Vol.17東京五輪の開催是非をどう考えるか -東京五輪を幻にせず、強行開催もしないのは「再延期」だ-

今は2021年5月末。東京五輪まで2か月を切る時点だ。コロナ禍は第四波を脱し切れていない。東京五輪関係機関が無観客での開催を模索する中、開催是非の議論が喧しくなってきた。理論戦に加えて感情論や精神論なども交錯する中、開催地の国民としてどのように捉えるべきなのだろうか。素人目線ではあるが、考えてみたい。

1.東京五輪関係機関の姿勢  -国は無観客での開催を模索。どうか?-

五輪2020の東京招致は、「復興五輪」を合言葉に選定された(2013年9月)。「復興五輪」を掲げたのは、東日本大震災を被災(2011年)からの復興を強く意識し、世界へのアピールを企図した意義付けだったように思う。招致合戦の過程では、「安全五輪」や「おもてなし」も東京のアピールポイントとして奏功したと国民には映った。しかし、最近では「コロナ禍を乗り切った証の五輪」と表現されたり、コロナ禍で分断された人々の間に絆を取り戻す「絆の五輪」(2021年5月11日、丸川五輪担当相発言)と意義がアピールされている。どうも東京五輪の意義は、時宜に応じて七変化しているように感じられる。但し、日本人としては心躍る期待の一大イベントであることに変わりはない。

1年延期された(2020年3月延期決定)東京五輪の開催が目前に迫る現在、国民の関心事は開催の「意義」から離れ、開催の「是非」にシフトした。そうした中、国・東京都・組織委員会は、無観客、海外選手の出入国管理・検疫の徹底、選手向け医療体制の強化等を前提に、開催に向けて準備を進めているようだ。

一方、日本は開催国であるがゆえに、1年延期後の諸対応によるコスト増加、無観客とすることによる収入減などを踏まえ、確実に不足する費用の負担をどう落着させるのかに関心を持たざるを得ないが、一般的に考えれば、日本の立場は弱含みだ。五輪の開催権者はIOCであり、日本政府・東京都・組織委員会は受け入れ主体である構図からすれば、IOCの開催意思に反して日本が開催しないとなれば、費用を含む全ての機会損失責任は日本に帰属するという交渉の展開が予想されよう。

コロナ感染への影響、予定外の増加費用負担、賛否の分かれる国民意識、アスリートのたゆまぬ努力と純粋な意気込みなど、様々な不安と期待が交錯する中で、我々は何を重視して判断すべきか。じわじわと時間切れが近づく中で、日本人は気持ちを整理しなければならない。そこで、東京五輪開催の是非を考えるため、まずは賛否各々の立場の論者の意見を要約してみたい。

2.開催賛成論者の意見  -五輪でコロナ感染は拡大しない。今は感動の共有が大切!-

開催賛成論者は、五輪を開催してもコロナ感染は拡大しないという論理に立脚している。会場は無観客とし、海外選手の検疫管理を徹底(二重三重のPCR検査を含む)し、競技後は即時出国させるなどのルール下で行えば、感染拡大を助長しないとする見方だ。この見方に立脚するのであれば、五輪開催によってアスリートたちが繰り広げる限界との戦いに接した時、我々は多くのドラマを目のあたりにするから、失うものはなく感動だけを得るのだという理屈になる。

長引くコロナ禍にあってアスリートの不屈の精神に感動をもらえば、自分たちもコロナと戦いながら頑張ろうという気運醸成に効果があるという建設的な主張だと解される。

3.開催反対論者の意見  -感染拡大リスクは残る。無理が多すぎる!-

開催反対論者は、コロナ感染拡大へのリスクを懸念する立場だ。無観客とは言え、直接・関節に様々な選手・関係者が動くことは避けられまい。「人の接触と移動」が感染の源流なのだから、新たな感染の火種となることを不安視する声は理解できる。また、医療従事者の五輪への投入は、国内医療体制のひっ迫を助長するのではとの懸念も指摘されている。加えて、コロナとの長い戦いの中で、「密を作るな」、「イベントを自粛せよ」などの抑圧続きであったから、反発から生まれる感情論が混じり混んでいるようにも思う。いずれにしても五輪を特別扱いすることに納得できない国民は少なくなかろう。

また、厳密にいえば、PCR検査をウィルスがすり抜けるリスクはゼロではないのだから、感染力が強い変異株を中心に感染拡大のリスクは払拭できないとする主張に対して、これを覆すに足る情報や論理が十分にあるかと問われると、心もとないように思う。要するに、「無理が多すぎる」という判断が、反対論者の基底となっているように解される。

4.再延期が最良なのではないか?  -五輪も全てのスポーツ大会も1年延ばそう!-

賛成論者と反対論者の意見要約を試みた今、賛成論者の意見は論理的ではあるがやや強弁的で、「賭け」の要素が含まれるように筆者には見て取れる。そして、反対論者の意見はリスクマネジメントの観点から排除されるべきではないとも感じる。一言で言えば、「賭け」には乗れないと判断する国民の方が多いのではないかと、自身も含めて思う次第だ。

2021年は、世界各国でワクチン接種のステージに入っている。先行する欧米諸国では、ワクチン接種による感染沈静化の効果が顕在化しており、来年ならば全世界のステージが今よりも収束ステージに入っている可能性が高い。ならば、来年に延ばせば良いではないか!延ばすにあたっては、東京五輪だけでなく、その後のパリ五輪も更にその後の五輪も、冬季五輪も、五輪カレンダーを丸ごと延ばせば良いのではないだろうか。加えて、各種競技の国際大会(世界選手権やワールドカップ等)も延期すれば、少なくとも時間軸に起因する諸問題はなくなると思うのだ。あくまでも素人的発想ではあるが、東京五輪だけを延ばそうと考えるから、様々なスポーツ競技間の調整問題や不都合が生じるのだと思う。

コロナ感染症という未曽有のパンデミックに直面した世界において、国や競技団体を越えて協調し、平和的に対処する事が五輪の精神に合致するように筆者には思える。であるならば、IOCこそがこれを率先して発案し、関係機関と調整すべきなのではなかろうか。五輪に詳しい識者からは、「それが出来れば苦労はしない」との指摘を受けるのかもしれないが、コロナ禍は世界的な災害であるのであるから、こうした中における組織的・政治的判断というのは、無理を承知で立ち向かわねばならない事もあるのだと思う。東京五輪を幻にせず、かつ国論を割ったまま強行開催もしない落着を模索して欲しいと筆者は願うから、ここに焦点が当たるようにIOCに働きかけることを、東京五輪側の関係機関の努力目標として打ち出してもらいたい。

最悪なのは、情報が少ないまま時間切れが近づき、国民が落ち着いた判断をできずに苛立ちが募り、感情論の衝突が多発するなどして多くの禍根を残すことだ。また、費用負担のダメージも小さいものではないから放置し難い。加えて、紆余曲折の過程でアスリート達への筋違いな責任転嫁はあってはならないし、彼らのモチベーションが喪失されないような配慮も必要だ。日本としては「東京五輪を幻とせず、強行開催も避ける」という方針を決めてIOCに「再延期」を呼びかけ、その内容と経過を国民に開示する事が五輪当事者の役割だと思う。

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