Vol.77  名古屋に望む10の取り組み (その2)  -都市経営を支える魅力づくり-

(vol.76「その1」からの続きです。)

「(DX+コロナ)×リニア=名古屋圏の時代」を現実のものとするためには、母都市である名古屋市が力強い発展ドライブを発揮しなくてはならない。そのためには、都市経営の視点を基底に置いた発展シナリオを描き、その実現戦略を打ち立てる必要がある。これに向けて筆者は10の取り組みを提示するものである。

前号(vol.76)では、子育て世帯を中心とした転入人口の獲得が個人市民税に直結し、業務中枢機能の受け皿となることが国土の一極集中是正に貢献するとともに固定資産税の増進に繋がることを述べた。また、人口の自然減は避けられないから、これによる家計消費の消失を交流消費で補うために、交流人口の滞留を増進する必要があることも述べた。

本稿では、人口や業務中枢機能や交流人口を獲得するためには、名古屋市の総合的な魅力を高めて吸引力を増強する必要があるという観点から、10の取り組みのうちの4つの取り組みを提示したい。

④歴史ルネサンス

多くの市民が実感できていないことだが、名古屋市は歴史資源の宝庫だ。愛知県は全都道府県の中で最も神社・仏閣が多いのだが(vol.71ご参照)、名古屋城下には東の寺町と南の寺町が整えられたため、名古屋市もまた神社・仏閣が多い。その中でも、尾張の総鎮守とされた若宮八幡社をはじめ、名古屋東照宮、那古野神社の三社には祭礼としての大規模な山車祭りがあり、名古屋城下では特別の神社であった。このうち、若宮祭(若宮八幡社祭礼)と天王祭(那古野神社祭礼)は同日開催で祇園祭と総称されていたのだから、その格式の高さがうかがえる。しかし、これらのことを知る市民は一部に限られている。

町の構造で見ると、名古屋城と熱田(湊と神宮)という二つの拠点を南北に結ぶ本町通が背骨となって城下町が構築された。碁盤割は戦後の戦災復興事業でも下地となり、城下町時代の通りの名が今でも数多く残っている。400年前の城下町の構造が、現代の都市の基盤となって大規模に継承されているのは、名古屋市の有する特徴の一つだ。

このように、名古屋城をはじめ、神社・仏閣、祭り、都市構造に多彩な歴史資源があるのだが、その多くが埋もれてしまって市民生活では身近に感じ取られていないのが実情だ。徳川御三家筆頭である尾張徳川が治めたからこその重厚で煌びやかな歴史資源を、ハード・ソフトともにルネサンスしていくことで、名古屋市民におけるシビックプライドが醸成されるだろうし、市外から見たときの名古屋への憧憬へと繋がっていくと筆者は考えている。

そのためには、本丸御殿に続く木造天守閣の再建を実現するとともに、二の丸庭園の再現も望まれる。また、官庁街となっている三の丸地区を再構築するとともに、本町通を城下町の背骨として認識できる修景を施し、三大祭の再興と共にルネサンスを導きたい。加えて、熱田地区についても名古屋の代表的な歴史的拠点として賑わいが生まれる再開発を期待したい。

⑤名古屋港の高度活用

名古屋港は、陸域の広さでも取り扱う貨物量でも日本一の港湾だ。このこと自体は良く知られているが、名古屋港を身近に感じる市民は限られている。名古屋港水族館も日本一の水族館で、その集客は200万人/年レベルであるから広く知られているが孤軍奮闘の感があり、名古屋港がエリアとして多くの市民に活用されている状態とは言い難い。名古屋が港町だと日頃から実感している市民は多くはいないから、名古屋港を積極的に都市空間として活用することを考えたい。

とりわけ、名古屋港ガーデンふ頭は「アーバンリゾート」空間として活用することが望ましいと筆者は考えている(vol.37ご参照)。「アーバンリゾート」とは、平日のアフターファイブに都心の従業地から気軽に人々が集うリフレッシュ空間として定義したい。東京で言えばお台場、横浜で言えばMM21があたる。中心市街地にある旧来からの歓楽街とは別に、オープンで多様な人々が交流し憩える日常的なリフレッシュ空間があることは、その都市の魅力増進に繋がるはずだ。名古屋港ガーデンふ頭に限定する話ではなく、都心近傍の親水空間などを活かすことで、名古屋市における時間消費空間の充実を図り、市民の多様なニーズに応える彩り艶やかな都市魅力を創出したい。

筆者がガーデンふ頭を「アーバンリゾート」空間の筆頭に挙げる理由は、まとまった開発面積がある事、地下鉄名港線によりアクセスが確保されていること、名古屋港水族館との連携によって集客拠点となり得る事などが挙げられるからだ。筆者はかつてガーデンふ頭にサッカー専用スタジアムを核とした賑わい空間づくりを提唱したことがあり、賛同を得られる手応えがあったが時宜を得られず実らなかった。改めて大胆なアーバンリゾート空間を形成する取り組みを期待したい。

その他にも、港湾機能の強化として大浸水バースの整備充実や、PI(ポートアイランド)の有効活用の計画づくりなど、名古屋港を積極的に活用する取り組みを強化していくことが望ましい。

⑥内水面の積極活用

名古屋市の中心部には大規模な河川はないが、主たる内水面として堀川、新堀川、中川運河がある。これらの内水面は、いずれも運河としての性格を歴史的に有しており、名古屋の発展と歩みを共にしてきたが、貴重な内水面でありながらいずれも有効に活用されているとは言い難い。ここでは堀川と中川運河の活用について考えたい。

