金山駅は、1989年に名古屋市で開催された世界デザイン博覧会における交通拠点としてJR東海、名古屋鉄道、市営地下鉄が結節する総合駅となった。駅の北口と南口を結ぶ連絡橋(以下、コンコース)は、鉄道とバス・タクシーの利用を支える主動線であるとともに、金山駅周辺の街へと人々を誘うエントランスとしての役割を担っている。このコンコース内の広告が、2026年に開催されるアジア競技大会・アジアパラ競技大会(以下、アジパラ競技大会)に合わせて大規模に改修される事となった。完成すれば多くの人々の度肝を抜く事だろう。
1.コンコースの広告改修・運営業務の公募 -37年ぶりの広告全面刷新へ-
金山総合駅のコンコースは、名古屋市が整備した連絡橋であるため躯体の所有者は名古屋市であるが、構内の広告に関する管理は公益財団法人名古屋まちづくり公社(以下、公社)に委ねられている。この度、公社がコンコース構内の広告媒体の改修と運営業務を行う民間主体を公募した。金山総合駅が整備されて以来、実に37年ぶりの広告改修となり、2026年9~10月に開催されるアジパラ競技大会前に工事を終える予定だ。
アジパラ競技大会開催期間中は、名古屋市内の人流が活性化するため、名古屋駅に次ぐ交通拠点である金山総合駅にも平常時以上の利用者が訪れるに違いない。国内外からの来訪者に名古屋の良いイメージを持ち帰ってもらうためにも重要な取り組みだ。また、公社は広告収入の増収で金山駅周辺地区のエリアマネジメント予算に充当する事を企図しており、広告のリニュアル効果をまちづくりの活性化に繋げる考えだ。
応募する民間主体は、広告代理店を中心とした企業コンソーシアムで、5つのグループが提案書を提出した。審査委員長を仰せつかった筆者は、所定の評価項目に従いつつ、次の3点を重視して提案内容の優劣を吟味した。第一は、公社にとっての収益効果である。民間企業の提案書は、心証を良くするために時として「言った者勝ち」になる恐れがあるが、実現可能性と公社が負担するコストを考慮した上で、安定した収益効果が得られる提案を選択するように努めた。第二は、インパクトのある刷新感である。筆者は金山総合駅を利用する機会が多いが、コンコースに掲示されている広告に目を止める機会は少ない。風景に埋没している印象だ。従って、コンコースに足を踏み入れた瞬間に旬な情報取得を実感できる演出が金山総合駅の刷新感に繋がり、コンコースの滞留時間を快適なものにする提案を選びたいと考えた。そして第三に重視したのは、DX時代にふさわしい革新性だ。現時点で実現できる最新の技術を最大限に織り込んだ広告技法を導入する事で、世界に対して金山総合駅の斬新性をアピールできる大規模な広告空間となる事を期待した。
2.勝者のコンセプトは「空とつながる駅 -Sky Connection-」 -LED面積は世界最大級-
5つの応募グループの中から最優秀提案として選ばれたのは、JR東海エージェンシーを代表企業とするコンソーシアムで、提案されたコンセプトは「空とつながる駅 -Sky Connection-」である。デジタルサイネージの大胆な導入により、駅等の交通拠点におけるLEDの使用総面積で世界最大級となる提案であった。場合によっては、ギネスブックに「金山」の名が轟くかもしれないという期待が膨らみ、刷新感と革新性に優れた提案であった。

中でも目を引くのは、南北方向に天井を貫くスカイビジョンだ(図表1)。70mに及ぶデジタルサイネージを流れる情報に人々は度肝を抜かれるのではなかろうか。同時に、6体12面の大型吊り下げLEDビジョンが設置され、ここでも様々な広告が掲載される。これらによって、広告を中心に金山総合劇の情報発信力は格段に高まる事だろう。
また、コンコース内の北寄りにある6本の柱にも液晶ディスプレイが設置される計画で、人々の目線の高さにも広告情報が発信される(図表2)。全てデジタルサイネージであるから、動画を含む情報発信がここでも可能だ。

