Vol.88  ポートメッセなごや「新第1展示館」が完成した  -MICEの意義と今後の役割を考える-

名古屋市観光文化交流局MICE推進室が進めてきたポートメッセなごや(名古屋国際展示場)の新しい第1展示館とコンベンションセンターが金城ふ頭に完成し、このほど祈念式典が催された。ポートメッセなごやは、名古屋市の基幹的なコンベンション拠点で、その中核施設として活躍してきた円形ドーム型の第1展示館が老朽化したため、この度移転改築となった。名古屋市におけるこの施設の意義と今後の役割を考えたい。

1.新第1展示館の概要  -名古屋市4番目のPFI事業・BTO方式-

2022年10月1日にポートメッセなごやの新第1展示館と併設するコンベンションセンターが落成し、完成記念式典が行われた。これらの施設は、名古屋市では4番目のPFI事業として進められ、竹中工務店グループによる設計・施工と維持管理が行われる。但し、通常のPFI事業にあるような運営部分は含まれておらず、別途選定された指定管理者により運営が行われる建付けだ。本来であれば、PFI事業者が指定管理者を兼ね、運営を含めた役割を担う事が合理的だが、不思議なことに運営だけが分かれている。

新第1展示館は、2haの無柱空間を中核とした施設となっており、展示会やコンサート会場として利用できる。コンサート会場として利用する場合は15,000席の会場となるため、バンテリンドーム(ナゴヤドーム)の20,000席と、日本ガイシホール(名古屋市総合体育館)の10,000席の中間に位置し、名古屋市として多様なイベントを誘致できる体制が整った。コンベンションセンターは1,300㎡の会議施設と多目的ホールを持ち、新第1展示館と第2・第3展示館を結ぶ位置に立地して扇の要としての役割を担う。今後は、第2・第3展示館の建替え計画も進められる予定で、名古屋市のコンベンション拠点として着実に機能強化されていくことだろう。

2.県市の競争に翻弄された経緯の舞台裏  -スカイエキスポとの連携を提案したが…-

新第1展示館の建設方針は、場所と規模で揺れた。それは、愛知県が中部国際空港島に整備を進めた愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo:スカイエキスポ)との綱引きだ。愛知県知事の政策では、産業振興が重要政策として多面的に取り組まれてきたが、その一つとしてコンベンション事業にも力点が置かれていた。当初の構想では展示面積10ha(最終的には6haに落着)の大規模コンベンション施設を整備することを標榜し、国際的なコンベンション産業の育成と、地域の既存産業の国際競争力強化の促進につなげる事に政策目標が設定されていた。

愛知県がコンベンション施設整備計画の検討を進めている最中に、名古屋市の第1展示場の老朽化問題が顕在化したため、マーケットを奪い合うという懸念から牽制合戦が繰り広げられた。名古屋市はポートメッセなごやでコンベンション事業の実績を積んでおり、第2・第3展示館と共に拠点的展示機能を形成していたから、毎年の恒例会場として利用する事業者も多数定着している状況であったが、空調設備を持たないなどのハード面での課題があり、利用者からは機能更新を求める声が強く寄せられていたため、建替えをせまられていたのだ。

一方、愛知県にはコンベンション事業の実績はなかったものの、その構想は極めて戦略的で、国際需要を念頭に置いて空港近接地に候補地として定め、計画の先にはホテルやカジノを追加的に整備するIR(Integrated Resort)までもが視野に入っていた(IR構想は進捗が止まっているが)。これにより、中部国際空港を拠点としたコンベンション産業、観光産業が振興されるとともに、外貨獲得による県経済の発展を企図していたのである。  要約すれば、愛知県がコンベンション領域に新規の殴り込みをかけ、先行して実績のある名古屋市との競争で一気に形勢逆転まで押し切っていくことが画策されたと、傍目には見て取れる構図だったのである。

この気配に気づいた名古屋市長は、第1展示館の増強を伴う建替えを急ごうとしたが、予定地が定まらずに構想は難航した。ある時期には、港区空見町にある東邦ガス用地の提供を求めて候補地にする案などを模索したが、第2・第3展示館と距離が離れてしまうため利用者から使い勝手の悪さが指摘されたほか、種々の事情で頓挫した。

