Vol.64  天王川公園を革新せよ!Park-PFIでスタバ誕生へ!   -津島市、令和の挑戦物語の始まり-

尾張津島天王祭や藤まつりの会場としても有名な津島市・天王川公園は、100年超の歴史を誇る由緒正しき公園だ(vol.30ご参照)。この公園の快適性を高め、新たな賑わいを創出することを目的にPark-PFIの事業者が募集され、このほど決定した(R4.4.11記者発表)。公募には3つのグループが応募し、レベルの高い提案競技が展開された結果、選定されたのは大和リースを代表企業とする企業グループ「天王川パークマネージメント」。審査委員長を仰せつかった筆者の目線で振り返りたい。

1.Park-PFI導入の狙い  -利用者の快適性向上と賑わい創出、そして…-

津島市の都市空間は、名鉄津島駅の西側に広がる古い町と東側に広がる新しい町とで構成される。古い町には寺社が多く、その寺密度(面積当たりの寺数)は東海地方随一だ。津島駅から西へ延びる天王通りが津島市の目抜き通りなのだが、その周辺に数多くの寺が分布している。天王通りの突き当たりにある津島神社は全国に点在する天王社の総本山で、年間100万人の参拝客が訪れる津島市最大の歴史文化資源だ。そして、この津島神社の傍らに佇んでいるのが天王川公園で、津島市のランドマークであり、津島市民の憩いの中心地となっている。

この天王川公園は、名の通った祭りの舞台として有名だ。天王祭(夏季二日間)で約25万人、藤まつり(春季二週間)で約30万人の人々が集い、祭りの期間は駐車場が圧倒的に不足するほどだ。但し、通年の賑わいには乏しく、市役所が市民や公園利用者に実施したアンケート調査では、モーニングを楽しめる「カフェがあったらいいのに」との声も寄せられていた。つまり、天王川公園はシンボル性は高いものの、利用者にとってはいくつもの課題を持つ公園とも言えたのである。

こうしたことを踏まえ、津島市はPark-PFIの導入を決定した。Park-PFIは久屋大通公園(名古屋市)、小幡緑地(愛知県)、鞍ヶ池公園(豊田市)など各地で導入され、賑わい創出に成功した事例が増えつつある新たな取り組みだ。都市公園に収益施設の設置を許可し、その収益を公園整備費や維持管理費に還元する民活手法である。

津島市が天王川公園Park-PFIに込めた狙いは、利用者の快適性を向上させ、通年の賑わいを創出することを中核としつつ、いくつかの特徴的な取り組みを民間企業に求めた。それは、天王祭と藤まつりの運営に関与するとともに、天王川公園で創出される賑わいを天王通りへと波及させることをも企図したのである。こうして、数あるPark-PFIの中でも特徴を持った事業として担い手となる事業者募集が始まった。

2.提案競技の争点   -広場機能と飲食機能のゆくえ-

津島市が民間事業者に求めた事項のうち、公園整備の主要ポイントを具体的に列挙すると、広場機能の快適性の向上、駐車場機能の拡充、春に乱舞する藤や桜に加えて四季を織りなす花を増やす造園、そして飲食機能の導入であった。

現在の公園にある広場は土埃が立つため、芝生広場として再整備して市民が快適に過ごせるようにする事、駐車場は常設台数を増やすとともに祭り期間には臨機応変に対応する事を求めた。また花は、東洋一と謳われる藤棚近傍の竹林を伐採するなどして植栽に多様性を持たせることを期待したのだった。

一方、市民にとって象徴的な革新ポイントに映るに違いないのが飲食機能だ。市民が喜ぶ飲食機能とはどんな店舗か。どこに設置するのが良いか。いくつ設置できるのか。こうした点を民間事業者のノウハウに期待して提案を待つこととなった。

応募した企業グループは3つ。いずれの提案も力作で、提案書を読み進むにつれて各企業の熱い姿勢が読み取れる内容であった。広場機能や駐車場機能をどのように強化するかについては各社が知恵を絞り各社各様の提案が寄せられた。注目されるに違いない飲食機能については、3グループとも丸池前に配置することを提案し、このうち2つのグループは別の場所にも2カ所目の飲食機能設置を提案した。また、3グループともに、誰もが知る有名カフェを誘致する計画とされていた。公共事業では絶対叶わないと言って良いほど、多彩な知恵と企業誘致力が提示され、民活事業の醍醐味を味わえる提案競技となった。

