Vol.148 幻のリニア名駅&高速道路直結プロジェクト(その1)  -広く経済効果が出ない地域構造を克服せよ-

リニア中央新幹線(以下、リニア)の経済効果は、歴史的大規模なものになる。地域別の経済効果が大きく出るポイントは、経済・産業集積地に時間短縮効果が届くことだ。愛知県には日本最大のモノづくり産業集積があるが、現状のままではモノづくり拠点に時間短縮効果が届かない。これを克服することができれば、リニアの経済効果をより大きくすることが可能となる。そこで、名古屋駅に高速道路を直結することを提案したが…。

1.リニア開業に伴う経済効果の見通し  -効果絶大ながら地域別には大きな濃淡-

超高速鉄道であるリニアが開業すると、品川~名古屋間が約40分となり、沿線地域を中心に圧倒的な時間短縮効果が生まれる。これに起因して非常に大規模な経済効果の発生が見通される。筆者が所属していた三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは、リニア(品川~名古屋間)開業に伴う経済効果を10.7兆円(50年間総便益)と試算した(図表1)。筆者の経験で言えば、新東名高速道路、新名神高速道路などよりも大きな経済効果で、交通プロジェクトとしては歴史的大きさの効果額である。

但し、この経済効果は、全国津々浦々に均質に行き渡るわけではなく、地域別に濃淡が発生する。交通プロジェクトで地域別の経済効果が大きく出るポイントは2つあり、①時間短縮効果を享受できる地域、②現在の産業・経済集積が大きな地域、に経済効果は生まれやすく、これら2つの条件を両方ともに具備している地域には集中して経済効果が生まれることとなる。これを踏まえ、都道府県別に見た効果額を試算したところ(図表2)、東京都が圧倒的に大きな経済効果を得るものと見込まれる。リニア品川駅が整備されて東京都民は時間短縮効果を享受でき、都内には国内最大の経済集積があるからだ。リニア沿線地域についてみると、時間短縮向効果を享受できるものの、山梨県、長野県、岐阜県のように駅周辺地域の産業・経済集積が小さい県では効果額が伸びない。

問題は愛知県だ。愛知県には国内最大のモノづくり産業集積があるが、東京都や神奈川県で見込まれる経済効果額に届かないばかりか、リニア駅が未整備の大阪府や兵庫県よりも少ない見通しとなっている。愛知県には名古屋駅地下部にリニア駅が整備されるため、愛知県の経済規模からすると大きな経済効果が出てしかるべきなのだが、そうはならないとなると由々しき事態と考えねばならない。

2.東海地域における効果発現の課題   -モノづくり集積地に時間短縮効果が届かない-

原因は、愛知県の県土構造にある。図表3は、リニア開業前後の東海地域各市町村から品川駅へのアクセス時間の変化を表現したものだ。リニア開業によって時間短縮率が大きい市町村と小さい市町村の分布状況が分かる。時間短縮率が大きい(図中では色が濃い)という事は、先に述べた経済効果が大きく出るポイント①(=時間短縮効果の享受)を具備していることとなる。図表3で明らかなのは、名古屋市、中津川市、一宮市で時間短縮効果が大きいことが分かる。

但し、中津川市は高い利便性を享受するものの、大きな経済効果は出ない。それは中津川市経済の規模が小さいため、ポイント②(=産業経済集積の規模)が備わっていないからだ。一宮市も同様となる。これに対し、名古屋市は中部地域随一の経済集積があるため、大きな経済効果が発現する。愛知県内に生じる経済効果の太宗が名古屋市に生まれ、名古屋市独り勝ちの状況になることが見通される。

ところで、愛知県が誇るモノづくり産業の集積地はどこか。それは西三河地域であり、代表都市は豊田市だ。しかし、図表3でご確認いただけるように、豊田市には時間短縮効果が生まれない(図中では色が薄い)。それは、豊田~名古屋間は移動に約1時間を要するためだ。名古屋~品川間がリニアで40分になったとしても、豊田~名古屋間に1時間を費やしてしまうため、全所要時間の時間短縮率が低いのだ。西三河地域の各都市はおしなべて時間短縮率が低く、産業集積があるにも関わらず経済効果が発現し難い状況にある。つまり、愛知県はリニアの時間短縮効果が産業集積地に届き難い県土構造となっているということだ。

