Vol.8 SDGsとミレニアル世代 -選ばれる都市、選ばれる企業に―

1.普及を感じるSDGs  -カラフルなあのマーク―

スーツの襟にカラフルなドーナッツ型のバッジを付けている人が増えた。筆者も付けているのだが、これはSDGsのトレードマークである。SDGs(Sustainable Development Goals)は、国連が全世界に呼びかけている取り組みで、直訳すれば「持続可能な開発のための目標」となるのだが、内容は深淵だ。「世界の平和と豊かさ」のために、「誰一人残さない」という理念を置き、17の分野で目標(Goals)が掲げられている。2015年9月の国連サミットで採択され、目標とする達成年は2030年としている。カラフルなバッジは17色で構成されており、SDGsの目標の数を表したものだ。このトレードマークが私たち一人一人に呼びかけをしているわけだ。

筆者は2016年から付けているのだが、最初は「カラフルで可愛いですね」とか「綺麗なバッジですけど何ですか」というお声がけをよく頂いた。今は、そうしたお声がけを頂くことは少なくなり、「あなたも付けてますね」という視線の交換に変わってきている。数年での変化を身をもって感じるこの頃である。

筆者は還暦を過ぎた。振り返れば環境破壊に一役買ってきた(随分とガソリンを使って車を走らせ、タバコも吸っている)し、他者を退けるために戦った(自分が所属する会社が勝ち組となるために日夜を問わずに頑張った)。そして育児と家事は妻に任せ、自治会の行事に出向くこともなかった。そうした時代だったとも思うが、今となっては化石じみた生き方だったと思う。地球の限りある資源に思いを馳せず、自分の身内だけを考え、男女均等に気づかず、コミュニティに背を向けてきた。誠に罪深き人生を送ってきたものだ。

この様に罪深い筆者が、多くの諸兄と同様にSDGsのバッジを付けている。地球人として参加しようと思うようになったのである。

2.「誰一人残さない」の理念の意味は?  ―罪深かった我が人生―

世界の平和と豊かさのために、何故にSDGsの基底に「誰一人残さない」が置かれたのか?筆者の解釈を綴ってみたい。

筆者はスポーツカーが好きだ。アクセルを思い切り踏み込んで加速していく時に爽快感を覚える。自分の爽快感のためにガソリンを巻き散らしたわけだ。家にいる時は暗いのが嫌いだから電気をたくさん点ける。電気は無限だと思っていたから。しかし、それらのために化石燃料の枯渇を助長し、発展途上国の森林破壊に加担したと気づき始めた。エネルギー消費は地球上の資源に広く影響を及ぼしているのだという事を、恥ずかしながらこの歳にして理解できるようになってきたのだ。

また筆者は、ワーカホリックに働いてきた。仕事が何よりも優先されるべきだと信じてきたから、家事と育児の全てを妻に任せたわけで、一人の女性として尊重する事が足りていなかった。職場に着けば、どうしたら他者に競い勝てるかを考えながら速足で歩くことが当たり前で、路上にうずくまる人に手を差し伸べることができなかった。恥ずかしい限りである。

そして遅まきながら筆者も反省し始めた。筆者のような人生を送った結果、富める国が途上国を虐げ、弱い人や我慢している人を思いやることが出来ていなかったと。筆者のような人が地球上にあふれた時に、世界が平和になるはずはない。自分の暮らしの消費行為によって失うものに配慮し、欲して恵まれてない人への思いやりが無ければ、取り合いや早い者勝ちだけになり、平和になるはずがないではないか。

だから「誰一人残さない」という理念は崇高なのだ。少し難しい言葉になるが、「包摂」という考え方になる。世界は平和になった方が良いし、豊かさを享受する人が増えた方が良いに決まっている。そのためには、自分に見えない人や地域にも思いを馳せて考え、行動することが重要なのだと理解できるようになった。世界平和のために自分は何一つ貢献してこなかったと反省すべきだと気づいたのである。

3.「17の目標」を理解するために  -ターゲットレベルで考える―

国連は、私たちが理解を促し易いように17の目標を掲げてくれた。しかし、17の目標を読んでも何をして良いか分からない(筆者にはだが)。実は、17の目標の下に、もう少しブレイクダウンした169のターゲットがある。これを読むと筆者でも理解しやすくなるのだ。

