行政が公共事業を民活方式で実施する際に重要な選択肢となるPFIでは、その導入にあたりアドバイザーと称する民間コンサルタントを登用する。行政にとって単独では御し難い検討事項が多いので、文字通り行政側にアドバイスを行う役割だ。このアドバイザーの資質如何でPFIの導入成果に強い影響を及ぼすから責任は重大だ。そこに求められる今日的な資質とは何かを考えたい。
1.PFI事業におけるアドバイザーの役割 -可能性調査から公募・契約支援まで-
PFI(Private Finance Initiative)とは、公共事業の設計・建設・資金調達・維持管理/運営を一括して民間事業者に委ねる方式を指す。経済の低成長が長引く中で税収が上がらない行政は、公共事業に投入できる職員や資金の不足が常態化しているから、民間の経営ノウハウ、技術力、資金を活用して公共事業を行う「民活」方式の導入が多くの局面で求められる情勢だ。この民活方式の中にあって、代表的な手法となっているのがPFIである。
PFIの実施を政策判断する際には、「導入可能性調査(以下、可能性調査)」を実施し、PFI導入の実現性や期待される効果を検証することが国の指導で一般化している。また、導入が決定された以降は、PFI事業者の公募支援や契約締結支援を行うアドバイザーを登用する。こうした可能性調査の実施やアドバイザーの役割を果たすのがコンサルタント会社だ。筆者は長くこの業界に身を置いたから、その実態を良く知っている。
可能性調査における中核的検討事項の第一は、当該公共事業の特性を踏まえた上で、適性の高い事業構造を選定・構築する事だ。PFIの中には様々な種類の方式があり、官民の役割分担やリスク分布、債権債務の構造が異なるとともに、民間に期待する業務領域も変わるため、事業の特性に応じて適切なPFIのスタイルを選定する必要があるためだ。
中核的検討事項の第二は、選定したPFI方式の導入により期待される効果の把握だ。一義的には、財政負担が軽減する効果を定量的に算定すること(VFM検証)に重きがあるが、定量化できない効果についても定性的効果として整理することも求められている。これらの効果を踏まえてPFI導入の可否を総合的に判断することとなる。
次に、可能性調査でPFIの導入が決定すると、PFI事業者を公募する段階へと進むが、PFI法及び同法ガイドラインによって公募手続きには種々のプロセスが規定されているため、これに従って多くの資料を作成していかねばならない。具体的には、実施方針を策定し、特定事業の選定を行い、募集要項(様式集を含む)・要求水準書・評価基準書・契約書(案)を作成して公表していく必要があり、相当量の書類を作成しなければならない。加えて、これらの書類作成にあたっては、財務的な検討、技術的な検討、法的検討を行う必要があるため、質的にも高い専門性を要する内容がてんこ盛りだ。これらをサポートする業務がアドバイザー業務となるのである。
なお、可能性調査とアドバイザー業務は切り分けて別に発注されるが、事案の継続性を確保する観点から、同じコンサルタント会社が選定される場合が多い。従って、選定されたコンサルタントは、通算で3年ほどかけて当該事業のPFI実施に関与することになるから、事業全体はもとより個別事項にわたるまで詳細を掌握する事が求められる。
2.PFI事業の新潮流と現場の課題 -PPP/PFI推進アクションプラン、建設コストの高騰-
PFI法が制定されたのは1999年(平成11年)で、2024年(令和6年)の今年は四半世紀を迎える事となる。この間に、PFIの対象領域や事業スタイルに様々な拡張が重ねられて今日に至っている。
進化を続けているPFIが重点を置く最新の潮流は、2023年6月に閣議決定された「PPP/PFI推進アクションプラン」に掲げられている(図表1)。ここでは3つの柱が打ち出されており、第一はコンセッション方式とウォーターPPPを中心に10年間で575件(事業費規模30兆円)を目指す事、第二は新規分野の開拓を進める事、第三は「ローカルPFI」を中心にPPP/PFI手法の進化・多様化を図る事とされている。これらがまさに現時点におけるPFIの新潮流だ。
