先日、某テレビ局の番組で「第三の大都市決定戦」という企画があり、収録に参加した。名古屋だと言われているが、本当は横浜や札幌、福岡に負けていないか?という検証でもあった。大都市が具備すべき条件と、名古屋の大都市としての資質を改めて考えてみたい。
1.大都市が具備すべき条件 -規模と自立性を併せ持ち牽引力と影響力があること-
大都市とは、「国土の発展につながる諸活動を自立的に牽引し、周辺地域に強い影響を及ぼす集積の大きな都市」という意味だと筆者は考える。だから、大都市という以上、規模が大きい事が必須の要件となるが、それだけでは「大都市の称号」は与えられない。そこで、まずは都市規模を表す代表指標として人口について、政令都市の上位を比べてみよう。
一般に人口と言えば夜間人口を指す。図表1で夜間人口のランキングを見ると、名古屋は4番目となるのだが、問題は2位の横浜だ。確かに人口370万人は巨大である。しかし、昼夜間人口比(昼間人口/夜間人口×100)を見て頂きたい。横浜は100を下回っている(横浜市の91.7は政令指定都市でワースト3位)。横浜市民の多くが昼間は市外に出て夜に帰ってくるという構図が見て取れる(昼間の人口流出が大きい)。東京のベッドタウンとしての性格が強いのだ。東京に寄りかかって立っている都市で、単独では立っていない。このように昼夜間人口比が100を下回る都市は自立性・拠点性が低いと言え、先に述べた大都市の要件のうち、「諸活動を自立的に牽引している」状況とは言い難く、他都市への依存性が強い。横浜は規模そのものが大きいので存在感は大きいと言えるが、その特性は東京とセットでとらえるべき都市で、単独の大都市としては要件を満たしていない。大都市が具備すべき条件は、「大規模であり、かつ自立性・拠点性が高い都市」と考えるべきだ。この考えに従って横浜を除外すると、人口規模で見た場合、名古屋が第三の大都市となるのである(昼夜間人口比で見ても名古屋は第三位)。次いで、4位が札幌、5位が福岡と続くこととなる。尚、大阪の昼夜間人口比は東京都区部を上回って1位であるから、強力に周辺地域を牽引していると言える。
2.規模の評価は何で見るか -人口、産業、経済の集積で見るのが原則-
規模の評価は、人口だけでなく、産業、経済の集積も合わせて評価すべきだろう。諸活動の牽引力を見るためには都市機能の集積(都市を舞台とする諸活動の集積)を測る必要があるためだ。産業の集積状況を表す代表指標は企業数や従業員数などだ。図表2で企業数を見ると、名古屋は第3位となる。先に見た横浜よりも企業数では上回っており、横浜を特別視しなくとも、大阪に次ぐ第三の大都市と言って良い。但し、名古屋の場合は、大企業の割合が0.51%と東京や大阪に比して差がある点が弱含みだ。
また、経済の集積状況を表す代表指標として市内総生産を図表3で見ると、名古屋は横浜に次ぐ順位ではあるものの、先に述べた大都市としての要件により横浜を除外すれば、大阪に次ぐ順位となる。むしろ、一人当たり市内総生産で見れば名古屋が第三の地位にあることがより鮮明だ。産業・経済の集積があるからこそ、一人当たり市内総生産が高くなるのであって、明らかに第三の都市という事が分かる。
このように、人口、産業、経済の集積状況から見れば、名古屋が「第三の大都市」ということは間違いなく言えることだ。但し、第二の大都市である大阪と比べると、昼間人口の規模(昼夜間人口比を含む)、企業の集積数(特に大企業の数)、市内総生産において、明らかな差があることも事実であり、こうした現状が時として名古屋が埋没して見えてしまう原因だとも感じるところだ。
3.名古屋の将来ポテンシャルはどうか -リニア時代のポテンシャルはNo.1-
名古屋がわが国第三の大都市であることは疑う余地はない。但し、大阪との差は歴然としている。名古屋は将来も第三の地位に甘んずるしかないのだろうか。
