Vol.49 2021年「愛知の出来事」プレイバック-テレビ愛知「サンデージャーナル」の収録を終えて-

テレビ愛知「サンデージャーナル」で2021年の愛知の出来事が特集された。収録に参加して1年を振り返る機会を得たので、改めて整理しておきたい。番組では、日経トレンディがまとめたヒット商品ランキングと、愛知県民を対象にしたビデオリサーチ調べによる愛知の出来事ランキングを基にトークが展開されたのだが、本稿では筆者の思うところを中心に1年を振り返ることとした。

1.日経トレンディ2021年のヒット商品ベスト10  -知らないものだらけ-

先ずは、日経トレンディが選んだ2021年のヒット商品ベスト10を図表1でご覧頂きたい。筆者に聞き覚えがあるのは6つだけ。知らないものだらけということは、それだけ世情に疎いということだ。

筆者が知るのは、1位のTikTok売れ、4位の昭和レトロブーム、5位のahamo/povo/LINEMO、6位のマリトッツォ、7位のキリン一番搾り糖質ゼロ、10位のVisaのタッチ決済だった。これを見て筆者が連想したのはキャッシュレス化の進展だ。飲食店、コンビニ、スーパーで現金を使う機会が激減した1年であった。各店舗で利用できる○○PayなどのIC決済の導入種類が一気に増加したと感じる。筆者は高額商品で利用することはないが、日常生活における小さな買い物ではほぼキャッシュレス化したと感じる。交通系ICの利用できる場面も増えた。飲食店舗や鉄道、タクシーでの利用が日常化したと感じる。東海地域ではmanacaの利用者が多いが、manacaはオートチャージを導入したので、これを利用するとチャージ残高が一定以上に保たれるので電子マネーとしても利用しやすい。また、東海道新幹線のスマートEXは交通系ICカードと統合することができるから、新幹線もmanacaをタッチすれば利用できる。ちょっとした買い物は財布が不要となり、駅では券売機を利用することが激減したので、都市空間をもたつかずに動き回れる利便性を実感している。

こうした流れを汲み取ってか、Visaがタッチ決済可能なカードを発売したのが10位だ。大手クレジット会社もキャッシュレス化への更なる対応を加速しているのだと思われる。クレジットカードを利用する際に、署名や暗証番号の入力などが不要になるサービスだ。確かに利便性は向上するだろうが、〇〇Payなどで既にクレジットカード経由のIC決済を利用している人にとっては、あまりインパクトがないように思える。

他方、極めて個人的な関心事ではあるが、ビール党の筆者にとっては、キリン一番搾りの糖質ゼロ商品の発売は嬉しい。家では発泡酒や第三のビールで糖質ゼロに慣れ親しんでいるのだが、居酒屋など外で飲む生ビールが糖質ゼロになると、罪悪感が減ってありがたいと思うのだがいかがだろうか。

4位に入った昭和レトロブームはどうとらえれば良いか。昭和時代に使われていたプリントグラスやアナログレコードに人気が出て販売額が急伸したという。筆者のような昭和の人間も、明治や大正時代の文化には興味を持つ。歴史的事象として関心の対象になる訳だが、平成の人にとっての昭和は完全な歴史の領域として扱われているのではなかろうか。少し前の流行を引きずっていると時代遅れとか古臭いと言われがちだが、歴史の領域に関心を持つのであれば文化的だということなのかもしれない。

2.全国的な関心事としては?   -コロナ禍と東京五輪、そして衆院選-

日経トレンディによるヒット商品ベスト10から離れ、全国的な関心事となったのは、コロナ禍、東京五輪、衆院選といったところか。1年延期された東京五輪の開催是非が論議されていた頃、筆者は再延期が良いと考えていた。当時、菅首相は「安心・安全な五輪開催を目指す」というコメントの一辺倒で、コロナ禍の真っただ中で東京五輪開催を断行することについて、国民理解を得るための積極的な説明はなされていないという印象だった。東京五輪大会組織委員会からは「バブル方式」を採用すると説明がなされていたが、本当に大丈夫だと納得できる説明とは思えなかった。多くの国民、選手、選手の母国民が不安に思う中での開催は、筆者には一種の「賭け」に思えたので、再延期が望ましいと考えたのである。

