Vol.151 生成AI進化の先は生産性の向上か混乱の助長か  -期待される知的生産性向上への鍵-

2022年に出現した生成AI・チャットGPT(米国:オープンAI社が開発)の衝撃は全世界を駆け巡り、2023年には文章だけでなく画像等の生成にも拡張した。今後もさらに進化を続けていくであろう生成AIの基本原理とはどのようなものか。その進化は生産性の向上を生むのか、それとも混乱と怠惰を助長して不可解な社会を創出するのか。期待と不安を交錯させる生成AIが、知的生産性の向上に寄与する鍵とは何だろうか。

1.生成AIとは何か  -膨大な既往文章を学習した人工知能-

筆者はICTの専門家ではないが、調査・研究や言論分野で活動していると、生成AIの話題に意図せず触れる機会はあるため関心を持たざるを得ない。筆者の理解する範囲で生成AIの概要を整理してみたい。

生成AIとは、自然言語処理技術を活用して人間の自然な言葉に近いレベルの文章等を作り出すツールだ。生成されるのは主として文章だが、音声、画像・動画、コードなどにも適用され始めている。中でも注目を集めたのは、言語を出力する生成AIとして2022年11月に米国のオープンAI社が発表したチャットGPTで、2023年は世界がその能力の実証に躍起となり、高度なポテンシャルに驚嘆した。

言語に特化した生成AIの技術的心臓部は、大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)と呼ばれ、人間が作成した膨大で多分野の文章を学習し、言葉の繋がりやすさを確率的に求める技術だ。このLLMが組み込まれた人工知能によって文章等を出力するというのが生成AIだ。

人間は、幼少のころから言語を覚え、正しい文法に基づく文章、自然で理解されやすい文章を作成する技能を身に着けて大人になっていく。そして、その言語能力を使って経験や専門的な分野の中で得た知見を紡ぎ、他者に対して影響を与えるようになる。一方、LLMは、ネット上のテキストデータから単語や文章の繋がりやすさを確率的に学習させている。学習しているデータ量は膨大で、チャットGPTの場合はネット上で収集できるウェブテキスト、書籍、論文などから3,000億単語(書籍換算で400万冊)相当に及ぶテキストデータを学習しているという(MURC資料より)から、経験値として人間が及ばない量の学習を行っている。そのため、文章の作成能力が高く、自然で論理的な長文を作成することができる生成AIが出現した。

既往のテキストデータから文章の繋がりやすさを学習することで、例えば「秋空に」続く文章として「鱗雲が浮かぶ」と出力できるというのだ。また、「名古屋都市圏は」と問えば「日本三大都市圏の一つで、人口約230万人の名古屋市を中心に半径約50キロ圏にわたって人口や都市機能が集積する大都市圏である」と回答するのだろう(実際に試した訳ではないが)。

但し、生成AIは事実に基づいて正しいか否かをチェックすることはしないし、計算もしない。あくまでも既往テキストから学習した範囲で確率的に適切だと判断できる単語を繋いでいるだけだ。従って、時として創作物語のような文章や虚偽の文章を作成することがあり、これは「LLMの幻覚(ハルシネーション)」と呼ばれている。文章は極めて自然なのだが、内容が事実に基づかない文章を生成することがあることに留意が必要だ。生成AIを無防備に信頼すれば、ハルシネーションによって社会は混乱するに違いない。

従って、知らない事実や知識の探索を行う場合にLLMに基づく生成AIに依存することは、リスクを伴うと考えた方が少なくとも現段階では良いだろう。一方、管理された膨大な文書(マニュアル等)の中から正しいタスクを導き出すには有効で生産性を高めてくれるだろう。現場で直面した問題に対して、マニュアルから取るべき行動を導き出すのは労力がかかることが多い。マニュアルの中に間違いがないという前提に立てば、このテキストデータを学習したAIにタスクを導出させれば生産性が向上する。つまり、限定的に管理されたテキストデータに基づいてLLMを活用すればハルシネーションに遭遇するリスクは低くなって有効だ。ここに生成AIの当面の有効活用の基本があるように思える。

