Vol.101  「メタバース」 と 「Web3.0」 に感じる新時代の予兆  -スタートアップからユニコーンを輩出するキーワード-

2023年の年頭に当たり、本年が新時代へと続く1年となるかどうかを占うキーワードを探索した。筆者が選んだキーワードは「メタバース」と「Web3.0」。各方面から期待されているキーワードだが、実現への道程を明確に示す文献は多くない。但し、インターネットが普及した時のように、今は不思議な世界でも日常生活へと普及する技術革新は起き得るのだ。中央政府・自治体が期待を寄せるスタートアップとの関連が深いのも間違いない。

1.「メタバース」 と 「Web3.0」 とは?  -DXの進展から目が離せない-

①メタバース  -リアルと連動する仮想空間-

数年前から筆者も耳にするようになったメタバース。その定義は多くの識者により語られており、これらを筆者なりに総括すると「バーチャル空間にて現実空間と同等以上のコミュニケーションや経済活動等を行う環境」と解される。もう少しかみ砕くと、バーチャル空間にスマホやPCあるいはゴーグル型端末などを使って入り、自分の分身であるアバターを通じて現実空間で我々が行っていることと同じようなことを現実空間以上の効率性で実行できるという世界を指している。

現在はゲームの世界で「遊ぶ」「旅行する」「交流する」といった活動がメタバース体験できつつあるようだ。ポケモンGOを開発したナイアンティック社(米国)をはじめ、多くの企業が開発を加速させる姿勢を打ち出している。メタバースの開発が進み、バーチャル空間における現実再現性の精度が高まると、ゲームの世界から脱皮して通常社会で活用される時代が到来することになる。さすれば、時間的制約、空間的制約、金銭的制約、年齢的制約、国籍による制約など、様々な制約を超越して活動することが可能になる。例えば、時間とコストの制約があってもパリに旅行に行くことができるなどだ。

さらに進化すれば、メタバースの世界で取引ができたり、接客ができたり、マーケティングができたりということも想定されている。経済活動領域にメタバースが活用されることになれば、労働力不足をカバーし、生産効率性を高めるとともに、立地条件のハンデキャップに悩む遠隔地の活性化にもつながる可能性がある。かくいう筆者のような昭和世代には非現実的な世界に思えるのだが、これからを担うZ世代やアルファ世代にとっては、容易に想像でき、何の障壁もなく受け入れることができるだろう。

②Web3.0  -利益還元型の新しいインターネット-

次世代型のインターネットとして期待されているのがWeb3.0だ。一般にWeb3.0とは「ブロックチェーンを基盤とした分散型の次世代インターネット」とされている。ブロックチェーンとは、ブロックという単位のデータが繋がって構築されるデータベースで、特定の箇所に中央集権的に管理されておらず、分散型データベースとして形成される点で現在のインターネット(Web2.0)と大きく異なる。

現在のインターネットは中央集権的に管理されていることからGAFAのような巨大企業を生み、特定企業によって市場が独占される現象を引き起こした。これに対し、Web3.0は中央集権的管理者を介さずユーザーがフラットな関係となることから、GAFA後のWeb上取引の基盤として期待されている。Web2.0におけるGAFAのサービスでは、ユーザーが増えるほど利便性が高まるが、ユーザーは管理者のルールに従いながら利用し、同時に管理者に利益が集中する構造である。これに対してWeb3.0ではユーザーの貢献(サービスを利用する、PRする等)に応じて経済的メリットをユーザーに還元する構造が前提とされている。経済的メリットとは、暗号資産(仮想通貨)などが想定されており、これによりユーザーは意欲を持ってサービスを利用することが可能となり、運営者との間でWin-Winの関係構築が可能になるという訳だ。

インターネットはビジネスにおいても暮らしにおいても不可欠の時代であるが、ユーザーが運営者に支配されるWeb2.0とは異なり、Web3.0は利用者にとって利益還元が前提となる次世代型インターネットという見方もできそうだ。これにより、新たなビジネス形態を生み出すICTプラットフォームとして期待されている。

