Vol.25遂に、愛知県の人口が減少した! -でも衰退しない道がある-

愛知県人口動向調査2020によると、愛知県の人口が減少に転じたと報じられた。調査開始以来、初めてのことだという。日本の元気を牽引してきた愛知県にも、遂に人口減少期が到来した。見通されていたことではあるが、新型コロナウィルスの影響を受けて早まった。その詳細を紐解きながら、今後を展望してみたい。

1.愛知県の人口の推移  -2020年に初めての減少を記録!-

愛知県人口動向調査は1956年から始まった調査で、毎年10月から翌年9月までの人口動向を調査して取りまとめている。これによると、2020年9月段階で愛知県人口は754万人となり、前年比11,750人の減少が確認された。調査を開始して以来初めて県人口の減少が確認されたこととなる。図表1で見られるように、2000年代は勢いよく増加してきたが、リーマンショック(2008年)を堺に増加傾向が弱まり、2019年の人口755万人でピークを打つこととなった。

地域別にみると(図表2)、尾張地域、西三河地域、東三河地域の県下全域(名古屋を除く)で減少していることがわかる。特に、西三河地域、東三河地域の減少が大きい。

人口の増減は、(自然増減+社会増減)で表現される。愛知県の人口動向の実態を以下で詳しく紐解いてみよう。

2.自然増減の動向  -拡大する自然減-

愛知県の人口の自然増減(出生数-死亡数)は、既に2017年から減少(自然減)に転じ、その傾向を強めながら推移している(図表3)。その要因は、死亡数が増加し、出生数が減少しているからだ。死亡数の傾向は、既往の県人口の年齢構造で決まるから、超高齢化が進展しつつある中で死亡数の増加を止めることは不可能だ。出生数も少子化傾向が続いているため、当面は出生数の増加を期待する事は出来ない。このため、愛知県の自然減少は、この先も加速していくことが想定される。

但し、愛知県内には自然増を維持している市町村が存在する。豊田市、安城市、刈谷市、知立市、大府市などである。これは、トヨタグループをはじめとする大企業が多く集積することによる。大規模な優良企業の存在は、まとまった新規雇用を生むため、20~30代の人口に厚みがある。この世代が結婚して子どもの数が多く維持されるから、自然増を維持できている。しかし、こうした市町村は全国的には稀で、大都市を含めて日本中の市町村が自然減となっている。そして、自然増を維持しているこれらの都市とて永遠に自然増を続けることはできない。

3.社会増減の動向  -わずかに社会増だが外国人頼み-

次に、社会増減を見てみよう。愛知県の社会増減(転入者数-転出者数)は2012年以降社会増を続けてきた(図表4)。活力ある愛知県経済の状況が社会増に反映した結果である。しかし、2020年は新型コロナウィルスの影響で、急激に社会増が縮小した。優良企業ですら採用を控えたため、県内の新規雇用者数が減り、転入者数が減った要因が大きい。

愛知県内の社会増減を地域別でみると(図表5)、西三河地域での社会増加が大きく減少し、社会減に転じていることが際立っている。モノづくり愛知の心臓部である西三河地域が社会減に転じたことが、県全体に大きな影響を及ぼしたことを物語っている。

また、2020年の愛知県全体の人口増減の内訳をみると(図表6)、-11,958人の自然減と208人の社会増で構成された。愛知県の人口が増加を維持してきたのは、自然減に転じた以降も社会増で補ってきたからだが、この社会増が一気に小さくなったため人口が減少に転じたことになる。この社会増を更に分解すると、2020年の社会増(208人)は、国内における転出超過(-12,921人)を、外国からの転入超過(13,129人)がわずかに上まったことによるものだ。つまり、主として外国人の転入超過を除くと、国内の人口移動だけでは社会減であったことが読み取れる。従って、確かに新型コロナウィルスの影響を強く受けた結果ではあるが、構造的には外国人頼みの人口増加であったと言って良い。

尚、愛知県の転出転入の地域別内訳を見ると、首都圏への流出(転出超過)が構造的に大きい。これに対し、主として中部地域内の他県からと外国人の転入超過が、転出超過を上回ることによって社会増が構成されてきたわけだ。今後は、この転出・転入の構造をいかに転換していくかが、愛知県の人口動向の重要なカギとなると筆者は見ている。

4.今後をどう見るか?  -趨勢的には人口減少が加速する見通しだが-

今回の愛知県の人口減少は、コロナ禍により社会増加が少なくなったこと(特に三河地域)が主要因であるから、コロナ禍が明ければ社会増が復調する可能性も秘めている。しかし、自然減が確実に加速していくため、これを社会増で補っていくことは早晩できなくなり、本格的な人口減少期への突入は、趨勢的には間違いなく生じる。

