Vol.51 日本はオミクロン株とどう向き合うか?  -ウィズコロナに求められるのは政策をアジャストする力-

2022年1月14日時点において、世界はオミクロン株の猛威に晒されている。日本はデルタ株による第5波が収束していたものの、今月に入って前日比2倍以上の新規感染者数が連日記録されるなど、第6波襲来の予兆が現実味を帯びてきた。海外と比べれば日本の染者数は少ない方であるが、世界各地を見るとオミクロン株はデルタ株のピーク時の3~4倍の新規感染者数を既にもたらしており予断を許さない。筆者は専門家ではないが、感染力の増したオミクロン株との向き合い方と今後の政策のあり方について考えてみたい。

1.世界の新規感染者数の概況  -死亡者数のピークは下降傾向-

図表1は世界の新型コロナウィルスの新規感染者数(薄青)と死亡者数(濃青)の推移を示している。2021年末に南アフリカで発見されたオミクロン株は瞬く間に世界に感染拡大し、デルタ株のピーク時をはるかに超えて急増を続けている。新規感染者数でみる限り、オミクロン株の感染力は脅威だ。一方、死亡者数の推移をみると、ピーク波形が緩くなり、ピーク時の死亡者数は低下傾向に見てとれる。世界各国がワクチン接種に取り組んだ効果に加えて、変異株の毒性の違いも相まってのことと思われる。特に、オミクロン株では新規感染者数の急伸に比して死亡者数が増加傾向を示していないのが特徴だ。

2.日英米の新規感染者数比較   -日英米の新規感染者数比較-

図表2は日本、イギリス、アメリカの新規感染者数の推移を比較したものだ。国によって波形が異なるが、いずれの国もワクチンの効果が見て取れる。イギリスは2021年4月以降に、アメリカは2021年7月頃にワクチン接種の進展による感染者数の収束傾向が表れている。日本は、やや遅れたが2021年10月以降に収束傾向が表れた。

そして、2021年の年末にオミクロン株の感染爆発が始まった。2022年1月7日時点での7日間平均実績では、デルタ株のピーク時(2021年9月頃)に比べてイギリスで3.9倍、アメリカでは3.2倍の新規感染者数となっていて、グラフの傾斜が強く、過去にない爆発的な感染拡大を呈している。あまりにも感染力が強いため、英米ではエッセンシャルワーカーの職場離脱が深刻化して社会活動の停滞を招いている。

日本ではワクチンのブースター接種(3回目接種)が始まりつつあるが、英米の状況を見る限りでは、オミクロン株はブースター接種を突破して新規感染を続ける力を持っていると思われる。日本でも同様に、オミクロン株によるブレイクスルー感染が拡大する可能性は高い(3回目のワクチン接種は否定されるべきでなく、加速的に推進する必要があるが)。

仮に、日本でも英米の状況のようにデルタ株のピーク時の新規感染者数に比して3倍を超える感染者数となった場合には、これまでと同じ対応では医療機関も隔離施設も機能不全となることは目に見えており、今後の対応を十分に考えておく必要がある。医療崩壊を起こさず、社会の停滞を極力回避しながら新型コロナウィルスとどう向き合うかを現時点から想定しておくことが、非常に重要な課題と思える。

3.低下傾向の致死率   -オミクロン株はインフルエンザ以下に-

オミクロン株の特徴は、ワクチン接種が進んでいても感染拡大の威力が強く、感染速度が非常に速いことと言えそうだ。図表3は国別の感染状況について、ピーク時毎に比較したものだ。ここでは特に、致死率(赤枠)を比較してご覧頂きたい。

いずれの国も、第1波の致死率が最も高く、その後は概ね低下傾向を示している。感染症の専門家からは、ウィルスの変異に伴って感染力が増すことがあるものの、毒性は弱まることが多いとの指摘を聞くが、データはその傾向を表している。特に、オミクロン株の場合は世界全体でも致死率が0.20%となっており、日本で0.03%、イギリスで0.08%、アメリカで0.19%である。直近データであるから確実な傾向把握とは言えないものの、第5波と比べて各国ともに致死率が1/5~1/3に低減している。どうやら、世界的な共通の傾向としてオミクロン株の毒性は、過去の変異株と比べて明らかに低いという認識で良さそうだ。

インフルエンザの致死率が0.1%とされているから、オミクロン株の致死率はインフルエンザ相当かそれ以下となっている可能性がある。こうしたことから、識者の中には、「オミクロン株は風邪程度」と考えるべきだとの声も聞こえ始めた。

今後の推移をもう少し見守る必要はあるだろうが、「オミクロン株の感染は爆発的に広がるが致死率はインフルエンザ以下」ということが確定的な状況になった場合には、日本が従来と同様の対応を取り続けることはいささか不都合が過ぎると思わざるを得ない。

4.オミクロンは単なる風邪と思えば良いのか?   -毒性に応じて対策をアジャストする力を-

オミクロン株がインフルエンザと同等もしくはそれ以下の毒性であるとして、風邪のように扱えば良いということになれば、確かに社会的負荷は相当に軽減される。インフルエンザと同様に診察を受けて服薬しながら自宅療養をすることで回復し、社会復帰できるのであれば、ウィズコロナの生活様式はコロナ前に近いものとなる。

但し、いくつかの懸念もあるので指摘しておきたい。第一に、経口薬が完全に普及しないと「風邪と同じ」扱いをすることはできまい。罹患した場合に効果的な治療を容易に受けられれば安心だが、そうでなければ致死率が完全にゼロという訳ではないから感染力の強いオミクロン株を放置することはできない。効果の高い経口薬の普及が急がれる。

第二に、後遺症に関する認識も気になるところだ。第1波から第5波までの新型コロナウィルス感染症例からは、回復して陰性になった以降も後遺症に悩まされている症例が報告されている。オミクロン株の場合の後遺症が十分に把握されていない状況では、「風邪と同じ」と性急に決めつけることは憚(はばか)られよう。

第三は、オミクロン株以降の新たな変異株も同じように弱毒性とは限らないという懸念だ。確かに、前述した各データでは変異を重ねるにつれて弱毒化する傾向が見て取れるが、その過程には若干の上下変動が含まれているようだ。従って、今後発生してくる変異株が、オミクロン同等或いはそれ以下の毒性に必ずなるという大前提に立つことはできまい。現にキプロス島では、オミクロン株とデルタ株の合体型変異株の発生も報告されている。変異株の発生に応じて毒性や感染力などの特性を科学的に見極め、その特性に応じた対策を臨機応変にアジャストしていく対応力が極めて重要であるように思えてならない。

いずれにしても、日常の感染対策を継続して行うことが我々に求められる基本事項であるとして、国策としては検査をしやすい環境を整えて無症状感染者による市中感染の抑制に努め、ゲノム解析を含む新しい変異株の特性把握を迅速化するとともに、効果的な経口薬の普及を急ぎ、ウィルスの特性に応じたウィズコロナ対策を機を見て敏に講じていく力が日本に備わることを願いたい。さすれば、制約の強い生活様式から解放され、経済の活性化を前倒していくことが可能になろう。今の政治に求められているのは、スピード感のあるアジャストする力なのではなかろうか。

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