2.現状と普及課題は?  -いずれも本格化には避けられない法整備-

メタバースもWeb3.0も現状では端緒の段階だが、各々に技術開発は進展していくに違いなく、それに呼応するようにして企業が商品やサービスの展開を始めていくだろう。その先に避けられないのは国際基準の法整備だ。

メタバースの場合は、例えばバーチャル空間でアバターが何らかの攻撃や被害を受けた時の対応だ。アバターが受けた被害が現実空間の自分に降りかかることが想定されるため、現実空間での法的対応が必要となる。バーチャル空間には国籍の違う人々が参加し、価値観の異なるアバターが存在することになるから、ルールは国際基準で整備されねばならない。また、倫理観のあるユーザーが集う空間であることが望ましいから、子供たちの利用について制限を設けるか否かもルール作りのテーマになり得るだろう。こうしたルールの構築に参画し、批准する国がメタバースの先進国となっていくだろう。日本の姿勢が気になるところだ。

Web3.0にも新しい法制度の整備が不可欠だ。例えば、利益還元型の分散型インターネットの普及により、ユーザーは誰もが暗号資産を保有することとなるが、これに対する資産管理・保護のルールや課税制度の構築が必要になるものと思われる。

このような非現実的な世界観に当惑しながら執筆しているのだが、いずれにせよデジタル技術による仮想空間の構築や、新しいインターネットの形は登場してくるに違いないだろう。そこには、新しいビジネス機会の創出、労働力不足の克服、地方の活性化など、現代の日本が抱える構造的な問題に新しい好展開をもたらす可能性を秘めており、期待を持って見守りたいと思う。

3.ユニコーン企業輩出への期待  -スタートアップ分野として切り離せない分野-

さて、日本の産業振興、地域経済の活性化といった領域で期待されているのがスタートアップだ。国も地方も起業家の育成に注力する姿勢を示している。筆者もその一人だが、日本の実情や地方の実態は、その展望について五里霧中といったところだ。

筆者は、かねてからスタートアップには社会課題解決型の領域で成功者が相次いで登場することを願っていた。空き家問題、ワーキングプア問題、フードロス問題、地方における公共交通問題など、今日的な社会課題を対象としてビジネス化するスタートアッパーたちの登場に今も強く期待している。

一方、本稿で述べたメタバースやWeb3.0といった次世代型コンピューティング市場は超巨大市場となる可能性が高いから、スタートアップ群の中からユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の未上場企業)の輩出を期待するのであれば、この分野に日本の起業家たちが挑んでいく必要がありそうだ。むしろ、ユニコーン企業の育成を標榜するのであれば、マストアイテムとも言うべき領域だろう。

経団連は「2027年までにユニコーンを100社に増やす」と目標を掲げた。現状では日本のユニコーンは6社だから、かなり挑戦的な目標だが、その裏側には日本財界の危機感が漂う。ユニコーンは既にアメリカに約630社、中国に約180社、インドに約70社、イギリスに約50社が存在しており、日本は大きく後塵を拝している。これを猛追するためには、強烈な育成環境の整備を急がねばなるまい。

育成環境の整備は、起業支援と投資家育成に大別される。起業支援としては、法人設立の更なる簡素化、大企業社員による社内ベンチャーや副業への積極支援、インキュベーション拠点の整備、公共調達での優遇など、覚悟を伴う取り組みが必要だ。また、投資家を育成するためにはベンチャーキャピタル(VC)の育成が不可避だが、日本の主たるVCが金融機関傘下であるのに対し、欧米のVCは独立系がスタートアップを支持しており、これが目利きのあるVCとして機能している。従って、日本でも独立系のVCを育てていく必要があるだろう。

メタバースやWeb3.0をおとぎ話の世界としてみるのではなく、日本経済の国際競争力の再浮上、地域経済の活性化への布石としてみる必要があると筆者は感じている。近未来のコンピューティング市場の主戦場となることは間違いなく、日本の若者たちが勇躍して挑むべき領域として位置づけ、スタートアップの主要分野となっていくことを期待したい。

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