これら大小のデジタルサイネージ群に加えて、電照サインボード(静止映像のみ)、自立パネルサインボードも一新され、地域情報を提供している情報板は大型LEDビジョンにリニュアルされて公的情報が提供される予定だ(図表3)。
これだけの大規模な広告空間にリニュアルされると、広告主の構成も変化する可能性が高い。ナショナル企業による公告が増加し、中には全てのデジタルサイネージが連動するジャック広告(全LED面を独占する広告)も登場するだろう。広告主の多様化は発信される情報の充実を意味し、最新のテクノロジーと相まって金山総合駅の情報発信力が格段に向上するに違いない。

3.金山新時代の扉を開く -後に控える再開発事業に勢いを与える役割-
金山総合駅の北口側には、今後2つの再開発事業が控えている。その1つはアスナル金山の再開発(以下、アスナル街区)であり、もう1つは市民会館の建て替え(以下、市民会館街区)だ。アスナル街区は、名古屋市が底地を持つ街区で、地上では交通結節機能が再構築されるとともに市民会館街区に繋がる見通しの良い歩行者動線が整備される予定だが、その上部空間を利用した都市機能整備が合わせて模索されている。オフィス、ホテル、飲食・物販、文化交流機能等で構成する複合ビルの建設に向けて現在検討中だ。
一方、市民会館も老朽化に伴い建て替えする事が決まっており、新しい市民会館は音楽や舞台芸術などの分野でハイカルチャーからシビックカルチャーまでの文化発信拠点として再整備される予定だ。ホールは大中小の3つのホールで構成される予定で、内1つのホールはアスナル街区の中に整備する事が検討されている。
これらの2つの再開発には、多面的な意義が込められている。代表的な意義は、アスナル金山が培ってきた文化交流拠点としてのDNAの継承と発展だ。「音楽の聖地」と称されるまでに育ったアスナルの文化発信性を業務機能・宿泊機能などと融合させて、個性的な性格を有した都市拠点を形成する事で、名古屋市の文化発信力を高める事が期待されている。
加えて重要な意義は、戦災復興計画以来で掲げられてきた「副都心」の形成だ。金山地区は交通拠点としては名古屋駅に次ぐ中部地域第二の拠点となっているが、副都心とは言い難いのが実情だ。都心と言う以上、オフィスやホテル、商業等の都市機能が高度に集積している事が求められるが、現状の金山地区はそうではない。アスナル街区を中心にこれらの機能集積を高め、都市的活動や経済活動の舞台として名駅・栄地区に次ぐ拠点的な都市空間へと発展させ、名古屋市のポテンシャルを引き上げる役割が期待されている。
筆者は、金山地区はリニア時代にダイヤモンドの輝きを放つ原石のような地区だと考えている。その交通結節性の高さから、リニア開業後には名古屋市において名駅に次いで首都圏へのアクセス性が高い地区となるからだ。この交通条件を活かすまちづくりを行う事が、名古屋市の発展には欠かせない。名古屋と東京の両都心とセントレアや名古屋港という国際公共財に高いアクセス性を有しているのだから、オフィスやホテルの立地条件として高い資質を有している。問題は、金山地区のブランド性が高くない現状を変革していかねばならない点だ。
この度、公社が実施する金山総合駅コンコース内の広告のリニュアル事業は、その先鞭となる効果が期待できる。コンコース内の巨大広告空間が生み出す未来感と情報発信力が、金山地区の先端性を強く引き上げ、人々に存在感をアピールする事は間違いない。その事が、金山駅北口に控えている2つの再開発事業に込められた意義を実現する有効な助走となる事になるだろう。2026年9月に完成する新しい金山総合駅のコンコース広告が、「金山」の名を国内外に轟かせ、そのポテンシャルに点火する導火線となることを期待したい。