Vol.40進むリニア中央新幹線の車両開発-ポストコロナ時代でも重要なリニアの役割-

リニア中央新幹線(以下、リニア)は、品川~名古屋間で2027年の開業に向けて建設が進められている。着工できていない区間があり、予定通りの開業に暗雲が立ち込めているが、車両開発は順調に進んでいるようだ。山梨県で実験走行を始めてから6代目となるL0改良型試験車(2020年~現在)は、営業運転車両に近づいているという。ポストコロナ時代となってもリニアの重要性は高く、確実な開業が待たれるばかりだ。

1.L0改良型試験車の開発状況  -安全性と快適性への配慮が進む-

JR東海は、1997年にリニア実験線を宮崎県から山梨県に移して技術開発を続けてきた。 JR東海が開発した「超電導リニアシステム」は、高速鉄道として世界最高の技術だとされている。図表1は各国の新幹線の高速性能を示すグラフで、横軸が距離で縦軸が到達速度を示している。これを見ると、超電導リニア(紫の線)はピークがどこよりも高く、のぞみ号(青い線)やフランスの誇るTGV(赤い線)と比べると2倍の速度(581km/時)と分かる。上海の常電導リニア方式(430km/時)と比べてもはるかに速い。そして、最高速度に到達できる距離が最も短いため、ピークポイントが左上に位置していることが分かる。これは加速能力が強い事も示していて、実際の営業運転では適度な加速と登坂能力として実力を発揮することだろう。

このように、超電導リニアシステムは世界最高の技術で、その技術開発は既に完了しており、現在は車両の安全性や快適性を向上するための実験が重ねられている。2020年から使用されている6代目の試験車は、L0(エルゼロ)改良型と名付けられており(図表2)、営業運転に近い車両として製作された。長いノーズが印象的で、ノーズ部分だけで約15mあるという。これは、超高速で疾走することに起因する空気抵抗と騒音を低減させるために生み出された形状だ。これらを低減させないと、高速での車両のすれ違い時に問題が生じるし、トンネルに突入した際にはトンネルの出口側で爆発音が発生するなど様々な影響が出るため、JR東海が腐心して研究と改良を重ねた末の形状なのだ。図表2では分かり難いが、パンタグラフが無いのも特徴で、非接触方式(最近のスマートフォンと同じ方式)により受電して電磁石を機能させ、車内電力としても利用する。これも空気抵抗や騒音の低減に大きく貢献している。

また、車両先頭部の窓は運転席のように見えるが、実際には運転士は乗務せず、代わりに車載カメラが設置されて完全自動制御となる見通しだ。運転席は、いざという時に乗務員が手動で運転するためのものとなりそうだ。

そして、車内の様子を見ると(図表3)、1列あたり4席のシート配置となっていて、ゆとりのある座席スペースが確保されていると思われる。シートは快適な座り心地を生み出すためにリクライニング機構に工夫を施し、各座席にUSBポートと折り畳み式のテーブルが用意されるという。写真を見る限りでは飛行機の機内のようだ。

駅のホームには、乗降装置なるものが設置される。リニアが到着するとホームから乗降装置がせり出して車両にドッキングし、ここを通って乗降する仕組みとなるようだ。空港のボーディングブリッジみたいなもので、ここでも飛行機を連想させる。

確かにリニアは航空機並みの速度だ。実験での有人最高速度は603km/時でギネス世界記録(鉄道)に認定されているし、営業運転で予定されている最高巡行速度は約500km/時だが、いずれも航空機並みの速度と言って良い。だが、リニアはあくまでも地上交通であるから航空機よりも優れた点が多い。空港は郊外にあることが多いがリニアの駅は都心もしくは都心近傍にあるし、航空機は天候の影響を受けやすいがリニアが受ける影響は少なく定時性が高いはずだ。乗車手続きも国内線の場合は15分前までに搭乗手続きを終える必要があるが、リニアの場合は乗車までの時間制約は極小化されると思われる。航空機並みの速度ではあるが、航空機よりもずっと使い勝手が良い乗り物になるはずだ。

