Vol.118 鶴舞公園のリニューアルオープンが近づいた!  -Park-PFIによる整備が完成し新生公園に-

名古屋市がPark-PFIの導入を決定して事業者を募集した鶴舞公園では、リニュアル整備がほどなく完成し2023年5月27日にオープンを迎える(vol.20、vol.52ご参照)。公園内の3つのエリアを対象に収益施設や便益施設などが整備され、鶴舞公園で過ごす時間の快適性を向上することが企図されている。審査副委員長を仰せつかった筆者も期待に胸が膨らんでいる。発表された開園内容から新生鶴舞公園の内容をご紹介したい。

1.Park-PFI事業者の構成と提案の特徴  -最も評価された点は「多様性」-

Park-PFI事業者の募集には3グループが応募して矢作地所グループが選定された。その最大の評価ポイントは「多様性」であった。当グループは企画と店舗誘致等を担う矢作地所を中心に、造園を担当する株式会社日比谷花壇とヤハギ緑化株式会社、維持管理を担うホーメックス株式会社、イベントを担当する株式会社電通名鉄コミュニケーションズで構成されており、専門分野を活かした企業の顔ぶれとなっていた。

また、人々の注目を集めることとなる収益施設では、多彩な店舗を誘致することが提案されており、飲食のジャンルや店舗数が最も豊富に提案されており、イベントの計画においても通年を通じて多彩なイベントを展開する計画が提示されていた。公園には不特定多数の人々が訪れることから、特定のジャンルに偏ることなく幅の広い層に支持される店舗群に構成されていると多くの審査委員が評価した。

さらには、子どもや高齢者、障害者などにも配慮したインクルーシブな空間整備も提案されており、公園が果たすべき役割が意識されていた点も好感が持たれた。

このように、企業構成、店舗等の施設構成、想定利用者の属性などにおいて一貫して多様性を織り込んだ点が当該グループの提案の最大の特徴であった。但し、提案内容が多様であるがために、期間内に仕事を仕上げることができるかどうか、イベントは予定通りに開催されるかどうかなどが心配されたのではあるが、ひとまず目標としていた2023年春のオープンを迎えることが確実となったのだから、関係者の努力に敬意を表したい。

2.整備対象となった3つのエリア  -飲食店に新たな遊び場、きれいなトイレなど-

飲食店や便益施設などが新たに整備される3つのエリア(正面南エリア、秋の池エリア、熊沢山エリア)についての整備内容を、プレス資料からご紹介したい。

■正面南エリア  -様々な人々が集い、交流できる賑わいの拠点となる空間-

【整備方針】(プレス資料より)

鶴舞公園の正面エントランスの南側を、緑と調和した明るい雰囲気の賑わい出発点として整備。広場を中心に気軽に快適に楽しめるテイクアウトショップや飲食店等を設け、公園利用者の利便性を高める空間に。また、かつてあった鯱が池の名残を生かしたインクルーシブな遊び場となる芝生広場を整備し、飲食店やトイレ等を回廊状に整備。南側の図書館へも遠路を繋げるとともに園内全体へと賑わいを広げる動線とした。

【出典店舗(一部)】(プレス資料より)

伽羅名楼(キャラメルスイーツ)
キャラメルを使った多彩なスイーツ。「伽羅の真珠プリン」はフランスで修業したパティシエが試行錯誤して完成させた最高級イタリアンプリン。

自然やポチャ(韓国屋台)
名駅の人気居酒屋の姉妹店。ポチャと呼ばれる韓国屋台の雰囲気を再現。韓国屋台スイーツ「ホットク」や「韓国かき氷糸ピンス」も。
天むす屋鬼天(天むす)
天むすの専門店。魚介類や野菜のてんぷらを具材にした進化系の天むすが揃う。

中村屋惣菜製作所(惣菜)
京都で人気のお店が東海エリア初出店。黒毛和牛100%をミルフィーユ仕立てにしたビーフカツサンドなど。

PRONTO(カフェ/サカバ)
全国展開する飲食チェーン。昼はカフェ、夜はサカバとして利用できる。

かつれつMATUMURA(カツレツ)
フレンチシェフが手掛けるカツレツ専門店。素材に適した丁寧な火入れの技で。

山田餅本店(和菓子)
昭和2年創業の老舗和菓子店の初の支店。80年続くこだわりの和菓子。
tartotte(タルト)
「宝石のようなフルーツタルト」とSNSで話題に。東京進出も果たした注目店。
FOOD LAB.358 TSURUMA PARK  (フードホール)
焼きたてステーキ&curry窯焼きピッツァ、韓国石焼ビビンバやラーメン、ハワイアンpokiなどの幅広メニューのフードホール。
Spocco (運動施設)
「Sports+Community+子ども」の造語。年少から小学三年生までを対象にバランス、走る、跳ぶ、打つ、投げるの五つの基本動作を習得するプログラムを提供。