堀川は、名古屋城を築城する際に建設物資を運ぶ運河として開削され、城下町時代は商人たちの商品運搬水路として利用されていたことが知られている。その後、明治初期に庄内川頭首工から取水して名古屋港に流れる庄内川水系の河川となった。国道22号線のすぐ北側の朝日橋より下流を堀川と呼び、上流を黒川と分けて呼んでいた歴史がある。

黒川区間の猿投橋付近に3.8mの段差があり、ここより下流は潮汐の影響を受ける感潮域となっている。感潮域では流下速度が極めて遅いため、ヘドロが溜まりやすく異臭も発生しやすい。このため、市民からは歓迎されない川になりがちだ。しかし、堀川は名古屋都心を貫通しており、外堀通、桜通、錦通、広小路通など多くの東西方向の主要幹線道路と交差するため市民にとって渡河機会が多い。従って、名古屋市都心部で親水空間を考える時、堀川を筆頭に考える必要がある。

堀川は遊覧船が不定期ではあるが就航しており、着岸できる桟橋が随所にあるから、こうした箇所を中心に賑わい空間を作ることが望ましい。また、桜通りから三蔵通の間は都心地区であるから、こうした区間の沿岸も賑わい空間にふさわしい。このため、該当地区の民地に協力を求めるか、市が用地買収を行うなどして、堀川沿いのアーバンリゾート空間を形成していくことを求めたい。

この際、堀川の浄化も課題だから、これへの構造的な対処を考える必要もある。基本に立ち返れば、感潮域の堀川を浄化するためには、通水量を増強することが不可避だろう。庄内川からの取水量を増やすことができるか、その他の水源から取水して通水するか、名古屋市緑政土木局の英知に期待したい。

次に中川運河だ。中川運河は物流運河として昭和7年に供用開始し、名古屋南部の工業振興を支えた。しかし、昭和50年代には貨物船舶の航行は少なくなり、平成に入ってその役割を終えている。中川運河の特徴は、閘門式運河のため潮汐の影響を受けない静かな水面である事、直線的な川筋である事、90mの幅員の両岸に36mの沿岸用地が整備されている事である。vol.44、vol.65でも記したように、筆者は中川運河を「池」と捉え、両岸の沿岸用地を緑地化する事で、水と緑のベルトとして活用すべきだと考えている。いわば長大な親水公園として位置付け、その中に賑わい空間を点在させると良いと考えるのだがいかがだろうか。但し、沿岸用地は物流用地として民間に貸し付けられているから、これを市に返還してもらう活動を大々的に行うことが第一の取り組み課題だ。

いずれにしても、内水面を活用する場合は、沿岸用地の利用が不可欠であるから、商業用途にするとしても、緑地にするとしても、地権者の協力がなければ有効利用できない。「民地であるから手出しができない」というこれまでの姿勢に立たず、勇躍して取り組む姿勢が必要だ。この際、中川運河沿岸用地は名古屋市の土地なので、市の姿勢次第で取り組める。堀川はSRTの計画と連携して賑わい拠点を形成していくことも可能だろう。貴重な内水面を賑わいや憩いの区間として利用できるとき、名古屋の魅力が一段上がるはずだ。

⑦交通機能の高度化

名古屋における次代の交通機能として期待がかかるのがSRT(Smart Roadway Transit)だ。名古屋大学の森川高行教授が提唱し、名古屋市住宅都市局で検討されている新世代型の路面交通だ。名古屋市内の公共交通は地下鉄とバスで構成され、その双方が名古屋市交通局によって運営されていることが特徴である。これらを補完する交通として、広い名古屋の道路を活用して路面公共交通を走らせ、市内移動の快適性を高めようとするものだ。名駅と栄に賑わいが集中する中で、名城地区や大須地区などへの回遊性を高めることが期待できる。同時に、その他の自動運転システムの導入と計画的なステージアップについても積極的な取り組みを期待したい。名古屋市内が新世代交通のショールームになることを願っている。

また、筆者が2010年来提唱しているのは、名古屋駅における高速道路の結節だ。リニアが開業した時、名古屋駅から高速バスや自動車への乗り換え利用が容易になり、リニアの時間短縮効果が広域に波及する。一旦は検討が進み、新洲崎JCTから名駅東口の下広井交差点手前まで高速道路が伸びてくることになった。しかし、筆者が理想と考えるのは、名駅西口に高速道路が結節する事だ。これにより、名駅は高次の多モード結節(複数の交通機関が結節する事)が完成し、名古屋駅の拠点性が格段に上がる。そうした時には、名駅地区のポテンシャルも一層に上がり、名古屋都心部全体の付加価値も向上するだろう。東京一極集中の受け皿となり得る都心として必要な基盤整備だと考えるから、今後も引き続きの検討を願いたい。

一方、名古屋市内の各地にある交通局のバスセンターの上空を活用することも考えたい。バスセンターはバスと地下鉄の結節点なので、市民の生活行動上の重要な拠点である。その上空の地上権を活用して民間開発させ、飲食・物販機能をはじめ、子育て支援機能や福祉機能、在宅勤務支援機能等を入居させると、市民の暮らしは一層に便利になるだろう。  交通は街づくりに多大な影響を及ぼす重要な都市基盤だから、住宅都市局と交通局および緑政土木局が意欲的に連携し、名古屋の都市空間の魅力向上に取り組んでもらいたい。

(vol.78「その3」に続きます)

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