人々が住んでいる人口を夜間人口と呼び、昼間に在宅している人に加えて仕事や学業などで来ている人々の総和を昼間人口と呼ぶ。夜間人口を分母に、昼間人口を分子に置いて表現するのが昼夜間人口比率だ。これは都市の拠点性を表す代表的な指標で、各都市の特性の一部を表現する。昼夜間人口比率が示唆する都市の役割と課題を考えたい。
1.昼夜間人口比率とは -都市の拠点性を表現する-
都市には、「住んで暮らす場」と「都市的活動を行う場」としての両面がある。住む人の量を一般に人口(常住人口)と言うが、ここでは夜間人口と表現する。一方、都市的活動を行う人々は、自市に住む人だけとは限らない。他市から通勤・通学して経済活動に従事したり、勉学に勤しむ人々がいるからだ。夜間人口に通勤・通学で流入する人口を加え、流出する人口を引いた人口を昼間人口と表現する。住む場所としての性格と、都市的活動を行う場所としての性格のどちらが強いかで都市の拠点性を把握できる。これを表現するのが昼夜間人口比率だ。
昼夜間人口比率は、(昼間人口/夜間人口×100)で表現される。100を上回るという事は、夜間人口よりも昼間人口が多いことを意味するから、通勤・通学者が市外から多く訪れている都市という事が言える。一方、昼夜間人口比率が100を下回るという事は、他の都市に通勤・通学に行く人々の方が流入者よりも多いことを意味し、昼間の人口流出が多い都市だという事が言える。
100を超える都市は、産業機能や教育機能が集積している証左であり、これによって昼間人口の吸着力が強いと言える。一般的には、大規模な都市ほどこうした傾向が強く、都道府県庁所在都市に代表されるように行政機関や支社・支店などが集積している都市も100を超えることが多い。昼間人口が多ければ、消費も応分に行われるから、小売店や飲食店の出店数も多くなり、店舗の規模も相対的に大きな店舗が多くなる。従って、昼夜間人口が100を超える都市は、地域経済を牽引していると見て概ね良い。
2.全国の県庁所在都市の昼夜間人口比率 -首都圏と近畿圏で例外が発生-
図表1は、全国の都道府県庁所在都市を対象とした昼夜間人口比率を示している。ほとんどの県都が100を超えており、地域経済の中核的な役割を果たしていることが伺えるが、首都圏と近畿圏では例外も生じている。首都圏では、さいたま市、千葉市、横浜市が100未満となっており、近畿圏では奈良市が100を切っている。
首都圏と近畿圏では、中心となる母都市(首都圏では東京特別区、近畿圏では大阪市)の拠点性が極めて高いため、隣接府県からの昼間人口を大量に吸着しているのだ。横浜市を例に考えてみたい。横浜市の夜間人口は約370万人と巨大で、夜間人口だけでみれば東京特別区(同、約930万人)に次いで国内2位の規模だが、東京特別区への通勤・通学者が横浜市民の中に相当数が含まれているため、巨大都市であり県庁所在都市ではあるものの、同時に東京に強く依存した都市という特性を強く持っている事を物語っている。敢えて強く言えば、東京特別区の衛生的な都市であり、ベッドタウンとしての性格を色濃く有していると言えるだろう。さいたま市、千葉市も同様で、近畿圏で言えば奈良市が大阪市のそれにあたる。
一方、都道府県庁所在都市の中でも昼夜間人口比率が著しく高いのは、第1位が大阪市(128.42)、第2位が東京特別区(126.85)、第3位が名古屋市(111.23)で、110を超えるのはこの3都市だけだ。三大都市圏の母都市として拠点性の高さが伺えるのだが、中でも大阪市の高さは特筆に値するだろう。大阪市の夜間人口は約270万人で、名古屋市は230万人であるが、昼夜間人口比率は夜間人口の規模以上に開きがある。
3.東海4県の都市の昼夜間人口 -モノづくり拠点で100を超える都市が分布-
図表2は、東海4県の全市(町村を除く)の昼夜間人口比率を示している。これらを見るといくつかの傾向が分かる。概ね共通しているのは、県庁所在都市に加えて産業集積が高い(大企業の立地がある)都市は100を超えている。豊田市、刈谷市、四日市市などが代表例だ。こうした都市は、近隣から通勤者が中間に集まり、経済活動に従事するとともに消費を行っているから、市経済の活力が高い傾向がある。一方、100を下回っている都市は、主として産業面で他都市への依存が高いと言え、昼間の流出人口が多い状況だ。
