コロナ禍が産み落としたリモートスタイルが「脱・東京」現象を萌芽させた。国土交通省は第三次国土形成計画(全国計画)で「デジタルとリアルが融合した場所と時間を克服するシームレスな拠点連結型国土」を掲げ、内閣官房は地域創生2.0で「令和の日本列島改造」を打ち出し、ともに東京一極集中の是正に力点を置いた。リニア時代の国土では愛知県・名古屋市は是正の受け皿となる絶好の立地だが、公教育のリデザインが必要だ。
1.R6全国学力・学習状況調査の結果概要 -県も市も国語が全国平均を下回る-
全国の小中学校を対象に、学力と学習状況を把握する共通一斉型の調査が文部科学省により行われている。公立学校は悉皆的に全校が受けているもので、都道府県と政令市について調査結果が公表されている。
図表1は、小学校のR6年度の国語と算数に関する問題別正答率だが、国語(左側グラフ)では「全体」の項目で愛知県も名古屋市も全国平均を下回った。項目別では「言葉の特徴や使い方」、「日本国の言語文化」、「書く事」、「読む事」で、愛知県・名古屋市ともに全国平均を下回っている。
他方、算数(右側グラフ)を見ると、「全体」の項目で愛知県も名古屋市も全国平均を上回った。項目別では「数と計算」、「変化と関係」で愛知県・名古屋市ともに全国平均を上回っている。愛知県と名古屋市の小学校では、国語に課題があるように映る。

次に図表2は、中学校のR6年度の国語と数学に関する問題別正答率だが、ここでも国語(左側グラフ)では全国平均を下回っている。「全体」の項目で見ると、名古屋市が愛知県平均を下回っている点が気になる。
また、数学(右側グラフ)では、愛知県・名古屋市ともに「全体」の項目をはじめ、全ての項目で全国平均を上回っており、名古屋市は愛知県平均も全項目で上回っている。小中学校共に、算数・数学については愛知県・名古屋市ともに全国平均を上回る学力があるようだが、国語の学力に課題があると総括できそうだ。

図表3は、R6(2024)年度までの過去5か年の正答率(全科目)の推移を主要な政令市についてまとめたものだ(vol.222より再掲)。驚く事に、名古屋市は小学校、中学校共に全期間で全国平均を下回るとともに、全政令市の中で最下位を大阪市と争っている。逆に、京都市とさいたま市が常にトップを争っており、順位の傾向が固定化しているように映る。「いくら何でも最下位とは」と衝撃を禁じ得ない。

2.R7全国学力・学習状況調査結果概要 -愛知県では悪化、名古屋市は良化したが…-
R7年9月に、R7年度調査結果が公表されたので紹介したい。図表4は、愛知県の小中学校に関する科目別の正答率だ。これによると、小学校では国語、算数、理科の3教科の全てで全国平均を下回っている。中学校では、国語がわずかに全国平均を下回り、数学と理科では全国平均を上回った。R6年度まで相対的に良かった小学校の算数で全国平均を下回った事は課題が増えたと言えそうだ。

図表5は、名古屋市の小中学校に関する科目別の正答率だ。これによると、小学校では、若干ではあるが国語と理科で全国平均を下回り、算数で全国平均を上回った。中学校では、国語、数学、理科の全科目で全国平均を上回っている。名古屋市においては、国語に課題がある状況を残しながらもR6年度よりも良化している模様だが、政令市における順位の行方は気になるところだ。

3.学力の課題が鳴らす警鐘 -東京一極集中是正の受け皿となるための壁-
愛知県・名古屋市からは、毎年多くの若者(20~30代)が東京に流出しており、地域の発展にブレーキをかける恐れがある。そして、若者が東京に吸い寄せられる理由は、マクロ経済における付加価値額の産出力が弱い現状に主因があるというのが筆者の見立てだ。愛知県は製造業において世界的な集積があり、名古屋市は卸・小売業を中心とした三次産業の集積があるが、1人当たり付加価値額で見た高付加価値業種(情報通信業、金融・保険業、学術・専門・技術サービス業、医療・福祉業)の集積が弱く、機能では本社機能(付加価値産出力が高い)の集積が弱い。
若者の人口動態は、付加価値額の産出力の高い都市(東京)に移動している傾向があるため、愛知県・名古屋市の産業構造を付加価値額の産出力を強める構造へと転換していく事が、若者流出を抑止するために奏功するはずだ。そのためには、起業支援も重要だと思うが、それだけでは量とスピードにおいて間に合わない可能性があるため、東京からの移転を促す事も有効だと考えている。
コロナ禍によって産み落とされたリモートスタイルの定着は、人口と企業本社の「脱・東京」現象を萌芽させた(vol.209、213ご参照)。東京の高コストと過密リスクに嫌気がさした人々や企業経営者は、「東京に依存しない立地」を選択し始めたのだ。現時点では、東京からの脱出先は、都心に60分以内にアクセスできる直通鉄道が共通の条件となっており、その駅がある首都圏郊外都市が選ばれている。リニア中央新幹線が開業した国土における名古屋市は、品川と40分で結ばれ、さしたる過密リスクはなく、東京よりも諸物価が安いから、東京一極集中是正の受け皿となる好条件を有している。こうした事から、東京に集積する高付加価値業種の一部に名古屋市への移転を促す取り組みが今後は重要だと考えている訳だ。国土の課題克服に貢献するとともに、愛知県・名古屋市の発展に寄与するのであるから、強く掲げるべき発展シナリオだと主張している。
ところがである。先に見た全国学力・学習状況調査を見ると、愛知県も名古屋市も学力において芳しくない結果となっているではないか。愛知県・名古屋市への移転を促そうと喚起しても、当地の公立小中学校の学力に課題があれば、移転意欲に水をかけてしまいかねない。当地の付加価値額産出力を高めるために必要な産業構造改革に対して、学力問題が障壁として立ちはだかる構図が心配されるのだ。
現代の小中学校で、同時一斉型教育を打破し、子どもたちを「自律的な学習者」として育てる教育が求められている。その実現に向けて、教育プログラムの改革を模索しているのが全国の小中学校の現状だと解される。また、その実践空間として学校の改修・整備も必要になるだろう。ソフト・ハードの両面から公教育のリデザインを進める事が求められる時代にあって、愛知県・名古屋市の小中学校の取り組み状況が大変気になるところだ。
全国学力・学習状況調査は、国家的な調査であるから、教育関係者はよく承知しているはずだ。調査結果を踏まえた課題の抽出と対策の立案・実践を強く求めたい。


















