Vol.55 民活シリーズ④ PPP/PFIにおける金融機関の役割  -資金需要の大きいPFIで機能を発揮-

PPP/PFIにおける金融機関の参画は、プロジェクトファイナンスが主たる領域だ。指定管理者制度は施設整備を伴わないので資金需要が発生しないし、Park-PFIは施設整備を伴うものの資金需要がさほど大きくならないからだ。日本では高度成長期に集中して大量の公共施設が整備されてきたので、今後はこれらの施設の老朽化が集中し、急速に建て替え需要が全国で発生する。従って、今後もPFIの導入が多数検討されよう。ここでは金融機関が担うべき役割について一考しておきたい。

1.PPP/PFIにおける金融機関の役割  -資金需要の大きいPFIが主領域-

図表1はPPP/PFIの領域概念を示している。PPPは民活領域を包括的に示す概念で、PFIはその内側に位置づけられる。そして、PFIにのみFinanceという単語が入ることでも分かるように、民間資金を大規模に活用するのがPFIの特徴である。そして、PFIで民間が資金を調達するときに採用される融資形態がプロジェクトファイナンスだ(vol.54ご参照)。

指定管理者制度は、既存の公の施設(おおやけのしせつ:地方公共団体が条例で設置している施設)の維持管理・運営を民間に委ねる制度であるから、施設整備を伴わず資金需要が発生しない。そのため、金融機関が関与することはない。市場化テストも包括的業務委託も同様である。Park-PFIは公募対象公園施設(カフェ等の収益施設)の整備を伴うが、規模が小さく簡易な施設であることが多いため資金需要が小さい。従って、ここでも金融機関は主導的立場で関与することは少ない。民営化の場合は、対象事業によって事情が異なり、公有地信託は信託銀行がメインプレーヤーとなる制度で特殊だ。従って、PPPの領域で汎用的に金融機関が関与するのはPFIに特化されるのである。

2.金融機関におけるプロジェクトファイナンスの位置づけ   -メガバンクから地銀へ-

プロジェクトファイナンスは、海外で培われた資金調達手法で、国内ではコーポレートファイナンスが主流の座を昔も今も譲っていない(土地神話を助長しバブル経済が発生した温床がここにあった)。このため、邦銀においては、国際金融業務を行っているメガバンクにプロジェクトファイナンスの知見が蓄積されていて、地銀には経験のない領域であった。平成11年(1999年)にPFI法が制定(平成11年、1999年)されたことで、日本で初めてプロジェクトファイナンスの需要が本格的に発生し、メガバンクの国際金融経験者がこれを担当した。プロジェクトの収益性に応じてファイナンスするストラクチャードファイナンス部門の中にPFIのプロジェクトファイナンス担当が置かれたのである。

しかし、PFIの需要が増加するに伴いスプレッド競争が激化すると、メガバンクのPFIへの関与姿勢は食傷気味となっていった。折りしもの低金利政策とも相まって業務利益への貢献が小さくなると、メガバンクは潮が引くようにPFI事業から遠のいて行ったのである。

こうした情勢下で、PFIにおけるプロジェクトファイナンスの実行部隊は地方銀行(以下、地銀)へとシフトしていった。今では、第一地銀に加えて信用金庫もPFIのプロジェクトファイナンスのレンダー(貸し手)となっている。元来、地域密着型の金融機関である地銀は、地方自治体の公共事業から発生する資金需要に応える役割が大きいから、適切なソフトランディングであったように思う。

但し、気になる点も残る。プロジェクトファイナンスではステップインという介入権を金融機関が持つのであるが、これが機能するかどうかという点である。PFI事業では、契約期間中に業務を担当するプレーヤーの執行状況が悪くなりサービス水準が低下すると、行政がペナルティとして支払いの減額処分を課することがある。そうなるとSPCのキャッシュフローが悪化するから、金融機関への返済原資を毀損するリスクが生じてしまう。これを回避するために、金融機関は自行が選ぶ別のプレーヤーに担当業務を置き換える介入権を確保しているのだ。ステップインは業務を完遂する事を目的とするから、行政と金融機関の利益は一致するので行政はその機能に期待をするが、実際には金融機関の力量が問われることとなる。全国に膨大な取引先を持つメガバンクは新しいプレーヤーを見つける力があるが、地銀が果たして十分な役割を担えるかは未知数だ。

また、PFI事業は徐々に独立採算要素に重きを置く傾向があるのだが、独立採算要素はプロジェクトファイナンス組成の難易度を上げる。独立採算要素の市場性を見通し、採算性を正確に判断する必要が生じるとともに、金融機関が晒されるリスクも大きくなるからだ。これから先も、独立採算要素を含むPFI事業が全国の自治体で増加傾向が強まった場合、地銀だけで対応できるか予断を許さない。スプレッドが大きくなることを覚悟してでもメガバンクの再登板を促す必要が生じるかもしれない。