このように、快適な高速移動を可能とさせてくれる車両となっているようだが、JR東海は開業までに安全性と快適性を更に追求した車両の開発を続けていくという。

2.リニア開業による時間短縮がもたらす新たな国土  -東京呪縛からの解放-

リニア開業による最大のインパクトは時間短縮だ。リニアで結ばれる東京、名古屋、大阪では、各々を中心とした2時間圏がダイナミックに拡大する。2時間圏とは、2時間で到達できる範囲のことで、1日の中で仕事や観光ができる範囲と捉えて良い。2時間圏の中にある人口で圏域規模を表現すると図表4の通りとなる。リニア開業後は、わが国最大の2時間圏は名古屋圏となる。その規模は、現状の東京2時間圏(4,104万人)をはるかに上回る5,949万人となり、世界最大の大都市圏となることが見通されている(東京2時間圏は2位となる)。

これは、人が交流したり集まる場所としては、名古屋が最も効率が良いことを示唆している。この立地条件を活かせば、本社機能やMICE拠点、集客事業の立地選択に際して名古屋を選択する事が有効という事になる。加えて、名古屋は東京よりもはるかに立地コスト(地価、家賃)が安いから経済的な効率性も高い。これまでは、東京に本社を置く事や、東京でイベント等をすることが最も効果的であったものが、必ずしも東京を選択しなくても良い事になるのだから、東京依存からの脱却を図る好機となるだろう。東京に依存しない国土への転換は、高コスト構造からの脱却を意味し、わが国の国際競争力の向上へと繋がっていく。リニアは、わが国国土の発展に、新たな可能性をもたらしてくれると考えて良い。

3.ポストコロナ時代のリニアの役割  -移動しやすさと確からしさ-

名古屋がわが国最大の2時間圏の中心となっても、名古屋が首都になるわけではないから、首都機能が集積する東京との交流は重要だ。リモートが積極的に活用されれば、普段のミーティングはリモートで済むが、大切な取引の節目や、重要な営業機会など「ここぞという局面」では対面での活動が求められよう。つまり、名古屋を活用して経済的効率性を享受するためには東京との往来が短時間で確実に行える必要があり、これにリニアが活用できる訳だ。

ポストコロナの時代は、リモートを当たり前に活用できるDX時代となる。その時、広域移動の必要がなくなるかと言うとそれは否であろう。むしろ、1回の移動が持つ重要性が高まると筆者は考えている。リモートを活用するという事は時間的・経済的な効率性を高めることになるが、いざという時の移動が容易かつ迅速に行えることがリモートで仕事しやすい場所となる。この時の移動は重要度が高いから、災害時でも途絶しない交通手段選択の多様性が無くてはならない。名古屋~東京間には、リニアの開業で新幹線が2ルート整備されることとなり、高速道路は3ルート(新東名、現東名、中央道)が整備済みだから完全途絶はまずしないと考えて良い。我々が新東名と現東名をセットで考えているように(どちらでも使えるから安心と考えているように)、リニアは東海道新幹線とセットで捉えるべきだ。東京との高速交通網の重層性が、名古屋を活用する安心条件になると考えられるだろう。特に、人流を支える新幹線の二重化は、都市機能の立地選択や居住地選択に重要な影響を与えるものと考えられる。

東京一極集中の是正は、日本経済の発展と国民生活の水準向上のために必要だ。しかし、東京以外のどこでも東京を代替できるわけではない。日常的にはリモートを活用してゆとりあるライフスタイルを確立でき、いざという時に東京にアクセスする事が可能な地域が東京一極集中是正の受け皿として適切な地域だ。リニアは、この選択肢を日本の国土にもたらすインフラであって、名古屋はその典型的で最も有効な選択肢になると筆者は考えている。

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