Vol.103  三大都市圏で比較した鉄道輸送人員に見るコロナ禍インパクト  -関東圏だけが異なる傾向=脱・東京トレンド-

コロナ禍に入ってから3年が過ぎた。それまで燻っていたDXトレンドは一気に開花し、我々はリモートスタイルを仕事や生活の中で日常的に取り入れるようになった。その結果、脱・東京を象徴とする大都市離れの動きが顕在化し、人口や諸機能立地の流動化が生じている。本稿では、三大都市圏における鉄道輸送人員に着目してコロナ禍における脱・大都市の傾向を確認するとともに、その先にある国土の在り方について考えてみたい。

1.コロナ感染の波形と鉄道輸送人員の関係  -沈静時に輸送量は増えるが戻りきらない-

2023年1月時点で日本のコロナ感染者数は8度目のピークを迎えている。感染の蔓延がピーク現象を見せると、人々は外出を自粛するから鉄道輸送人員は減少する一方、感染が沈静化すると人出が増えて鉄道輸送人員も復元するという傾向を繰り返している。

図表1では鉄道輸送人員(定期分)とコロナ新規感染者数を三大都市圏について比較した。定期分としているのは、通勤・通学行動との連動性が高いからである。鉄道輸送人員はコロナ前の2019年12月を1.0とした指数として表現している。コロナ感染のピーク時について見ると、第1波の時には鉄道輸送人員は三大都市圏とも概ね3割減少したが、その後は関東圏では感染ピーク時に3割減、中部圏と近畿圏では感染ピーク時に2割減という傾向となっており、関東圏の鉄道輸送人員の減少率が大きい。

本稿では、沈静期について着目したい。図表1で薄青に着色した帯状の期間が沈静期である。沈静期には鉄道輸送人員が戻る傾向なのだが(第3波~第4波間の沈静期は例外の模様)、戻り方も関東圏と中部圏、近畿圏では明らかな違いが確認できる。関東圏では輸送人員数の回復率が0.8~0.85であるのに対し、中部圏と関西圏の回復率は0.9~1.0となっており、関東圏だけが戻りきらない傾向が強い。コロナが沈静化している期間の動向が、コロナ後の姿を投影していると考えれば興味深い。

2.三大都市圏の比較に見る脱・東京の傾向  -東京圏だけが異なる明らかな傾向差-

関東圏は、他の大都市圏に比して通勤時間が長く混雑率も高いから、コロナ感染を予防するために通勤をはじめとする鉄道を利用した外出を避けようとする人々が多いと見るのが自然だろう。加えて、関東圏はサービス業の集積が高く、とりわけICT産業の集積が顕著であるから、こうした業種ではフルリモートの導入もしやすく、部分的リモートを含めてリモートワークで従事する人の割合が高いものと考えて良い。

このように、三大都市圏の中でも密度の高さや広域性という点で突出している関東圏の地域構造の異質性に加えて、産業構造の特性にも起因して、関東圏の鉄道輸送人員の減少が他圏よりもコロナ前に比べて大きいと捉えることができる。結果的に、関東圏では「通勤しない」というライフスタイルを選択した人々が多く、こうした人々には都心に居住する必要性がないから脱・東京を顕在化させる原動力となっている。2021年の住民基本台帳で東京特別区部(23区)からの転出超過が明らかとなったことがこれを裏付けている(vol.57、73ご参照)。

中部圏や大阪圏でも、同様にリモートワークの導入は進んでいるが、鉄道輸送人員で見る限り、コロナが沈静期に入ると回復率が0.9~1.0に戻る傾向が見て取れるから、リモートワークは定着しつつも通勤というワークスタイルも維持されていることが分かる。この点で東京圏とは様相が異なる。東京圏では「通勤しない」というスタイルを選択した人が多いということだ。

