Vol.178 豊橋市に誕生する新アリーナは民間ノウハウの塊  -愛知県IGアリーナとの連携に期待-

愛知県豊橋市は、「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」の落札者である「TOYOHASHI Next Parkグループ」と基本協定を締結した。PFI事業者として選定された企業グループと設計・建設・維持管理運営に向けた取り組みが正式にスタートする。スポーツや音楽イベントの会場となる新アリーナと公園が一体的に整備される豊橋市の目玉プロジェクトは、新たな賑わい拠点として2027年に稼働を始める。

1.豊橋市と本事業の概要  -東三河の中心都市に新たな賑わい拠点が誕生-

豊橋市は、人口36.3万人の中核市で、愛知県東三河地域の中心都市だ。古くは三州吉田と呼ばれた城下町(吉田藩吉田城)であり宿場町(東海道吉田宿、二川宿)だが、明治維新後に豊橋と名称を改め、1906年(明治39年)に市制を施行した。JR東海道線・飯田線と名古屋鉄道名古屋本線の結節する総合駅には東海道新幹線駅も併設されているほか、自動車の輸出入港として利用されている三河港や豊川用水などの産業基盤も有し、愛知県東三河県庁が置かれるなど、愛知県東部における重要拠点となっている。

但し、戦前戦後に盛んであった製糸・紡績業が消えた後は工業発展が大きく進まず、人口は2009年をピークに減少を続けており、昼夜間人口比率は97.15と100を切るなど、豊橋市の社会経済は停滞傾向を醸している。

こうした中、新たな賑わい拠点づくりのプロジェクトが持ち上がった。佐原前市長時代にアリーナ構想が立ち上がり、スポーツ小売企業との連携による豊橋公園での整備を模索したが座礁。その後、浅井現市長が白紙からの検討を指示し、改めて豊橋公園で整備する事となった。この間、一部の市民からは反対の声が上がり、住民投票を求める運動も展開されたが署名は伸びず議会で否決された。

反対する市民が指摘した主たる理由には、立地場所の選定問題があげられた。豊橋公園は、吉田城の城郭内にあり、豊橋市のルーツとも言える市の中心部だ。旧三の丸地区には豊橋市役所が立地し、背後は朝倉川が豊川と合流する地形で、周辺は住宅市街地が展開している。背後が川なので交通アクセスは前面側に限定されることから、交通が集中して住宅市街地の生活に支障が生まれるのではないかという懸念が寄せられていた。

これを踏まえ、市は立地選定を総合的に再検討した結果、多目的アリーナが多くの市民に利用され集客力のある施設となるためには、郊外立地よりも中心部立地の方が望ましいと判断し、交通問題には十分に配慮する事を念頭に豊橋公園での建設を決定した。また、建設と運営には民間ノウハウの活用が不可欠と判断し、PFI方式の導入を図る事とした。PFI事業の範囲は、多目的アリーナに加えて豊橋公園東側エリアの整備と維持管理を含めることとし、これらが一体的に機能する事によって、新たな賑わい拠点を形成する事が企図された。また、効果的に賑わいを創出するため、多目的アリーナは市民利用に加えてプロスポーツや音楽ライブ等の興行が行えることを前提とした。

2.事業の枠組みと整備概要   -PFI方式によるアリーナはBTコンセッション方式-

愛知県は、新体育館の建設・運営にあたりコンセッション方式独立採算型を導入し、ネーミングライツにより「IGアリーナ」と称して2025年7開業を予定して建設を進めている。豊橋市の多目的アリーナも、これを参考に検討が進められ、BTコンセッション方式混合型を導入する事とした。県の新体育館は名古屋市名城公園に立地し、日本最大級のアリーナとなる事から収益性が高く独立採算型であるのに対し、豊橋市の多目的アリーナは完全な独立採算は困難であると見込み、運営費の一部を市が負担する混合型とした。

選定された民間提案によると、多目的アリーナの延べ床面積は21,188㎡で、メインアリーナではバスケットコート3面の利用が可能のほか、コンサート等にも利用でき、VIPルームやラウンジを設ける計画となっている。バスケットボールなどのプロスポーツを開催する際には5,073席、音楽ライブ開催時には5,196席の観覧席を設けることが可能となっている。また、サブアリーナはバスケットコート2面の利用が可能で観覧席数は208席とされている。その他に、武道場、弓道・アーチェリー場、多目的室兼会議室、トレーニングルームなどが併設される。

