Vol.46民活シリーズ② PPP/PFIって何だ?-良好なパートナーシップの構築を目指せ!-

2000年代に入り、今日的な民活への取り組みがPFI法の制定(1999年)から始まった。そして、今ではPPP/PFIと呼ばれることが多くなった。PPPとはPublic Private Partnershipの略で、「官民連携」の意である。これを踏まえPPP/PFIとは、PFIを代表とする官民連携手法を包括的に指す言葉として使われており、「今日的な民活」の総称とも言える。民活シリーズ①(vol.45)では民活の究極的目的はVFMのあくなき追求にあると述べたが、本稿ではVFM追及の要諦は良好な官民のパートナーシップの構築にあることを述べたい。

1.PPPの領域  -PFIを中心とする多様な民活手法の総称-

筆者は、歴史的な経緯を踏まえて「今日的な民活手法」と表現しているが、官庁ではPPP(官民連携)をもってこれを総称としている。その中核にPFIがあるのだが、これを含めた広義の民活領域の概念である。

公共サービスの提供に際して、民間の能力(資金、技術、経営ノウハウ)を活用して費用効率を高めるとともにサービス水準の向上を図り、もって地域の価値や住民満足度を最大化することを狙いとする官民連携手法は、全てPPPの領域として位置付けられる。

具体的には、指定管理者制度、市場化テストといったPFI法に触発されて整備された一連の民活制度に加えて、従来から取り組まれている民営化、包括的業務委託、公有地信託なども含まれ、更には都市公園法の改正(2017年)によって生まれたPark-PFIもPPPの中に類別されると考えてよい。そして、PFIが中核にあり、PFI法の改正によって生まれた公共施設運営権(コンセッション方式)もPFIの中に含まれている。

これらは全て、VFM(Value for Money)の追求が命題となっており、即ち、「より少ないコストで高質なサービスの提供を得る」ことで、地域社会の幸福の増進に寄与することがゴールとならなくてはならない。

2.民間の能力が発揮されてこそのPPP   -官民の契約姿勢の転換-

民活シリーズ①(vol.45)でも述べたように、VFMは安さだけを偏重して追及していると真の効果を発揮しない。行政がコストを切り詰めることだけを民間に押し付ける形となり、民間は最小限の仕事しかしなくなるからだ。

民間が意欲をもってPPPに取り組めるためには、相応の予算が必要となるのは当然で、従来の公共事業よりも総費用が削減される範囲であれば、サービスの向上に向けた取り組みを誘発する予算を付与することを是としなければならない。

その上で、民間が意欲を燃やして取り組むためには、官民の良好な関係が構築されることが大変重要だ。例えば、官民の一方が責任を押し付けたり、不備の指摘だけに終始して頑張った部分に謝意を示さないような関係では、良好な関係とは言えない。対象となっている公共サービスの業務実施に向けて、官と民が互いを尊重し、切磋琢磨し、時として助け合ったり補いあったりして取り組める関係が良好な関係であり、これがパートナーシップの意である。

このため、PFI事業では、旧来から官庁が持っている請負約款や委託約款を使わず、「PFI事業契約」を新たに条文化して締結することとなっている。これは、受注者が一方的に責務を負う契約構造ではなく、官民が互いの役割分担に応じて責任を遂行する契約構造に転換するためである。こうした契約構造によることで、パートナーシップ関係の構築を図りやすいようにしている訳だ。

ところが、それでも良好なパートナーシップ関係を築くことは中々難しい。舞台が公共事業であるため、明治の時代から培われてきた官庁の権威に宿る発注者意識がどうしても抜けきらないように筆者には感じられる。PPP/PFIが必要となっている背景を踏まえれば、「仕事を与えている」という意識から、「一緒に仕事をする」という意識への転換が必要であるのは明らかで、行政にはない能力を最大限に民間が発揮できるようにするための契約行為なのだが、全ての約定にこうした意図が浸透しているかどうかは疑問が残る。むしろ、民間に対して一方的に苦労を強いる約定が含まれていないか、関係者には確認を頂きたい。

民間事業者の能力とは、資金と技術と経営ノウハウであるが、これらのうち、PPP/PFIでいかんなく民間事業者に発揮してもらいたい代表的な能力は、経営ノウハウの中にある利用促進のノウハウだ。需要を喚起するようなサービスメニューを用意し、PRと営業を行うことで、より多くの県民・市民に利用が進むようにすることであり、従来の公共事業では培われてこなかった仕事だ。これを実践してもらうためには、熱意と意欲の喚起がどうしても必要となる。そのためには、民側に裁量を与えること、成果を報酬として民間が収受できること、現場の仕事に官側が口をはさみ過ぎないこと、困った時には互いに相談できる環境を整えること、不測の問題が生じた場合には官民が協力してこれを解消することなどを約束することが必要だ。

3.VFMの追求の要諦   -良好なパートナーシップ構築を目指せ!-

良好なパートナーシップ関係の構築が成功すると、PFI事業者は意欲をもって仕事をするから、提供されるサービスのクオリティが高くなり、社会的な効果が発現してくる。そのようなPPP/PFIの事例を筆者が関わった事業の中からいくつかご紹介したい。

