Vol.147 次世代高規格道路ネットワーク(WISENET2050)を中部に展開せよ  -世界一、賢く・安全で・持続可能な基盤ネットワーク-

国土交通省では、社会資本整備審議会道路分科会の国土幹線道路部会において、「高規格道路ネットワークのあり方」をとりまとめた(R5.10)。打ち出された方針はWISENET2050と命名された。直面している日本の課題に対峙し、高規格道路ネットワークの果たすべき役割等を新たに規定した。その内容は時宜を得たもので、日本が再び国際競争で先陣争いに参加できる国土を作ろうという意気込みが感じられて期待感が高まる。

1.高規格幹線道路網等の計画の変遷  -目標とされてきたのは「整備総延長」14,000km-

我が国の高規格幹線道路は、名神高速道路の整備・開通に端を発している。この当時は、急速に高まる自動車交通需要に適応した国土を構築する事を念頭に、個別路線が法により定められて建設される時代であり、高速道路「網」としての計画ではなかった。

国土全体に高速道路網計画ができたのは1966年(S41年)の国土開発幹線自動車道建設法で、全国各地から2時間以内にアクセスできる高速道路網として総延長7,600kmを建設することを目標として掲げた。

その後、全国総合開発計画から国土形成計画に至る累次の国土計画の中では、第四次全国総合開発計画(1987年)で掲げられた高規格幹線道路網14,000kmの実現が長らく目標として継承されており、そのうち約9割が現在完成している。また、1994年(H6年)に策定された広域道路整備基本計画において地域高規格道路が位置づけられた以降、我が国の広域道路網計画は高規格幹線道路と地域高規格道路によって構成されてきた。

そして、2019年(R3年)に策定された新広域道路交通計画では、広域道路の体系を改め、高規格幹線道路と地域高規格道路を高規格道路として束ねるとともに、その他を一般広域道路として位置づけ、スクラップアンドビルドを含めて再編した。これにより、我が国では最も高い速度レベルが求められる道路は高規格道路(60km/h以上)と位置付けた。

2.WISENET2050の概要   -整備延長から「サービスレベルの向上」に主眼を転換-

2023年(R5年)10月に公表された「高規格道路ネットワークの在り方」は、WISENET2050(ワイズネット:World-class Infrastructure with 3S(Smart,Safe,Sustainable) Empowered NETwork)と命名され、副題として「2050年に世界一、賢く・安全で・持続可能な基盤ネットワークシステムを実現」を掲げた。

課題認識として着目されたのは、サービスレベルだ。図表2はWISENET2050に掲載された主要都市間移動の平均速度の国際比較だ。ドイツが平均84km/h、韓国で77km/hを実現しているのに対し、日本は61km/hで平均移動速度が遅い。また、ドイツでは80km/h以上で走行可能な道路延長が31,700kmであるのに対し、日本は7,800kmに過ぎない。これは、日本の高速道路のうち約4割が暫定2車線であって制限速度が70km/hに規制されていることに影響を受けている。つまり、日本の高速道路は移動の高速性というサービスレベルが他国に比べて劣後しているという実態を指摘している。

また、日本の移動平均速度が遅い理由は渋滞が多いことにも起因している。図表3はWISENET2050に掲載された渋滞による時間ロスと移動速度の実態である。これによると、日本人の自動車移動総時間は年間約149億人時間であるうち、その4割が渋滞などで時間ロスしていると指摘している。渋滞が生じる結果、非混雑時に比べて実勢速度は低下し、全道路平均では41%の速度低下が生じていることされた。こうしたことも相まって、先に見たサービスレベルが他国と比較して低水準となる結果につながっている訳だ。

これらを課題として認識し、WISENET2050が掲げた基本方針では、サービスレベル達成型に主眼を置き、「シームレスなサービスが確保された高規格道路ネットワークを構築する」とした。従来は、ネットワークを早期につなぐこと(交通需要追随型)を求めてきた結果、暫定2車線区間が4割にも達し、サービスレベルの低下を招いていることを直視した重点変更だ。既に高規格幹線道路網14,000km/hのうち9割を整備実現しているものの、暫定2車線区間が4割存在することを踏まえ、今後は総延長の達成ではなくサービスレベルの向上に眼目を変更したことを大いに歓迎したい。

