Vol.111 2022年横ばいの名古屋市人口の陰で起きている事象  -東京への若者流出と子育て世帯の郊外流出-

2022年の名古屋市の人口はほぼ横ばいで推移した。2021年には25年ぶりの人口減少に転じたが一服感が見られる。主因は、コロナ禍により2020~2021年で急激に少なくなった外国人の転入者数が再び戻ったことによる。但し、若者の東京への人口流出は続いている。こうした名古屋市の人口動向の中で注視が必要なのは、子育て世帯の郊外流出だ。

1.名古屋市の2022年人口は自然減と社会増が拮抗  -外国人増で社会増が戻ったが…-

愛知県人口動向調査(名古屋市分)結果によると、2022年の名古屋市人口は自然増減が▲9,105人、社会増減が+8,967人でほぼ拮抗し、結果的に総人口は前年比で138人減少と微減に留まった。2021年は外国人の減少に起因して社会増分が激減した結果、25年ぶりの総人口の減少(6,260人減少)となったが、2022年は外国人の転入数がコロナ前の水準に戻ったことで総人口は横ばいと言える状況になった。

自然増減(=出生数―死亡数)についてみると、名古屋市の出生数は2018(H30)年までは2万人前後を維持していたものが2019(R元)年以降減少傾向が強まっているのに対し、高齢者の増加に伴い死亡数は一貫して増加を続けているため、自然減は拡大基調で推移している。今後も自然減は拡大していくものと覚悟しなければならない。

一方、社会増減(=転入数-転出数)についてみると、確かに外国人の転入数はコロナ前の水準に戻ったことにより社会増がある程度復活したが、懸念される事項も見られる。

図表1は、名古屋市と全国各ブロックとの社会増減の関係を集約的に示している。2022年の社会増減では、外国からの社会増が10,692人で最大となっており、9年前に比べて約3.5倍に増加している。二番目に多いのは中部(愛知県を除く近隣県)からの社会増3,305人だが、9年と比較すると微減傾向(2013年比で0.87)を示しており弱含みだ。名古屋市の近隣県からの人口吸着力が、相対的に弱まっている可能性を懸念しなくてはならない。

また、名古屋市の社会増は、10代後半から20歳代の人口に特化している点を理解しておく必要がある。実は、30歳代~40歳代などほとんどの世代で名古屋市からは転出超過(社会減)になっている。そして、その転出先は関東と近隣市町村である。

図表1で関東との関係を見ると、▲5,106人の社会減になっており、9年前と比べると転出量は2倍以上に拡大している。この関東への社会減について、男女別・年齢別の内訳を見たものが図表2だ。一目して分かるのは、全年齢層において関東には転出超過となっていることだ。年齢別では、25~39歳の転出超過が多いのだが、筆者の目を引くのは女性の転出状況だ。総数で女性が男性を上回り、20~24歳では圧倒的に女性が関東に転出超過している。名古屋の女性たちにとって、名古屋が活躍の場、結婚・子育ての場となっていない可能性について深く考えねばならない。

以上のように、名古屋市では外国人の増加要因で社会増加が維持されているが、日本人に限れば近隣県からの吸着力が弱含みで推移し、関東には女性を中心に大量に人口流出しているというのが社会増減の基本的な構造だ。そして、県内市町村との間の人口移動も注視しなければならない。

2.人口増加の中心は中区と東区  -単独世帯は増加しているが、子育て世帯は流出-

名古屋市の中の人口動向について目を向けると、2022年に増加した上位3区は中区(2,670人)、東区(882人)、中村区(739人)で、いずれも都心地域で増加している。一方、減少した上位3区は中川区(▲1,086人)、港区(▲936人)、名東区(▲835人)で、市域南部及び住宅市街地を中心に減少傾向が強い。

これらの増加上位区と減少上位区について、1世帯当たり人員の平均値を見ると、人口増加している中区(1.43人/世帯)、東区(1.82人/世帯)、中村区(1.82人/世帯)ではいずれも2.00人/世帯を切っていることから単独世帯を中心とした世帯構造になっているのに対し、人口減少している中川区(2.13人/世帯)、港区(2.19人/世帯)、名東区(2.12人/世帯)ではいずれも2.00人/世帯を超えていることから子育て世帯を中心とする世帯構造になっていると分かる。つまり、名古屋市では都心に単独世帯が転入していることが人口増加要因である一方、外延部の住宅市街地では子育て世帯が転出しているということになる。

