2024年10月1日時点の愛知県人口動向調査が公表され、名古屋市分の集計結果も明らかとなった。名古屋市の総人口は4,581人増加して233.1万人となった模様だ。筆者は、従前より名古屋市が人口減少に転じると予想していたので、見事に予想を外したことになるが、人口動態を紐解くと名古屋市の人口は依然として問題含みで、若者の東京への流出が止まらない事が課題だ。人口増加を喜んではいられない実態を共有したい。
1.横ばい傾向を維持する名古屋市人口 -過去最高の社会増が自然減を補う-
名古屋市の人口は2020年(R2年)に記録した233.2万人が最高で、以降は微増減を繰り返す横ばい傾向で推移している。最新の統計では2024年10月1日時点で2,331,264人となり、前年比4,581人の微増(0.2%増)となった(図表1)。日本の総人口が減少を続け、愛知県内の全エリアの人口が減少している中で微増を記録したのは、名古屋市の拠点性の高さを示唆しているとは言える。

但し、増加した事を単純に喜んではいられない。増加の構造に潜む課題に着目する必要があるからだ。人口の増減は、自然増減と社会増減で構成される(人口増減=自然増減+社会増減)ため、これを分解して見ておくことが重要だ。
図表2で分解結果を見ると、自然増減は▲11,260人の減少で、社会増減は15,841人の増加であった事から、自然減を社会増が上回ったために増加したと分かる。このうち、自然減は、初めて1万人台を突破した。少子高齢化の影響で自然減が拡大を強めており、今後も拡大する見通しが見て取れる(図表2内の△印)。これを補う社会増は、2021年(R3年)にコロナ禍の影響でゼロに近い状況になった後に急速な回復傾向を示し、2024年(R6年)は過去最高の社会増を記録した(図表2内の•印)。自然減、社会増ともに最高記録を更新する中で微増となったのである。

図表2から読み取れるように、自然減の拡大傾向は強く、今後も減少が一層に拡大すると見なければならない。従って、名古屋市が人口を維持できるか減少に転じるかは、社会増減の動向が鍵を握る。過去の統計を見る限り、名古屋市の社会増加は年間1万人台であるから、2024年(R6年)のような転入増加が続くとはにわかに断じ得ず、早晩に自然減を補えなくなって人口減少に転じるという見通しを、筆者は維持したいと考えている。
2.社会増減の地域別内訳に見る構造 -社会増の最大要因は国外からの転入超過-
名古屋市の人口増減の鍵を握る社会増減について、地域別内訳を見ておきたい(図表3)。名古屋市から見た地域別の社会増減は、「お得意様地域」と「カモられ地域」に大別される。お得意様にしている地域は、愛知県内他市町村と愛知県を除く中部地域で、これに加えて国外だ。中でも国外からの社会増が圧倒的に多い事が明らかで、名古屋市の人口増加が国外からの転入人口、つまり外国人によるものだと分かる。一方、カモられている地域は関東で、近隣地域からの社会増と拮抗している状況だ。

前年との比較で見ると、国外からの社会増が大きく増加した事(+2,172人)、愛知県内他市町村からの社会増も大きく増加した事(+1,988人)が代表的な変化で、これら2つが名古屋市の人口に増加をもたらした主因だ。
名古屋市の人口増加(維持)の最大要因となっている海外からの社会増が、今後どのように推移するかは読み難い。もう一方の愛知県内市町村や中部地域では人口減少が続いているから、ここからの社会増が今後も続くとは見込めない。そうした事を踏まえた上で、構造化している国内の地域別の社会増減を詳細に観察し、今後の課題を読み解く必要がある。
3.年齢別・地域別の社会増減 -関東に吸い上げられる若者たち-
図表4は、名古屋市の社会増減を年齢別・地域別に分解したもので、2023年と2024年を比較できるように表示した。ここから見える前年との変化と、構造的な課題を抽出してみた。以下に5つの着目点を指摘しておきたい。

