Vol.250 名古屋の超高層オフィスビルと昼間人口  -相関しない構図の裏側-

2026年夏にザ・ランドマーク名古屋栄が開業する。名古屋では名駅地区に超高層オフィスビル群が形成されて来たが、栄地区でも中日ビルに続いて超高層オフィスビルが誕生する。こうした大型オフィスビルの建設は、都心部の新陳代謝の表れと歓迎したい。但し、名古屋市の昼間の流入超過数は減少を続けており、昼夜間人口比率下は降気傾向だ。オフィス床の供給動向と整合しないこの現象をどのように理解すれば良いだろうか。

1.名古屋の超高層オフィスビル誕生の経過  -幕開けはナディアパーク、名駅は摩天楼に-

超高層ビルとは、一般的に高さ100mを越すビルを指す。タワーマンションもこれに含まれるのだが、オフィスビルに限定して名古屋市内の建設経過を整理したものが図表1だ。名古屋で超高層オフィスビルが初めて誕生したのは、1996年竣工のナディアパークビジネスセンタービルに端を発する。その後、1999年にJRセントラルタワーズと金山南ビルが竣工して、名古屋の超高層オフィスビル時代が本格的に幕開けした。

その後は名駅地区を中心に建設が進み、2006年にミッドランドスクエア、2007年に名古屋ルーセントタワーとアルペン丸の内タワー、2009年に名古屋プライムセントラルタワーと続いた。但し、この段階ではまだまばらな状態で、名駅地区が摩天楼化するのはその後である。2015年にJPタワー名古屋と大名古屋ビルヂング、2016年にシンフォニー豊田ビル、2017年にJRゲートタワーとグローバルゲート(ささしまライブ地区)が竣工して、現在の状況となった。

超高層オフィスビルが供給する床面積は1棟あたり10万㎡を超える大規模となり、図表1(橙折れ線グラフ)に示すように、超高層だけで累積200万㎡に近いオフィス床が供給されてきた事となる。これは、名古屋市都心部における業務機能集積が高度化してきた歴史として捉えたいのだが、実態はどうだろうか。

2.名古屋の昼間人口の推移  -超高層化の一方で昼夜間人口比率は低下-

そこで、昼間人口に着目してみたい。名古屋市の昼夜間人口比率は1995年をピークに低下傾向が続いている(図表2橙折れ線グラフ)。名古屋市の超高層オフィスビルの誕生から名駅地区の摩天楼化への経緯(2000年以降)と正反対の動向となっている。昼夜間人口比率は都市の拠点性・自立性を表す指標で、昼間人口を夜間人口で除した概念であるから、この間の名古屋市の夜間人口(常住人口)の増加(1999年:216万人→2025年233万人)は昼夜間人口比率を押し下げる要因となり、人口増加ほど昼間人口が増加してこなかった事を意味する。大型オフィスビルの建設が相次いだ事により、オフィスワーカーの流入が増加したと捉えがちだが、実態は必ずしもそうではない。

もう少し詳しく見るために、名古屋市の常住人口、流入人口、流出人口、昼間人口の推移を総括的に見たものが図表3だ。棒グラフを見ると、常に昼間人口は常住人口を上回って推移しているから、名古屋市の昼夜間人口比率が100を超えている根拠を示している。次に、折れ線グラフを見ると、一貫して流入人口(灰線)が流出人口(橙線)を上回っているから、昼間の流入超過で推移しているという事も分かる。但し、流入超過数(黄線)は1995年をピークに低下傾向だ。

増減傾向の強弱を明確化するために、図表3のデータを1970年を100とした指数に置き換えたものが図表4だ。これを見ると、1995年以降に流出人口(橙線)の伸びが急伸した一方で、流入人口(灰線)が減少から停滞傾向へと推移している。これによって流入超過数(黄線)が減少傾向へと転換したと分かる。つまり、1995年以降の名古屋市では、流出人口の増加率が流入人口の増加率を上回って推移し、両者が乖離したため、超高層オフィスビルが供給された期間においても昼間の流入超過人口が抑制されて昼夜間人口比率の低下につながったと解される。

