Vol.162 県内総生産の比較に見る愛知県の力と課題  -日本を代表する経済県だが産業構造の厚みが必要-

愛知県は、県内総生産で大阪府と国内2位の地位を競う経済県だ。首位の座は東京都が圧倒的で、これを脅かす存在はないが、2位の地位は2012年に大阪府から愛知県が奪取した。以来、大阪府とは抜きつ抜かれつで推移している。愛知県の県内総生産が高いのは自動車産業の集積によるところが大きい。しかし、この産業構造を脱皮していく認識を強めなくてはならない。

1.大阪府と2位の座を競う愛知県  -2012年に初めて大阪府を抜いて以来、並走が続く-

愛知県の県内総生産は、東京都、大阪府に次ぐ全国3位の地位を長らく指定席としてきたが、2012年に初めて大阪府を抜いて2位となった(図表1)。この時、大阪府は既に人口減少局面に入っていたのに対し、愛知県は依然として人口増加を続けており、県内の主力産業である自動車産業も好調であったため、愛知県経済は上り調子を辿っていた。だから、大阪府に追いつき追い越す情勢を筆者は当時感じ取っていたが、それにしても歴史的な出来事だと感嘆した。

しかし、大阪府には底力からがあり、愛知県を追走して2位並走が続き、2019年には大阪府が愛知県を抜き返すという事態も起きた。最新統計の2020年時点では、大阪府の県内総生産が39.72兆円に対して愛知県は39.66兆円と、わずかに大阪府が上回って2位の座を死守している。2位の座の競い合いは僅差での推移が続いている。

愛知県と大阪府の県内総生産は概ね40兆円水準で推移しているが、首位の東京都は約110兆円と圧倒的で、愛知県と大阪府を足しても東京都の県内総生産には届かない。東京都の経済集積が群を抜いているのだが、東京都は他県に比べてコロナ禍の影響を強く受けている状況も図表1のグラフから読み取れる(東京都は右目盛り)。

東京都が約110兆円で、愛知県と大阪府が約40兆円であるのに続くのは、神奈川県(約35兆円)で、その次のグループは約20兆円程度となる(福岡県のほか、埼玉県、千葉県、兵庫県等)。従って、トップ3(東京、愛知、大阪)プラス1(神奈川)といったところが日本の県内総生産の先頭グループであり、10兆円を超えているのは13都道府県に限られている。残りの34県は10兆円には届かず、最下位の鳥取県は2兆円を切っている。従って、愛知県は日本経済を牽引する経済県であることは紛れもない事実として受け止めて良いだろう。

2.一人当たり県民所得の順位の不思議   -3位以降の順位は凡人には描けない-

次に、一人当たり県民所得を見ると、東京都がここでも圧倒的で521万円/人であるのに続き、2位は愛知県の343万円である。東京都との差はあるものの、ここでも愛知県の経済県としての一面が確認できる。しかし、一人当たり県民所得の3位以降には意外な県(失礼かもしれないが)が上位に登場する。3位は福井県、4位は栃木県、5位は富山県となるのだ。県内総生産で愛知県と2位を競っている大阪府は22位、安定4位の神奈川県は13位、福岡県は35位となっている(図表2)。県内総生産の上位グループを形成するその他の県は、千葉県が10位に入るものの、埼玉県、兵庫県はトップ10に入らない。

これは、一人当たり県民所得が企業所得や雇用者報酬以外に、財産所得や県外からの所得等を含めたものを人口で割っていることが複雑に絡んで生じる結果だ。一人当たり付加価値額の大きい産業が県内に育っていたり、不動産による収入が多いことなどにも影響を受ける。富山県の一人当たり県民所得が5位に入るのは、持ち家率が全国2位であることも無縁ではなさそうだ。それにしても一般的な経済県とは異なる県名が上位に並ぶことを不思議に思うのは筆者だけではあるまい。

一人当たり県民所得は、豊かさ指標として用いられることが多いが、こうしてみると県何総生産(GRP)という代表的な経済力指標とは異なる傾向を示すことに留意が必要だ。ウェルビーングや幸福度といった概念にも重要性はあるものの、実体経済に即した評価とは異なる面があることを理解しておかねばならない。

