Vol.94  キムタク効果に学ぶ祭りの経済学  -ぎふ信長まつりが示唆するイベント効果-

2022年11月6日、岐阜市で「ぎふ信長まつり」が開催され、騎馬武者行列では織田信長に扮した木村拓哉さんの登場で街は大フィーバーとなった。岐阜市によると当日は46万人の人々が訪れ、前日から2日間の動員数は62万人に上ったという。全国的に注目された盛り上がりを機に、祭りを活かした地域活性化のポイントを紐解くことにした。重視したいのはキムタク効果をストック効果に変換する方策だ。

1.市外・県外からの来訪者の意味  -消費の平均単価を引き上げる-

国民的スターの登用で全国区の話題となった今年の「ぎふ信長まつり」。どこか虚無的で野心を秘めた武将・信長のイメージが木村拓哉さんにぴたりと重なり、「キムタクの信長を見てみたい」という衝動にかられた人も多かったのではなかろうか。木村さんも見事に信長を演じ切り、公開を控える映画への期待も高まったことだろう。

岐阜市の人口(40万人)以上の大規模な集客を実現し、訪れた人々の飲食や買い物消費により岐阜市経済は潤されたに違いない。集客が大きければ大きいほど消費は増えるから、有名人をキャスティングするという手法は地域経済の活性化に奏功する手段と言えるが、キャスティング費用とのバランスにもよるからその点は注意が必要だ。

消費による経済効果を大きくするためには、集客人数を増やすことが最大の目標となるが、市外・県外からの来訪者を増やすと消費効果が大きくなる。遠方から訪れる人の方が消費単価が大きくなるからだ。地元の人よりも飲食・物販の機会が増え、交通費も大きく、宿泊が伴えばなおさらだ。従って、全国的な有名人を登用することで広域的な集客を企図すると、経済効果を大きくする。

こうしたことを考えると、街を上げたお祭りに市民から選ばれたキャストを登用するのも勿論良いが、5年や10年置きに有名人を登用するのは、祭りの効果を引き上げる点で有効な手法と言っていいのだろう。

2.フロー効果とストック効果  -継続する効果の拡大を狙いたい-

ただし、来訪者の消費による経済効果はフロー効果と呼び、その日限りの効果である。より重要なことは継続的な効果を生み出すことで、これをストック効果と呼ぶ。例えば、①岐阜市の観光資源を知って再び来訪する、②岐阜市内にお気に入りの店ができて継続的に購入する、③岐阜市が気に入って移住する、などがストック効果として考えられる。

先ず、リピーター客を得ることは、民間のサービス業でも重要なテーマとなっているように、自治体の観光政策でも重視すべきテーマだ。そのためには、観光資源を知ってもらうための情報発信に加えて、居心地の良い滞在時間を創出する施設整備も必要だ。駐車場は使いやすい場所に十分あるか、ビューポイントで休憩する空間は快適か、収益施設(飲食店や売店等)は魅力的かなど、一つ一つを検証しながら整備を充実していくとともに、官民協働によるリピーター獲得作戦を展開することが望ましい。

次に、お気に入りのお店や商品・産品の購買促進も重要なテーマだ。このテーマは民間の自助努力に委ねられる領域と捉えられがちだが、行政がサポートしたりコラボレーションすべき課題が埋もれていることも多い。例えば、東海市では市長を訪問すると市長応接室で必ずトマトジュースが振舞われる。これはカゴメ発祥の地であることをアピールしているものだ。呈茶ひとつをとってもPR機会になり得ることを示唆している事例だ。飲み物やお茶菓子に地域ならではのおススメがある場合には、行政が一肌脱いでも良いと思われる。また、ふるさと納税の定番にしてもらうのも有効だ。ふるさと納税の返礼品として地域の特産品を紹介する事は全国に根付いているが、お祭りの来訪者にふるさと納税返礼品をPRする機会を作れば良さを直接知ってもらう好機にもなり効果的だろう。

