Vol.13 地方における人口減少問題への向き合い方 -重視したい若者のUターン―

日本は人口減少期に入り、多くの地方では人口減少が当たり前となった。これを受けて地方自治体では、今後の人口減少の加速化を前に打開策論議が展開されている。地方での人口減少対策の中心は、晩婚化対策と子育て環境の充実に重きがあったが、最近は若者の定着論議に中心がシフトしているように筆者には見て取れる。この問題について考えてみたい。

1.国土における人口問題の構図  -地方の若者が大都市で晩婚化―

戦後の日本の経済復興は、大都市経済を中心にけん引されてきたが、その背景には、多くの地方の若者が大都市に移動して活躍したことがあった。労働力としても貢献したし、世帯を形成して購買需要を創出し、内需拡大に寄与したとも考えられる。但し、そこには変遷があった。

図1に従って見ていきたい。1950年代から60年代にかけては集団就職という方式とも相まって多数の地方の若者が大都市に移動した。大都市には雇用機会が潤沢にあり、地方と大都市では賃金格差が顕在化したから、多くの若者が大都市に移動して職を得て、日本の高度成長を下支えした。

しかし、1970年代に入ると、大都市から地方への人口移動も増加したため大都市への人口移動を相殺し、大都市圏への流入超過は減少した。その後、バブル経済期(1980年代後半)に大都市への人口流入超過が再び増加に転じたが、1990年代初頭のバブル経済崩壊後には一時的に大都市圏では地方への人口流出が超過した。

そして2000年以降は、三度び地方から大都市への人口流入超過へと転じ、低水準ではあるが大都市圏への人口純移動者(大都市への流入超過)が安定して推移し、大都市への流入超過が今日まで定着しているように見える。

図1 大都市圏・地方圏間の人口移動と純移動者数の推移

このように、変遷はあるものの、戦後の我が国においては、若者を中心に地方から大都市への人口移動が構造的に存在していることが分かる。しかし、地方の若者が大都市へ移動するだけでは、わが国の人口減少を引き起こさない。圧倒的に大都市に集中した若者たちが晩婚化し、少子化傾向が強まっていったことが、その後地方都市にも波及し、今日の人口減少へと繋がったと解される。

同時に、日本人の平均寿命が着実に長くなる中で少子化が続いてきたため、わが国は高齢化社会へと突入した。現状では、地方の高齢者比率は高水準となり、大都市では高齢者数が爆発的に増加を続けている。今後の日本は超高齢化社会となるわけだが、この間に地方の疲弊は相当なものになって行く。

2.活発化する地方での人口問題論議  -若者を羽交い絞めする姿勢はどうか-

 地方における人口減少は、少子化、高齢化、若者流出の同時進行により生じている。その結果、税収が停滞する中で扶助費が増加し、今後は老朽化した公共施設等の更新費用が莫大に発生することが見通されているから、財政運営における危機感は強い。

こうした中で、政府は地方創生を掲げ、地方における「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定した。同時に、地方自治体には自治体版の創生総合戦略の策定と人口ビジョンの策定を求めた。これを契機に、地方における人口問題の議論は全国で活発化し、その中心的論議として各自治体では若者の定住を標榜する検討が重ねられている。折しものコロナ禍の影響も受けて、若者の地方定住の可能性を見出すための施策構築に挑んでいる。

少子化が叫ばれて以降は、晩婚化対策、子育て環境の充実施策が中心に組み立てられてきており、多くの自治体で施策メニューは既に充実化されてきている。これは主として出生率の向上を企図して人口の自然減を食い止めるための施策群だ。しかし、地方の人口減少は若者の大都市への流出による社会減によるところも大きいから、近年は若者の定住化対策へと施策論議がシフトしていると筆者は受け止めている。

筆者は、地方が人口減少問題に真剣に向き合うことは必要だと思っているし、若者定住に向けた種々の施策について肯定的に捉えている。しかし、どこか釈然としないものを感じるのも正直なところだ。それは、若者を地方に留めようとする姿勢に、羽交い絞めにしているかのような不健全さを禁じえないのだ。無理やりに抑制するのはいかがなものかと。筆者もそうであったが、若者が大都市に出て見たい気持ちはむしろ健全なものだと思う。問題は、一度流出した若者が大都市に定着して地方に戻らない構造を打開する事ではないだろうか。

