Vol.58 民活シリーズ⑤ PFIに組み込まれる独立採算要素の意義  -民間事業者のノウハウを引き出す最大の要素-

PFI(Private Finance Initiative)の件数は年々増加を続けているが、過半数の案件に独立採算要素が含まれている。PFI事業者が行政に代わって公共サービスを提供することへの対価はサービス購入料と位置付けられ、行政からPFI事業者に支払われるのであるが、独立採算要素はPFI事業者の裁量とリスク負担で運営される。民間事業者側から見れば参入障壁ともなりかねない独立採算要素が組み込まれることの意味を考えてみたい。

1.PFI事業の増加経過  -過半数で組み込まれている独立採算要素-

PFI法が制定された平成11年(1999年)以来、全国の国および地方自治体の公共事業においてPFI事業は増加の一途を辿っている。図表1はデータが少々古くて恐縮だが、全国のPFI事業の件数の推移を示している。全国で年間40~50件のペース着実な増加を続けており、平成28年時点で600件を超えたことが分かる。別途調べると平成30年には800件を超えた。年間60~70件にペースを上げており、いよいよ1,000件時代へと突入である。

平成28年時点での集計では、全体のうちサービス購入型は42%であり、58%の案件に独立採算要素が組み込まれている。PFI事業におけるサービス購入型とは、本来行政が実施するべき公共事業を民間に代替して実施してもらうことの対価を、行政が支払う方式のことで、PFI事業における中核的な方式である。これに対し、筆者が言う独立採算要素を含む事業とは、利用者から利用料を収受することでPFI事業を運営する方式(独立採算型、受益者負担型)に加えて、サービス購入型の中に収益事業が付加されている事業も含めたカテゴリーだ。この独立採算要素には行政からの支払いはなく、PFI事業者の裁量とリスク負担によって運営される。PFI事業全体を独立採算で行う案件から、サービス購入型の一角で運営される飲食・物販店などまでが含まれ、事業の内容や形態、規模は多彩だ。

過半数の案件に組み込まれるほど独立採算要素が多いのはなぜだろうか。それは、独立採算要素こそが民間事業者のノウハウを活かす真骨頂だからだ。民間が経験を積んで蓄積してきた①マーケティングノウハウ(市場を見通す事)、②営業ノウハウ(顧客を獲得する事)、③サービス提供ノウハウ(満足度を高めリピーターを得る事)、④コスト管理能力(費用効率を上げる事)などが発揮されることが期待されているからだと筆者は考えている。

そもそも民活とは「民間事業者のノウハウ活用」の略称であるが、ここでいう民間事業者のノウハウとは、(ア)技術力、(イ)経営ノウハウ、(ウ)資金調達力の3つを指しており、このうち(イ)経営ノウハウを細分化すると上記の①~④のノウハウということになる。これらがいかんなく発揮される領域が独立採算要素なのだ。

2.独立採算要素に対する期待の構図とは?   -VFMに結実する行政の 「うま味」-

PFIとは、公共事業を民間に委ねる手法であるから、行政が事業構造を企画・設計した上で民間事業者を公募することとなる。企画者は行政なので、行政にとって「うま味」のある事業構造にする訳だ。ここで言う「うま味」とは、VFMの増進である(vol.45ご参照)。即ち、高質なサービスを低廉に市民・県民に提供することに他ならない。

「うま味」を追及したい行政が、独立採算要素でその実現を期待する姿勢は正しいと筆者は考えている。但し、行き過ぎは逆効果だ。独立採算要素がPFI事業で効果をもたらす重要ファクターとなるとなるために、行政が期待する事柄を図表2で要素分解しながら考えてみたい。

図表2は、独立採算要素を組み入れることで、民間事業者の経営のハウが発揮され、その結果「うま味」に結実するよう期待する仕組みを紐解いている。ここでは、行政が実現を期待する課題を「実現課題」と表記した。

独立採算要素は、需要がなければ始まらない。この需要が見込まれることを行政が企画段階で見通した上で、行政が自ら担い手となっていては需要を十分に取り込めない事業について民間に独立採算要素として委ねることを企画する。民間事業者としては、行政が見込んだ需要が現実的に見込めるかどうかを見極める目利きがまずは必要だ。ここまでを大前提としよう。

