Vol.96  民活シリーズ⑪ 改修型PFIの難しさ  -競争環境を如何に活性化するか-

公共施設の老朽化が全国で顕在化しており、行政は建て替え、長寿命化(本稿では以下、大規模改修)、廃止・統合の選択を迫られている。このうち、大規模改修をPFI事業として行うことも選択肢となるが、そこには新規整備のPFI事業と比べて固有の難しさがある。即ち、競争環境を活性化することの困難さだ。その構図を紐解いた。

1.公共施設の老朽化  -築30・50年を超える施設の急増-

全国の自治体が保有する公共施設は、高度成長期(1955年~1973年)とバブル期(1985年~1991年)に急増した。最も急増したのは高度成長期後半からその後の1970年代で、この時期に建設された施設は築50年を超え、バブル期に建設された施設も築30年を超え始めている。行政機関は、築40年を目安に建て替えか大規模改修かの検討対象施設とすることが多いから、現状では高度成長期に整備された公共施設が先行して改築・改修の対象となっているが、バブル期の前半に整備された公共施設も追い打ちをかけ始めている。

これに加えて念頭に置かねばならないのは耐震補強対策だ。耐震基準が大きく変更された1981年6月(昭和56年6月)以降に竣工していれば新耐震基準(震度6でも倒壊しない強度)の建物と考えてよいが、それ以前の建物は旧耐震基準が適用されているため耐震補強対策が必要となる。高度成長期の建物は全て旧耐震基準の建物だから、公共施設の場合は耐震補強対策済みであることが多いのだが、耐震補強対策後であっても改築・改修の検討対象となっている公共施設が増加しているのだ。

バブル経済が崩壊したのは1991年で、1995年頃をピークに地方自治体の税収は減少傾向となり、扶助費の増加とも相まって公共施設の建設財源となる普通建設事業費は急速に縮小してきている。そうした財政状況の中での公共施設の老朽化は地方財政にとって頭の痛い問題だ。2014年(平成26年)の総務省通知により、地方自治体には公共施設等総合管理計画の策定が義務付けられ、古くなった施設の利用状況に鑑み、廃止・統合を進めるなどして公共施設の総量を計画的に縮小する政策が指導されている。

それでも中核的・拠点的な施設は必要だから廃止せずに更新する必要性に直面する。この時、建て替えか大規模改修かの選択が迫られるわけだ。大規模改修を選択した際に改修型PFIの導入が視野に入ってくるのである。

2.改修型PFIの困難さ  -元設計、元施工企業の優位性-

改修型PFIはRO型(Rehabilitate Operation)と呼ばれる。機能更新を施して事業を行うことを意味しており、躯体の修繕や設備・備品の取り換え・改修を民間事業者が行った上で維持管理・運営を同事業者に委ね、これらに必要な費用を行政が支払う方式だ。民間事業者は竣工図書、修繕履歴、現況図などの開示を受けた上で、行政が示す新しい要求水準に適合するような改修計画を立てて臨むこととなる。

ここで表面化するのが元設計、元施工企業の優位性だ。個人の住宅でも同じことだが、修繕を依頼する場合には、設計・建設元に相談することが圧倒的に多いように、公共施設の改修に際しても、行政はまず元設計・元施工企業に相談する。つまり、PFI事業者の募集を始める前の段階で相談と称してヒアリングするから、相談を受けた企業は相談内容を吟味しながら(行政側の意図を汲みながら)準備的検討を始めることとなる。また、元設計・元施工企業は、施工監理記録や工事記録などを残している場合が多い。それらの資料には、開示される竣工図書にはない情報も含まれる。こうしたことから、元設計・元施工企業は、他の新規参入企業よりも豊富な情報を有している構図が生まれるのである。

そうなると、元設計・元施工ではない新規参入の事業者にとっては参入障壁が高くなる。情報量が少ないことで競争環境が劣位となれば、入札価格で企業努力がより必要となるし、積極的な提案を上乗せする必要性を感じながら臨むことを余儀なくされるからだ。結果として新規参入の事業者は応札を見送ることが多く、元設計・元施工グループ1者による入札となる可能性が高まり、そうした場合には競争環境が活性化しないのだ。筆者は本コラムの民活シリーズで何度も指摘しているように、競争環境の活性化がPFI事業を効果的なものとするための要諦だから、重要な課題として受け止めねばならない。

一方、行政側にも募集準備段階において難しい課題がある。それは費用積算の精緻化だ。新しく建設する場合には類似施設の建設費を参考に概算費用を見積もることが可能だが、大規模修繕の場合は各々の使用状況で修繕内容が変わるから、他事例の改修費を参考にしようとすると誤差が大きくなる。当該施設の劣化状況を調査する場合でも、コンクリートの内部劣化の状況や金属類の腐食状況などは部分的な調査しかできないから、こうした調査を基に積算するのだが実際の改修工事に必要となる費用との間には乖離が生じる場合があると想定しなければならない。専門家を登用したとしても難しい予算見立てとなるだろう。2021年初以来の建設工事単価の高騰とも相まって、誠に悩ましい事態となっている。

このように、改修型PFIは企業側にとっても行政側にとっても難しい検討を迫られる事態となる場合が多いのだ。

3.競争環境を活性化するために  -手腕が問われるテクニカルアドバイザー-

改修型PFIの競争環境を活性化するために必要なことは何か。それは①要求水準書の詳密化と②積算の精緻化が基本だと筆者は考える。

まず要求水準書の詳密化についてである。元設計・元施工の企業に劣位を感じている新規参入企業の不安を払拭するためには、どこをどのように直せばよいかを懇切丁寧に明示することが有効だろう。PFI事業の場合は性能発注を前提としていて、従来の発注方式である仕様発注ではないから、要求水準書には求めたい強度や性能だけを記載することとなり、材料・部材の規格や数量、配置および施工方法などは記載しないのが通例だが、改修型PFIの場合は手取り足取り指示する要求水準とすることで新規参入の企業にとって「このように施工すれば良いのだ」と思わせることに狙いがある。ある意味で性能発注よりも仕様発注に近いスタイルを随所に盛り込む姿勢が必要になると思われる。

次に積算の精緻化だが、強度劣化調査などを行った上で、改修すべき事項をできるだけ詳密に洗い出して積算する必要がある。この過程では、元設計・元施工企業との対話を十分に行った上で検討に反映することも必要だ。手間と技能の必要となる作業だから、行政側の建築技士とアドバイザー側のテクニカルアドバイザー(Technical Adviser:TA、設計事務所を登用する場合が多い)が存分に検討できる体制を構築することが望ましい。自治体側には建築技師が不足していることが多いからTAの手腕に依存する要素が多くなるため、アドバイザー業務を発注する際にはTAの資質を見極めなくてはならない。積算過程を詳密化すればするほど積算額は上振れることが多いが、財政当局に対して自信を持って折衝に臨むためにも必要なことだ。

実は、要求水準書を作成する業務はTAが担うことが多いので、①要求水準書の詳密化も②積算の精緻化もTAの腕次第ということになる。改修型PFIの場合は、この点を肝に銘じておく必要があるだろう。

建て替えよりも大規模改修の方が安くつくからと大規模改修を選択し、改修型PFIに安易に舵を切ると、往々にして後から困難に直面することとなる。積算結果で想定を超えた金額となったり、1者応募で競争環境が不活性となりVFMが発現しないという事態が想定されるからだ。望ましくは、建て替えか大規模改修かを比較する段階でPFIの導入も想定した比較考量をしておくと良い。そして、大規模改修を選択するに足る十分な理由を吟味しておかないと躓く恐れがあると念頭に置くことが肝要だ。

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