Vol.12 住みやすいのに低い名古屋のシビックプライドが示唆するもの -自虐的なシビックプライドからの脱却―

 2016年に名古屋市が実施した調査で、「名古屋市のシビックプライドは政令市の中で最低だ」という報道や認識が広まった。しかし、これは正確ではない。正確ではないものの、市民の評価が他の政令市と比べて低かったのは事実だ。なぜなのか?低い名古屋のシビックプライドの構造を考察するとともに、これを高めていくシナリオを考えてみたい。

1.衝撃が走ったシビックプライド低位報告  -笑うしかない結果だが…-

 2016年に名古屋市が実施した「都市ブランド・イメージ調査」では、シビックプライドは「愛着度」、「誇り度」、「推奨度」の3要素で構成されると定義し、この三つの各々について、名古屋市と政令市(全8都市)で調査し比較した。図1がその結果である。名古屋市の結果は、愛着度で8都市中7番目、誇り度で6番目、推奨度で8位だった。従って、「名古屋のシビックプライド=最下位」ということではないのだが、各要素とも低位であったことに衝撃が走ったのである。名古屋愛を全身からほとばしらせる河村市長も苦笑いだった。

図表1 都市ブランド・イメージ調査結果(2016年名古屋市実施)

グラフを見ると、確かに名古屋のスコアは相対的に低い。しからば名古屋の人々は本当に名古屋市を自慢に思っていないのか?他の街に住みたいと思っているのか?単純にそう思い込んではいけない。このグラフに示されるスコアの算出方法を知った上で、名古屋市民の意識構造を洞察する必要があるのだ。

図表2をご覧頂くと、スコア算出の過程が見える。図表1で示されたスコアはNPS(ネットプロモータースコア:表中の緑囲み)で、愛着度、誇り度、推奨度のいずれも他都市と比較して低位であることが確認できる。但し、このスコアは「同意」と「非同意」の差分(「同意」―「非同意」)によって算出されているので、「同意」が高い事と「非同意」が低い事が高スコアの条件となる。名古屋市についてみると、確かに「同意」の割合が低い傾向にはあるが「非同意」も低く、目立つのは「中立」(どちらでもない)の割合が高い事だ(表中の赤丸)。つまり、名古屋市民は「同意」とまでは強く肯定できない人であっても、「非同意」とも言っておらず、「どちらでもない」と答えた人が多かった事が分かる。

ようするに、名古屋市民は「我が街=名古屋市」を否定的に見ているわけではないということを知っておくことが重要であると思うのだ。

図表2 得点別人数割合(スコア=NPS算出のデータ)

しかし、「同意」と強く肯定した人が、他都市と比して多くなかったことも一方の事実であるから、否定的ではないが強い同意を高める必要もあり、これらの両面からこの調査結果を考察する必要がある。

3つの要素で構成されるシビックプライドは、単なるイメージ調査では終わらせることはできない。将来の名古屋のまちづくりや都市経営を考える上で重要だ。仮に名古屋から他都市に出た若者が(進学や就職等で)、将来の居住地として名古屋を選ぶかどうかに関わるからだ。名古屋出身の若者達に加えて、名古屋以外の地域の出身者が、将来の居住地として或いは働く場所として名古屋を選んでくれるような街づくりや都市経営を行って欲しいと筆者は願う。この調査には、それを考える重要なヒントが潜んでいると考えねばならない。

2.なぜ名古屋のシビックプライドは低いのか  -名古屋人は自慢を欲している-

 筆者は、図表2の数値分布を見て、名古屋市の人々は、名古屋を嫌っている訳でもないし、他の都市を羨ましがっている訳でもないと読んだ。しかし、決定的な「押しのポイント」に欠けるという意識が3つの要素ともに根強くあるとも読めると考えている。