しからば、愛知県は本格的に訪れる人口減少とともに衰退を余儀なくされるのだろうか?筆者は、こうした趨勢的な見立てに一石を投じる発信を続けてきている。その大前提はリニア中央新幹線(以下、リニア)の開業だ。筆者が描く愛知県の趨勢打破のシナリオを以下にご紹介したい。

■人口減少とともに衰退の一途を辿るのか?  -交流人口で稼げる-

愛知県の人口は、2040年までに約41万人が減少する事が推定されている。人口が減少すれば家計消費が消えるわけだが、41万人の人口減少で愛知県の消費は年間約4,000億円減少すると見通しとなる。その分、愛知県経済は確実に縮退する。

しかし、リニアが開業すると愛知県では交流人口が増加する。この交流人口の増加が生む消費増加分は約3,180億円と推定された(MURC試算)。これらの差分は、約-820億円(-4,000億円+3,180億円)で、負け越し量は相対的にわずかだ。従って、交流人口による消費増分を増やす工夫ができれば、人口減少による消費減少を補える可能性がある。

交流消費を増やす一番の決め手は、滞留時間を延ばすことだ。滞留が延びて宿泊者数が増えることで、消費額は効果的に増加する。これを実現するためには観光機能の強化やMICE機能の充実化などが有効だろう。愛知県では、ジブリパークの開業を控えており観光機能の強化に取り組んでいる。また、中部国際空港の前面にはスカイエキスポ(国際展示場)が開業し、MICE機能が強化された。これらとともに、名古屋市の同種の施策と相乗効果を創出していけば、着実に滞留量を増やすことに繋がる。さすれば、人口減少による家計消費の消失を交流人口の消費増加で補う事ができ、人口減少下でも県経済が縮退しない地域経営が可能となる。手品みたいな真面目な話だ。

■交流人口以外に稼げるシナリオはあるか?  -高速インフラの二重化を活かして稼げる-

リニアが開業すると、繰り返し申し上げているが、名古屋は国内最大2時間圏の中心となる。これによって、愛知県は東京都よりも大きな背後圏(2時間圏)を有する県となる。この条件を有した時の愛知県がどのように評価されるかを考えてみよう。

筆者は、愛知県のインフラに着目したい。東名には新東名が、名神には新名神が加わり二重化された。全通した名二環には東海環状自動車道の完成が加わるから、環状道路も二重化される。中部国際空港の滑走路は二本目の整備に向けた検討が進められており、空港アクセス道も知多半島道路に加えて西知多道路の整備が始まっているからアクセス自専道も二重化される。これらに加えてリニアの開業によって新幹線も二重化されるから、基幹的な高速交通網の二重化が完成して高いリダンダンシーを確保する事になる。

もとより愛知県は日本一のモノづくり産業が集積しているから、底堅い経済基盤を有している訳で、ここにインフラの二重化と高速化が加わり、背後圏が国内最大という条件が整うと、日本という国土における愛知県の立地条件は、ビジネス、観光、物流などの面で非常に高いアドバンテージを誇示すことになる。特に、名古屋はビジネス拠点として業務機能を高度に集積するポテンシャルが高まるから、愛知県としては製造機能とオフィス機能の双方の集積を高めていくことが可能となる。

折しものコロナ禍で首都圏の過密リスクは広く国民に再認識された。東京がビジネスの最大拠点として機能していくことは変わらないとしても、東京に居なくても東京の顧客と取引することや、東京に居なくても東京の企業に所属する事が可能と分かれば、二重化された高速交通網を有する愛知県が脱・首都圏の有力候補になり得る。

業務機能が重層的に充実して行けば、愛知県での取引量は拡大して雇用は増加するから、結果的に人口増加の維持に繋がる可能性がある。このシナリオは、構造的に流出している首都圏への転出超過を、首都圏からの転入超過に大転換する事が大きな狙い目となる。これは、単に愛知県の独り勝ちを構想する事ではなく、愛知を活用する事で日本経済の生産性向上に資する事をも構想するものだ。これを実現するためには、愛知県が有する優れた立地条件を国内外にアピールし、業務機能の立地に繋がる優遇措置を強化するなどして、戦略的に取り組むことが肝要だ。

このように、交流人口の獲得と業務機能の誘致が奏功すれば、愛知県の人口は趨勢を打破して増加に転ずることも不可能ではなかろうし、愛知県経済は縮退することなく発展する事が可能と筆者はみている。日本経済が低成長を続け、日本人の総人口が減少する中で、発展シナリオを描ける地方自治体は全国に数少ない。愛知県の趨勢打破の発想が、今後の日本の発展エンジンの強化に重要な役割を担っていると銘じて取り組まなくてはならない。

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