Vol.24今、名古屋の人口はどうなってる? -社会増、でも自然減。今後はどうなる?-

日本の人口は減少期に入っている。都道府県別にみると、ほとんどが減少傾向で、大都市を擁する都府県だけが増加している。日本の第三の大都市である名古屋の人口は現在232万人と大規模だが、その動向は今、どうなっているか?その実態を見ながら、今後を展望してみたい。

1.増加を維持している名古屋の人口  -自然減を社会増が何とかカバー-

地域の人口の増減は、「自然増減+社会増減=人口増減」と表現される。自然増減とは、出生数と死亡数で算出される増減(出生数-死亡数)で、出生数の方が多ければ自然増、死亡数の方が多ければ自然減と呼ぶ。社会増減とは、転入者数と転出者数で算出される増減(転入者数-転出者数)で、転入者の方が多ければ社会増、転出者の方が多ければ社会減となる。そして、自然増減と社会増減を合計した結果が人口増減となるわけだ。

名古屋市の人口は、1997年(H9年)以降24年連続で増加を維持している(図表1)。但し、近年の構造は、「自然減で社会増」だ。つまり、出生数よりも死亡数の方が多い(自然減)けれども、転出者数よりも転入者数の方が多い(社会増)ので、自然減を社会増がカバーする形で人口増加となっている。2020年(R2年)では581人の増加であった。ギリギリでの増加維持で、自然減を社会増で何とかカバーしている状況となっている。

2.名古屋の自然増減  -少子化と高齢化で自然減。幼児の減少が鮮明化-

名古屋市の自然増減は、2013年(H25年)から自然減に転じ、近年はその傾向を強めている(図表2)。超高齢化を背景に死亡者数が増加基調であるのに対し、出生数は減少傾向にあるためだ。超高齢化を食い止めることは不可能であるから(既往の年齢構造で決まってしまうため)、自然増に転ずるためには出生数を増やす必要があるが、これも容易ではない。名古屋市の合計特殊出生率は1.34(2019年)であるから(図表3)、自然増加の維持ラインとされる2.07とは依然として開きがあり、当分は少子化傾向が続くと考えねばならない。つまり、名古屋市では今後も自然減が続くことが確実視される。

これと相まって、名古屋市の幼児人口(0歳~5歳児の人口)は減少傾向を辿る事となる。既に減少の兆候があった幼児人口は、2018年(H30年)以降にその傾向が鮮明化してきた(図表4)。名古屋市ではこれまで保育需要が増加し続けており、保育園の充実強化策を続けている(vol.9「頑張れ!名古屋の保育園」ご参照)。子供を預けて働きたい父母のニーズが高まっている事がその理由だ。しかし、少子化傾向が継続することに加えて、市外からの幼児の転入数が少なくなれば、幼児人口の減少が今後さらに進むこととなり、保育園需要も転換期を迎える時が早晩に到来すると思われる。

3.名古屋の社会増減  -首都圏への流出が構造的。近隣からと外国人の転入超過でカバー-

名古屋市の社会増減は、1997年(平成9年)までは社会減であったが、2000年(平成12年)以降は社会増加に転換し、以後はこの傾向を概ね維持している(図表5)。この間の名古屋市において変わらない現象と変わった現象を整理しておきたい。

まず、一貫して続いているのは、首都圏への転出超過である。これは、昭和、平成、令和にわたり今日まで続いている。一方、中部地域内の近隣県(愛知県外)からと外国からは転入超過が続いている。つまり、名古屋市は近隣県から人口を吸引し、首都圏に人口を流出している構造が一貫して続いているのだ。特に、首都圏への流出人口で目立つのは、20~24歳の女性だ。高いキャリア志向を持つ若い女性が、活躍の場を求めて首都圏へと流出が続いており、名古屋としては都市経営課題として強く認識しなければならない。

