Vol.68  名古屋市の人口が25年ぶりに減少した!   -都市経営的発想を強める転機が到来-

名古屋市の人口が25年ぶりに減少に転じた。25年前の減少は、自然増でありながら都心の人口が郊外の都市に流出したことが主因だったが、今回は状況が大きく異なる。名古屋市の人口動向を紐解きながら、今後の名古屋の都市経営について戦略を展望してみたい。

1.25年ぶりの人口減少  -社会増が急速に縮小したことが主因-

名古屋市の2021年9月末の人口は2,325,916人で前年比6,260人の減少となった。近年の名古屋市の人口は、自然減を社会増がカバーして人口増加を維持する構造で推移したが、自然減が拡大していることに加えて社会増が急速に縮小したことで人口が減少した。

名古屋市の自然増減は2013(H25)年以降減少が続いており、減少幅は年々拡大する傾向をたどっている。2021(R3)年は、出生数が1.78万人となって過去最少になったのに加えて、死亡者数が2.42万人と過去最大となったことから自然減は6,422人に拡大した。この趨勢では、名古屋市の子供の数は、今後も減少傾向が強まるものと見通される。

一方、社会増減は、近年1万人程度の社会増があったものが2020(R2)年に5千人台に縮小し、2021(R3)年には162人にまで縮小した。これにより、自然減をカバーすることが出来ず、人口が減少に転じた。

名古屋市の人口は、1993~1996(H5~H8)年の間にも減少したが、この時と現在とでは減少の構造が異なる。1990年代の減少は自然増であったのに対して社会減が大きかったことによる。特に、都心の人口が近隣の都市に流出し、都心人口の空洞化(ドーナッツ現象)によって人口減少となった。これに対し、今回は自然減が拡大傾向にある中で社会増加が縮小したことによる人口減少である。自然減は少子高齢化によるもので、今後も続くことが想定されるから、今後の名古屋市の人口対策を考えるにあたっては、社会増減についてよく状況を把握しておく必要がある。

2.名古屋市の社会増減の特徴   -地域間と年代層に特徴が-

図表2は名古屋市の社会増減について推移を示している。2019(R1)年まで増加傾向が顕著だった転入数(図中の■折れ線)が2020(R2)年に急落傾向に転じ、2021(R3)年にはさらに下降して15.5万人にまで縮小したことが大きく影響して、2021(R3)年の社会増はわずか162人となった。1998(H10)年以降は社会増(図中の棒グラフ)で概ね推移してきた傾向に変化が生じている可能性がある。

名古屋市の社会増減は、首都圏への流出超過が恒常的に続いているのだが、一方では近隣県からの転入超過と、愛知県内市町村からの転入超過、更には外国人の増加で社会増を維持してきた。このうち、2021(R3)年に大きな変化があったのは、愛知県内市町村からの転入超過と外国人の増加が大きく縮小したことだ。これは、コロナ禍の影響と見るべき側面もあろうが要注意だ。県内市町村との転入・転出の関係を見ると、豊田市、岡崎市、豊橋市といった三河地域の中核都市からの転入者数が多い一方で、北名古屋市、尾張旭市、あま市、日進市、大治町などへの転出者数が多い。つまり、名古屋市に隣接する市町への転出が多いことが特徴として挙げられる。

また、年代別にも特徴がある。社会増が多い年代は第一に20~24歳で、次いで15~19歳となっており、これらの若者層が名古屋市の社会増を形成している。進学や就職を機に名古屋市に転入する若者が多いと解して良いだろう。これに対し30代、40代は社会減だ。世帯形成期、住宅取得期、子育て期といった世代が転出している傾向で、その転出先として隣接する市町が受け皿となっている可能性が高い。そして、この世代の転出は子供を伴う転出でもあるため、年代別では0~4歳の社会減が最も多い状況となっている。

つまり、首都圏への流出超過と近隣県からの転入超過に大きな変化はないものの、愛知県内の近隣市町村との関係においては、特に名古屋市に接してその都心部にアクセスしやすい市町に30~40代が子連れで転出する傾向が強まった可能性が高い。出産・子育ての中心となる世代であるから、この傾向が常態化すると名古屋市の子供の減少が加速することになり、将来的な活力低下が危惧される。

