Vol.115 名古屋の都市構造に「アーバンリゾート」の形成を  -適地の選定は都心との関係性が重要-

一般に魅力的だと言われる都市には「アーバンリゾート」と呼べる空間があるが、名古屋には残念ながらそのような空間は形成されていない。外から名古屋に魅力を感じてもらい、名古屋をオフィスの立地場所や居住地として選択してもらうためには、アーバンリゾートの形成を図ることも今後は重要となろう。アーバンリゾートの定義や資質を整理するとともに、名古屋における形成の可能性について考えてみたい。

1.アーバンリゾートの定義と資質  -都心からの近接性と水辺がポイント-

アーバンリゾートという言葉は学術的な用語ではないが、「都市内にあるリゾート的空間」という意味合いは説明を聞かなくても通じるのではなかろうか。筆者は、魅力的で発展力のある他都市と比較して名古屋に欠落しているのは「アーバンリゾートが無い」ことだとかねてから感じている(vol.37ご参照)。

筆者の考えるアーバンリゾートの定義(図表1)は、リゾートとの対比で考えると分かりやすい。リゾートは週末や長期休暇に自宅から家族と共に出かける目的地であるのに対し、アーバンリゾートは平日のアフターファイブに職場から仕事仲間などと共に出かける都心近傍のリフレッシュ空間だと定義したい。従って、公共交通で都心から概ね15分以内でアクセスできる立地条件が必要で、周辺環境には高層ビル群を借景にできたり開放的な水辺やダイナミックな港湾景観がある事が望ましいと考えている。

上記定義に当てはまるアーバンリゾート空間の資質は、①都心からのアクセス性に優れ、②都心の景観を借景に、③水辺や緑を感じながら、④立地する都市機能により、⑤リフレッシュ・交流の舞台となる空間、と総括できよう。

国内の主要都市で該当する事例を上げてみると、東京には「お台場」があり、横浜には「みなとみらい」があり、大阪には「大阪港(築港)天保山」があり、神戸には「ハーバーランド」があり、福岡には「シーサイドももち」などがある。また、シンガポールには旧来からアーバンリゾートに該当すると思われる空間があった(クラーク・キー、ボート・キー)が、近年は新たなアーバンリゾート(マリーナ地区)も出現している。

一方、名古屋で水辺空間が活用できるとするならば名古屋港ガーデンふ頭が筆頭格だと思うが、都心からのアクセス性について他事例と比較すると図表2となる。

名古屋以外のアーバンリゾート事例は、都心から概ね15分程度以内で公共交通機関によるアクセスが可能な立地を確保している(平均は10分程度)。しかし、名古屋港ガーデンふ頭の場合は栄から約20分を要するので少し遠い。但し、金山から考えれば約10分となるので、名古屋の場合は単にアーバンリゾートを形成するという事だけを考えるのではなく、金山という新たな都心を形成することとセットで考えていく必要がありそうだ。

2.他都市事例に見る形成パターン  -お台場、みなとみらい、シーサイドももちなど-

次に、各都市のアーバンリゾートに立地している都市機能の特徴について把握してみたい。図表3で各事例の特徴的と思われるものを写真と共に紹介する。東京・お台場はアミューズメントと飲食・商業機能が中核になって進化を遂げてきた。横浜・みなとみらいは機能集積が高度化(オフィス群、ホテル群、住居群等)してアーバンリゾートが副都心そのものになっている。大阪・築港では既成市街地の中に背中合わせのようにアーバンリゾートが形成されており、機能は水族館が中核だがクルーズ船が多数着岸することも特徴だ。神戸・ハーバーランドは旅客船ターミナルに大型ホテルが立地したことでアーバンリゾート的性格が決定づけられた。そして福岡・シーサイドももちは人工海浜に野球ドーム、大型ホテルなどが計画的に整備され、居住地としても人気があるエリアへと発展している。また、シンガポールのクラーク・キーとボート・キーは、旧来は桟橋と倉庫街であったエリアが飲食・エンターテイメントエリアに転換して賑わいを創り出している。そしてマリーナベイ・サンズ周辺はIR(統合型リゾート)としても有名で、カジノやコンベンション機能とホテル、美術館などが一体的に立地することで新しいアーバンリゾートを形成している。

3.名古屋における形成方向  -金山の副都心化とセットでガーデンふ頭をリゾート化する-

アーバンリゾートは、都心との連携が必須だ。都心に働く人々や都心を訪れる観光客が憩いや安らぎ、或いは刺激を求めて足を運ぶリフレッシュ空間だからだ。都心との連携が希薄になるような立地では十分に機能しない。

