Vol.67  世帯増加率の急落が示唆する愛知の未来とは?   -2年連続減少の愛知県人口-

愛知県の人口が2年連続で減少している。名古屋市や西三河地域への転入者数が減少したことで、県の全域で人口減少となった。特に目立つのは世帯数の増加率が急落していることだ。世帯数の増減はどのような事を示唆するのか?世帯数が増えずに減少する状況下を想定して愛知の未来を展望してみた。

1.2021年の愛知県の人口  -先行していた自然減に社会減が加わり人口減少に拍車-

愛知県人口動向調査結果(2021年年報)によると、2021年9月末時点の愛知県の人口は751万6,008人で、前年比26,407人の減少(▲0.35%)となった。2020年の同調査で人口減少に転じたことが印象的であったが、2年連続の減少となった。

昨年までとの大きな違いは、社会減に転じたことだ。愛知県の人口は、2017年以来5年連続の自然減で推移してきているが、社会増でこれを補うという構図であった。これが、自然減に加えて社会減となったことで、人口減少幅が拡大した。

自然減は、少子高齢化傾向によって避けがたい現象だ。子供の出生数が少ない一方で、長寿命化により高齢者数が増加しているから死亡数も多くなる。自然減が増加に転じるためには子供の出生数を増やす必要があるが、これは短期的には難しい。従って、しばらくは自然減が続くことを我々は覚悟しなければならない。

これまで愛知県では、社会増が自然減を補って県人口の増加が維持されてきた。愛知県の社会増減は、首都圏への転出超過(社会減)が恒常化しているのであるが、近隣県からの転入超過(社会増)がこれを上回るとともに、外国人の増加も相まって社会増を続けてきた。特に、名古屋市を中心とする尾張地域における社会増(2020年では6,839人の社会増)がこれを支えてきたのであるが、2021年では尾張地域も社会減(表中の▲2,785人)に転じたことが愛知県全体の社会減を決定づけた。

日本一のモノづくり産業が集積する愛知県の産業の心臓部は西三河地域であるが、西三河地域でも2020年時点で社会減(▲5,319人)となっていた。これは、コロナ禍の影響を受けて西三河地域に集積する企業群が採用を控え、外国人労働者も減少したことが主要因とみられた。2021年も同様の傾向が続いていて西三河地域は社会減(表中の▲4,644人)となり、尾張地域でも社会減に転じたことが拍車をかけた格好である。

日本人の総人口が減少しているため、人口の維持・増加を続けていくためには、社会増を得るしか道はない。国内における人口の地域間争奪戦が生じていると考えた方が良い。

2.世帯増加率が急落   -世帯数が増加しない地域社会では何が起きているか?-

2021年の集計結果でもう一つ気になることがある。それは、愛知県の世帯数の増加率が急落したことだ。世帯数は、人口が減少していても増加することが日本社会の基本的な傾向であったのだが、世帯数の増加が鈍り減少へと転じていくときに、地域社会で何が起きているかを考えておきたい。

日本の世帯数の中で最も多いのは夫婦のみの世帯で、次いで単独世帯である。但し、2000年以降で最も増加率が大きいのは単独世帯だ。単独世帯には、若い単独世帯と高齢者の単独世帯がある。核家族世帯(夫婦と子供の世帯)から子供が独立すると単独世帯と夫婦のみの世帯になる。これを世帯分離と言い、世帯数が増加する主因である。また、夫婦のみの世帯で配偶者に死別する場合も単独世帯となり、その多くは独居老人世帯となるのだが、この場合は夫婦のみの世帯からの置き換わりであるから世帯数の増加には影響しない。

世帯数が増えるという事は、若者が独立して世帯分離が進むこと、若者が単独世帯として転入してくることで増加する。従って、世帯数の増加が鈍るという事は、独立する若者が減っていることや、転入する若い単独世帯が減っている現象が生じていると想定しなければならない。

そして、世帯数が減少する局面となれば、若い単独世帯同士が婚姻によって夫婦のみの世帯になる場合や、独居老人の死亡による世帯の消滅が増加する場合が考えられる。少子高齢化が進展するとともに晩婚化が進んでいる今日の情勢からすると、後者の場合の増加が続くものと考えねばなるまい。

つまり、世帯数の増加率が鈍るという事は、若い世帯の減少(社会増の減速)が起きている可能性があり、その先には高齢死亡者の増加(自然減の加速)が起きる可能性があるから、地域社会としては本格的な人口減少期への突入(人口減少の加速)が待っていると考える必要があろう。

3.愛知県の発展はあるか   -(DX+コロナ)×リニア=愛知の時代!-

愛知県で世帯数の増加率が急落したことを踏まえると、愛知県においても本格的な人口減少期が近づいていることを示唆していると捉える必要がある。コロナ禍によって人口減少に転じる局面が早まった可能性は否定できないが、趨勢的にはこうした傾向下にあったと捉えなければならない。

しからば、愛知県の未来は暗いのか。筆者は、必ずしもそうとは限らないと考えている。2018年には既にDX時代の到来が叫ばれていて、仕事や暮らしの中にデジタル技術の導入加速による働き方やライフスタイルの変容が予兆されていた。2020年に入ってコロナ禍に陥ると、リモートスタイルが各分野で積極的に導入され、通勤という行動様式が在宅に置き換わった。これにより、従来は勤務先に通勤できることが居住地選択の最重要条件であったものが、「通勤しなくても良い」という前提で居住地を選択する時代が到来した。この結果、2021年の住民基本台帳では東京23区では転出超過となり、脱・東京の潮流が鮮明化したのである。

つまり、(DX+コロナ)によって「通勤重視」の居住地選択から、「住み良さ重視」の居住地選択へとパラダイムの転換が起きたと考えられる。その結果が東京脱出なのだ。そして、今後リニア中央新幹線が開業すると、住み良さ重視のパラダイムによって、日本人の居住地選択は東京縛りから解放されて、より広域的に選択されるだろう。但し、東京縛りから解放されたとしても、「東京に行けなくては困る」という条件は残るに違いない。従って、いざという時には容易に東京にアクセス出来て、普段はゆとりある暮らしを謳歌できるような居住地が好まれる時代になろう。リニア開業後の愛知県や名古屋市は、この条件が見事に当てはまるではないか。

「(DX+コロナ)×リニア=愛知の時代」と期待しても良いと筆者は考えている。確かに、現状を前提に考えれば、趨勢的には愛知県の人口は本格的な減少期へと突入していくであろう。しかし、今後は若者単独世帯や夫婦のみの世帯、さらには夫婦と子供の世帯が愛知県での居住を選択する可能性が少なからずあり、こうした現象が現実となれば再び社会増の地域社会へと転換していくこととなる。特に、愛知県から流出傾向が著しい若い女性(首都圏に転出した女性)たちは、住み良さ重視の時代に敏感に反応して、愛知県居住を望むのではなかろうか。配偶者や子供を連れて愛知県に戻ってくれれば、社会増に大きく寄与することとなる。

そのためには、住み良さに磨きをかけておかねばならない。東京へのアクセス条件やゆとりある生活環境は整っている。世帯形成期から子育て期の世帯が愛知県での居住を選択してくれることを念頭に、子育て環境、教育環境において、愛知県の水準を更に高める努力は、今こそ重要なタイミングを迎えていると思う。産業力のある愛知県だからこそ、住み良さを追求して対策を講じることが、来るべき「(DX+コロナ)×リニア=愛知の時代」を現実のものとして呼び込むことに繋がると思うのだ。

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