また、同基本方針では、道路空間を「技術創造による多機能空間へと進化させる」ことも掲げられた。時間的・空間的に偏在する交通需要に起因したボトルネックを解消することや、自動物流道路(オートフロー・ロード:Autoflow Road)の実現を目指すほか、ロードプライシングによるTDM(Transportation Demand Management)の推進、広域送電や治水機能として道路空間を活用することなども掲げられ、まさに道路空間をあらゆる目的に有効活用しようとする姿勢が打ち出されている。

高速道路に代表される道路整備の効果は、主として物流の効率化に伴う経済活動の生産性向上に主眼が置かれ、これによる経済効果に着目されてきた。経済効果は、交通量が多い路線ほど発現するから、交通需要の多い道路が優先され、交通需要が相対的に少ない道路は暫定2車線区間として「つなぐ」ことが優先された。しかし、WISENET2050では、ネットワーク全体のサービスレベルをシームレスに向上しようという姿勢に転換しており、利用者にとっても沿線地域にとっても喜ばしい方針が示されている点に喝采を送りたい。そして、海外の取り組みや実情と比較した課題認識にも賛意を送りたい。海外諸国は国家戦略的に社会資本整備をしているので、これを意識しなければ日本だけが置き去りにされてしまう(vol.131ご参照)。高規格道路に求められる世界と伍すための質を明確に打ち出したWISENET2050には、国土の発展を支える道路基盤として新たな次元の水準達成を期待せずにはいられない。

3.中部地域におけるWISENETの展開を   -リニア駅への高規格道路の結節を求めたい-

さて、賢明なる高規格道路ネットワークの在り方が提示されたことを踏まえ、ここからの重要事項は各地域への落とし込みだ。中部地域においても、WISENET2050の中部版の計画が必要となる。現時点での中部地域における広域道路ネットワークを図表4に示す。これは、新しい国土形成計画やWISENET2050が策定される以前の最新時点の計画であるため、新たな視点が繁栄されていないが、実にバランスの取れた良い計画となっている。重要な路線は二重化され、環状道路も多重に計画されており、空港・港湾へのアクセス強化も企図されている。但し、高規格道路(赤い実線・破線・〇線)の中には随所に暫定2車線区間が随所にあることを忘れてはならない。

日本の社会資本整備は、計画の基底に国土形成計画があり、これに平仄を合わせる形で新たな広域道路ネットワークが位置づけられることとなる。WISENET2050では、2023年(R5年)8月に策定された第三次国土形成計画(全国計画)の内容から汲み取るべき高規格道路への機能要請を次の5点(図表5)とし、これに整合する各ブロック別の広域道路ネットワークを形成していく必要があるとしている。

中部広域道路ネットワークの現計画(図表4)において、図表5に示された高規格道路(WISENET2050)への5つの機能要請を照らしたとき、欠落していると思えるのは機能要請③の「空港・港湾・リニア駅等の拠点へのアクセスを強化する路線」のうち「リニア駅や鉄道駅のアクセスを強化する道路」だ。中部地方整備局管内には、リニア開業によって名古屋、中津川、飯田の3つのリニア駅が誕生する。これらの駅に高規格道路を直結するような計画として充実強化を図ってもらいたい。

リニア飯田駅には中央自動車道から座光寺SICによって結節するルートが計画されており、三遠南信自動車道の整備も進められていることから、リニアと高規格道路の結節は概ね実現するものと考えられる。しかし、リニア中津川駅においては、北側に濃尾横断自動車道の結節が計画されているものの、南側の愛知県内には接続する高規格道路がない。新東名高速・新城IC辺りからリニア中津川駅を結ぶ南北軸(三河東美濃連絡道路)は、愛知県三河地域のリニア中津川駅利用を促進することも期待され、今後は実現を目指してもらいたい。

そして、目玉は名古屋駅への高規格道路の直結だ。名古屋駅に名古屋高速からルートを引き出して直結する提案をして検討頂いた経緯が過去にあるが、残念ながら実現しなかった。今後はWISENET20050を踏まえて捲土重来を期してもらいたい。リニアの名古屋駅と高規格道路が直結すれば、西三河地域の産業集積地をはじめとする中部地域の産業拠点への時間短縮効果が大きく、経済効果を拡大する有効な手段となる。

勿論、中部広域道路ネットワークの中で随所に含まれている暫定2車線区間について、速度レベルを上げるべく機能拡充を図ることも必要で、防災・減災の観点からも重要だ。WISENET2050が掲げた賢明なる方針を、中部地域の中で実践的に展開されていくことを期待してやまない。

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