岐阜県の代表的な産業都市は各務原市と大垣市だが、時間短縮効果は突出して大きくない。三重県の代表的な産業都市は四日市市と鈴鹿市だが、同様に時間短縮効果は大きくない。こうしたことが、東海地域におけるリニアの経済効果が出にくい状況を作っている訳だ。リニアの開業に合わせて、こうした地域構造上の課題を解消することができれば、愛知県をはじめとして東海地域におけるリニアの経済効果を更に大きくすることができ、結果的には日本全体の経済効果を押し上げることが可能となる。

3.中経連で提案したインフラアップ私案   -4つの提案に対する反応は…-

こうしたことを踏まえ、筆者はリニアの経済効果を最大化するためのインフラアップ私案を、2011年の中部経済連合会の総会で提案した。①高速道路のリニア名古屋駅結節、②豊田市方面の鉄道の高速化、③μスカイの増発とJR線相互乗り入れ、④リニア接続ライナーの運行、の4点である。

以後、このインフラアップ私案を各方面で提言したところ、多様な機関が関心を持ってくれた。愛知県は豊田市方面の鉄道の高速化を検討する専門委員会を立ち上げ、②について名鉄豊田線の連続立体交差化を推進する方針を打ち出してくれた。名古屋鉄道は③のうちμスカイの増発を当時から構想していて、現在はその実現に向けた名鉄名古屋駅の改築事業に着手するとした(但し、JR線との相互乗り入れは全く想定されていない)。④は鉄道各社により、必然的に取り組まれることになるだろう。

これらのインフラアップを実現できれば、東海地域に鉄道と高速道路による複合的な高速交通網が形成され、リニアの時間短縮効果が産業集積地に広く届く地域構造に転換することができる。

しかし、問題は4つのインフラアップ私案の中で目玉となる①の高速道路とリニア名古屋駅との結節だ。名古屋高速を名駅に伸ばして結節することができれば、人々は自動車交通とリニアを乗り継ぐことでリニアの時間短縮効果を広域的に享受することができる。どのエリアで効果があるかを示しているのが図表5だ。図中の肌色のエリアは現状の名駅からの40分圏で、ピンクのエリアが高速道路を名駅に直結させたときの40分圏だ。高速道路の名駅直結により、ピンクの地域が新たにリニアの時間短縮効果を享受しやすいエリアとなる。図中に示すように、豊田、各務原、大垣、四日市など、東海地域が誇る産業拠点に効果が生まれることが確認できる。これにより、リニアの時間短縮効果が産業集積地に届くことになるから、先述した2つの条件が揃うこととなり、経済効果を愛知県及び東海地域に大きく発現させることができる。これがリニア名駅に高速道路を直結させる意義なのだ。

4.欧州で進む多モード結節にヒントを得て   -アムステルダム方式を参考にしたい!-

しかし、どのようにして名古屋駅に高速道路の結節を実現させるかは、インフラアップ私案を提言した時点では皆目アイデアがなかった。言い放ったのは良いものの尻すぼみとなることを覚悟していたある日、南山大学の奥田教授が「加藤さんのアイデアはこれが近いのではないか」と教えてくれたのがアムステルダム中央駅の事例だった(図表6)。これを見た時、筆者は体に電流が流れたような衝撃を覚えた。「これだ!これを名古屋駅に転用したい」と考えるに至り、以後はこの写真を必ず添付して提言活動を続けることとした。

時を同じくして名古屋大学の森川教授も高速道路の名駅結節を提唱しておりられ、森川教授は学術的見地から、筆者は民間シンクタンクの立場から提言活動を展開した。これに関心を持ってくれたのが国土交通省中部地方整備局道路部だった。2012~2013年頃、非公式に愛知県、名古屋市、名古屋高速に声をかけて関係者を集め、アムステルダム方式の名駅への適用の実現性について、技術的な検討を重ねてくれたのだった。

非公式ではあるものの、筆者も加わり関係機関が熱量を注いで検討を進める中で、要人たちも関心を持ち始めてくれた。中部経済連合会や名古屋商工会議所では相次いで欧州の交通事情視察と称する視察団を組成して渡欧した他、名古屋市長や住宅都市局長も別途に視察目的でアムステルダムまで赴いた。この時、ある種のアムステルダムブームが起きていた。しかし、現実には難題が幾重にも待ち構えていた。

(その2へ続きます)

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