Vol.128 リニア時代の中部圏に求められる社会資本整備戦略  -国土における名古屋圏の役割を明示した戦略を-

リモートスタイルの定着と超高速鉄道(リニア中央新幹線)の開業によって、経済的・空間的・時間的ゆとりの大きい中部圏を国土の中枢地域として活用することが可能となれば、我々は国土の東京一極集中を是正できる機会を得ることとなる。その意義を整理するとともに、名古屋市をはじめとする中部圏の主要都市が取り組むべき課題と中部圏が掲げるべき社会資本整備シナリオを考えたい。

1.なぜ東京一極集中を克服すべきなのか  -高コスト構造の国土からの脱却-

我が国の国土計画においては、1960年代から東京一極集中が問題であると認識され、その是正が国土上の課題とされてきた。問題の所在は過密問題であり、焦点が当たったのは通勤ラッシュであった。そのため、首都圏整備計画、首都改造計画などにおいては、郊外地域に拠点都市を配置し、都心の産業機能等を外側に誘導する事を企図してきた。

しかし、首都圏の地域構造は、東京都心にオフィス機能が集中するとともに、郊外地域まで広く人口密度の高い都市が連担しており、抜本的な過密問題の解消はもはや困難な地域構造となっている。東京駅から電車に1時間乗っても過密地域が続くのだ。そして、東京一極集中の問題を過密問題としてのみ捉えることに筆者は不足感を禁じ得ない。

東京一極集中が引き起こしている問題は、日本の国土が高コスト構造となっている事であり、その結果、企業や家計に高い費用負担を強いていることが問題だと筆者は考えている。東京にオフィス等の事業所機能を立地させねばビジネスが成立しない、若しくは競争力を確保できないと考える多くの企業は、高額の立地コストの負担を強いられている。また、東京の大学に進学した地方出身の若者たちのふるさとの家計では、高い仕送り負担を強いられている。つまり、東京に依存しなくてはならないために、企業が発展する上でも、若者が成長する上でも高いコストを強いる国土となっている事を問題視すべきだ。

オフィス賃料水準で言えば、月額平均で「東京:名古屋=10:6」であるし(vol.116ご参照)、家計における1人当たり教育費の年額では「東京:名古屋=10:5」である(vol.109ご参照)。これだけのコスト差があるにもかかわらず、東京以外の選択ができない国土である現状から脱却しなくてはならない。

しかし、半世紀以上にわたって東京一極集中を是正する事は成し得てこなかった。それは、物理的な距離こそが重視されるパラダイムにあったからだ。しかし、(DX+コロナ)が産み落としたリモートスタイルは、物理的な距離のハンデを克服することが可能と証明し、これを実感した多くの人々は「脱・東京」を選択した。但し、「東京に居たくないが東京に行けなければ困る」というのが新しい立地選択条件となり、脱出先は東京近郊の都市が圧倒的に多いのが実情だ。

今後、リニア中央新幹線(以下、リニア)が開業して「(DX+コロナ)×リニア」の時代となれば、東京以外の地域選択は広域化するに違いない。例えば、企業が本社機能の立地を名古屋に選べば、オフィス賃料という固定費は大きく縮減され、利益を出しやすく投資に回しやすい経営環境を得ることとなる。それは、邦人企業の国際競争力の向上を意味するし、本社移転と共に移住する人々は、名古屋圏の経済的・空間的・時間的ゆとりを享受して豊かさを実感できるライフスタイルを構築する事ができるだろう。

だから、国土の高コスト構造の要因となっている東京一極集中を是正しなくてはならないし、リニア時代の名古屋はその受け皿の筆頭格とならねばならないのだ。

2.リニア時代の中部圏の役割  -名古屋を中心に一極集中是正の受け皿となる事-

地方が疲弊している主因は、東京が若者たちを大量に吸い上げてしまい、吸い上げられた若者たちが東京一極に滞留しているためである。東京以外の地域選択が可能な国土に転換すれば、「東京一極滞留」の人口分布を打破することになり、地方にとっても意義が大きい。

名古屋がその受け皿となるためには、いくつもやらねばならぬ事柄がある。その第一は、オフィスの供給量を継続的に増やすことだ。今のままでは東京から本社移転したい企業が現れても名古屋に入居できるビルはない。従って、都心部における再開発を促すことが必要だ。特に、高い資質を有しながら高度利用されていない名駅西口地区、金山地区、三の丸地区において、再開発を推進できるように政策誘導することが特段に重要だ。

第二に、子育て環境のレベルアップが不可欠だ。「名古屋で子育てしたい」と多くの人に思ってもらうためには、教育・保育の質を高め、公教育のリデザインを推進せねばならない。いくら教育費が東京の半分だからと言っても、子どもの育つ環境が優れていなければ名古屋を選ぶ動機は薄れてしまうだろう。待機児童対策に奮闘した名古屋市は、保育の質を高める方向に舵を切り、小1の壁の解消にも取り組む必要があるし、公教育が「一斉同質教育」から「自律的な学習者の育成」へと転換期が訪れているから、名古屋の学校がそれを実現できる空間と教育カリキュラムを先導的に確立すれば、子育て期の親は安心して名古屋を選びやすくなるだろう。