そして、究極的には移住してもらうことも念頭に置きたい。2020年から始まったコロナ禍により、全世界で業務のリモートスタイルが普及した。大都市に立地する企業の従業員は、通勤というワークスタイルから随分解放されている。業種・業態によってはフルリモートに転換している例も少なくない。こうしたワークスタイルの変容は、大都市に縛り付けられない人々を生み出しているから、地方への移住機会は従来にも増して高まっている。お祭りに初めて訪れた街が気に入り、再訪したり継続購入などをしているうちに、移住先候補地として選択肢に上がる可能性をあきらめてはいけないのだ。

こうした継続的な効果(ストック効果)を獲得することができれば、お祭り来訪者による消費効果(フローの効果)に留まらない地域経済の活性化へと繋がっていく。ぎふ信長まつりのキムタク効果をストック効果に転換できれば、2022年のぎふ祭りは大いに意義があったと言えることになるだろう。

3.ストック効果を生み出す仕掛け  -市外の人々と繋がりを作る仕掛けが大切-

フロー効果は集客人数にほぼ比例するから、市内外からの来訪者を如何に集めるかという点に英知が集められる。一方、ストック効果を引き出していくためには街と来訪者の間で継続的な繋がりを生み出し、維持していく仕組みを考えねばならない。①来訪者に継続的に情報を届ける仕掛けはあるか、②来訪者に再訪を促す情報提供はしているか、③これらの仕掛けにアクセスするチャネルを用意しているか、などを考えることになる。

先ず、来訪者への継続的な情報提供はSNSが便利だ。フォロワーやメンバーになってもらえれば、継続的に街の情報を送り届けることができる。商店街や行政がLINE公式アカウントを作って情報提供しても良いだろう。こうした情報提供の中に、フォロワーやメンバーだけに特別なお得情報を提供する仕組みが盛り込まれていれば、加入する動機にもつながろう。「あなただけにエクスクルーシブな情報を」という意気込みで作ることが肝要だ。

次に、再訪を促す情報提供とは、観光情報が中心になるだろう。これは、各自治体でもHPを充実させて情報提供しているケースが増加している。しかし、よく見るとHPは出来ていても中身が分かり難かったり、知りたい情報に辿り着けなかったり、新鮮な情報が不足しているケースも少なくない。お祭りに来た人が「もう一度ゆっくり街を観光して回りたい」と思う場合、1日・半日の散策コースを知りたいと思うだろう。行政のHPの中やリンク先にそうした情報があるだろうか。どこで美味しいものに出会えるか、どこで美しい景色を堪能できるか、効率的な駐車場はどこが良いかなど、再訪を考える人々の立場に立って行き届いた情報が発信されているかどうか、検証していかねばならない。そして、お祭りの情報とこうした再訪を促す情報は、一体化させたり相互にリンクしておくことも重要だ。

そして、上記のようなお得情報や再訪を促す情報にアクセスしてもらうための仕掛けも必要だ。お祭りに来訪した人々に渡すウチワやチラシ、ポスターなどにQRコードを付けて簡単にアクセスしてもらえるようにゲートを設けたり、LINE公式アカウントを用意して会員登録してもらうのも良いだろう。ごく簡単な手続きで、街と継続的な繋がりを持ってもらえる仕組みを考えることが有効だ。

有名人を登用することを含め、大規模な集客を図ることは大仕掛けだが、ストック効果を生み出す仕掛けは小仕掛けが多い。小さな仕掛けの積み重ねだが効果の意味は重要だ。従って、お祭りを準備する自治体は「ストック効果チーム」を組成して取り組むことが望ましい。若い職員の柔軟な発想こそが生きる仕事だから勇躍して取り組めるように取り図って頂きたい。

尚、岐阜市は2020年にシティプロモーション計画を策定している。岐阜市をPRするための施策を体系的に整備し、いくつかの重要なターゲットに情報を提供する戦略を構築したものだ。こうした事前の計画的な取り組みと、今回の「ぎふ信長まつり」のキムタクフィーバーがストック効果で結び付けば、まことにあっぱれなお祭り騒ぎだったと言えるだろう。各自治体においても、お祭りのフロー効果とストック効果を念頭に、計画的な取り組みがなされれば、これまで以上に有効な地域活性化イベントとして有効に機能していくことだろう。

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