結果的に、大きな感染拡大には繋がらず、多くの感動を呼んだことは大変結構だったと思うのだが、結局一番開催したかったのは、選手を除くとIOCだったのだと実感させられた。世界平和を謳う五輪憲章が色褪せて感じられたのは筆者だけではあるまい。あの時、世界中に渦巻く不安に対して「もう1年延期しましょう。そのためには、次回開催(パリ五輪)をはじめ、全ての国際競技を1年延期し、世界のスポーツカレンダーを一斉に1年ずらしましょう!」とIOCが呼びかけたなら、「あっぱれIOC、あっぱれ五輪」となり、五輪へのリスペクトは高まっただろうと思う。

次に、11月の衆院選だが、蓋を開ければ自民党の圧勝に終わった。その要因は、野党による争点設定の失敗にあったように映る。コロナ対策を例にとれば、各党ともにバラマキ合戦の様相を呈していた。また、経済対策を例にとれば、成長が先か循環が先かという論戦があったが、コロンブスの卵のようで明確な違いは分かり難かった。こうした中で「身を切る改革」を掲げた維新の政策は独自性が際立ち、躍進につながったように思える。

愛知県は、小選挙区制度となって以降は民主王国と呼ばれていた。これにはトヨタ系労組の影響が大きい。歴史的にトヨタ系労組は、民社党と蜜月であったことを背景に、民主党を支持する大きな票田となっていた。しかし、今回の総選挙では、この歴史的な流れに大きな転換期が訪れたことを物語っていたように思う。換言すれば、トヨタの政治対する向き合い方が変わったのだと感じる。象徴的な出来事が愛知11区で起きた。ここはトヨタ系労組出身者が候補者となり、これをトヨタ系労組が支持をするという構図が定着していた選挙区であるが、今回の総選挙では立候補を見送った。トヨタ系労組によると「1党だけを支持するのではなく、超党派的に政治と向き合う」という主旨の理由が表明された。まさに転換である。共産党との共闘が引き金になった可能性もあるが、科学技術や産業振興に対する立憲民主党の積極姿勢が見えない中では、百年に一度と言われている自動車業界の転換期にあって、支持すべき政党として立憲民主党が頼りなく思えたとしても仕方あるまい。

トヨタ系労組の支持が外れた結果、愛知県各選挙区の立憲民主党は総崩れとなった。先述した争点設定の失敗もあって、浮動票が取れなかったことも影響したと思われる。

3.愛知県民が選んだ「愛知の出来事」ランキング   -良いことが悪いことを上回る-

愛知県民を対象にビデオリサーチが調べた「愛知の出来事」ランキングが図表3だ。10位の「栄アネックスビル35年の歴史に幕」は、残念なことではあるものの都市における新陳代謝としては良いことでもあり、明暗を付け難いので除くとすると、良いことが6件(1位、2位、4位、5位、8位、9位)で、悪いことが3件(3位、6位、7位)となった。愛知県民は良いことを多く選んだことになる。

9位の「東京五輪で地元選手が大活躍」は、愛知県の主として製造業に所属する選手たちを指していて、大変明るい話題であった。その背景を考えてみたい。愛知県の製造業は、1970年代に公害対策で大変に苦労をした。これを契機に、地域社会への貢献の重要性を強く認識し、その一環としてスポーツ振興への関与を強めてきた経緯がある。また、1970年代以降は工場の海外進出を積極的に展開してきており、国際交流の重要性も身をもって体験し、世界目線が培われたといっても過言ではない。こうした背景から世界を意識したスポーツへの取り組みを続けたことが実り、東京五輪で花が咲いたと考えても良いのではなかろうか。