拙コラムvol.5「三大都市圏における名古屋圏のウリは何か」でも記したように、名古屋は大都市でありながら「3つのゆとり」(空間、時間、経済的なゆとり)があるため、東京や大阪に比べて住みよいと感じる人は多いと思う(筆者もそうだ)。但し、この調査結果は「住みよいけれども、決定的に自慢できるもの(強み)に欠ける」という評価が下されたと捉えたい。「住みよさ」は他人に説明できても、「自慢話」をする事が今の名古屋では難しい。「お客様をお連れするスポットが少ない」という声はその典型だ。決定的な不満はないけれど、どこにでもある街並みが広い道路とともに展開している・・・そんな意識が多くの市民の深窓に宿っているのだと思う。

本当は歴史の街(1612年の清州越し以来の城下町)で、三英傑を輩出したとは言っても象徴的なレガシーに乏しい。モノづくりで経済が強いと言われるが、トヨタグループの本拠地は三河に集積している。味噌文化は万民受けしない。このように、名古屋を象徴的に自慢する決定打に欠けるのだ。これに対し、横浜や神戸には中華街や異人館があって港と街の一体感がある。京都には寺社仏閣が集積して強烈なアイコンとなっている。札幌と福岡は北海道や九州の代表として圧倒的な機能集積が進んでいる。こうした明確な個性が名古屋には乏しい。

つまり、名古屋市民の多くは名古屋を住みよい街と感じていると思うのだが、一方では「強烈(象徴的)な自慢を欲している」のではないかと総括したい。これからの名古屋の街づくりは、これを築き上げていくことが重要な戦略になると筆者は考えている。

3.自虐的なシビックプライドからの脱却を  -城下町の覚醒が必要-

 筆者は、名古屋が強烈な自慢を持つためには、名古屋市のルーツである城下町の覚醒が必要だと考えている。市民が求める強烈な自慢への欲求は、小手先の取り組みでは充たされない。時間をかけて大きなスケールで取り組んでいくべきものが必要で、それが城下町の再生ではないかと思うのだ。

名古屋は、先の大戦で徹底的な空襲を受けたため、歴史的資源が壊滅的に焼失した。名古屋城の天守閣がしかりだが、随所にあった城下町としての名残が消えた。今日の名古屋の繁栄は戦災復興による繫栄である。復興事業によって整備された100m道路をはじめとする幅員の広い道路が名古屋の象徴となった。これは、名古屋の運命として誇りに思って良い歩みだったと思う。しかし、だからと言って400年以上にもなる城下町の歴史を失ったままではいかにももったいない。

名古屋城の城主だった尾張徳川は、徳川筆頭の家柄で、その城下町名古屋には、様々な文化が育まれた。その一つに名古屋三大祭がある。那古野神社、東照宮(名古屋に東照宮があるのをご存じだろうか)、若宮八幡社で山車祭りが行われていて、これら三社の山車が本町通を練り歩いてお城に向かい、三の丸あたりで城主や高級武士たちにお披露目したという。三つの祭りは、祇園祭とか天王祭と呼ばれたというから、如何に高貴な祭りだったかが偲ばれる。

祇園祭と言えば京都の夏の風物詩として日本人なら誰もが知っているし、天王祭と言えばこの地域では津島の尾張天王祭を思い浮かべる人が多いだろう。仮に、名古屋に祇園祭や天王祭があったとしたら、誰もがその背景にある城下町に思いを馳せるに違いない。そして名古屋の人々は、この祭りを自慢にしたのではなかろうか。城下町としての歴史を深い眠りから覚醒させ、祭りと街づくりに再生する事ができれば、住み良さと街自慢の両方が備わる事となると筆者は思う。さすれば、名古屋のシビックプライドはぐんと上がると思うのだ。

三大祭や三の丸の再生については、別稿で詳述しようと思うが、シビックプライドを上げて行くためには、取って付けたような取り組みではなく、名古屋が持っている本物のレガシーを、時間をかけてでも確立していくことが必要だと思う。その先にあるシビックプライドの向上によって、名古屋で育った若者たちが名古屋で活躍しようとするだろうし、リニアの開業した後の名古屋には、名古屋をビジネス拠点として活用し、家族を名古屋に呼ぼうという潮流が形成されるのではないかと期待する。そういう意味でも、名古屋の人たちが潜在的に渇望している街自慢を、しっかりと作っていくことが重要だと考えている。

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