Vol.135 コスト効率の良い「交流増進型国土」を目指せ  -リニアを活用した移動と立地がバランスする国土へ-

日本経済(GDP)は経済交流(移動+通信)の増進とともに発展する構造を有していることをvol.134で述べた。但し、交流を増進させるにしても、現在の東京一極集中の国土構造のままではコスト効率が悪く、経済発展を阻害する。コスト効率を加味した交流増進型国土を目指すことが、国際競争の中で日本が再浮上するために越えねばならぬ重要な課題だ。

1.コストは高いが出張は必要  -付加価値は移動、生産性はオンライン-

コロナ禍に入って人流は激減した(vol.134ご参照)が、GDPが大きく後退しなかったのは、通信が移動を補完して経済交流を維持したことによるものだ。我々は、移動をしなくても経済活動はある程度成立すると経験した訳だ。但し、正確に理解すべきことは、通信は移動を補完することはできるが、移動の重要性はむしろ従来以上に再認識されたという点だ。通信が移動を補完するからと言って、移動の価値が下がるのではなく、むしろその価値は上がる方向に働いていると認識しなければならない。

それは、コストを比較すると理解できる。図表1は、ビジネス出張とオンライン会議のコストを比較したものだ(MURC作成)。名古屋のビジネスマンが東京に出張する場合のコストと、名古屋から東京の会議にオンライン参加する場合のコストを比較すると、出張は43,200円を要するのに対し、オンライン会議は5,000円で済むこととなり、名古屋~東京の場合では出張はオンラインよりも8倍のコストを要することが試算されている。

この試算で計上されているコストは、時間を時給換算によってコスト化すると同時に、交通運賃と日当で構成されている。同じ人で比較すれば、会議時間に要するコストは同じだが、出張の場合は移動時間がコスト化されると同時に、新幹線等の運賃が加算されるから、出張の方が時間も要するしコスト換算しても高いものになるのは当然だ。これに対してオンラインを利用すると移動は発生しないし運賃も要しないから、コスト効率が高くて体力の消耗も少ない。従って、コストで比較するとオンラインの生産性の高さが際立つこととなる。時給の高い職位の人になればなるほど、出張とオンラインのコスト差は拡大する。

しかし、逆の見方もしておかねばならない。これだけのコスト差があっても人流が復活しつつある現状を見れば(vol.134ご参照)、移動には通信に置き換えられない付加価値があると人々が認識している証左と言えよう。つまり、出張はコストをかけてでも行わねばならない付加価値があると人々が判断しているという事だ。付加価値の高い会議には出張を選択し、生産性(コスト効率)を重視すべき会議にはオンラインを選択するという価値基準が鮮明化したと考える事が適切だろう。

2.GDP拡大を促す国土の要件とは   -立地と移動のコスト効率が良い国土-

経済規模の代表指標として扱われるGDPは、生産額から原材料や必要経費を控除した付加価値の概念だ(所得の概念と解しても良い)。従って、GDPを拡大していくためには取引を増やして生産額を増進させると同時に、コストを縮減する必要があるという事だ。これを念頭にGDP拡大を促す国土の在り方を考える必要がある。

取引を生むためには営業活動や商談に代表されるように種々の経済交流が必要となるから経済交流(主として人流=旅客純流動)が増進するとGDPが拡大するという相関関係が日本経済には存在している(vol.134ご参照)。交流のしやすさが経済拡大の必要条件とも言える。従って、大都市ほど交通結節性が高く、諸機能の集積が高いから、大都市にオフィスがあるほど他者との交流がしやすく取引を生みやすいという構図が生まれる。その典型が東京で、東京に本社を立地させることが経済活動を展開する上で最も有利であるという価値観が東京一極集中を構造化させてきた。

一方、これまでは遠方の相手と経済交流するためには移動を大前提としてきたが、コロナ禍によって、通信に置き換えて交流すれば経済活動は概ね維持できることが実証された。先の試算に見るように、通信による交流はコスト効率が高いため、移動の代替として活用すればコスト縮減に寄与し、生産額が同じであればオンラインを活用するほど企業利益は拡大してGDP拡大に寄与する。オンラインの活用は、コスト効率という観点で経済発展に貢献すると解して良い。

