Vol.15名二環が全通!名古屋圏発展への寄与を探る -環状ネットワークと多モード結節の意義-

2021年5月1日、名古屋第二環状自動車道(以下、名二環)が遂に全通した。名二環は、総延長約66kmで、名古屋市の外周部を環状に結ぶ高速道路である。陸上部(国道302号専用部)と海上部(伊勢湾岸道)で構成され、名古屋都市高速による放射方向ネットワークとで名古屋の自動車交通の整流化に寄与している。その歴史と効果について紐解いてみたい。

1.概要と歴史  -計画・建設の歴史は長い-

名二環誕生の歴史は半世紀以上前にさかのぼる。モータリゼーションが急成長した1960年代に構想され、1970年代から80年代にかけて各区間の断続的な計画・建設・開通が続き、1990年代以降にまとまったネットワークとして機能し始めた。主な開通の歴史を振り返ると、1988年に名古屋西JCT~清州東IC(西北部)が開通したのが実質的な皮切りだ。

その後、1993年に名古屋IC~清州東IC間(北部・東北部)が開通して北部のネットワークが先に完成した。1998年に名古屋南JCT~飛島JCT間(海上部・南部Ⅰ)が開通。2003年に上社JCT~高針JCT(東部)、2011年に高針JCT~名古屋南JCT(東南部)が開通した。

2011年の東南部開通では、名古屋市交通局の地下鉄桜通線の延伸開業とも重なり、注目を集めた。そして、残る名古屋西JCT~飛島JCT間(西南部・南部Ⅱ)がこの度開通して、全線開通となった訳である。部分開通が始まってからでも30年余りが経過していることになる。名二環の特徴としては、ルートがきれいに名古屋市の外周部に計画されていること、道路の構造(海上部を除く)が国道302号線の一般部(平面)と専用部(高架等)で構成されている(二階建ての道路と呼ばれる)ことだ。また、名古屋圏には東海環状自動車道(東回りは2005年に開通、西回りが2020年代に開通予定)があるため、名二環と合わせて二重の環状高速道路ネットワークが形成されることも特徴と言って良いだろう。

2.環状高速道路の意義  -通過交通の排除と迂回路選択の多様化-

大都市や拠点都市は、人口や産業が集積しているから、①市内を移動する交通(短トリップ)と、②市外から通勤通学等で流入する交通(中トリップ)の各々が多く発生し、交通が集中して渋滞が起きやすい。そして、交通ネットワークは大都市等を起点に放射方向に整備されることが多いため、特に都心部に交通が集中する事になる。このネットワークのために、他の都市から別の都市に向かう交通が都心部を通過(③長トリップ=通過トリップとも呼ぶ)する事になる。これが①と②に加わるので、3つのトリップが大都市に集中する事になるから、放置すれば交通集中によって経済活動の停滞を来すことになってしまう。名古屋圏の場合は、首都圏や関西圏と異なり、自動車交通に依存する割合が高いから、自動車交通が都心部に集中する対策が必要となるわけだ。

このため、都心における③の通過トリップを排除するネットワークとして計画されたのが環状ネットワークである。環状ネットワークがあれば、都心を経由することなく、放射ルートから放射ルートへと移動する事が容易になる。特に、高速道路ネットワークでこれを実現すれば、平面交差による信号機の弊害を受けないため、よりスムーズに通過トリップを処理する事が可能になる。さすれば、都心部の生活交通や経済活動を妨げることが回避できるのである。これが環状道路の大きな意義だ。

もう一つの意義は、迂回が容易なことだ。交通事故や災害等によって、あるルートが不通となった際に、環状ネットワークがあると迂回ルートを見つけやすい。交通環境が安定して確保されることも大切な意義だ。

3.名二環の経済効果  -長期にわたる段階的開業を経て大きな効果額に-

筆者が在籍した三菱UFJリサーチ&コンサルティング(以下、MURC)では、名二環の整備による経済効果を、節目ごとに継続して推計してきた。これによると、最初に開通した名古屋西JCT~清州東IC間(西北部)の1988年から2015年まで(2011年に開業した高針JCT~名古屋南JCT(東南部)までのネットワーク整備効果)の28年間に約3兆8,500億円の経済効果が発現していたと推計されている。そして、今回の全線開通後の50年間を含む1988年から2069年までの82年間に発現する経済効果は、10兆2,000億円と推計された(MURC政策研究レポート「全線開通を迎える名古屋環状2号線の経済効果」)。

筆者は、MURC在籍時代にリニア中央新幹線開業後の50年間の経済効果を10.7兆円と試算した(vol.2ご参照)。これは歴史的に大きな規模だとも説いた。今回ご紹介した名二環の経済効果の試算は、計測期間が異なるから単純に比較する事はできないものの、社会資本整備による経済効果が10兆円規模となる計測例は多くはない。名二環は、名古屋圏の社会経済の発展に大きく寄与した社会資本であると認識して間違いない。

10兆2,000億円の経済効果を、1988年当時の名古屋圏の経済規模を基準として経済成長率に換算すると、年平均0.4%に相当するとMURCでは試算している。これを踏まえれば、名古屋圏の経済成長(およそ年平均5%程度の成長率だと考えられる)を、名二環の効果だけで1割弱を支えてきたことになる。

このように、社会資本の整備は、地域や国の経済活動に大きなインパクトを与える効果があるが、大都市における環状高速道路の経済効果が大きい事を改めて認識することが出来る。確かに長い時間を要したプロジェクトではあるが、先人の知恵に感謝したいと思う。

4.高速道路の効果の特徴  -道路の効果はネットワークで広域化することが特徴-

筆者は、2011年に高針JCT~名古屋南JCT(東南部)の開通時に、名古屋市交通局の地下鉄桜通線の延伸開業が重なったため、名二環と地下鉄桜通線の経済効果を分析して相互の比較を試みた。この時に把握された特徴は、鉄道の効果は駅前地区に集中して大きな効果が発現するのに対し、高速道路の開通効果は、ネットワークを通して沿線の広い地域に発現する(鉄道の効果に比して薄く広い)ということだ。道路の方が鉄道に比してネットワーク密度が高いので、こうしたことが生じると考えて良いだろう。

名古屋圏等の大都市圏では、鉄道と高速道路の両方が整備されて生活や経済活動を支えている。これまでは、鉄道と高速道路は、事業としては完全に別物として整備されてきた訳だが、これからは、こうした多モード(鉄道、道路等の複数の交通手段)を複合的に利用する事で、経済効果をより効率的に発揮させ得ると考えている。つまり、鉄道の整備は駅前地区に大きな経済効果を生むが、これを高速道路等で広域波及させることが可能だと考えられるのだ。そのためには、駅と高速道路を結節させることが有効だ。「多モード結節」を図ることが、社会資本のストックをさらに有効に活用する事に繋がると筆者は考えている。

いずれにしても、環状高速道路は高速道路ネットワークの一番最後に整備されることが多いため、これが完成するという事は、都市が成熟期に入っているという事を意味する。環状高速道路は多くの放射方向の高速道路や鉄道と交わることになるから、そうした交点で多モード結節できるように交通体系に取り組むことが出来れば、成熟期にある都市圏の持続的発展に役立つものと展望している。

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