Vol.78  名古屋に望む10の取り組み (その3)  -都市経営を支える魅力づくり-

(vol.77「その2」からの続きです。)

「(DX+コロナ)×リニア=名古屋圏の時代」を現実のものとするために、名古屋が戦略的に取り組んでほしい10項目について、三回に分けて連載している。「その1」では、都市経営の視点から中核的に取り組むべき事項として業務中枢機能の誘致と転入人口の獲得に重点を置くとともに、交流消費の増進の必要性を述べた。「その2」では名古屋の魅力を総合的に高める必要性があるとして4つの事項を述べた。本稿では「その3」として、行政運営面を対象に3つの事項を提示したい。

⑧ 戦略的投資予算の編成

地方自治体の歳入の中核をなす税収は、人口の減少や経済の低成長などを背景に伸び悩むか減少する傾向下にある。一方、歳出においては、加速する高齢化などに伴い扶助費が増加の一途を辿っており、歳出に占める割合が年々高まる傾向だ。その結果、投資的経費は縮小を余儀なくされ、公共事業の根幹的予算となる普通建設事業費は減少する一方だ。

名古屋市においても概ね同様の状況にあるのだが、とりわけ市民一人当たりの普通建設事業費が主要9都市中最下位であることに懸念を抱く(vol.63ご参照)。都市経営の視点に立つとき、トップラインを上げる必要があるのだが、そのためには投資も必要だ。税収が伸びず、扶助費が増加する中で財政運営が苦しいのは十分に理解できるが、百年の計を立てるべき重要局面においては、集中的な投資も必要だ。名古屋はまさにこうした局面にあると考えねばならない。このような時には、起債を増発してでも投資予算を得る姿勢が必要となる。

通常の計画的経費は、各事業の必要予算を積み上げて計上されるのだが、これとは別に戦略的投資枠を予め設けることも検討に値すると提言したい。総合計画では目指すべき都市像が提示され、分野別の目標なども提示される。その実現に向けて計画的経費が積まれるわけだが、これとは別枠で戦略的投資予算を提示し、その使途となる投資すべき事柄について事業アイデアを内外から募り、採択された事業の実施に向けて起債により必要資金を調達して投資する枠組みだ。

提案されたアイデアの審査あたっては、①都市像の実現に整合性のある提案か、②効果シナリオや見通しは合理的か、③実現性はあるか、などの視点から評価して採択案を決定する。特に、都市経営の観点からは、トップラインの向上に結実する効果見通しがあるかについてよく吟味しなくてはならない。将来的に税収として還流する見通しに合理性がなければ投資意義はないからだ。一方、税収増と市経済の活性化に繋がる内容であれば、起債してでも投資すべきで、従来のスピード感とは異次元のペースで取り組める。勿論、財政局は慎重に構えるだろうし、議会の理解も必要不可欠だが、このような戦略的投資予算枠を設けることで、官民の知恵を大胆に結集し、「(DX+コロナ)×リニア=名古屋圏の時代」を現実のものにしていくための財政運営手法として検討すべき局面ではなかろうか。

⑨ 市町村合併の検討

平成11年(1999年)を皮切りに進められた平成の大合併は、平成22年3月をもって市町村合併特例新法が期限切れとなり、市町村合併は一段落した。しかし、名古屋市が戦略的に都市経営を進めようとするとき、市町村合併を改めて模索する必要もあると筆者は考えている。それはトップラインを上げるために必要な取り組みだと思えるからだ。

例えば、名古屋港の最先端ふ頭である飛島ふ頭の所在市町村は飛島村だ。従い、飛島ふ頭で発生する税収は飛島村に帰着し、名古屋市には帰着しない。飛島村が大規模な交易を行う自治体であれば、飛島ふ頭から生まれる経済効果が広域に波及するが、そのような実態はない。飛島ふ頭が名古屋市に帰属していれば、名古屋市の交易を介して名古屋港の経済効果が一層に波及するのであるが、これが堰き止められている格好だ。飛島ふ頭を名古屋市に帰属させ、名古屋市のトップライン(税収)を上げて多様な投資に回した方が名古屋市にとっても名古屋圏にとっても効果的だ。つまり、飛島村が名古屋市と合併することが望ましい。