8位はネーミングライツ(命名権)の話題である。長年慣れ親しんだ名前が変わることに戸惑いを感じる声も聞かれるが、本名が無くなったわけではない。例えて言うなら芸名をつける権利を企業が買っているようなものだ。愛知県の企業には財務基盤が強い企業が多く、CSVを重視し、PRに積極的な姿勢が表れている。特に、名古屋圏だけではなくて広域的に情報発信性の高い施設に高額のネーミングライツが付いており、「バンテリンドーム(ナゴヤドーム)」、「日本ガイシスポーツプラザ(名古屋市総合体育館)」、「中部電力MIRAI TOWER(名古屋テレビ塔)」などが代表例だ。こうしたネーミングライツによる収益は、各施設の維持修繕費などの経費に充てられることを通して、利用者に還元されることとなるので、基本的には歓迎すべきことだ。

4位はノリタケの森周辺が再開発された話題だ。ここは、日本陶器(ノリタケの前身)が1904年に製陶工場を開設した森村グループ発祥の地だが、この森村グループの存在が、その後の自動車産業の隆興を支えた。まさに、モノづくり中部の原点ともいえる地だ。ここに、ショッピングセンターとマンションとオフィスが複合開発された。約120年の時を経て新たな都市機能へと用途を変える訳で、筆者には感慨深く感じられる。

2位の話題は中日ドラゴンズ立浪監督誕生。時を同じくして、北の大地では新庄ビッグボスが誕生した。個性を重視する発言が目立つ新庄ビッグボスに対して、管理的・統制的な姿勢が見える立浪監督。企業に置き換えた場合、新興企業や追いかける立場の企業は個性重視の方が成長にスピードが出る場合が多い。一方、成熟した企業は管理・統制を強めることで安定成長へと繋がりやすい。さて、スポーツの世界ではどうか。半世紀を超えてドラキチの筆者は、立浪ドラゴンズが大旋風を起こし、優勝へと突き進むことを期待したい。

最後に1位となった話題は、藤井聡太四冠だった。史上最年少記録など記録ずくめの藤井四冠は、柔和な表情で謙虚な姿勢を貫くところが奥ゆかしい。出身地の瀬戸市民をはじめ、愛知県民にとって誇らしいヒーローだ。しかし、愛知県には一宮市出身の豊島将之九段もいる。藤井四冠にタイトルを奪取される前は、豊島三冠だったのだから、こちらも歴史に名を遺す名棋士だ。名古屋市の河村市長は、この二人の対局を名古屋城本丸御殿で開催できないかとのアイデアを持っている。地元のヒーロー対決を、街の象徴を舞台に開催できれば、地元棋士の応援と地域活性化の両面で地域が盛り上がる良いアイデアだと筆者は思う。是非、二人の稀代の若手棋士と地域づくりを一体化させた取り組みに期待したいところだ。

4.番外   -リニアの開業に暗雲-

品川~名古屋間のリニア開業に向けて、唯一着工できていないのが静岡県内区間だ。静岡県知事とJR東海とが折り合わず、暗礁に乗り上げたのを機に、国土交通省が仲介役として有識者会議を設置した。有識者会議は最終結論として、大井川からの流出水量を全量戻せば水系に影響はほとんどないと技術的に結論付けた。しかし、当事者である静岡県とJR東海との協議再開はこれからだ。

リニア開業の意義がいかに大きいかは別稿で重ねて書いてきた。経済効果が大きいこと、過度に東京に依存しない国土に転換を図ること、新幹線のリダンダンシーを高めることなどがリニア開業の主たる意義だが、いかに意義が大きくとも、沿線住民の合意がなければ整備は進まない。十分な情報を開示し、地域の声に傾聴し、有効な計画案を提示するというプロセスをJR東海には望みたい。その際、ここまでこじれてしまった背景に鑑み、JR東海には膝を折って静岡県民に向き合う姿勢を示してほしいと切に願う。

来年こそは、リニア開業に向けて大きな前進が生まれる年となることを期待してやまない。

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