3.生まれ変わる天王川公園の姿   -2つの芝生広場にスターバックスなど-

選定された「天王川パークマネジメント」グループの代表企業は大和リース㈱で、構成企業として岩間造園㈱、スターバックスコーヒージャパン㈱、TONZAKOデザイン㈱が名を連ねた。公園整備のコンセプトは、天王川公園がかつては天王川であったことに着眼して「川の軸線を活かす」と打ち出された。軸線上に丸池と既存の広場が配置されていることを尊重し、この軸線を遮断しないように新たな賑わいを創出する空間構成が提案されていた。

目を引いたのは芝生広場を2つ整備すること。丸池前に「水辺の広場」、藤棚前に「藤の広場を配置して、その中間に位置する既存の遊具広場を介して連携させることが提案された。これによって天王川公園には、2つの広大な芝生広場が誕生し、市民が憩い、子供たちが遊び、高齢者がラジオ体操をし、多様なイベントが展開される空間として活用されるシーンが目に浮かぶ提案となっていた。

そして飲食機能を担うカフェにはスターバックスが出店すると提示された。津島市は尾張西部の拠点都市としての歴史を有するものの、高度成長期以降は基幹産業であった繊維産業が衰退し、人口は減少し、天王通り商店街はシャッター通りとなっているから、果たして有名カフェが出店してくれるかどうか、事務局は固唾を飲んで見守っていたのだが、全てのグループが有名店を提案し、このうちスターバックスが誕生することとなったのである。

また、構成企業となっている岩間造園は、名城公園、久屋大通公園、小幡緑地など数多くの話題を呼んだ公園整備を手掛けた実績があるのだが、岩間造園の花に関する提案は充実していた。丸池に浮かぶ睡蓮を多種化して増やすことをはじめ、シバザクラ、ヒガンバナ、カンズイセンなどを植栽して四季を彩る計画となっていた。造園企業ならではのきめの細かい植栽計画と維持管理手法の提案は秀逸と言えた。

さらに、駐車場の収容台数は最も多く、祭り期間には臨時駐車場で対応する計画とされたほか、利用者のためのサービスを提供する拠点として「サービスセンター」を設置することや、天王通りや津島駅に天王川公園に咲く花を飾り、街のイメージアップと歩行者の誘導を図ることなども提案されていた。津島市が課題視していた事項に直球で応えており、市民に寄り添う姿勢が随所に見られる好感の持てる内容となっていた。

市は、R4年度に入って選定された天王川パークマネジメントと協定を結ぶとともに設計・整備を委ね、R5年4月に天王川公園が生まれ変わることとなる。2つの芝生広場やスターバックスが誕生した新生・天王川公園に、市民の笑顔が広がることを筆者は期待してやまない。但し、気になる点もあった。公園内に設置される建物のデザインを天王川公園の歴史と調和したものとする事、早朝のラジオ体操を楽しんだ市民がスターバックスを利用できるようにする事などに、工夫の余地が残されていた点である。こうしたことについては、引き続き検討を重ねて頂くことを審査委員会としてはお願いしたところである。

4.津島市の挑戦物語が始まる   -ついに上がる反転攻勢の狼煙(のろし)-

都市の活性化に向けた津島市の取り組みは、天王川公園のPark-PFIだけでは終わらない。実は、このPark-PFIは、津島市が一連に計画している活性化プロジェクトの端緒に過ぎないのだ。1970年代以降に津島市から産業の灯が消え、天王通りからは人々の往来が遠ざかり、市の税収は冷え込み、沈滞した街となってから久しいが、日比市長は目に見える活性化プログラムを構築するよう指示し、建設産業部都市計画課が中心となって都市計画マスタープランと立地適正化計画を策定した。その中に、民間の能力を活用しながら事業化すべきプロジェクトがいくつも埋め込まれており、天王川Park-PFIはその第一幕なのだ。R4.4に発足した都市計画マスタープラン推進室が中心となって、今後も都市活性化事業を展開していくことが練られている。都市計画マスタープランに位置づけられたプロジェクト群であるから、各々が有機的に連携していくことが企図されており、思い付き事業によるパッチワーク的な取り組みではない。計画的なプロジェクトストーリーが描かれている点が特筆に値する。

苦しい都市経営を余儀なくされてきた津島市だが、反転攻勢に向けた挑戦物語の幕がいよいよ上がる。市役所では、職員の眼差しの中に意欲に燃えた熱量を感じることができる。その取り組み姿勢が市内外に伝わり、民間投資が誘発され、市民の笑顔がはじける街になる日は必ず訪れよう。立ちはだかるハードルは幾重にもあるが、西尾張の雄たる津島市の挑戦物語の成り行きを、筆者は期待を持って見守り、応援していきたいと考えている。

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