■秋の池エリア  -秋の池に面する自然と芝生広場の解放感を感じられる空間-

【整備方針】(プレス資料より)

秋の池一帯を和風の庭園空間として修景し、美しい公園の景観を楽しめる飲食店や休憩所、遠路などを整備。池の東側には食料品の購入と飲食サービスが一体化となったグローサラントという新しい形態の店舗を設置。園内ピクニックの利用者ニーズなどに対応。

【出典店舗】(プレス資料より)

Tripot café the PARK(カフェ)
小麦ブランを感じるワッフルと10種類の自家製ジェラート。テラス席でランチも。
蕎麦切り 山人 (和食レストラン)
北海道のそば粉を使った二八蕎麦と国産近江鴨でつくる鴨南蕎麦。
S・D FOOD MARCHE (グローサラント)
フレッシュ野菜やフルーツ、精肉などが買えるエリアと、イートインエリアを併せ持つグローサラント。イートインエリアでは季節のカレーやステーキ重、牛めし重なども提供。

■熊沢山エリア  -小高い立地からの眺望が楽しめる新たな交流の拠点空間-

【整備方針】(プレス資料より)

樹林と小高い地形を生かし、竜ケ池などの周囲の眺望を楽しめる丘に再生。ウッドデッキテラス、芝生広場、東屋、スロープなどを整備し散策や休憩利用がしやすい交流空間に。

(熊沢山エリアの整備には店舗等は含まれていない。)

3.期待される効果と課題  -緑が佇む空間から人々が賑わう空間へ-

Park-PFI事業者による整備が進められている間の逸話を一つご紹介したい。ある日、筆者のコラムを読まれた一般市民の方からメールが届いた。市民グループで鶴舞図書館を拠点に活動をしておられるとのことで、図書館前のザクロの大木がメンバーにとっての秘かなシンボルとなっているという。しかし、このザクロの木は計画上、新しい園路の整備位置にあり伐採される見通しだった。市民らはこれに気づき、何とかならないだろうかというグループ代表からの礼節ある文面であった。

筆者がこれを名古屋市に伝えると、名古屋市担当の係長は直ちに現地に赴き、ザクロを確認した上で事業者に持ち掛け、剪定した上で園路内に植えマス形状で残すよう協議を整えてくれた。名古屋市緑政土木局にとって聖なる公園の大事業ではあるが、同時に市民に寄り添う姿勢は実に温かみのあるもので、市民に親しまれる公園にしたいという市の思いが伝わる出来事だった。鶴舞公園に親しんできた市民にとっての歴史を継承する公園であってほしいという願いが込められているようにも感じた次第である。

さて、これまでにはなかった飲食店等が多彩に配置され、奇麗なトイレが整備されるなど老朽化した施設の更新が図られ、園路やスロープなどにもユニバーサルデザインが導入されることとなり、新たに整備される広場空間などを活用したイベント等も実践される鶴舞公園に新生され、2023年5月27日にリニュアルオープンする運びとなった。

Park-PFI制度の目的は、都市内における公園の役割をより積極的に進化させようとするものだ。つまり、「緑地として佇む空間」から「人々が交流し賑わいを創出する空間」へと転換させることを目的としている。このために、収益施設の園内整備を積極的に認める公園法の改正が行われたのである。鶴舞公園は、名古屋市の第1号公園として100年余の歴史を有し、長く市民に親しまれてきているが、より一層の賑わいを創出することが期待されている。

公園に人々が集い、園内で快適に過ごし、交流が活性化することとなれば、鶴舞公園の市民社会におけるシンボル性は高まり、その事による観光客等の外来者の立ち寄りをも促すことが期待される。そして、これを民間事業者の能力(技術的能力、経営ノウハウ、資金調達力)を活用して実現することで、効率的な公共事業となる訳だ。鶴舞公園はまさに民活によって生まれ変わることになるが、その結果、企図された効果が発現することを期待したい。

但し、リニュアルオープン後は、人々の利用状況の実態によっては店舗の収益が思うように上がらない場合もあるだろう。また、利用者の声の中に改良の余地が発見されることもあろう。そして、イベントの実施内容の良否は暫時観察しなければ効果は確認できない。そうした開園後に現れる課題等について、迅速に対応できるのも民間ならではの能力だ。新生鶴舞公園の開園を歓迎するとともに、開園後の課題に臨機応変に対応して改良を加えつつ、シビックプライドの醸成に貢献する公園へと発展していってほしいと願って止まない。

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