Vol.66  民活シリーズ⑦ 都市ブランドを上げるVFMの定着を   -価格偏重のVFM評価からの脱却へ-

民活の系譜を振り返ると、平成11年(1999年)に制定されたPFI法に転換期がある。ここを境に以降の民活手法では、その基底にVFM(Value For Money)の希求を位置付けてきた(vol.45ご参照)。教科書的には「安くて良いサービスを得る事」となるのだが、ともすれば「安いこと」を偏重した運用が散見されるのが実態だ。民活は都市ブランドを上げるための手法でもあると考えれば、VFMとの向き合い方にも再検討が必要だ。

1.民活の系譜と役割の変遷  -実施段階での導入から計画段階での活用へ-

PFI法の制定(平成11年)以降が、今日的な民活の歴史である。PFI(Private Finance Initiative)は、公共事業の設計、建設、資金調達、維持管理・運営を一括して民間に委ねる方式を指す。つまり、公共施設の整備・運営段階で民間の能力を活用する手法である。次にPPP(Public Private Partnership)という概念が生まれた。これは、施設の運営段階や事務事業を対象とした民活手法群までを総体的に含む概念と考えてよい(Park-PFIなど施設整備を含むものもあるが)。そして近年は、PPPを更に広義に捉えて民間の能力を活用しようとする動きとなってきた。それは、パートナーとしての民間を大学やNPOにも広げるとともに、公共事業の計画段階から知恵出しに協力を求める動きである。民間からアイデア提案を受けることを「民間発意の導入」と称し、官民で知恵のコラボレーションを図る事を企図している。

この最も広い範囲の民活領域全体を指して、「官民連携」もしくは「公民連携」と呼ぶことが多い。近年は、民活に注力している自治体では、「官民連携室」や「公民連携課」といったセクションを設ける例もみられる。地方自治体の財政を取り巻く環境が厳しさを増し、公共サービスへのニーズが多様化する中で、都市としての魅力度を高め、市民の満足度をも高めていくためには、広く民活を導入する方が合理的だという理解が浸透しつつあるからだ。しかし、現状ではまだPFIの導入状況には自治体によって濃淡があるし(vol.60ご参照)、VFMの捉え方も硬直的で改善の余地があるように思える。

2.都市ブランドを高めるVFMの概念   -サービスの向上を評価せよ-

小泉純一郎氏が総理大臣の際、郵政改革を筆頭に「民間でできることは民間で!」と唱えたことから今日的な民活の潮流が定着化した。そのワンフレーズには、「民間の方が適している仕事は民間に任せた方が良い仕事をする」という主旨が込められていた。つまり、サービスの質を上げるために民間を使えと指示されたのであるが、地方自治体における導入は、行財政改革の一環として位置付けられてきた。そのため、VFMは「安いこと」に着眼した財政負担縮減に寄与することに重きを置いて評価されてきた。

しかし、繰り返し他稿でも述べて来たように、VFM評価はコストとサービス水準の総合評価だ。「安い」ことは評価されるべきだが、同時に「良いサービス」であることも評価されるべき概念なのである。

あくまでも一般論であるが、公共サービスの良いところは、「安い」、「安定している」、「公平性が高い」といった点が上げられるが、悪いところは「古い」、「変わらない」、「不親切」、「遅い」といった点が指摘されることも多い。そのような公共サービスが「新しい」、「ニーズ変化に対応している」、「丁寧」、「迅速」といったサービスになったなら、市民の満足度は即座に上がるに違いない。それはシビックプライドの高まりへと直結するだろう。従って、安いことだけを重視するのではなく、クオリティの高いサービス水準かどうかを評価しなければ、民活の持つ本来の効果が発揮されないことになってしまう。

図表2は、これを概念的に示した図である。教科書的なVFMは現状よりも「安くてサービス水準が良く」なることを意味しているから、図中のがこれに該当する。その一方で、サービス水準が上がらないのにコストだけが上がってしまうのは許容できない(図中の×)。ここまでは多くの自治体で共有されている認識だろう。