名古屋市内におけるアーバンリゾートとしての候補エリアは、名古屋港ガーデンふ頭を筆頭に、堀川沿岸、中川運河沿岸だと筆者は考えている。このうち、圧倒的に空間に余裕があるのがガーデンふ頭で、年間200万人を集客する名古屋港水族館も立地していることから好条件を有している。但し、ネックと思えるのは都心からの距離だ。栄からは地下鉄で約20分を要するため、他の事例と比べても明らかに遠い。

しかし、金山からなら地下鉄で10分足らずなのでアクセス条件として遜色ない。つまりは、金山を副都心化することとガーデンふ頭をリゾート化することをセットにして考えていく必要があるだろう。都心との関係で言えば、名駅地区にとっては中川運河沿いがふさわしいし、栄地区にとっては堀川沿いがアーバンリゾートとしてふさわしかろう。

筆者が考えるアーバンリゾートの形成を含めた名古屋の望ましい都市構造を図表4に模式化した。現在の名古屋の都心は名駅地区と栄地区で構成されている。この構図はこれからも普遍で良いのだが、これだけでは名古屋市は新しい集積を育てていくことができない。名駅地区でも栄地区でも新しいビル開発が行われてきたが、2030年以降に完成し得る開発プロジェクトは名鉄名古屋駅再開発ビルしかない(現時点で公表されている限り)。これでは名古屋における都市機能集積を一層に高度化していくことは叶わない。そのため、名駅地区と栄地区に加えて、新たな副都心の整備を行っていくことが必要だ。

候補として上げたいのは金山地区と名駅西地区および三の丸地区だ。金山はJR、名鉄、地下鉄、バスが結節する交通の要衝だが、都市開発は進展していない。名駅と直結している金山は、中部国際空港や三河地域とのアクセス拠点であることに加えて、今後のリニア開業を見通すと「東京・品川にアクセスし易い地区」となるため、極めて立地条件が良い。このような条件を持つ金山地区で再開発等を進め、オフィス等の供給を促せば、新たなオフィス需要の受け皿となる副都心として発展できる可能性が高い。名古屋の新副都心候補の筆頭株だ。

また、名駅西地区も素晴らしい交通条件を備えていながら、名駅東地区と比べると街区も小さく高度な都市機能集積が進んでいない。リニア駅の工事が始まり高速道路へのアクセスも整いつつあるため、高い立地ポテンシャルを活かすべく再開発を促していくべき地区だ。合意形成をどのように進めていくかについてプロセスを構築しなくてはならない。

そして、三の丸地区は現在は官庁街であるが、各庁舎は老朽化が進み、機能更新期を迎えている。名古屋城のお膝元で歴史的に由緒ある空間であるものの、官庁に独占されていて市民の交流空間とはなっていない。名古屋城という歴史的なシンボルの近傍で、官民の中枢的業務機能を立地させる格式高い場所として新たに活用していくことが、名古屋の存在感を強めていく上で望ましいと考えている。新たな名古屋のステイタス地区として仕立てていくにふさわしい場所だ。但し、三の丸地区には交通アクセス面で弱点がある。名古屋駅に直結していないからだ。従って、今後は三の丸地区の交通条件を高めていくことを前提に、新たな副都心として整備していくことが望ましい。

さて、このように名古屋に新たな副都心を形成する必要があると筆者が主張するのは、リニア時代の国土を展望するからだ。コロナ禍が産み落としたリモートスタイルは、今後も進化していくに違いない。そこにリニアが開業すれば、コストの高い東京に縛り付けられていた諸機能は、広域的に移転を展開する可能性が高まる。その際に、名古屋が東京一極集中是正の受け皿となることが国土の持続的成長のためにも名古屋圏の発展にも極めて重要だ。但し、名古屋が受け皿となるためには、都心にオフィス供給力がなくてはならない。名駅地区と栄地区の両都心だけでは新たなオフィス供給力を生み出していくことができないと思われるので、金山地区と名駅西地区および三の丸地区でこれを担っていくことが望ましいと考えるのだ。

換言すれば、「名古屋の新たなマーケットは首都圏と海外にある」と見立てた都市戦略が必要ということだ。そうした際には、首都圏や海外から見た名古屋の魅力が伝わりやすいことが重要となる。従って、名古屋にアーバンリゾートを計画的に形成していくことが、戦略的シナリオとして必要だと考える次第だ。名古屋市民は十分に満足している日常であっても、リニア時代が幕開けした時に首都圏や海外の人々にとって名古屋が憧れの対象となり得る都市にしていかねばならない。

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