多目的アリーナと隣接する豊橋公園東側エリアには、多目的広場(9,500㎡)、遊具のある子供広場(2,840㎡)、アリーナ前面のアプローチを兼ねる芝生広場(5,740㎡)などの広場が整備されるとともに、テニスコート、相撲場、駐輪場(約100台)、駐車場(約400台)などが整備される計画となった。

これらにより、多目的アリーナではプロスポーツの観覧、市民によるスポーツ利用、音楽イベントの開催などが可能となり、隣接する公園空間では屋外スポーツや散歩、ピクニックなどに利用できる市民の憩いの空間が形成され、総合的な賑わい空間が形成される計画となった。豊橋公園の西側エリアには市の美術博物館なども立地していることから、豊橋公園全体が市民にとってのシンボリックな交流空間となることが期待できる。2027年9月にアリーナが完成し、2029年3月に公園施設が完成する予定である。

3.採択された提案の特徴   -アリーナは最先端、課題はアクセスとまちなかの賑わい創出-

基本計画策定とPFI事業者の募集・選定に関する有識者委員会の委員長を仰せつかった筆者は、民間ノウハウが発揮された優れた提案が得られたと感じている。事業者として選定されたTOYOHASHI Next Parkグループは、スターツコーポレーション株式会社を代表企業として前田建設工業株式会社、エリアワン株式会社などが構成企業となり、株式会社梓設計、大島造園土木株式会社などが協力企業となるコンソーシアムだ。アリーナの設計・建設・運営に係るノウハウや、公園の整備・維持管理に係るノウハウを有する企業メンバーで、PFI事業の実績を豊富に持つ全国企業と、地元企業が連合した構成となっている。

設計を担当する梓設計は、アリーナの設計実績が豊富で、本件では臨場感と一体感を演出でき搬出入の効率性の高いハイブリッドオーバル型の採用を提案した。愛知県のIGアリーナ事業で代表企業を務める前田建設工業は、IGアリーナの経験から興行収入とネーミングライツ料から本件でも独立採算が可能と見立て、運営費に係る市の負担は不要と提案した。興行計画では、地元プロスポーツチームのホームアリーナとしてプロスポーツを誘致するとともに、大型ビジョンの設置と次世代通信インフラの導入によりIGアリーナ等の他会場で開催される音楽等の大型イベントのサテライト会場とする事で興行収入の上積みを計画した。また、IGアリーナの経験から、ネーミングライツ料の市場性を見通すなどして積極的な収入計画により独立採算が可能と提示したのである。運営費の一部を市負担と想定していたコンセッション方式混合型の募集に対し、独立採算型が提案されたことは、本件の最大の特徴と言って良いだろう。

但し、課題も残る。主たる課題として2点を指摘しておきたい。第一は、検討段階から懸念された交通問題だ。公園利用者とアリーナのイベント来訪者のアクセス交通を、周辺地域の生活交通と整流化する必要があるため、駐車場利用の在り方や豊橋駅を利用する来訪者の輸送方式等について吟味が必要だ。特に、敷地内の駐車場にはICT活用による柔軟な利用方法を検討する姿勢が示されているため、効果的な駐車場システムの構築を期待したい。

第二は、豊橋公園に創出される新たな賑わいを、中心市街地の活性化に結びつける工夫だ。新アリーナの集客による交流消費がまちなかの商店街に波及するためには多様な連携が必要だ。その具体的な方策については今後の検討に委ねられる事となるため、効果的な連携の実践を期待したい。

いずれにしても、日本屈指のIGアリーナと濃密に連携する事により、豊橋市の多目的アリーナは東三河地域にとって広域的なエンターテイメント拠点となる可能性が高い。民間ノウハウが遺憾なく発揮され、豊橋市民に愛される新アリーナとして大きくポテンシャル開花する事を期待したい。

末筆ながら、基本計画策定から事業者募集・選定・契約まで心血を注いで努力した事務局と、積極的な提案を作成して応募した企業グループに忠心より敬意を表したい。

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