■愛知県旅券センター (市場化テスト)  -官と民の好リレーが生むサービス-

愛知県民がパスポートの申請と受取をするのが旅券センターであるが、この申請窓口業務は平成19年(2007年)に市場化テスト法をモデル的に適用して官民競争入札に付された結果、愛知県直営から㈱ジェイコムに業務が移った。民間に業務が代わったことで、パスポートの申請や受取に際しての待ち時間は激減した。㈱ジェイコムが業務フローを見直し、「お客様を待たせない」サービスを工夫した結果である。申請内容を確認して旅券発給を許可する業務は愛知県が行っているので、バックヤードでは民間と愛知県が適切な業務リレーを行っている訳で、待ち時間が減ったのは良好なパートナーシップ関係が構築されている証左だ。

但し、高い成果が出ているにもかかわらず、この事はあまり知られていない。愛知県は、この成果をもっと褒め称える必要があると筆者には感じられる。

■田原市「炭生館」 (PFI)  -民間の先端技術を導入して実現したゴミの再利用-

老朽化した田原市の一般廃棄物処理工場の建て替えにあたり、田原市は平成17年(2005年)にPFIを導入して、設計、建設、資金調達、維持管理・運転業務を一括して民間事業者に委ねた。市は、従来から一般家庭が排出する可燃ごみをRDF(固形燃料)に作り替える処理を行っていたのだが、この設備が老朽化するとともにRDF(固形燃料)の利用も進まなかった。このため、新しく整備する一般廃棄物処理工場には、ゴミの再利用が真に実現する先進技術を導入することを企図してPFI手法(BOT方式)を適用した。その結果、日本碍子(現、メタウォーター)グループがPFI事業者となり、同社が提案した流動床式炭化炉によってゴミから微粉炭が生成され、燃料などとして有価利用されたのである。このPFI事業は2020年4月にPFI契約が満了したが、その後も市からメタウォーターに運転が委託されて稼働している。

PFI事業者となったメタウォーターグループは、施設を「炭生館」と名付け、ゴミの量が不測に変動した場合でもその対応に意欲的に務めてゴミを受け入れた他、微粉炭の活用先を多様に開発するなど、行政に寄り添いながら業務を遂行した。また、契約満了にともない市に施設を引き渡す際にも、引き続き運転稼働ができるようなメンテナンスを行った。そして、市が望んだゴミの再利用を実現するという大きな役割を担った。これは、PFI事業者の意欲を喚起する契約が結ばれた事により生まれた良好なパートナーシップの好例である(詳細は別稿に記してみたい)。

■愛知県森林公園ゴルフ場 (PFI)  -独立採算が民間の意欲を喚起-

愛知県PFI第一号の森林公園ゴルフ場は、人気の高いゴルフ場として知られている(vol.31ご参照)。従来から県有林の中に県営ゴルフ場として存在していたが、経営が悪化して老朽化した施設の機能更新ができなくなり、PFI手法を導入して施設の一新と経営をウッドフレンズグループに委ねた。その結果、利用者が一気に増加し、常態化していた赤字が黒字化したのである。

この事業で民間事業者の意欲を喚起したのは、独立採算型PFI方式の導入である。独立採算型は、サービスメニュー、料金設定などの裁量を民間に与えるとともに、経営責任も民間に移管する方式で、民間は努力の成果たる利益を直接収受できる。公共事業の領域では、数少ない方式ではあるが、民間の利用促進ノウハウを活かす典型的な方式としての好例である。

■小幡緑地の「オバッタベッタ」 (Park-PFI)  -収益機会の適切な提供が民間の意欲を喚起-

愛知県が管理する小幡緑地に、レストランとBBQ・キャンプサイトが「オバッタベッタ」と名付けられて2021年6月にオープンした(vol.43ご参照)。都市公園内に民間による収益施設を整備・運営させるPark-PFI制度を活用した事業だ。

収益施設は民間が経営するため独立採算となり、愛知県がこれを許可する形式だ。施設を設置できる場所は愛知県が定めるのだが、規模や建物形状、サービス内容は民間に委ねられる。オバッタベッタの場合は、オーガニックな料理を提供するレストランを中核に、BBQやキャンプを楽しめる有料サイトが整備された。印象に残る建築景観が生み出され、サービス水準も高いから、小幡緑地に新しい利用形態が生まれ、集客力が増すことは間違いない。

Park-PFI制度では、公園内の施設整備を、民間施設の収益から一部を負担させることになっているが、これは民間が提案した範囲で負担させることになっている。民間は、自らが提案した負担金を捻出した上で、更に利益が享受できるように経営努力するとともに、公園の管理を委ねられる。公園の利用促進と維持管理という公共の業務を、官民で役割分担するパートナーシップ構造となっているのだが、民間が高い意欲を持って取り組めるようポテンシャルの高い公園内に適切に収益施設の設置許可範囲を定めることがポイントだ。小幡緑地は、名古屋市守山区に所在し、潜在利用者が数多く見込まれたことと、駐車場に近い場所に施設の設置許可範囲を設定したことなどが奏功した好例である。

こうして好例を見ると、民間事業者の意欲を喚起する理由が、各PPP/PFI事業の中に存在していることが分かる。民間が自ら汗を流す意欲を喚起する適切な予算の付与と事業構造の構築、そして相互協力を約定する契約行為が相まってこそ、良好なパートナーシップが構築されるのである。その先にあるのは県民・市民の笑顔であり、即ちVFMの顕在化だ。官側による押しつけがましい性格の事業となればPPP/PFIは成功しない。この点を理解し実践することは容易なことではないが、最適解を見つける努力が重ねられ、着実に好例が増えていくことを願ってやまない。

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