実は、筆者が住む名古屋では、市営地下鉄に限って定期分の輸送人員を見ると2割ほど減っていて、人口を見ると30~40歳代の市外転出傾向がみられることから、名古屋圏においても脱・都心の減少は生じていると思われる。しかし、その潮流の大きさは関東圏と比すれば小さく、関東圏の脱・東京トレンドが明らかに強い。

その背景にあるのは、関東圏の地価の高さ、生活費の高さが根強い要因にあると筆者は見ている。東京一極集中が関東圏の高コストを生み、東京に依存せざるを得ないビジネススタイルがこの高コストを容認せざるを得ないライフスタイルを強いている。相似形のことが中部圏や関西圏でも都心については言えるのだが、関東圏は圧倒的に高コスト負荷による犠牲が大きい。これはQOLの希求に対する矛盾なのだ。これに対し、DXという技術的潮流が基盤となり、コロナ禍が引き金となって、「東京にいる必要がない」というパラダイムが生まれたのだ。その意味で2020年という年は歴史的な年であったと言って良いだろう。

3.コロナが沈静化しDXが進化していく先の国土  -オフィスと住まいの立地選択の多様化-

コロナ感染症の今後の展開を見通すことは筆者にはできない。しかし、既にwithコロナと表されるステージに突入しつつあると思える。一方、DXは今後も一層に進化を続けていくに違いない。メタバースのような仮想空間での行動が汎用化すれば、コストのかかる東京での立地は、コスト以上に意義・価値のある事象に限られることになろう。

但し、「東京にいなくても良い」が「東京に行けなくては困る」という条件は残るだろう。リアル空間でなければ適さない行為はあるはずだ。例えば重要な取引の調印であったり、格式を重んずる儀礼的な会合や儀式などは、リアル空間で行う必要性が残る場合が多いのではなかろうか。このように考えれば、普段は東京にいる必要はないが、事の重要性に応じて「いざ」という時は東京にアクセスしやすい立地が好まれるだろう。それはオフィス立地しかり、居住地選択しかりである。

そうした際に、我が国にリニア中央新幹線(以下、リニア)が開業すれば、リニア沿線地域はまさにそうした立地条件を備えることになるから、東京から脱出したい諸機能や人々の立地選択肢として好条件となる。リニア沿線地域をはじめとして、東京にアクセスしやすい高速交通手段を有する地域は、現在東京に集中している機能や人口の移転ニーズの受け皿となり得よう。「(コロナ+DX)×リニア」によって東京一極集中を是正する局面が訪れる可能性に期待したい。

東京一極集中是正という国土的課題がこれまで克服できなかったのは、高いコストを負担してでも東京に所在する必要があったからだ。しかし、これを縛る条件がなくなれば、東京一極集中を是正することが可能となり、結果的に高コスト負担から解放された日本は、企業の経営効率を高め、暮らしのQOLを高める国土へと転換することができる。立地選択が多様化する国土に転換することが、日本の発展の可能性を高めるのだ。

こうした国土の転換を着実に進めていくためには、地方が魅力を高めていくことも必要だ。高速交通による東京へのアクセシビリティはインフラ政策によるところが大きいので自治体の努力だけでは如何ともし難いが、アクセス条件を持ち得る地域は資質を高める努力をしなければならない。リニア沿線地域で例示すれば、名古屋市のような大都市・拠点都市では再開発等によりオフィス供給等を計画しなくてはならないし、飯田市や中津川市のような中山間地域ではデジタルガバメント、DX型都市サービス、子育て・教育環境などについて計画的な取り組みを定めて実践していかねばならない。そうでなければ立地選択の多様性が実効性を持たないからだ。

新型コロナによるパンデミックは、都市の過密に潜むリスクを問題提起し、ワークスタイルの変容をもたらし、住み良さとは何かを問う機会を我々に与えた。これを機に東京一極集中の是正に向けて国土の転換を促すためにはリニアは必要であるし、沿線地域の資質向上の取り組みが必要で、その先にあるのが日本のQOLの向上であり国際競争力の再浮上である。まずは国土計画で、こうした論点の議論が進むことを期待したい。

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