次に、名古屋市は2021年に25年ぶりに人口減少に転じたが、その主因は社会増の急減だ。特に、市内の30~40代が子供を伴って市外に転出していることに着眼する必要がある。主な転出先は大治町、尾張旭市、北名古屋市などで、こうした隣接市町に個人市民税が流出している訳だ。これはトップラインを下げる方向に働いているから、名古屋市と合併することでこうした逸失利益を防ぐことができる。

このように、トップラインを上げる都市経営を考える時、税収源となる資源を取り込む発想が必要で、企業であればM&Aを考えるように、名古屋市においても市町村合併を考えることが戦略的発想にあたるはずで、為政者によって熟考して頂くことを望みたい。

⑩ 公民連携の拡大的推進

内閣府が令和4年6月3日に発表したPPP/PFIアクションプラン(令和4年度改訂版)では、「民間提案制度の実効性の向上」が掲げられた。特に目を引くのは、実効性を上げるために「提案者へのインセンティブ付与」が必要と明記されたことだ。

PFI法が制定された時(平成11年)から「民間発意」を活かすという姿勢は政府から打ち出されていたが、実効性が伴っていないと判断し、民間が提案を持ち込むモチベーションを上げるために「提案者へのインセンティブ付与」が必要だとされたものだ。具体的に意味することは、提案した事業案を採択した場合には、事業実施に際して行われる事業者公募の選定に際して、提案した企業に優先性を与えることを意味している。

これは、公募といえども意図的な不公平を許容する事ともとれる。地方自治法で規定されている公平性を大原則とした入札ルールに照らすと、大きな衝撃を与え得る方針だ。しかし、それほどしてでも民間事業者に大胆なアイデアを提案させ、事業機会を与えることで民活をより一層に推進する必要があるという国の姿勢の表れだ。

名古屋市においては、令和4年4月に総務局内に「公民連携室」が設置された。これは、民間の知恵を受け入れる窓口として位置付けられている。これまでの民活は、事業実施段階で民間事業者の能力(経営ノウハウ、技術力、資金調達能力)を活かすことを実践してきたのであるが、公民連携室の設置は、計画段階から公民で知恵出しの連携を行うことが企図されている。内閣府のアクションプランと軌を一にしており、成果を期待したい。その際、前述した戦略的投資予算と連動したダイナミックな公民連携へと発展していくことが望ましい。公民連携室が窓口となり、民間提案制度の実効性向上に向けて提案者にインセンティブを与え、加えて名古屋市が戦略的投資予算枠を設ければ、内外から名古屋市に民間の知恵が加速的に集まると思うからだ。さすれば、名古屋市の都市経営の推進力に新しいドライブが加わるに違いない。

3. 持続的発展のエコシステムを構築せよ   -日本の総人口が減少しても発展を続ける名古屋を目指せ-

都市経営の視点から名古屋市に望む10の戦略的取組案を3回にわたって提示した。勿論、筆者の愚説は例示であって、これ以外にもさらに有益なアイデアが様々にあるに違いない。例えば、10の取り組みの中には記載しなかったが、南海トラフ巨大地震の発生が予測されていることを踏まえれば、防災力の向上を図る事も喫緊の重要課題だ。

筆者が本稿の中で力点を置きたかったのは、日本がこれから直面していく総人口の減少加速の中で、地方自治体は各々の事情の中でより一層の経営的発想を持たねばならないということだ。そして、名古屋の置かれた状況は、「(DX+コロナ)×リニア」という環境の中で考えれば、東京一極集中是正の受け皿になり得るとともに、日本経済が低迷して総人口が減少する中でも市経済を拡大し税収を維持・増進していくことが可能だと考えるものだ。

業務中枢機能を中心に償却資産を増やし(固定資産税の増進)、転入人口を獲得し(個人市民税の増進)、交流消費を増進(GRPを拡大)していくことでトップラインを上げることが可能だ。トップラインを上げることができれば、経営は安定しシビックプライドの向上に繋がる取り組みが充実しよう。しかし、そのためには、名古屋が都市としての魅力を総合的に高めていかねばならない。その道を切り開くための最初の一歩は大胆な投資にあると同時に、経営基盤となる外部資源を獲得し、市役所の内と外に関わりなく知恵を結集する仕組みを作ることで、都市経営の推進力を高めていく必要がある。

こうしたことを総合的に組み合わせて実現できれば、名古屋市は内発的に経済発展できる上昇スパイラルを描くことができよう。まさに持続的発展のエコシステムが構築されるのである。次期総合計画は、こうした姿勢で策定されることを願ってやまない。

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