名古屋は大都市でありながら東京や大阪に比して「3つのゆとり」があって住みやすい大都市だという事はvol.5「三大都市圏における名古屋圏のウリは何か」でも述べた。これに加えて名古屋が恵まれているのは立地条件だ。言うまでもなく、東京と大阪の間に立地していることが、これまでの名古屋の発展にとって大きな原動力となってきた。歴史的に江戸と大阪を結ぶ複数の街道が名古屋で結節し、今日でも名古屋は東京にも大阪にもアクセスしやすい高速交通網を確保している。東京~名古屋間について言えば、高速道路は3ルート(東名高速、新東名高速、中央自動車道)で結ばれており、今後はリニア中央新幹線(以下、リニア)の開業によって新幹線も2ルートで結ばれることとなる(図表4)。中部国際空港と名古屋港も日本を代表するゲートウェーだ。恵まれた立地条件を背景とした高いインフラ整備水準は、将来の名古屋の成長ポテンシャルにおいても明るい材料となる。
加えて、名古屋圏域内のインフラに目をやれば、今後は環状高速道路が二重化され(全通した名二環と整備が進む東海環状自動車道)、中部国際空港の二本目の滑走路の整備が検討されていて、二本目の空港アクセス自専道(西知多道路)が整備中など、名古屋圏のインフラは高い水準に加えて更に二重化が進む方向だ。
特に筆者が注目するのはリニアの開業だ。二本目の新幹線としてリダンダンシー*が飛躍的に向上し、東京~名古屋間は、大規模災害時でも完全途絶しない高速交通網が完成する。同時に、リニアの高速性(品川~名古屋間で約40分)が発揮されれば、名古屋を起点とする二時間圏域はダイナミックに拡大する。この結果、名古屋からの二時間圏域内の人口は約5,950万人に達する見通しで、現在の東京二時間圏人口(4,100万人で現時点で国内最大)をはるかに超えて、世界最大規模の背後圏を擁する大都市となる(vol.1「リニア時代の国土と名古屋圏のポテンシャル」ご参照)。
こうして、高いインフラ整備水準と、リニア開業後の国内最大二時間圏の中心になる立地条件を踏まえると、今後の名古屋の発展ポテンシャルは大きく、現時点で存在する大阪との差を縮めて行ける可能性を現実的に秘めていると筆者は考えている。 (*リダンダンシー:冗長性。本来は無駄の意。翻って「余裕があり代替性がある事」を意味する。)
4.名古屋の究極の課題は何か -ステイタスの高いプランディング-
第三の大都市・名古屋が、今後のポテンシャルを活かして発展していく上で、克服すべき課題は何だろうか。筆者は、①国際化が発展途上であること、②シビックプライドが低いことの2点があげられると感じている。
国際化を測る指標として一般的なのは、国際会議の開催件数や外資系企業数などである。国際会議の開催件数では、名古屋は6位の地位にとどまっており、経年的に動いていない。また、外資系企業数は数字で見るまでもなく、名古屋への立地進出を感じる機会はない。出て行く国際化(名古屋の企業が海外進出する事)は進んでいても、入ってくる国際化(海外から高度人材等が名古屋に入ってくる事)が進んでいない状況だ。つまり、海外からは名古屋は見えていない大都市だと考えて良い。
また、vol.12「低い名古屋のシビックプライドを考える」でも述べたように、名古屋市民は住み良さを感じてはいても、名古屋の街に決定的な自慢点を持ち合わせていない。市民マインドに共通して宿る圧倒的で象徴的な魅力をどのように創出していくかを考えねばならない。
国内ランキングでは第三の大都市としての地位にありながら、国際的には埋没していて、市民は自慢の決定打を持ち合わせていない。これを打破していくことが、名古屋が抱える大きな課題だと感じる。言い換えれば、国内外に評価される高いステイタスを伴う都市ブランドを構築していくことが将来に向けた名古屋の重要課題だと筆者は考えている。これは一夕一朝に成せるものではない。しかし、「名古屋に行こう!」という動機が、国内外を問わず拡散していくことを標榜して、戦略的なまちづくりをしていかねばならない。リニア時代の名古屋の発展ポテンシャルは高い。と同時に、克服すべき課題にも大きなハードルがあることを強く認識して挑んでいかねばならない。