3.愛知県の産業構造の課題   -製造業に極度依存した産業構造からの脱皮を-

さて、県内総生産に話を戻したい。国内上位4都県に加えて5位グループを代表して福岡県を入れた5都府県について、県内総生産の産業別内訳から業種別特化係数を算出した結果が図表3だ(全国の県内総生産の産業別構成比も右下段に併せて掲載)。特化係数は、全国平均の業種別構成比に比べて大きい場合は1.0を超え、少ない場合は1.0を下回る指標だ(図表3では特化係数1.0を赤線で表示)。

東京都では、卸売・小売業、情報通信業、金融・保険業、専門・科学技術サービス業で特化係数が大きく1.0を上回っており、全国平均以上に集積が高いことが確認できる。とりわけ、情報通信業と金融・保険業の特化係数が著しく高く、東京都に集中して集積していることが伺える。同様に、神奈川県では不動産業、専門・科学技術サービス業等の特化係数が高い半面、卸売・小売業や金融・保険業の特化係数は低く、これらの産業は東京都に依存していることが伺える。一方、大阪府は、卸売・小売業や専門・科学技術サービス業等の特化係数が1.0を超えているが、全体的に突出した特化傾向が見られず、全国平均的な業種構成を有しながら高い産業集積を形成していることが伺える。福岡県は、運輸・郵便業と保健衛生業の特化係数が高いが、全体的には大阪府と同様で、突出した特化傾向は見られない。

これらに対し、愛知県では、製造業の特化係数が突出していることが明確だ。しかし、特化係数が1.0を大きく超えているのは製造業だけで、ほとんどの業種で特化係数が1.0を下回っている。つまり、製造業に強く依存した産業構造となっており、その他の業種の産業集積が相対的に弱いことが把握できる。

中でも筆者が注視したいのは、付加価値創出力の高い業種の集積動向だ。若者たちは、付加価値創出力の高い産業が集積する都市・地域に引き寄せられている傾向が強いため(vol.154ご参照)、愛知県の人口動態に影響を及ぼす業種だと考えているからだ。付加価値創出力の高い業種とは、情報通信業、金融・保険業、専門・科学技術サービス業などであるが、金融・保険業は財務省、日銀、東京証券取引所といった金融の基幹的機関が東京に存在するために外すとして、情報通信業と専門・科学技術サービス業に焦点を当てて考えたい。

情報通信業と専門・科学技術サービス業の特化係数を5都府県で比較した場合、東京都、神奈川県、大阪府、福岡県はいずれも特化係数が1.0を超えているのに対し、愛知県は2つの業種ともに特化係数が1.0を下回っている。つまり、県内総生産の上位県の中で愛知県だけが高付加価値型業種の集積が弱く、製造業だけに依存して高い県内総生産を生み出しているということが分かるのだ。

筆者は、この愛知県の産業構造に強い懸念を持っている。モノづくり産業の心臓部である西三河地域で、人口動態における自然増が減少に転じ、社会減が急拡大している実情を踏まえれば(vol.158ご参照)、若者たちはモノづくり産業に畏敬の念を持ちつつも自分の活躍機会としてスコープに入れていない。県内の多くの若者は高付加価値型産業に活躍機会を求め、東京に流出しているのだ。

愛知県のモノづくり産業は圧倒的に国内随一であり、それが県内総生産2位の座を競う経済力になっていることは間違いない。しかし、愛知県人口は2017年を境に減少期に入った。若者のモノづくり離れが進んでいると考えねばならない。付加価値創出力のある業種の集積促進に努めなければ、この傾向に歯止めをかけることは難しかろう。その先にあるのはGRPの減少であり、2位の座を奪還する事は容易ではなくなる。

情報通信業は、東京都とのアクセス性が立地条件として重要であるから(既に神奈川県では育ち始めている)、リニア開業後の立地条件を活かして集積誘導を推進する事が有効だ。専門・科学技術サービス業は、強いモノづくり産業との連携を活かして育成していく姿勢が必要だろう。また、業種に限らず本社機能の誘致を進めることも付加価値創出力を高める上では大変重要だ(vol.159ご参照)。

我が国を代表する経済県である愛知県が、将来に向けて持続的発展を遂げていくためには、主力であるモノづくり産業の隆盛を維持しながらも、付加価値創出力のある業種と機能を希求した産業振興策がどうしても必要だ。製造業特化型が際立つ産業構造は地域の誇りでもあるが、残念ながら製造業の一人当たり純付加価値額は高くない。若者たちにとって魅力のある高付加価値型業種を育て、産業構造に厚みを持たせていくことを課題として掲げ、産業振興計画の策定に努めなくてはならない。

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