一方、移動が発生しても直接交流する方が付加価値は高いと人々は判断しているので、直接交流しやすい立地が選ばれやすい。しかし、立地コストが高ければGDPは生まれにくいことに留意が必要だ。コストを縮減する立地を選び、それに伴う移動コスト(移動時間を含む)の上昇分が少なければ、トータルのコストは縮減するからGDPは拡大し、移動を通信に代替することができれば更にコスト効率が向上してGDPは生まれやすいということだ。これを促す国土を構想していかねばならない。つまり、立地と移動のコストを効率化することがGDP拡大を促す国土として重要なポイントだ。

もう少しブレイクダウンして考えてみよう。全ての経済交流を通信で代替するかというとそうではなく、付加価値の高い経済交流はコストをかけても移動して行うという価値基準が生まれた。つまり、重要度の高い商談や営業活動、熱意や誠意を伝える必要がある局面の会議では移動を伴って面直スタイルで交流するが、報告・伝達などの一方通行的な会議や、既知の者同士の会議、定例の会議などは通信に置き換えてコスト効率を高めるという棲み分けが定着した。従って、これからも「移動」はなくならず、重要度が高い場合には移動に依拠する傾向がむしろ強まると考えるべきだろう。但し、移動時間が短いほどコスト効率は高いので、「物理的距離」が短いほど、或いは「高速移動」が可能なほどコスト面で効率的だという事になる。

これまでは面直スタイルのみが経済交流の手段と認識されてきたため、「物理的距離」が最重視され、東京一極集中が進み続けて構造化した。しかし、移動と通信を臨機応変に棲み分けた方が効率的だとわかると、日常の立地コストを抑制することがコスト縮減に直結してGDP拡大に有効だ。つまり、立地コストの低い東京以外の地域を選択し、コスト効率を重視すべき経済交流は通信で代替し、重要な局面では高速移動が可能な地域に立地することが容易に可能となれば、日本の国土はGDPを増進しやすい国土になる。つまり、リニア開業後の国土において、リニア沿線地域を立地選択とすることが、日本の経済発展のために有効なのだ。

3.東京一極集中是正の具体的なアウトカム  -本社機能が地方に移転できる国土へ-

こうした国土を実現するためには、本社機能が東京から立地コストの低い地方都市に移転することが典型的なアウトカムとなる。特に、リニア沿線地域は移動時間が短いため移動のコスト効率が高くトータルコストの縮減につながりやすいから、GDP拡大に寄与する立地だ。現状でも、首都圏内で本社の立地移転が一部に生じているが、首都圏以外への本社移転がドラスティックに進むことが東京一極集中是正には必要で、そのためには高速移動手段が有効だ。リニア開業が東京一極集中是正の好機であると考えるのはこの点だ。

首都圏以外に本社機能の立地移転が進むと、これに伴い役員や一定数の従業員が転居することとなる。これによって地方の消費は活性化するし、移転した人々は地方都市が有している経済的・時間的・空間的なゆとりを享受することとなる。ゆとりが生まれれば、自己実現や子育てに時間や家計消費を回すことが可能となるから、人々は豊かなライフスタイルを実現し少子化問題にも貢献しよう。

東京一極集中は、半世紀以上にわたって国土計画上の課題として位置づけられている。しかし、一向に実現しないのは高いコストを強いられても東京に立地しなければ経済活動に伍していけないと経営者が判断されているからだ。しかし、ポストコロナを契機として①通信が移動を補完して経済交流を維持できる事、②重要な場面では面直スタイルが選ばれるため移動のコスト効率が良い事(高速移動が可能である事)、③日常の立地コストを下げる事、を踏まえたバランスの良い国土を構築していく事が日本経済の発展のために必要だと認識しなければならない。リニア時代に本社機能をリニア沿線地域への移転を促すことを国策として推進することが、日本経済の発展を促す有益な処方箋であると提唱したい。

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