には、小学児童の放課後の居場所としてトワイライトスクール・ルームと育成会(通称:学童)がある。このうち、トワイライトスクールは全小学校に設置済みだが、預けられる時間が18時までなので共働き夫婦にとっては制約が大きい。そのため、19時まで預けられるトワイライトルームへの移行が取り組まれている。また、育成会への期待も大きいのだが、保護者の負担が大きい事や、新設・増設が容易ではないことなどが課題となっている。

理想的なのは、名古屋市の全学区で、トワイライトルームと育成会の双方があって保護者が選択できる環境が整うことだが、名古屋市にはトワイライトルームも育成会もない学区(通称:空白学区)が全学区のうち3割残っている(vol.86ご参照)。空白学区は「小1の壁」の典型となるから、当面は空白学区の解消が優先されねばならない。

その際、迅速な対応が可能なのはトワイライトルームの拡充だと思うが、名古屋市は各学区のニーズと資源に配慮しながら丁寧に空白学区解消に取り組む方針を持っている。名古屋市子ども青少年局の姿勢は、急ぐあまりに画一的な施策となってきめ細やかなケアが疎かになることを避ける狙いがあると解され評価したいと思うが、一方ではスピード感も重要な効果であるため、一定のバランス感覚を持ちながら早期の空白学区解消に向けたロードマップを見極めて頂きたい。

4.公教育のリデザインを  -自律的な学習者としてのびのびと学べる小中学校に-

そして名古屋市が子育てをする最適都市として選択されるために不可避なのは、公教育のリデザインだ。名古屋市ではスクールイノベーションを掲げ、モデル校を指定しながら児童が自律的な学習者となるべくカリキュラムの改変に取り組もうとしている。また、河村市長の肝いりで、市立の全校(小中高校)に臨床心理士等によるスクールカウンセラーを配置し、心のケアの強化に取り組んでいる。

一方、新しいカリキュラムを実践する場にふさわしい学校とするために、ハード整備の基本方針となる「学校施設リフレッシュプラン」が策定され、小学校の更新・整備が計画されている。新しい学校空間のコンセプトには、複数のクラスでのびやかに使う事の出来る教室、教科学習の魅力を高める教室、多様な体験ができるゆとりある空間、ICTや環境親和型のエネルギーシステムの導入、オープンな職員室の設置など、様々な挑戦課題があるのだが、現状ではその進展は遅々としている。ソフトとハードで比べれば、ややソフトが先行しつつある状況だ。

カリキュラムをはじめとしたソフトの改変を進めるとともに、空間としてのハード整備も呼応したものとして動き出してこそ、公教育のリデザインを成し遂げることとなるので、是非そうした方向に歯車がかみ合いだすことを期待したい。

未就学児童の教育・保育の質を高め、小1の壁を打破し、公教育がリデザインされることで、名古屋市の子育て環境は顕著に改善していくものと思われる。他稿でも繰り返し述べているように、東京一極集中の是正を図ることが我が国の発展には欠かせないと筆者は考えているが、そうした際には名古屋市が受け皿となれねばならない。子育ての舞台として選択される都市となることは、その実現に向けて極めて重要な条件整備となるので、鋭意ある取り組みを是非とも期待したい。

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