3.区別に見る人口増減の特徴   -都心で増加も南部の減少が顕著-

次に名古屋市内の区別の状況を確認しておきたい。人口増加数が多いのは中区を筆頭に東区、守山区、昭和区の順だ。人口が増加したのは、16区中でこの4区のみである。長らく名古屋の成長センターとなっていた緑区は減少に転じた。減少した12区のうち、減少数が大きいのは南区、中川区、港区がトップ3となった。南区と港区は人口減少が続いていたのであるが、これに中川区が加わった格好だ。名古屋市南部の人口減少が鮮明化していると捉えねばなるまい。

名古屋市の人口は1990年代に生じた都心の空洞化から一転して、現在は都心居住の傾向が強まっている。但し、都心に居住している世帯の多くは単独世帯や夫婦のみの世帯で、1世帯当たり人員数は2人を大きく下回っている。一方、緑区が減少に転じた他、名東区での減少も拡大しており、戸建てエリアでの減少が強まっている。これらのことは、子育て期の人口が名古屋から転出している傾向と符合するため、名古屋市が子育て世帯に選ばれていない可能性がある。住宅価格の上昇、待機児童への懸念、小1の壁問題など、名古屋市が30~40代にとって住みよい都市であるかどうか、今一度総点検する必要があるように思われる。加えて、南部地域の地域振興についても抜本的に考える必要があろう。

4.今後の都市経営をどう戦略立てるか   -トップラインを上げる戦略が必要に-

現時点での名古屋市の人口動向は、その成長性に陰りが出始めていると見なければならない。但し、名古屋市が置かれている将来的な情勢は高い成長ポテンシャルが期待できる。他稿でも繰り返し述べているように、(DX+コロナ)で脱・東京の潮流が萌芽し、居住地選択には通勤条件を第一に置く必要がなくなった。但し、「東京に居なくても良い」が「東京に行けなくては困る」という条件で首都圏の中で住み替えが生じている。

今後は、リニア中央新幹線の開業が控えているから、脱・東京の潮流の延長線上に名古屋を選択する好機が訪れよう。「(DX+コロナ)×リニア=名古屋の時代」になると筆者は考えている。しかし、待つばかりではポテンシャルを活かしきれまい。現状の名古屋市に起きている30~40代の人口の流出に歯止めをかける対策は徹底的に行う必要がある。こうしたことを踏まえて、今後の名古屋の都市経営戦略の視点を考えてみたい。

都市経営という以上、経営的視点で考える場合、まずはトップラインを上げる戦略を重視する必要がある。「トップラインを上げる」とは、民間経営で用いられる言葉で、損益計算書の一番上の数字を上げようという意味である。つまり売り上げを伸ばす努力をしようというものだ。地方自治体の場合、ひたすらに取り組んでいるのは行財政改革であり、これはコストの縮減である。それだけではなくて、都市経営においては税収を上げる方針を打ち出した方が良い。これは、名古屋市が発展ポテンシャルを持っているからの話である。そうでなければ絵空事に過ぎないのだが、「(DX+コロナ)×リニア=名古屋の時代」と展望するからこそ、名古屋の場合はトップラインを上げる戦略を立てるべきだと考えるのだ。

その第一は人口戦略だ。15~24歳の人口は転入超過を得ているのであるから、失っている30~40歳の人口にターゲットを当てた対策を講ずる必要がある。それは、戸建て住宅の供給を促進する事、待機児童や小1の壁といった子育て世代が不安視する懸案に対してスピード感を持って対策することだ。人口の増加は個人市民税に直結するから軽視できない。

第二は償却資産戦略だ。民間投資によって償却資産が増進していけば、固定資産税の増加傾向を強化することができる。そのためには、都心のオフィス機能の集積強化、複合的機能を有する大規模ビルの開発促進などを計画的に進めねばならない。オフィスの供給が停滞すればリニア開業時には名古屋のオフィス賃料が上昇するため、供給力を維持する必要がある。このためには、名駅東口地区から栄地区にかけての都心開発だけに依存せず、金山地区や名駅西口地区などにおける大規模な再開発を促す検討が必要となろう。

第三は産業戦略だ。既に名古屋市ではスタートアップ支援策を重層的に講じており、好ましい取り組みが始まっているが、リニアの開業に向けては、本社機能の誘致、外資系企業の誘致などにも本格的に取り組んでいくべきだ。加えて、市南部の工業系地域をどうするかも大きな課題だ。東邦ガスのガス精製工場跡地に名古屋みなとアクルスが誕生したように、居住機能や商業機能を複合化した用途に転用していくことが、ある程度必要なのだろうと思われる。

こうした視点を持って戦略を構築することで、トップライン(税収)を上げる都市経営を目指していくべき転機が、人口減少に転じた今、名古屋市に訪れていると筆者は考えている。

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