Vol.95  三の丸ルネサンスの提言から見えてきたもの  -立ちはだかる壁の焦点-

2021年1月に、三の丸ルネサンス期成会は「三の丸再生から始まる城下町再生」という提言を行った(vol.16ご参照)。その後、一部では関心が高まっているが課題は山積だ。三の丸の再生を願う期成会は、提言後も様々な機会を通じて実現を促す活動を行ってきたのであるが、これらを通して越えねばならない課題が徐々に見えつつある。関心の焦点と立ちはだかる障壁について、現時点の状況を整理しておきたい。

1.三の丸ルネサンス期成会の提言とは  -民間の有識者と財界でつくる提言団体-

この団体は、三の丸地区の再整備を核として名古屋の歴史性を今日的にルネサンスしていくことを目的として組成され、名古屋地区で活動する学識者・有識者と地元財界で構成された民間の提言団体だ。2021年1月に設立を公表し、同時に「三の丸再生から始まる城下町再生」という提言を発表した。筆者は、この期成会の幹事を務めている。

名古屋の歴史性をルネサンスしたいという提言の目的には、リニア時代に愛知・名古屋が国土の経済中枢として大きな役割を果たしていくための備えとして、国内外に誇れる街の顔を形成するとともに、埋もれがちな城下町としての資質を分かりやすく打ち出して、シビックプライドへとつなげていく狙いがある。

内容は5つの提言で構成されている。第一は「官庁街への文化・交流機能の導入」である。官庁機能で占拠された三の丸地区に民間活力によって文化・交流機能を導入して賑わいを創出するとともに、三の丸を市民や観光客に開かれた空間として名古屋城下町に触れ合う交流拠点にするために、MICE機能等がこの地区に加わることが望ましいと考えるものだ。  

第二は「三の丸と城下町をつなぐ名古屋三大祭りの再生に着手」である。名古屋城下には東照宮祭(旧、名古屋まつり)、若宮祭、天王祭があり、このうち若宮祭と天王祭は同時に開催されて祇園祭と呼ばれていた(vol.16、19ご参照)。これらの祭りは本町通を中心に繰り広げられ、城下とお城をつなぐ象徴的な行事であった。名古屋の歴史をルネサンスする際には、これらの祭りの再生に着手することが不可欠だと考えるものだ。

第三は「南海トラフ巨大地震等の有事に備えた地域強靭化のための拠点整備と連携強化」である。東海・南海地域を襲うとみられている巨大地震が現実に発生した際には、この地域に独自の防災拠点が機能して国県市が連携した復旧・復興の司令塔となることが望ましい。熱田台地の上にある官庁街・三の丸は、地勢的にもこれを備えることに適した立地だ。

第四は「歴史的建造物である県・市の庁舎の活用による迎賓ホテル・博物館等の整備」である。県と市の本庁舎は築80年を超えており重要文化財に指定されている。庁舎の執務空間として使用するよりも、クラシックな外観と屋内空間を活かして国賓を迎えることも可能なホテルや、国立級の博物館などとして活用することで、三の丸を文化発信の拠点とすることが可能だと考えるものだ。

第五は「名古屋城と久屋大通をつなぐにぎわいの創出とSRTによる都心回遊」だ。三の丸地区は名駅地区、栄地区といった名古屋の中核的な都心から少々離れているため、久屋大通公園から三の丸を介して名古屋城に人流をつなぐとともに、名駅地区と直結して都心を回遊するSRTの整備等によって交通条件の向上を図ることが必要とするものだ。

2.容易ならざる現実との対峙  -簡単には進まぬ壁の数々-

このタイミングで三の丸ルネサンス期成会が提言したのには意味がある。それは、リニア開業までに一定の成果を出すことが望ましいことに加えて、三の丸地区に立地する国県市の庁舎の建て替えが始まろうとしているからである。既に、第四合同庁舎(国の庁舎)の建て替えがPFI事業によって着手された。このまま放置すれば現状の街区のまま各庁舎が建て替わったり長寿命化されて、今後半世紀にわたって再び官庁街として蓋をされてしまう。建て替え期こそが再生に最も合理的でふさわしいタイミングだからである。