次に、価格が下がるか横ばいでサービス水準が不変もしくは低下する場合はどうだろうか(図中の)。こうした提案でも採択されている場合が否定できない。この場合は行財政改革の陰に公共サービスのクオリティが犠牲にされてしまうから、本来は望ましくないのだが、多くの自治体で起きている可能性がある。端的な例は1社入札で決まってしまう指定管理者などだ。市民に提供するサービスの向上が図られねば民活する意味はないと筆者は考えるから、極力排除したいケースだ。

これらに対し、都市ブランドを高めるVFMを考えたい。図中ののケースだ。このパターンでは、サービス水準が必ず向上している。コストが不変の場合もあれば、コストが上がる場合もあり得よう。サービス水準が上がるのであればコストが上がるのは資本市場原理としては当たり前だ。勿論、コストの上昇には程度問題があって、無限に上げて良いものではないから上限設定が必要だが、サービス水準が確実に上がれば市民の満足度は向上するに違いなく、そうした都市の魅力は高まっていくだろう。このようなVFMを希求する姿勢が確立されたなら、都市ブランドを高めることに繋がっていくはずだ。

なお、都市ブランドを上げるVFMのうち、コストとサービス水準の両方が上がる場合も現実にはあって、新規事業が採択された場合はこれになる。行政が負担するコストは上がるが、これまで提供されていなかったサービスを市民は享受できるので、満足度が上がる可能性が高い。従って、都市ブランドを上げるVFMが不可能というは訳ではないのである。

3.実務的な対応方策   -要求水準、自主提案評価、価格配点の再検討を-

都市ブランドを上げるVFMを追及していくために、実務的にはどのような工夫をしたら良いかを考えてみたい。

第一は、複数の事業者が応募できるような募集条件を整備することだ。押し付けがましいい要求を数多く盛り込めば、民間から手は上がらない。既存事業者等が明らかに有利な募集条件でも同様だ。いかに多くの事業者の参入意欲を喚起し、競争を活性化させるかに腐心して募集条件を整備しなければならない。

第二は、適正な予算だ。行財政改革の一環としてシーリング続きの予算であれば、自ずと民間事業者の参画意欲は薄れていく。じゃぶじゃぶに余裕のある予算である必要は無論ないが、応募意欲を削がない範囲の適正な予算を見極める目利きが行政には必要だ。

第三は、審査基準の工夫だ。これは審査項目と配点という要素に大別される。審査項目には、行政が民間に求めたいサービス提供上の重点を応募者に伝わりやすいように記載する必要がある。いわゆる官庁文学は抽象的になりがちだが、汗をかいてほしい事項を生々しく表現した方が期待に応える提案を受けやすい。また、重点を置いている事項には配点でも表現して、メリハリを利かせる事も有効だ。なお、仮に価格点の配点を低くしたとしても、多くの事業者が応募できる環境が整っていれば、価格競争は機能するということも忘れてはならない。

第四は、モニタリングで誉める事だ。これは指定管理者など数年ごとに事業者募集を繰り返す事業の場合は特に留意が必要だ。問題があった場合は明示的に指摘するのに、良い成果を出した場合に明示的に褒めないモニタリングが多いと感じている。モニタリング結果を公表することを前提に、良し悪しを明示する姿勢があれば、民間事業者は研鑽を続ける。誉められることは企業にとって良いレピュテーションに繋がるので、意欲を喚起するのだ。

第五は、市民ニーズを要求水準(もしくは仕様書)に適切に盛り込めているかだ。民間が行政の要求に対して汗をかいて努力しても、市民ニーズにマッチしていなければ市民満足度は高まらない。市民ニーズは事前に市民意識調査や聞き取りを実施したり、既往の事業であれば利用者アンケートをすれば容易に把握することができる。市民が求めているサービスや改善を求めている事を端的に要求水準に整理できていることが、良い民活の原点だ。

他にも多様に考えられると思うが、財政規律重視型の予算を措置したり、安いことを偏重した事業者募集の構図となっている場合は、都市ブランドを高めるVFMにはつながらない。民活は財政負担を削るためだけの道具として捉えるのではなく、市民の笑顔に繋がる公共サービスを提供することに軸足を置くことが重要なのである。

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