次に、変化した現象は、愛知県内市町村との関係だ。いわゆるバブル期には、名古屋都心の地価は高騰し、一戸建てを求める市民は名古屋市外の市町村に流出した。この結果、名古屋市では都心の人口減少が顕著となり、ドーナッツ現象が生じていた(1980年代後半から1990年代前半:平成初期)。バブルが崩壊(1991年)して地価が下落した後に安定すると、高齢者の生活の場として都心の利便性が見直され、都心居住(マンション住まい)のニーズが顕在化した。これによって近隣市町村からの転入が増え、名古屋都心部では人口増加となり、都心回帰現象が生じた(2000年代:平成12年~平成21年)。ドーナッツ現象から都心回帰に転換した事に加えて、緑区などにおける区画整理事業の完成によって良質な居住空間が供給されていたので、都心のマンションと周辺区部の戸建ての両方の住宅需要が名古屋で開花し、名古屋市経済の活況とも相まって県内市町村からの転入超過の傾向が根付いて今日に至っている。

このように、首都圏への人口流出が続く中で、近隣県と愛知県内市町村からは人口を吸引するとともに、外国からも転入超過が続いている(主として外国人)ことで、トータルとして名古屋の社会増加が保たれてきたわけだ。

4.今後をどう見るか  -趨勢的には2023年(R5年)をピークに減少だが-

自然減少を社会増加でカバーして人口増加を維持してきた名古屋だが、自然減少はさらに大きくなることが確実視されるため、社会増加でカバーしきれなくなることが見込まれ、2023年(R5年)をピークに名古屋市の人口は減少に転じることが趨勢的には推定されている。いよいよ人口減少期を迎えることで、名古屋は衰退の一途を辿るのか?筆者は、こうした趨勢的な見立てに一石を投じる発信を続けてきている。その大前提としているのが、リニア中央新幹線(以下、リニア)の開業だ。筆者が描く名古屋の趨勢打破のシナリオを以下にご紹介したい。

■趨勢通りに人口減少に入ったら名古屋は衰退するか?  -交流人口で稼げる-

仮に、趨勢通りに名古屋の人口が減少期に入ると、名古屋経済は縮退する。人口・世帯が減少するという事は、その分の家計消費がなくなるから名古屋経済は確実に萎む。一方、リニア開業で交流人口が増えることが見込まれため、交流人口による消費が名古屋で増加すれば、名古屋経済の縮退をカバーできる。vol.6「リニアの開業を活かす戦略的地域経営」で述べたように、愛知県全体の試算としてその可能性があり、名古屋はこれを実現できる筆頭株だ。但し、交流人口の滞留時間を長くする仕掛けを多く作ることが必要となるため、MICEなどに積極的に取り組むことが有効だ。さすれば、名古屋は人口が減少しても経済が縮退しない都市経営を実現する事が可能となる。手品みたいな真面目な話だ。

■交流人口以外に稼げるシナリオはあるか?  -業務機能の集積で稼げる-

リニアが開業すると、名古屋は国内最大2時間圏(2時間圏人口が5,950万人となり国内最大となる)の中心都市となる。この立地条件は、大都市でありながら3つのゆとり(空間的、時間的、経済的ゆとり)がある名古屋にとって(vol.5「三大都市圏における名古屋圏のウリは何か」ご参照)、業務機能集積を拡充できる好機となる。ビジネス立地として名古屋を選択することが飛躍的に有利になるためだ(安くて便利!)。名古屋市は現在、イノベーション促進に注力していて、名古屋発の創業者を育成しようと取り組んでいるわけだが、これに加えてリニア開業後は、首都圏から業務機能が名古屋に移転したり、創業の地として名古屋を選ぼうとするスタートアッパーが増えるなどして業務機能集積が高まっていく可能性が見込め、こうした現象が実現すれば、名古屋における昼間人口は増え、夜間人口の増加にもつながり、名古屋経済の拡大へと結びついていくこととなる。

このようなシナリオを名古屋が掲げ、戦略的に取り組めば、一度は人口減少に転じることがあっても、リニア開業後にこの趨勢を打破する事ができると筆者は考えている。今後の日本においては、人口規模を維持向上するためには、他地域からの転入量を増やすしかなく、そのメインターゲットは首都圏だ。また、国土的観点で見れば、東京に依存しない国土を創生する事で高コスト構造から脱却し、邦人企業の収益効率を高め、国際競争力を向上する事に繋がる。名古屋がその受け皿となることが、日本の発展に繋がると考えねばならない。  名古屋の人口減少が近未来に見えている今こそ、そしてリニア開業を控える名古屋であるからこそ、こうした戦略的シナリオを掲げた都市経営戦略を構築していくことが必要だ。

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