名古屋市の検討が暗礁に乗り上げていたタイミングで、愛知県はスカイエキスポの事業計画を策定するための調査発注(企画コンペ)へと動いた。当時、MURCに所属していた筆者は、これを受託するべく企画コンペに参画した。但し、名古屋市のコンベンション計画の調査も受託していたから、利益相反となる事を避ける必要があったし、何よりも愛知県と名古屋市の相互協力によるコンベンション事業の振興を求めたかったため、県と市によるコンベンション協議会(仮称)を設立して両施設の棲み分けをしながら相乗的にコンベンション需要の拡大を図る体制の構築を提案した。不要の競争が激化することで、双方の施設の稼働率が低下することを回避したかったからだ。提案に当たっては、名古屋市に仁義を切って臨んだことは言うまでもない。

しかし、愛知県から調査を受託することは叶わなかった。「要らぬお世話」と言われたような印象を持ったが、実力不足と甘受した。しかし、今度は名古屋市が有識者による「コンベンション機能のあり方検討会議」を立ち上げ、筆者はこれに招聘されることとなった。  あり方検討会議で筆者は、場所は既存施設と一体的な運営が可能な金城ふ頭地区で整備する事、利用者像は主として国内コンベンション需要の受け皿となる事、規模は既設の第1~第3展示館の合計(約3.4ha)よりも増強して新第1展示館と第2・第3展示館及び会議施設などを含めて5ha程度を目指すことが望ましいと理由を付して主張し、概ねそうした方針が答申されたと記憶している。かくして、愛知県と名古屋市が互いに同規模のコンベンション機能を有する方向で、各々の事業が推進されることとなったのである。

3.名古屋市の発展を支える重要な役割  -白鳥国際会議場とのMICEツートップ-

愛知県も名古屋市も人口が減少に転じた。人口が減少すれば家計消費が失われていくため、GRPが萎む方向に影響が出る。しかし、当地域にはリニア中央新幹線の開業が待っており、GRPに対してプラスの要因が待ち受けている。プラス要因の一つが交流の増加による消費の拡大だ。

愛知県におけるリニア開業後の交流人口は年間2,000万人(5,500人/日)の増加が見込まれると試算した(MURC)。これによる交流消費の増加分は年間3,180億円と見込まれる。一方、愛知県の人口は2040年までに41万人減少することが見込まれているから、これに伴う家計消費の喪失分は4,000億円だ。両者を比べると、家計消費の喪失分が大きく、県内消費のプラスマイナスは負け越しが見通されることとなる(図表2)。

但し、負け越し量がさほど大きくないから、交流消費を増進させることができれば、家計消費の喪失分を補えることとなる。これが叶えば、愛知県は「人口が減少してもGRPが維持・拡大される」という、手品のような地域経営が可能となる。名古屋市に置き換えても同じことが見込め、むしろ名古屋市の方がリアリティが高い。これを実現するためには交流人口の滞留を促さねばならない。滞留時間が長いほど消費が地域に落ちるからだ。

そこで、交流人口の滞留を促し交流消費を増進させる上でカギを握るのがMICEだ。名古屋市のMICE拠点として重要な役割を担うのはポートメッセなごや(金城ふ頭)と名古屋国際会議場(白鳥)で、このツートップが交流人口の誘引と滞留増進に向けて高稼働することが必要となる。これまで、第1展示館は空調設備がないことが夏場のイベント開催を困難としていたし、白鳥国際会議場は展示施設が併設されていないことがイベント誘致の障壁となっていた。この度の新第1展示館は、空調設備を伴う2haの無柱空間として完成し、白鳥国際会議場では大規模改修と展示施設増設に向けてPFI事業が進行中だ。ハードとしてはMICEツートップの整備に目途が立ってくるわけだから、あとはフル稼働に向けた運営に期待がかかる。

新第1展示館(金城ふ頭)も国際会議場(白鳥)もPPP/PFIで進められているから、運営を担うのは業界を代表する民間企業となる。民間の知恵と行動力を存分に発揮して、両施設を国内トップクラスのイベント会場として、更には国際的にも認知されるMICE拠点として利用促進を実現してもらいたい。また、MICEが有効に機能発揮するためには、宿泊機能との連携が不可欠だから、名古屋市は引き続き市内の宿泊機能の集積強化に向けた取り組みが必要だ。リニア時代の国土における名古屋市の持続的発展に向けて、重要な役割を担うMICE機能が大車輪の活躍を見せてくれることを期待してやまない。

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