仮に需要が見込めるとした場合に、まず行政が民間事業者に期待するのは、収入の増進(図中の①)だ。需要に対して適切な営業(PRを含む)を展開して、利用者を増やすノウハウを民間事業者に期待するのである。次に、期待されるのが費用の縮減だ(図中の②)。民間のコスト管理ノウハウによって費用効率を高めることを行政は期待する。①と②が実現すると、その成果として収益がより多く出ることとなる。独立採算要素は民間事業者の裁量とリスク負担によって運営されるのだから、この収益は民間の努力の賜物であり、民間に帰着すべき利益だ。しかし、行政は公共事業を民間に開放したことでその利益機会を提供しているので、得られた利益の一部を還元してほしい(図中の③)と期待する。これが3つめに期待される実現課題だ。その還元方法としてはキャッシュバックを求めたり、関連事業費の負担を求めることが多い。この3つ目の実現課題こそが行政にとっての「うま味」である。実現課題①と②を経て③の収益還元が達成されると、行政側にとっては「良質なサービス提供をコストを抑えて実現する」こと(VFMの確保)が叶えられる訳だ。

筆者がMURC在籍時代に携わったPFI事業においても、独立採算要素を組み込む事業が多種多様にあり、「うま味」を期待する事業構造を数多く作ってきた。民間事業者のノウハウが発揮されることで地域活性化につながり、市民生活における幸福の増進に寄与するのであれば、肯定すべき事柄だと思う。しかし、実現課題の①と②を過大に見込みすぎれば、実現課題③の収益還元による「うま味」を得ることは非現実的なものとなる。即ち、民間側にはリスクが過大だと判断されて参入障壁となるのだ。意欲が阻害されて参画する事業者が少なければ、良いPFIにはならないから、意欲を持って取り組める条件を付した独立採算要素を組み込むことがポイントとなる。まさに「塩梅の良いさじ加減」で企画することが腕の見せ所なのだ。

3.独立採算要素は需要に応じたバランスが肝心   -行政の助兵衛根性との攻防-

ところが、行政側は独立採算要素に過大な期待をかけたがることが多い。行政には「民間事業者は高い要求にも応えてくる」という潜在意識が根強いと筆者には感じられる。これは、従来型の請負契約や業務委託契約での発注者意識が転換されていないことによるものだ。PFIは官民の良好なパートナーシップによって成功するものであり、契約形態は「PFI事業契約」であって請負契約でも業務委託契約でもなく、契約主体となる甲と乙は対等となることを建前としている。しかし、「行政はあくまでもお上であり、公共事業は聖域だ」という明治期以来から面々と培われてきた官庁魂は簡単には変わらない。そうすると、民間が汗をかいて苦労の末に捻出した利益を過分に還元させて行政コストを賄わせようという姿勢になって表れる。民間からすれば、これは横取りにも似た話で、行政の助兵衛根性とも言える姿勢だ。

独立採算要素と向き合う際に最も重要なことは、適切な「需要見通し」である。PFIは行政側が企画・設計するのであるから、企画段階で需要見通しを誤れば民間事業者は参画意欲を持たない。そして、需要の多寡によって組み込むべき独立採算要素の形態や還元を求める程度を判断しなければならない。需要が大きく見込める場合には公共施設運営権方式(コンセッション方式)に代表される独立採算型PFIに仕立てれば良いし、そうでなければサービス購入型を基軸として独立採算要素の事業を付帯させれば良く、各々の需要の大きさや採算性によって還元させる規模を勘案することが必要だ。

こうして適切に企画されたPFI事業においては、民間側の知恵出しによって先に紹介した3つの実現課題(図表2)に鋭意取り組んでもらえる。つまり、企画する段階で行政側が需要見通しに真剣に向き合い、適切な事業構造を設計することで、民間の意欲と知恵を引き出すのである。まさにこれが官民の知恵の出しどころであり、良い意味での攻防でもある。適切な知恵出しの攻防が生まれる事業は、良好なパートナーシップの構築へと繋がり、良質なPFI事業として成功へと繋がっていくのである。

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