名古屋市からの転出者数が多い上位都市は、春日井市、豊田市、岡崎市、一宮市などの愛知県内の拠点都市が並ぶが、これらの都市からは名古屋市への転入者数も多く、名古屋市から見れば転入超過の関係になっている。しからば、名古屋市から転出超過数が多い都市はどこか。上位から順に北名古屋市、長久手市、日進市、大治町、あま市がトップ5で、いずれも名古屋市に隣接する市町である。6位以降にも瀬戸市、尾張旭市、豊山町、飛島村と隣接市町村が続く。つまり、30歳代以降の世代は、子育て期に名古屋市に隣接する市町村を選択して転居するという居住地選択トレンドが読み取れる。

3.名古屋市の人口戦略  -隣接市町村との合併とリニア後を考えたい-

名古屋市から転出超過している人口の転出先は、東京と隣接市町村だということを踏まえ、今後の名古屋市の人口戦略の在り方を考えていかねばならない。

まず、東京との関係だが、20歳代の若者の流出が大きいから就職を機に転出していると考えられる。そこからは、名古屋市内に希望する活躍機会が見いだせないという実情が伺える。愛知県は製造業に特化した産業構造だが、名古屋市はサービス業に特化した産業構造となっている。しかし、本社の数が少ない。この点が若者流出の要因になっている可能性が高い。金融、ICT、マスコミ、広告、商社・流通、コンサルティングなどのサービス業種において総合職としてキャリアを積みたい若者は、本社・本店のある東京を目指すだろう。名古屋市勤務に限定して就職先を選びたい場合は、地域総合職か地場企業を選ぶしか道はない。その結果、名古屋市内の大学に進学して来た若者たちは、一度は名古屋市民になるが、卒業と同時に東京に転出するという構造が定着していると考えねばならない。

名古屋市に本社数を増やす道はあるだろうか。筆者は、リニア中央新幹線(以下、リニア)開業後にその可能性が高まると見ている。リニア開業後の名古屋は、東京への高いアクセシビリティを確保しながら東京よりも格段に安いコストで立地できるから、リモートスタイルを活用すれば名古屋は本社立地に適した都市となり得よう。

しかし、現状のままではそれは実現できない。なぜならば、本社が入居できるビルが名古屋市内に存在しないからだ。立地条件が大きく変わるリニア開業を仮に10年後と見込んだ場合、2030年代初頭に完成する大型ビルは名鉄本社の名駅再開発ビルしか思い浮かばない。これでは東京からの本社移転の受け皿となるには不十分だ。従って、名古屋市内の都心再開発を促し、オフィスビルの供給量を確保できるように計画しなくてはならないだろう。

また、個人の居住地選択についてもリニア開業後の名古屋は選択される可能性が高まる。現在、東京都から転出している人々の転出先は、①東京へのアクセス性、②経済性(東京より安い)、③都市機能集積(拠点的な都市)、④風光明媚、⑤ブランド性の5つを条件に選択していると筆者は見ている。リニア開業後は、名古屋市は5条件のうち少なくとも①~④は満たすから、十分に選択肢に入るだろう。但し、⑤ブランド性を如何に高めていくかは名古屋市の重要課題だ。

次に、隣接市町村との関係について考えたい。子育て期の世帯が流出の中核だから、子育て環境の充実強化は必須だ。名古屋市の待機児童対策は約10年にわたる保育園の増設によって環境改善されてきた。従って待機児童問題を主因とする流出には歯止めがかかるだろう。残る問題は「小1の壁」だ。放課後に児童を預ける場として、名古屋市は早くからトワイライトスクール(18時まで預けられる)の整備を進め、全ての小学校区(262学区)で開設済みだが、残念ながら時間が短い。共働き夫婦にとって18時までという条件は十分とは言えまい。19時まで預けられるトワイライトルームや学童保育があると安心して預けられるのだが、トワイライトルームも学童保育もどちらもない小学校区が3割残っている。この空白学区を早急に解消していくことが喫緊の課題だ。名古屋市は、これに対応する姿勢を見せており、次期の子ども総合計画では整備推進が掲げられることになるだろう。スピード感のある対策の実施を期待したい。

一方、隣接市町村への人口流出は、名古屋市から見れば個人市民税の税源の流出だ。従い、近隣市町村との合併を検討することも一考に値するのではなかろうか。合併と言えば、名古屋市から見ればインフラ整備などのコスト増加を懸念する声が必ず上がるだろうが、個人市民税や固定資産税などの税収増とのバランスを良く見て長い目で戦略的に検討したいところだ。隣接市町村への転出理由は、地価をはじめとする経済負担が主要因と考えられるから、これに対策することは事実上困難だ。低廉で良質な住宅市街地を市域に確保するためには、合併も選択肢として捉えるべきではなかろうか。

いずれにしても、名古屋市に起きている事象を踏まえると、このままの状況では自律的な発展を続けることは容易ではない。大胆で戦略的な発想を持って名古屋市の長期的な発展を描いていかねばならない。

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