Vol.16 名古屋三の丸ルネサンスの実現を期待したい! -城下町名古屋の再生の意義-

2021年1月7日に、名古屋三の丸ネッサンス期成会の結成と提言がプレス発表された。主旨は、城下町名古屋をルネサンスするにふさわしい三の丸地区再生を図るべく、名古屋市をはじめ、国・県が協調して三の丸地区再生計画の策定着手を提言することであった。筆者は、本期成会の幹事として名を連ねている。この提言の背景と狙いを、述べてみたい。

1.尾張名古屋は城で持つ ー華やかだった名古屋三大祭ー

名古屋は第二次大戦で空襲を受け、歴史的資源のほとんどを焼失した。戦後まもなく、先人たちの努力で早期に戦災復興区画整理事業が取り組まれ、現代の街の基盤が整えられた。今日の名古屋の繁栄は、この復興事業の恩恵によるものであるから、戦災復興の街と広く認識されている。しかし、本来のルーツは城下町だ。約400年前に、徳川家康の命を受けて名古屋城が築城され、当時の拠点であった清州(現、清須市)から街ごと引っ越すという一大事業が敢行された(「清州越し」という)ことに端を発する。当時、清州の人々は、三国一のお城(名古屋城=尾張徳川筆頭家の居城、天守閣は国内最大)の下に行こう!と引っ越したに違いない。まさに、「尾張名古屋は城で持つ」の時代だった。この時の城下町の碁盤割があったからこそ今がある。

名古屋城下では、文化も育った。その代表に三大祭りがある(詳細は別稿に記したい)。東照宮祭、若宮祭、天王祭がそれで、このうち若宮祭と天王祭は同時に行われ、これを総称して祇園祭と呼ばれた史実がある。名古屋の人々でさえ、「名古屋に東照宮がある?」「名古屋に祇園祭があったなんて!」と驚く人が多いはずだ。この三社は大戦時に空襲被害を受け、社殿は焼失後に再建されて現在も存在しているが、残念ながら山車のほとんどは焼失したままとなり、三社の祭りは各社により細々と営まれているにすぎないから、市民のほとんどは名古屋に祇園祭があったことを知る由もない。煌びやかな祭りは途絶えて久しく、戦災復興事業で整備され街区には近代的建築物が立ち並ぶから、名古屋に城下町の息吹きを感じる機会はほとんどない。76年前の戦前までは、こうした雅な祭りと城下町の風情が至る所に存在していたはずなのに、ルーツを失ったままの現状は誠に残念至極だ。

東照宮祭(旧、名古屋まつり)

若宮祭

天王祭

2.城下町にルーツのある都市構造 ー本町通を背骨とした名古屋城下ー

家康は、何故この地に拠点的な城と城下町を築けと命じたのか。それは濃尾平野の下流にあって肥沃であり、海路を活用することができ、熱田台地という頑強な台地があったからだ。交通の要衝となり得、経済繁栄が期待でき、防災に強いと判断した上で、鎮台立地を選択したと考えられる。400年前の慧眼に敬服するばかりだ。

街の拠点となった名古屋城と熱田神宮は、この熱田台地の上(名古屋城は台地の北西端、熱田神宮は南端)に位置し、熱田神宮の近傍には東海道五十三次の中で唯一となる海路の拠点「七里の渡し」と宿場が整備された。そして、名古屋城と熱田は、街の背骨として街路が整備され(現、本町通)、人々の往来を支えた。本町通を熱田方面からお城に向かって北上すると、南寺町を経て碁盤割城下に入り、三の丸に到達するのである。従って、本町通には主要な商店が並んだ。名古屋を代表する老舗企業の多くは、今でもこの本町通り沿いに多く立地している。こうして城下町としての名古屋は、北にお城、南に熱田を配し、南北方向を主軸として発展した。

明治に入ると、国営鉄道(東海道線)が敷設されることとなり、名古屋城下の西のはずれの湿地に名古屋駅が整備された。この名古屋駅と都心(栄地区)を結ぶ東西の重要路として広小路通りが整備されて以降、名古屋は東西軸を主軸として発展を遂げることとなった。西の名古屋駅と東の栄地区を結ぶ広小路通りには路面電車が走り、駅と都心を結ぶ経済軸となったのである。