第三に、名古屋のブランド性の向上に資する取り組みも必要だ。例えば、名古屋が有している類い稀な歴史性をルネサンスするとともに、都心近くでリフレッシュできるアーバンリゾート空間を整備する事も必要だ。名古屋に住むことの満足度を一層に上げるためには、歴史に根差した我が街自慢を日常的に共有できることが望ましいし、名古屋で働く人々にとって明日の英気を養う憩いの空間も必要だからだ。歴史性をルネサンスするためには名古屋城から熱田地区にかけての資質を活かしたまちづくりが有効であろうし、アーバンリゾートは貴重な都市内水面を持つ堀川等の沿岸や名古屋港ガーデンふ頭で形成されることが望ましい。

第四に、名古屋は公共交通の先進都市でもあったのだから、リニア時代にあっても都市内交通の先進都市でありたい。広い道路空間を活かし、公共交通、自動運転、パーソナルモビリティ、駐車場などが有機的に機関連携する都市内交通システムを構築していくことは、名古屋の国際競争力を高めていく上で有効だと思われる。

また、名古屋以外の中核市や拠点都市においても、取り組まねばならない課題は多い。特に、各都市の駅前地区における生活利便機能と連動した居住機能の充実は優先度が高い。名古屋に本社機能が増進した時、周辺の都市は居住機能を担う必要があるからだ。同時に、名古屋市と同様に保育と公教育の高質化等を図らねばならないことは言うまでもない。

3.必要となる社会資本整備シナリオとは  -道路、港湾、空港の果たすべき役割-

さて、リニア時代に名古屋圏が東京一極集中是正の受け皿となることを想起した時、これを支える社会資本整備は何に重点をおくべきであろうか。インフラアップは極めて重要であるから、戦略的整備シナリオを考えてみたい(図表1)。

第一に、リニアの効果を最大化する道路網の整備を図ることが重要だ。筆者がその筆頭に置きたいのは名古屋駅西口における高速道路の直結だ。2011年から提唱し、関係機関により検討を重ねて頂いたが実現の道は見えていない。リニア駅が誕生する名古屋は大きな経済効果を享受するが、西三河地域をはじめとしてリニアによる時間短縮効果が届かない産業集積地が多く存在するため、リニアの経済効果が広域的に発現しにくい。この地域構造を打破するための道路ネットワークとしてリニア駅と高速道路の結節が望ましい。この結節によって、既存の高速道路網を活かして産業集積地へのリニア効果が大きくなる。

また、次に述べるように名古屋市の役割と共に名古屋港の役割も進化していく必要があるので、これを支える道路ネットワークとして名古屋三河道路と一宮西港道路の整備が必要だ。加えて、リニア中津川駅や飯田駅の利用圏域を拡大するためには濃飛横断自動車道、三河東農連絡道路、三遠南信自動車道の重要性が高い。これらの道路網が整備されることにより、リニア効果を最大化する地域構造が中部圏に形成される。

第二に、名古屋市の都心に東京から本社が移転する時の名古屋港は、国内で最大の消費財マーケットの中心に位置する港湾となるから、輸入機能の強化を図らねばならない。このことについては、vol.126で記述したので本稿では詳述を省くが、ポートアイランドに輸入基地を整備する事が望ましい。そして、名古屋三河道路と一宮西港道路との一体的な整備によって効率的な国内デリバリー拠点を形成すれば、物流の円滑化に貢献できる。同時に、名古屋港ではクルーズ船ターミナル機能の強化、水素生産拠点の形成などが求められる。

第三に、本社機能の集積が進んだ時には、企業の役員数が増えるので、航空需要の増進に直結する事が見込まれる。特に、役員の需要はビジネス需要であるから、中部国際空港に発着するビジネスクラス市場が拡大することが見込まれ、欧米直行便におけるフルキャリアの就航が現実化しよう。この時こそが中部国際空港が待ち望んでいた本格的需要の開花だと筆者は見込んでいる。そのようなステージを迎える中部国際空港は、二本目の滑走路実現による完全24時間化が必須となるし、空港アクセスのさらなる充実も視野に入れる必要がある。鉄道では名鉄名古屋駅の再開発によってミュースカイのサービスレベル向上が図られ、西知多道路の整備とともに名古屋方面からのアクセスは向上するので、三河方面からのアクセス性を高めるには名浜道路もそうした役割を担う路線になるだろう。

「(DX+コロナ)×リニア」の時代は2030年代には訪れるはずだ。そこを目指して東京一極集中是正の受け皿となるべく、中部圏の役割に適した社会資本整備戦略を構築していくことが、中部圏の発展のみならず日本の発展のためにも必要だ。

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