但し、こうした政府のアクションプランを尻目に、PFIの現場で起きている課題は建設コストの高騰への対応だ。2021年初から急騰した木材に端を発し、鉄鋼の高騰が重なり、労務費の上昇も相まって、2023年末の建設コストは2020年比1.5倍ほどに上昇した。この短期間での高騰のため、地方自治体の公共事業はPFI事業に限らず不調が多発している(予算内で請け負う応札者が現れない事態)。こうした状況を如何に打開するかが、現場では喫緊の課題となっているのである。
他方、PFI事業の件数が全国的に増加していることを背景に、応札する民間企業も案件を選択する姿勢を強めている。その結果、応募企業が集中して競争が激化する案件と、1者応募により競争が不活性な案件とに2極化しているようにも映る。競争環境が活性化することが、より良いPFI事業の実現には極めて重要であるから、この課題にも重点的な知恵だしが必要だ。
3.アドバイザーに求められる今日的な資質 -マーケットサウンディングを重視せよ!-
アドバイザーを担うコンサル業界は、競合ひしめく中で受託実績を積み上げ、業績を伸ばしていく必要があるから、より多くの案件を受託することに注力する。従って、政府が旗を振る新潮流には予算が集中するから、とりわけ高い関心を持って取り組むこととなる。これは、企業としては当然のことだ。しかし、取り扱う事案が「公共事業」であって、顧客は地方自治体であり、エンドユーザーは市民であることに鑑みれば、単に案件を受託して数多くこなせばよいというものでは決してない。
筆者がアドバイザーに求めたい今日的な資質を3つ提示しておきたい。第一は、PSC(Public Sector Comparator:公共基準額)の精緻化である。建設費の高騰状況を確実に捉えて予算に反映させるために重要な積算額である。ここに誤差が多ければ不調に直面してしまう。特に問題となるのは、PSCの積算時点から契約時点までの時間差だ。PFIの場合は可能性調査に1年、事業者公募に1年を要するため、この期間の建設コストの市場変動を織り込むことができないと不調の確率を高めてしまう。この際、時間差を修正するインフレーターを駆使したとしても、当初のPSCの精度が低ければ正確にトレースすることは不可能だ。従って、技術アドバイザー(TA)の知見をフル活用するとともに、建設コストの市場動向を注視し、業界とコンタクトを取りつつ吟味する姿勢を堅持してほしい。
第二は応札者の競争環境の活性化である。つまり、複数の応募者による提案競技を成立させることに努力する事だ。地方自治法においては、1者入札であっても入札は成立するとされているが、より良い提案を選定できるのは選択肢が豊富な場合の方が良いのは論を待たない。そのためには、コンサルタントが事業候補者を開拓し、応札意欲を喚起することが非常に重要だ。公正性を担保するのは当然のこととして、複数の事業候補者を誘致するための対話活動を適切かつ十分に行ってほしい。
第三は自主事業(付加的サービス)の提案誘導である。ともすれば、行政が要求する事項(必須事項)への提案にばかり目が行きがちであるが、民間のノウハウによって付加的サービスの提案がなされれば、公共サービスの質的向上に直結する。但し、民間事業者はリスクを安易に取らないから、自然体に委ねてしまうと自主事業提案は持ち込まれない。PFIによるメリットは、行政負担の軽減も重要であるが、それと同等以上にサービス水準の向上を実現することが大きい。民間提案による良質な公共サービスが積みあがっていけば、都市の魅力向上につながっていくのであるから、自主的な付加的サービスの提案を誘導する方策に周到な知恵だしを行ってほしいところだ。
以上の3つの事項はコンサルタントの腕にかかっている。これらをクリアすればPFI導入によって大きな成果を得る可能性が高まる。そして、これら3点に通底するのは、マーケットサウンディングを重視する事だ。市場との対話に汗をかき、競争環境が活性化する応募条件を整え、自主的な付加的サービスの提案を促すことができるコンサルタントがPFIアドバイザーにおける腕利きと言って良い。
是非、コンサルタント業界がこれらの資質を磨き、行政側がコンサルタントを登用する際に重視すべき条件とすることで、PFIの活性化を促して頂きたい。その先には、公共サービスに対する市民満足度の向上が期待できるのだから、是非とも銘じて取り組んでいただきたいと願っている。