3.大都市に出たい若者の背中を押したい  -その先のUターンこそが大切-

子どもが進学や就職期になって、大都市に出たいと言えば、その背中を押してやりたい。これが一般的に多くみられる親心ではなかろうか。親の本心としては留まって欲しくとも、子どもの気持ちを尊重してやりたいと思うものだ。地方自治体の施策も、親の気持ちと相似形で考える方が健全ではないか。つまり、地域の若者たちに対して、「大都市に行って勉強してらっしゃい。交流を深め、大人としての経験を積んで来なさい」と送り出す精神を基底に置いて施策を構築していくべきだと思うのだ。そして重要なことは、「素敵な恋愛をしてらっしゃい」と伝え、加えて「配偶者を連れて帰ってらっしゃい!」とメッセージを送ることが地方側の戦略として必要だと思う。地元の若者が1人で大都市に行って、2人で帰って来てくれれば確実に社会増加に転じて行く。そして故郷で子育てをしてもらえば自然増にもつながって行こう。つまり、我が町の若者が大都市に行って配偶者を連れて帰ることを想起したシナリオと戦略的施策を構築していくことが、地方の人口問題を検討するうえで必要な姿勢だと感じている。となれば、Uターンこそが実現すべきアウトカムなのである。

4.実現に向けた戦略  -故郷愛のDNAを育み、活躍機会を増やす事-

我が町の若者たちがUターンできる地域づくりを行う事。これが地方創生の原点にすべきだと解釈したい。そして、配偶者を連れて帰って来てもらうという事は、地域間の壮絶な競争を覚悟しなければならないということだ。日本の総人口が減少して少子化が進行している以上、当面はこうした国盗り物語的な構造を是認せざるを得ない。

しからば、Uターンできる地域づくりを行うために必要な施策体系を如何に整えるか。まずは教育だと筆者は考える。SDGsの理念を情操し、地域の魅力について体験的学習プログラムによって深い理解を促し、DXなどの新しい事に挑戦する風土を感じ取らせておくことが重要であるように筆者は思う。郷土愛を培っていなければ、Uターンは実現しまい。

その上で、地域の企業がイノベーションに積極的に取り組み、行政が行う企業誘致と相まって、核となる企業や業種を中心とした産業クラスターが形成されれば、若者たちには活躍の機会が生まれるし、大都市との賃金格差を感じない就業機会になろう。地域の立地によっては、交通環境の改善に伴って本社機能やR&D機能の誘致の実現にも挑む必要がある。そうすれば高度人材の活躍機会が確保されることになる。いずれにしても、所得機会を提供できる地域づくりを入念に行うことが肝要だ。

さらには、育児や福祉、医療環境を整えておく必要があるのは言うまでもない。地域の若者が、大都市で遭遇した配偶者に「俺(私)の故郷に行こう!とても素晴らしい町だよ。安心して暮らせるよ。」と自信をもって口説ける地域づくりをしていくことが基本的なシナリオだと思う。最終的には総合力という事になろうが、Uターンシナリオを強く念頭に置いて、「公教育」と「まちづくり」と「産業振興」の複合的な基軸による施策体系を構築していくことが「まち・ひと・しごと創生」そのものだと考えている。

尚、こうしたとりくみを市町村単位で完結させていくことは困難性が高かろう。都道府県単位や生活圏単位でゴールを考えた方が現実的だ(地方中核市レベルなら、市単独でも実現可能性は高いと思うが)。産業機能の集積を全ての市町村で図るのは非現実的だからだ。例えば近隣に活躍機会が確保できて、若者が隣町にUターンしたとしたら、故郷の関係人口にはなるだろうから、地元振興には大いに寄与するだろう。若者定住やUターンの促進は、広域単位で戦略を構築する事が望ましいと思う。つまり、県行政としての戦略性によるところが大きい問題だと筆者は考えている。

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