例えば、筆者は地域づくりに携わってきたから、目標11「住み続けられるまちづくりを」を例に考えてみたい。この目標11の下には10個のターゲットがある。その中には「安全で安価な住宅の供給」、「誰もが使い易い公共交通の充実」、「防災に強い地域づくり」などが掲げられているではないか。これらは、筆者が取り組んできたことでもあるのだが、その先にある世界平和には気づいていなかった。しかし、気づいたならば、同じことでも今まで以上に気持ちを入れて取り組むことができる。このように、目標レベルだけでは分かり難いが、その下のターゲットレベルであれば筆者同様に多くの人に気づきが生まれると思うがいかがだろうか。皆さんの馴染みの深い領域の目標で、その下のターゲットを読んで頂きたい。きっと分かりやすいはずだ。

4.ミレニアル世代はSDGsネイティブ  -悲しいオッサンにならないために―

筆者はSDGsの試みに還暦をもって共感したわけである。しかし、気づけば既に小学校、中学校、高校の各レベルの教育カリキュラムにSDGsが組み込まれていた。

ミレニアル世代という呼び方をご存じだろうか。2000年代(2000~2009年)に成人になった世代のことを言う。つまり、1980年から1990年までに生まれた世代だ。この世代は、小学校から高校までの間にSDGsの教育を受けていたのだ。だから、彼らにとってSDGsは当たり前のことになる。まさに「SDGsネイティブ」な世代と呼べよう。そして、これから輩出される若者たちは、皆SDGsネイティブな人たちだと認識しなければならない。

教育カリキュラムでSDGsが組み込まれた背景を辿ると、ESD(Education for Sustainable Development)の取り組みに源泉があると気づく。「持続可能な開発のための教育」だ。ESDは環境教育と言われるが、その中身は環境だけではなく、国際協力、防災、世界遺産等の地域文化への理解を促す教育を意味する。こうした取り組みを国連が呼びかけ、2005年から2014年までに世界が取り組むべきと推奨した。その結果、2015年に採択されたSDGsについて、教育カリキュラムに組み込まれる運びとなったと筆者は捉えている。つまり、SDGsの前の段階から、ミレニアル世代はESDによってSDGsの下地を学んで来たのである。

こうした結果、成人となり社会に出てくる若者たちは、いずれもSDGsネイティブだと考えて良い。筆者の世代とは隔世の感だ。今の若者たちは、SDGsを当たり前のことと身に着けているのである。であるから、「若者たちはSDGsネイティブだ」と気づいていない中高年は恥ずかしい事に陥る。時代遅れで思慮に乏しいオッサンと思われるのだ。しかし、現時点ではオッサン達が社会のリーダーとなっているのも厳然たる事実だ。

5.何のためのSDGsか  -選ばれるために―

大企業では既にSDGsへの理解は進んだと言って良い。そしてミレニアル世代以降はSDGsネイティブだ。だとすると、取り残されがちなのは中小企業の経営者だ!

SDGsネイティブたちは、「利益優先」を良しとせず、「利益と社会貢献を両立すべき」と考えているから、そうした理念を持つ企業に就職したいと考える。だから、人手不足を訴える中小企業の経営者がこの事に気づかなければ、若者達には選ばれない。

また、SDGsネイティブたちは、「利便性」だけを追求するのではなくて、「環境や弱者にやさしい街」を好む。だから、緑やエネルギー、ユニバーサルデザイン、コミュニティ等を軽視した街には魅力を感じない。住みたい都市として選ばれないのだ。

そして、SDGsネイティブたちは起業家となっている。イノベーターともなろう。若き経営者となったSDGsネイティブたちは、「誰一人残さない」という理念を理解し、SDGsの17の目標を言語のように扱うから、この共通言語を持たない企業とは取引をしないだろう。

世のリーダー世代に語り掛けたい。SDGsを理解できなければ、若者たちに選ばれる企業・都市にはなれないのだと。本来は世界の平和と豊かさのためのSDGsである。しかし、現段階で身の丈に置き換えれば、若者たちに選ばれる企業や都市になるためにSDGsを理解すべきだと筆者は思う。当面の理解の仕方としてだ。しかし、このようにしてSDGsを言語として身に着ければ、世界の平和と豊かさの実現に貢献できるのだ。  罪深き人生を送った筆者が言うのである。思慮深い諸兄にとってはさもない事と拝察する。筆者は、地球市民として多くの罪を犯してきたから、懺悔の念を持って、遅まきながらもSDGsの号令に従おうと思っている。そして、少しでも多くのシニアたちが、同志となって頂けることを願ってやまない。

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