PFI事業の中で独立採算要素が最も大きいのは公共施設運営権方式(コンセッション方式)だ。運営権を得るための対価は高額となるため、大規模な資金需要が発生しプロジェクトファイナンスが必要となる。この時、独立採算事業として十分なキャッシュフローを確保しつつ継続的な経営が可能かどうか真贋を見極める目が必要となるし、リスクのパススルーを適切に行うための措置に関する提言力も求められる。このため、公共施設運営権方式の多くの場合でメガバンクの出動に期待がかかる。

PFI事業の中核的な市場は地方自治体の公共事業だから、地銀がこれをサポートすることは自然であるし、地域循環型経済構造を構築する上で健全なことだ。しかし、メガバンクと地銀では自ずと地力に差があるため、難易度の高い事業にはメガバンクの力を必要とする局面もあり得よう。PFI事業の構築を図る行政側には、この点の理解が必要だ。

3.ノンバンクの役割   -SPCの構成企業として経験豊富-

銀行以外の金融機関として、ノンバンクがPFIに関与するケースがある。大手リース会社だ。PFIでは銀行がレンダーとしての役割(プロジェクトファイナンスで融資する役割)を果たすのに対して、ノンバンクはSPC側での参画主体となる。

ノンバンクは、資金調達手法や財務・金融知識に長けた主体であることを背景に、SPCの構成企業として出資者に名を連ねてSPCの財務管理を担当したり、資金調達方法をアドバイスするFA(Financial Adviser)を担ったり、複数の金融機関からプロジェクトファイナンスを組成する必要がある場合には協調融資のアレンジャーを担うなどがその役割となる。

PFIの経験が少ない企業にとっては、SPCの資金調達をどのように立て付ければ競争力のある事業提案につながるかアドバイスを受けたいし、経験の浅いプロジェクトファイナンスの組成に際して銀行との交渉を円滑に進めたいというニーズもあり、これに対してノンバンクは一定の役割を果たしてきた。日本におけるPFI市場において、建設業界に次いで知見が蓄積されてきた代表業種の一つである。

また、少々性格が異なるが、一般的に建設企業は指名停止リスクが高く、建設企業が代表企業となっていると、その指名停止によってグループ全体が失格となるケースも多い。こうしたことを事前に回避するために、指名停止リスクの低いノンバンクを代表企業に据える場合も散見された。

但し、PFI法が制定されて20年以上が経過し、国内のPFI事業が800件を超える状況となった今、ノンバンクに求められる役割は過渡期にあると言って良いかもしれない。豊富に経験を積んだ建設業界が資金調達ノウハウを蓄積したため、ノンバンクの必要性が希薄化している可能性だ。また、SPCを構成する企業グループは、複雑になるほど統治が難しくなるため、少しでもシンプルなコンソーシアムにするために参画業種を絞りたいという意識が働いているかもしれない。

しかし、今後のPFI事業は、先に述べたように独立採算要素を含む場合が増加する可能性が高いし、公共施設の総量を減らす潮流にあって施設の統合化が進むと事業内容が複雑化する場合もある。こうした難易度の高いPFI事業に取り組む場合には、事業全体を客観的に捉えて知恵を出す役割は必要性を増すであろう。こうした場合にノンバンクの役割は特化していくのかもしれない。

いずれにしても、銀行がレンダー(貸し手)としての役割であるのに対し、ノンバンクはボロワー(借りて)側に参画する役割であり、両者が切磋琢磨することがPFI事業の健全化に資すると言っても良いだろう。

4.邦銀よ、PFIに積極的に関与せよ   -金融機関としての知恵を価値化せよ-

メガバンクにせよ、地銀にせよ、或いはノンバンクにせよ、PFIが公共事業における資金調達手法の一つである以上、金融機関は知恵袋としての役割を担う必要がある。全国のPFI市場が1,000件時代に突入しようとしている今日、PFI事業は一つ一つの案件が今まで以上に高度な内容になっていくことが想定される。先述した独立採算要素が大きく組み込まれることもその一端だ。こうした状況下で、健全で質の高いPFI事業を実現していくためには、金融機関が果たすべき役割は大きい。

日本の金融市場は成熟化してきているから、金利商売だけで業務利益を生み出していくことは容易ではなくなった。金融機関の知見を付加価値とし、これに対価を認める風潮を創り出していくことが金融機関の生き残りに重要なはずだ。そのためには、一定のリスクを金融機関として負うことを是とした姿勢も必要ではなかろうか。

一方、金融機関への対価が上がればVFMを縮減する要因になるから、事業構造全体を通してVFMを上げるための工夫が行政側にも求められる。そうした取り組みに挑んでこそ、日本のPFIが質の高い公共サービス手法となっていくのだから怯んではいられない。行政にとっては苦しい行財政運営が続く中で、官民を上げてPFIの質的向上に向けた工夫が重ねられていくことを願っている。PFIは厳しい公共経営における知恵の扉なのだから。

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