しかし、現実には課題が立ちふさがる。まずは、行政機能を運営しながら建て替えるためには空地を活用しながら連鎖的に建て替えを行う必要があるから、国県市にとって必要な面積を確保しつつ、現状の街区構成に拘らない庁舎建て替えを円滑に行う実務的なプランが必要だ。また、重要文化財である本庁舎を庁舎以外の用途に活用するためには、現在本庁舎に入っている行政機能分の床面積を新たに捻出しなければならない。そのためには、大胆な基盤再編を行うとともに都市計画の規制(容積率や建蔽率)の緩和を行うなどして延べ床供給量の増進を図る必要がある。但し、名古屋城の城郭内という神聖な空間に対して、大胆な現状変更を行うことには大きな決断が必要だから壁は高い。

一方、国も県も市も庁舎建て替えのための費用を潤沢に持っているわけではない。仮に三の丸の再生について必要性と意義が共有されたとしても、予算措置ができなければ絵に描いた餅を脱しない。一般に、行政庁舎の建て替え費用の軽減を図るためには、民間投資を呼び込むことが常套手段だ。民間のオフィスやホテルなどを誘致し、それによる地代や売り払い収入を庁舎建て替え財源に充当するという考え方である。但し、三の丸地区は名駅地区や栄地区に比して立地条件が悪いから交通のアクセス性を高める工夫が必要で、そうしたことを条件に民間投資を誘導できるかどうかの見極めが必要となろう。

また、重要文化財である二つの本庁舎の利活用も容易ではない。名古屋三の丸ルネサンス期成会としては、迎賓施設としても利用できる高級ホテルへの転用を行えば名古屋城という観光資源と協調できるし、行政機能との親和性も高いと考えている。さらに、当地の代表的な特質である武将輩出の歴史に根差したサムライミュージアムといった国立級の博物館もよかろうと期成会では考えた。但し、当地はモノづくりの世界的拠点でもあるから、そうした産業遺構に基づいた題材もあり得よう。当地ならではの資源によって文化発信力を高めることがこの地域には必要だという事が主張点だ。しかし、いずれにしても費用負担の問題をはじめとして課題は多い。理想的ではあるものの容易ならざる現実と対峙しなければならない。これもまた、民間活用が必要な問題だ。

さらにもう一つ。それは防災司令塔の在り方だ。巨大地震に対する備えを強化すること自体に異論が出るものではないが、災害対策は国県市が各々の領域で司るというのがこの国の基本的スタイルだ。被害甚大な災害が発生した場合には、内閣府が現地対策本部を立ち上げ、県と市も各々の庁舎の中に対策本部を立ち上げる。この三つの対策本部が情報を共有し、効率的な救助活動や復旧活動にあたるための連携策を見極め、指示を発するための協議や合意を図る統合的な司令塔があることが望ましいのだと思うのだが、現実は容易ではない。「情報の共有」までは良いにしても「連携」や「合意」を行う体制を構築することが自組織の形骸化につながることを懸念する空気感が厳然と横たわっている。

3.胎動は萌芽へと進化するか  -既に庁舎建て替えの幕は上がった-

壁は高いものの課題が見えてきたという事は一歩前進だ。要するに都市計画等の規制緩和、民間活用の実現性、防災司令塔の具体化などだ。そして、幸いにして各々の課題に対して関心を持つ部門や関係事項を検討する機関も存在している。まだまだ非公式の域を出ないが、三の丸期成会の提言を踏まえた検討の胎動は存在している。今後、この胎動が萌芽へと進化するかどうか。既に動き出した国の第四合同庁舎の整備は2026年(R8)に竣工する。それまでの期間を有効に活用できるかどうかにかかっているから、三の丸期成会としても胸突き八丁だ。提言者として関係機関をつなぎ、検討の歯車を少しでも動かす潤滑油となるよう働きかけねばならない。

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