一方で、一見不思議に思える都市も散見される。岐阜県では多治見市だ。多治見市は東農地域で筆頭都市のイメージが強いが昼夜間人口比率は90.68と低い。これは、名古屋市をはじめとして他市に通勤する就業者が多いという事を意味しており、この意味で多治見市は岐阜県内で人口集積は高いものの拠点性が高いとは言えず、ベッドタウン的性格の都市と解される。静岡県では浜松市だ。浜松市にはスズキやヤマハなど多くの有名企業が立地しているので、昼夜間人口比率が高くても良さそうだが100をわずかだが切っている。浜松市の西に隣接する湖西市は112.6と高く、東に隣接する磐田市も102.65と100を超えており、こうした隣接都市に立地するスズキやヤマハ等の事業所に従事する人が浜松市民には多いことが推察される。また、愛知県では豊橋市、岡崎市が100を切っている。いずれも中核市で県土構造上は拠点な都市として位置づけられているものの、昼夜間人口比率を見る限りにおいては、周辺都市への昼間人口流出が多い状況だと解さねばならない。
また、三重県ではいなべ市の昼夜間人口比率の高さが目を引く。これは工業団地への産業誘致の賜物と言えるだろう。三重県では昼夜間人口比率が100を超える都市と下回る都市の数が半々に分布しており、規模の大小はあるものの県土内に均等に都市圏が形成されているという見方もできよう。
4.規模と拠点性による都市の類型化 -6類型で見る東海4県-
このように昼夜間人口比率は、都市の拠点性を表現できるが、拠点性だけで都市を類型化するのは十分とは言えず、少なくとも規模と拠点性の2要素で類型化する必要がある。図表3は、東海4県を対象として政令市を除く全市について、規模(夜間人口)と昼夜間人口比率で散布図にしたものだ。横軸が規模であり、縦軸が拠点性を意味している。ここでは6類型に類型化すると分かりやすい。
第Ⅰ類型は人口規模が20万人以上(中核市レベル)で昼夜間人口比率が100を超えている都市群だ。規模・拠点性共に高く、地域経済を牽引している都市だ。第Ⅱ類型は人口規模が20万人以上であるが昼夜間人口比率が100を下回っている都市群だ。人口規模は中核市レベルにあるが、近隣の大都市や産業集積地に経済活動が依存した性格を有している。都市としての自立性を高める方向に舵を切るか、現類型のまま居住地としての魅力を高めるか、戦略が求められる。
第Ⅲ類型は人口規模が10~20万人の中規模都市で昼夜間人口比率が100を超えている都市群だ。いわゆる地方拠点都市と言える性格を持っている。自市を中心とした都市圏を形成している都市も含まれる。第Ⅳ類型は、同規模ながら昼夜間人口が100を下回っている都市群だ。但し、東海4県の場合は昼夜間人口比率が90~100に固まっており、極端に拠点性の低い都市は見られない。
第Ⅴ類型は人口規模が10万人未満と小規模ながら昼夜間人口比率が100を超えている都市群で、特定分野の産業集積が見られる都市が見られる。スズキの拠点工場がある牧之原市、湖西市のほか、観光都市として知名度の高い熱海市、鳥羽市などが該当する。また、大都市圏の中心から遠く離れた過疎的エリアでは、小都市ながら昼夜間人口が100を上回る都市が全国に散見される。東海地域でも尾鷲市、熊野市などがこれに当たる。第Ⅵ類型は人口規模が10万人未満で昼夜間人口比率が100を下回る都市群だ。規模も拠点性も低く、都市の数が最も多い類型だ。一般的には立地条件に恵まれず、経済基盤が弱い都市で、属する都市圏単位での発展を念頭に置きながら、昼間人口の獲得には着実な取り組みが求められる。
都市は「住んで暮らす場」であるとともに「都市活動を行う場」であり、この二面性のバランスによって都市の特性が分かれ、規模によって牽引力が分布する。昼夜間人口比率が低いという事は、都市として働く場所や学ぶ場所が少ないことを意味しているから、若者が流出しやすい。従って、願わくば昼間人口を獲得する施策に取り組んでもらいたいところだ。但し、自市のマーケットだけでこれを対策しようにも手がないだろう。従って、属する都市圏の中で母都市等の他都市から昼間人口を獲得する取り組みが必要だ。 地方創生というのは、究極の人口争奪戦だと筆者は考えている。若者を中心に最も人口を吸着しているのは首都圏なので、首都圏から夜間人口を如何に獲得するかを現実的に考えるべき時代だ。そして、周辺地域から昼間人口を誘致する取り組みと合わせて都市経営戦略を構築していかねばならない。