そして、第二次世界大戦時に空襲を受けた。「尾張名古屋は城で持つ」と呼ばれた名城と城下街のほとんどが焼失し、ここに名古屋のルーツが断絶したのである。戦後、戦災復興区画整理事業により、名古屋城下の碁盤割は小路を無くして街区を大きくし、100m道路と呼ばれる延焼防御を兼ねる大幅員道路が整備され(南北に久屋大通、東西に若宮大通)、今日の名古屋の都市基盤が形成された。整えられた街区の上には、近代建築物が立ち並び、残念ながら城下町風情は消えて今日に至っているのである。

3.なぜ今三の丸再生なのか ー三の丸官庁街に建て替え時期が到来ー

現在、三の丸地区は国有地と県有地、市有地となり、行政庁舎が立ち並ぶ。帝冠様式として国の重要文化財に指定されている愛知県庁と名古屋市役所の本庁舎をはじめ、数多くの国の合同庁舎が立ち並び、県庁の西庁舎、三の丸庁舎、自治センター、市役所の西庁舎などとともに、霞が関に次ぐわが国最大級の官庁街が形成されている。国家行政機関だけで構成される霞が関とは異なり、名古屋三の丸地区の官庁街は、国と地方の行政機関が混合して形成されている点が特徴だ。

この三の丸の行政庁舎群も築50年を越えつつあり、老朽化が顕在化して庁舎の建て替え事業が動き始めた。その先鞭として第四合同庁舎の建て替えが着手されることとなった(2021年度に事業者の選定が行われる)。その後、順次各庁舎の建て替えが進むこととなっている。このまま粛々と建て替えが進めば、また50年間は無機質な官庁街となるに違いない。戦災によって断絶した城下町名古屋のルーツ再生を図るのは、今しかないではないか!

名古屋三の丸ルネサンス期成会は、この官庁街の建て替え着手に当り、再構成される三の丸地区に文化・交流機能を導入し、名古屋三大祭の再生と連動させることなどによって、城下町名古屋を蘇らせる契機とするべきと提言したのである。加えて、三の丸地区への交通アクセスを高め(SRTの導入等)、南海トラフ巨大地震等に備えた防災機能を高めるべきなどとした。さらに、重要文化財に指定されている愛知県庁本庁舎と名古屋市役所本庁舎は、役所としての利用を止めて、迎賓ホテルや国立博物館等として再利用する事が望ましいとも提言した。

図1 三の丸地区再生アイディアのイメージ

図2 本町通に面する合同庁舎再生イメージ

図3 通外堀通りからお城を望むイメージ

図4 庁舎、市役所本庁舎を望むイメージ

出典)以上4点は名古屋三の丸ルネサンス期成会資料より

4.自虐的シビックプライドからの脱出 ー市民の誇りと日本の発展のためにー

他稿(vol.12)でも書いたように、名古屋市民のシビックプライドは低い。その理由には、名古屋が城下町としての歴史を失ったまま、機能的だけれども無機質な街として発展したことに遠因があると筆者は考えている。400年来の歴史を有し、お城も祭りも立派なものが揃っているという事が再現されて、内外に広く認識されれば、市民はこの街に誇りを持ち得ると筆者は思っている。
リニア時代に向けては、東京以外に高度な業務機能の受け皿が必要だとも筆者は考えている(vol.1、vol.12ご参照)。日本の国土は東京への極度の依存を緩和し、高コスト構造から脱却する事で更なる発展を促すと考えているからだ。その時、名古屋が都市としての決定的な魅力を備えていなければならない。機能的で歴史情緒がある街としてなれば、「名古屋に行こう!」「名古屋に住みたい!」と思う動機が、多くの人に宿るのではないかと期待している。名古屋三の丸ルネサンスは、市民の誇りを高めるためでもあり、日本の発展に貢献するためでもあるのだ。

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