2.生成AIが機能発揮する条件   -知見の文章化が前提条件-

勿論、オープンAI社のように生成AIを開発する側は、今後も知能強化を図るに違いなく、その上で「知識探索にも使えますよ」と主張するだろうから、あくまでユーザー側が生成AIの基本構造を理解して活用方法を判断しなくてはならない。

現段階でのポイントは、2つあるように思える。第一は、生成AIはあくまでもテキストデータから学習するので、テキストデータに誤りが含まれていれば導出されるコンテンツにも誤りが含まれ、ハルシネーションを引き起こすリスクが付きまとうという点だ。第二は、テキストデータ化されていない知見は反映されることはないという点だ。

第一のポイントは、前述したように限定的に管理された範囲のテキストデータを使うという使い方でリスクを最小化できる。個人はともかく、企業が生成AIを活用する場合は、この姿勢に立てば相当のリスクが回避できるはずだ。つまり、文章化された社内の知見の中から適切な判断を導出する支援ツールとして使えば生産性は向上する可能性がある。

しかし、タスクの導出時間が圧倒的に短縮されたとしても、人間の判断に匹敵する、或いは人間の判断を越える優れたタスクを生成AIが導出するには現状では限界がある。これが第二のポイントだ。つまり、社内の限定的に管理された文書の中に、全ての知見がテキストデータ化されているかという問題である。我々人間は経験が知見となっており、経験に基づく判断や、属人的に蓄積されている知見に依拠する場面が少なくない。こうした文章化されていない知見を、生成AIは学習のしようがないのだ。

従って、ハルシネーションを起こさせない限定的に管理されたテキストデータの中で生成AIを活用するに際しても、文章化されていない知見をテキストデータ化しておくことが、生成AIを活用して生産性を高める上で必要な事になると考えねばならない。但し、これは一朝一夕にできる事ではなかろう。生成AIを人間の知能の代替として活用できる時代が近付いていることは感じるが、人間と同等に生成AIに依存して効率よく仕事をするには、もう少し時間がかかるのではないかと筆者は感じている。

3.生成AIの活用による知的生産性向上への道   -有効な組み合わせの探索に駆使する-

そうは言っても、チャットGPTが示したように、生成AIの驚嘆に値する能力を無視するのは勿体ない。生成AIを人間同等に扱うのは時期尚早としても、その原理原則を理解した上で、特定の場面でツールとして活用するのは有効に思える。

前述したように、「限定的に管理された文書」の中に、なるべく多くの「知見をテキストデータ化」するように努力した上で、「適切と思われるタスクを導出」するほかに、「有効な組み合わせの候補を探り出す」というツールとして利用するのは有効だろう。我々人間は、何かを創出する際には必ずと言って良いほど「組み合わせの模索」を思考の中で行うものだ。これを支援するツールとして生成AIは現段階でも有効だろう。膨大なデータの中から複数の組み合わせを代替案として出力させて、その中から人間が吟味をして、あるいは調整を施して最適な組み合わせを決定するというプロセスが有効な仕事は多々あるに違いない。組み合わせを探索するという膨大な循環的作業は生成AIに委ね、複数案の中から最適解を人間が判断するという業務プロセスが成立するのであれば、生成AIによる知的生産性向上を実現することが可能なはずだ。

2024年は特定の専門分野に特化した生成AI、特定の地域ブロック(例えばアジア、ヨーロッパといったブロック単位)に特化した生成AIなどの開発が進展するだろうという見方もあるようだ。いずれにしても、生成AIは進化を続けていくことだろう。そして、その有効な活用方法も次々と見いだされてくるに違いない。生成AIによって適切な情報を短時間で得ることが当たり前の時代に突入していくだろう。但し、ユーザー側としては、生成AIの基本原理と得意・不得意の特質を知った上で有効活用する姿勢が、当面は必要不可欠に違いない。

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