表内の①は、外国人の転入が増加した事である。これは前述したとおりであるが、名古屋市の人口規模を維持する最大の要因が外国人の転入であることを基本事項として理解しておかねばならない。
表内の②は、中部地域(名古屋市近隣の他市町村等)からの社会増が増えた事であり、これも前述したとおりであるが、ここで補足しておきたいのは表内の③である。中部地域からの転入増加の最大要因となっているのは20~29歳の増加であることが分かる。つまり、名古屋市には大学や企業の集積がある事から、進学・就職期の若者たちが近隣地域から集まってくるのであり、これは名古屋市の基本的ポテンシャルと言って良い。しかし、この層が今後も増え続けるとは期待できない。その理由は、中部地域は全域で既に人口減少に入っているからだ。近隣地域の若者の母数が減少しているのであるから、この層の転入は先細りになる事を覚悟しなければならない。
最大の問題は表内の④で、関東に対して全年齢層で社会減となっており、この傾向は変わっていない事だ。その中心は、20~39歳で、進学・就職・転職期にある若者たちが東京に吸い上げられている事が分かる。筆者は、名古屋市の人口問題として、この点に最も危機感を持つべきだと考えている。
そして表内の⑤は、0~14歳の子どもの減少である。減少数は前年よりも緩和したが、依然としてボリュームが大きい。義務教育までの年齢にある子どもたちであるから、子育て層(親)の転出に伴う減少と見るべきで、親たちが関東や近畿及び近隣地域など様々に転出している事によるものだ。子育てをする街として名古屋が選ばれ切れていない事を示唆するものであり、重要な課題と認識しなければならない。
このように、若者を中心とした東京への流出と子どもの減少が続いている構造を変えない限り、名古屋市の人口が減少に転じ、成長力を失う事は明らかと見るべきだろう。名古屋市の人口が増加した事を喜んではいられないどころか、名古屋市は衰退前夜にあると理解しなければならない。
図表5は、東京都から見た場合の転入超過数が多い上位20都市を集計したものだ。その第一位にいるのは名古屋市である。名古屋市より人口の多い大阪市(約270万人)を押しのけて男女ともに転入超過人数が全国1位となっているのだから、名古屋市は東京都への若者供給基地になっていると言っても過言ではない。

しからば、どうして名古屋市から東京への若者の流出がこれほどに大きいのかを考えねばならない。他稿で繰り返し述べてきているが、筆者は名古屋市の産業の付加価値創出力が低いことに原因があると見ている。現代の若者たちはミッションドリブン志向であり、経済処遇と社会貢献の両立を望んでいる。この両立ができる活躍機会を求めた結果が東京への集中と見るべきだろう。経済処遇と社会貢献の両立が可能な活躍機会とは、付加価値額の産出力が強い(粗利が大きい)企業であり事業所だ。こうした産業の集積を図る事が若者流出に歯止めをかける事に繋がる(vol.152、154等ご参照)。
名古屋市の付加価値創出力を高めるためには、機能と業種による産業構造改革が必要だ。機能とは本社機能に代表される中枢業務機能であり、業種とは高付加価値業種(一人当たり付加価値額が大きい業種=情報通信業、金融・保険業、学術・専門サービス業、医療・福祉業)である。これらに焦点を当てた産業集積へと市内の産業構造を転換していく事が今後の名古屋市の発展に向けて重要な戦略となる。
それを実現できる転機は、リニア中央新幹線(以下、リニア)の開業とともに訪れる。リニア開業によって品川~名古屋間が40分で結ばれれば、東京と名古屋は生活圏的交流・連携が可能な低抵抗な関係となり、日常は名古屋に拠点を置いて仕事をして、必要な時にリニアで東京に高速移動するという低コストで生産効率が高いスタイルを可能とする。経営者達がこの点に気づけば、名古屋を本社等立地の有効な選択肢として認識するだろう。
そして、これを誘導するためには、名古屋市の都心にオフィスビルの供給を促すとともに、名古屋市の公教育が優れているというブランドを構築していく事が有効な戦術になると筆者は考えている。ミッションドリブンな若者を惹き付け、子育て層に選ばれる都市として必要な条件を整えていく事が、リニア時代に名古屋市が衰退傾向から反転する処方箋だ。そして、東京に依存する事で高コストを強いられている国土構造を開放し、日本の国際競争力を再浮上させていくためにも名古屋市が重要な役割を担わねばならない。