次に、流出人口の増加の実態を把握しておきたい。図表5は、産業業種別の流入・流出状況と流入超過数(◇印)を見たものだ。これによると、流出人口が最も多く流出超過となっているのは製造業と分かる。つまり、名古屋市に居住して西三河地域等に立地するモノづくり企業に従事する人々が多いという事だ。尚、流入人口が最も多く流入超過となっているのは卸売・小売業であるから、名古屋市の基幹産業が卸売・小売業であると確認できる。この様に、1995年以降に流出人口の増加率が上昇した背景には、「名古屋居住・製造業従事」というパターンが増えたと解しておく必要がある。即ち、名古屋市は拠点性の高い都市で昼間人口を周辺地域から吸引しているが、同時に周辺地域の製造業集積に人口集積が支えられている側面もあるという事であり、相互依存の関係が存在しているという事だ。

3.相関しない構図の裏側  -新規ビルに市内企業の転居が続く-

名古屋市では、名駅地区を中心に2000年以降に超高層オフィスビル群が形成されたが、流入人口の増加には繋がらなかった。それは何故か。大規模に供給されたオフィス床は、市内に立地していた既存企業の移転入居が太宗を占めていたためと考えられる。つまり、名古屋市外から新規企業が入居した実態は少なかったため、市内に従事するオフィスワーカー総数の増加には結びつかなかったと解さねばならない。麻雀に例えれば、卓上のパイを混ぜているだけで、パイの総数が増えている状況にないという事だ。

2026年夏に開業するザ・ランドマーク名古屋栄のオフィス部分もその典型で、市内に立地している企業が複数フロアを独占して入居する見通しだ。勿論、都市の新陳代謝としては歓迎すべき事で、古いビルの建替えが進み、建物の近代化と景観の刷新が図られるのではあるが、名古屋市の都心部における産業集積の高度化に直結していない点が課題だ。

筆者が本コラムの他稿で繰り返し指摘しているのは、名古屋市からの若者流出が構造化している点で、その理由は名古屋市の産業構造にあると主張してきた。若者たちは、「経済処遇と社会貢献の両立」というやりがいを求め、それを実現するために付加価値額の産出力が高い企業が集積する都市へと吸い寄せられている。つまり、賃金と社会貢献投資の原資となる付加価値額の産出力を高める事が若者を惹き付けるのであり、それは機能で言えば本社機能、業種で言えば高付加価値業種(1人当たり付加価値額の高い業種)だ。つまり、名古屋市の産業集積は、付加価値額の産出力を高める方向に機能と業種で構造転換していく必要があると考えたい。1人当たり付加価値額が高い業種とは、情報通信業、金融・保険業、学術・専門技術サービス業、医療・福祉業が代表的だ。

本社機能や高付加価値業種の集積を高めるためには、市内で育成する観点から起業支援も重要であるが、東京からの移転を掴み取りに行く事が奏功するだろう。名古屋市内で供給されるオフィスを市外からの転入需要で受け止める構図を作らなければ、名古屋市の拠点性は高まっていかないし、若者を吸引する原因を産み出せない。

「東京からのオフィス移転など現実的ではない」というご指摘もあるだろう。しかし、コロナ禍が産み落としたリモートスタイルは、距離と時間に縛られないワークスタイルを実現した。そしてリニア中央新幹線が開業すれば、必要な時に短時間で東京に高速移動する事も可能となる。名古屋市内のオフィスビル賃料は、東京に比して5~6割の水準であるからオフィスコスト(固定費)を圧縮する事が可能になり、売り上げが同じであれば名古屋市に立地した方が東京立地よりも利益を確保し易い経営環境を得る事となる。従って、リニア開業を念頭に置けば、経済合理性から名古屋立地の価値は認められ易くなるだろう。

折しもの建設物価の高騰で、今後の名古屋市内における再開発は進展しない可能性が高く、オフィスビルの供給も停滞する事が想定される。しかし、この間を利用して名古屋市の産業構造がもたらす人口動態への影響について議論を深め、名古屋市における企業集積のパイが増加する方向に誘導する政策立案に繋がる準備をする事が重要だ。産業構造改革は、一朝一夕の事柄ではない。じっくりと、しかし一貫して粘り強く、ゴールを見据えた取り組みが求められると銘じたい。

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