Vol.43小幡緑地に誕生した「オバッタベッタ」の魅力-愛知県Park-PFI第1号は「オンリーワンの公園」に-

愛知県が管理する県営都市公園「小幡緑地」に、Park-PFIの導入によってレストラン、BBQサイト、キャンプ施設が整備された。その名は「オバッタベッタ」。2021年4月に一部開業し、2021年6月にグランドオープンとなった。全国で取り組みが広がるPark-PFIだが、オバッタベッタの魅力を探るとPark-PFIの成功のカギが見えてくる。

1.オバッタベッタの概要  -都会の中の森に遊ぶ-

小幡緑地は、愛知県名古屋市守山区にある県営都市公園だ。本園、西園、東園で構成されるのだが、本園にPark-PFIが導入されて、民活による施設整備が進んだ。ゆとりーとライン(ガイドウェイバス)の小幡緑地駅から徒歩3分ほどの立地で駐車場も完備されている。施設の構成をご紹介したい。

①レストラン「マメボシ」

駐車場のすぐそばに円形の施設が目に入る。レストラン「マメボシ」だ。シェフはキャッスルホテルから招聘されるなど、和・洋・アジアンの経験豊富な人材が揃う。自家製農園で朝取りした香草や野菜をはじめ、地元食材を使った多彩な料理を提供するビュッフェスタイルレストランだ。高い天井は柱一本で支えられる構造で、梁が織りなす幾何学模様がダイナミックで美しい。店内は開放的で居心地が良く、軒下を使ったテラス席は犬連れ客などにも人気だという。

小幡緑地は広大な広場や遊具、散策路などがあり、外遊びを満喫できる公園ではあったが、園内や近隣に飲食施設がなく、くつろげる空間も乏しかった。マメボシは、小幡緑地利用者にとって快適な休息施設になるとともに、マメボシ自体が来訪目的にもなるレストランで、小幡緑地の利用者を多様に増進させるシンボル的な存在になるだろう。利用促進を目的とするPark-PFIの狙いに則した役割が果たされるはずだ。

図表1 レストラン「マメボシ」の外観と店内

出展)筆者撮影

②「ヤネル」BBQ

名古屋市内の自然豊かな公園でBBQを楽しめるのが「ヤネル」BBQ。現地で食材が用意されている(有料)から手ぶらで楽しめ、後片付けも不要というサービス満点のBBQサイトだ。用意される食材は、Tボーンステーキなどの肉食材と野菜類の他、アヒージョやカレーライスも提供されるなど充実している。手軽に本格的な野外料理を美味しく楽しめる。

特徴的なのは厚さ9ミリの円形鉄板を使用したBBQ台で、一般的なBBQグリルとは異なる洒落た趣があり、スタイリッシュなタープとも相まって実に心地のよいBBQサイトとなっている。飲み放題メニューを頼めば、心行くまでBBQを楽しむことができるはずだ。

図表2 「ヤネル」BBQの管理棟とBBQサイト

出展)筆者撮影

③「ヤネル」キャンプ

公園の中でキャンプができるのが「ヤネル」キャンプで、テントサイトとキャビンサイトで構成されている。テントサイトは、利用者が自前のキャンプギアを持ち込み、デイキャンプや宿泊キャンプを楽しむことができるエリアだ。キャンプ経験豊富な熟練者の利用は勿論のこと、入門者まで利用でき、大都市の都市公園とは思えないキャンプ体験が可能だ。

また、キャビンサイトには宿泊棟(キャビン)とBBQサイトがセットになった区画が15区画整備されている。キャビンは宿泊人数に応じて大きさの異なるタイプが整備されている。全てのキャビンがエアコンを備えており、天井には天窓が設置されていて天気が良ければ星空を眺めながら寝ることができる。また、キャビン利用者は無料でBBQコンロの貸し出しを利用できるので、キャビン前面にあるBBQサイトで食事を楽しむこともできる。

いずれにしても、名古屋市内でありながら、大都市の喧騒から離れた非日常的な時間を過ごすことができる空間となっていて、小幡緑地の利用パターンが豊富になるに違いない。公園を従来にも増して多様に利用してもらおうというのがPark-PFIの眼目であるから、公園をキャンプ地として利用可能にしたヤネルが果たす役割は貴重だ。

図表3 「ヤネル」キャンプのキャビンサイトとキャビン内から見た天窓

出展)筆者撮影

2.人々を魅了する成功のカギは?   -目指したのはオンリーワンの施設-

オバッタベッタは、愛知県がPark-PFI第1号として事業者を公募し、3グループの応募の中から中部土木株式会社と岩間造園株式会社を中核とするコンソーシアムが選定された結果、生まれた公募対象公園施設だ。

ここまではPark-PFIの一般的なカタチなのだが、筆者が強く魅力を感じるのは、小幡緑地にしかない「オンリーワン」の施設を独自に作り上げて運営している点だ。マメボシもヤネルも、小幡緑地のために企画・設計され、整備・運営されている施設であり、他地域の施設をコピーしたものでもチェーン店を誘致したものでもない。部材や設備、機器の一つ一つを独自に選定して組み合わせて出来上がったマメボシとヤネルは、とても美しいしワクワク感を引き出してくれる。

実は、筆者は公募時の選定委員会で委員長を仰せつかっていた。提案書を読み比べ、プレゼンテーションを通して審査した時、中部土木・岩間造園グループの提案が最も優れた提案だと評価できた。しかし、出来上がったオバッタベッタは、審査段階の想像を超えた魅力を発揮する施設になっていると実感する。それは、とりもなおさず「オンリーワン」を作り上げようとする気概がカタチになったからではないかと思っている。加えて、設計者(手塚建築研究所)の力量が奏功していることも間違いない。

全国各地で取り組まれているPark-PFIの中には、都市公園内にキャンプ場を整備している例も散見されるが、オバッタベッタはいずれにも類似しない独自色の強い施設となっている。キャンプ場に限ってみたとしても「オンリーワン」としての性格を有しているのだ。

ともすれば、有名ショップや有名チェーン店を誘致することに関心が行きがちであるが、Park-PFIの現場は公園であるから、その公園と利用者の特質と性格に適合した独創的施設を企画して「オンリーワン」の施設としてサービスを提供する事が出来れば、地域住民からは長期にわたって支持されることとなり、公園の利用促進にも貢献するのではないかと思う。この点は、Park-PFIが成功するための一つの道標になり得るとも感じている。

折しものコロナ禍で、オバッタベッタは想定外の事業環境に遭遇し、その経営は必ずしも楽観視できる状況ではないと思うが、オバッタベッタの魅力は人々の心を掴み、愛される施設として利用されていくだろうと筆者は感じ取っている。経営が安定するまでの間、関係者はご苦労が多いと思うが、近い時期に盤石の経営状態になることを願っている。頑張れ、オバッタベッタ!

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