名古屋第二環状道路(以下、名二環)は2021年5月1日に全線開通した(vol.15ご参照)。コロナ禍で開通式ができなかったため、1年遅れで記念式典とシンポジウムが開催され(2022.12.18)、筆者はシンポジウムのコーディネータとして登壇した。パネリストは愛知県、名古屋市、中部経済連合会、デンソー、名港海運から招かれ、充実した内容となった。このシンポジウムで名二環の全線開通に寄せられた官民の声を総括したい。
1.整備事業の経過と期待された効果 -半世紀にわたる事業、環状ネットワークの意義-
名二環の計画が産声を上げたのは、1966年(昭和41年)に名古屋市が「名古屋市高速道路計画の概要」で発表した「マルサ計画」に端を発している。名古屋市を中心に縦2本、横1本の高速道路(これがカタカナのサとなる)と環状道路で構成するネットワークを計画したもので、モータリゼーションの高まりを受けて何としても実現したいと関係機関に呼び掛けた(図表1)。その後、1968年(昭和43年)に名二環は都市計画決定され、事業化(1971年)へと進み始める。名二環が全線開通したのが2021年5月であるから、都市計画決定から55年の年月を経て完成したこととなる。
名二環が都市計画決定された時点では、名古屋都市圏に整備されていた高速道路は東名高速道路と名神高速道路だけであり、東名阪道と南知多道路が一部整備されていたに過ぎず、高速道路ネットワークとしては貧弱な状況であった(図表2)。その後、中央道、東名阪道、東海北陸自動車道などの放射方向の高速道路の整備が進み、新東名高速道路と新名神高速道路によって東西方向の重要幹線は二重化が図られた。2022年のネットワーク図を見ると、東海環状自動車道が完成すれば環状道路も二重化が完成し、55年前と比較すれば高速道路ネットワークの充実化には隔世の感がある。
半世紀を超える期間をかけて計画・整備が進められてきた名二環であるが、首都圏や関西圏と比較すると名古屋は環状道路が最も早く整備された大都市圏である。3つの大都市圏が苦労をしながらも環状道路の整備を進めるのは、道路ネットワークにおいて環状道路には3つの機能が期待できるからである。それは①分散導入機能、②バイパス機能、③非常時迂回機能だ(図表3)。
第一の分散導入機能とは、放射方向から都心に流入する自動車交通の集中を緩和する機能だ。環状道路が整備されることで目的地に向かうルートの数が一気に増えるため、特定の路線に交通が集中することが緩和される。第二のバイパス機能とは、通過交通を都心に流入させない機能だ。放射方向のネットワークだけでは、通過交通まで都心に流入してしまうが、環状道路ができると都心を迂回することができ、都心の渋滞が緩和される。名二環が整備される前は、名古屋高速大高線(最も早く整備された南北方向の名高速)は慢性的な渋滞を起こしていたが、名二環が整備されるにつれてほぼ解消されてきた。そして第三の非常時迂回機能は、事故や自然災害などで途絶区間が生じた際に、環状道路があれば迂回できるルートが多様に存在するので、経済活動の停滞を招かない。
大都市圏は経済活動の中心で放射方向の高速道路が集中しているから、3つの機能を期待できる環状道路が必要となる訳だ。地方中核市レベルでも、高速道路ではないものの環状ネットワークを形成する都市計画道路の整備を進めている例が多いが、いずれもこれらの機能が期待されているためである。
但し、こうした環状道路の機能が果たす効果は、日常の中では実感しにくい面がある。それでも着実に社会の発展に貢献しているというのが環状道路の特性だ。つまり、環状道路の効果は「じわる」のだ。以下では、各界の声から名二環が果たしている役割と効果を紹介したい。
2.愛知県・名古屋市からみた効果 -まちづくり、防災、市民生活への効果-
名二環整備の特徴の一つに、名古屋市および近隣市町村による土地区画整理事業によって道路用地を確保しながら整備された事業経過があげられる。土地区画整理事業とは、公園や道路用地を捻出しながら街区の整形化を図り所有地を換地する面的整備事業である。名二環は50か所に及ぶ区画整理事業とともに整備されており(図表3)、名二環の整備と同時に沿線に市街地が形成されてきた経過が特徴的だ。
これにより優良な住宅市街地が形成され、宅地の供給が人口増加に結びついて名古屋都市圏の成長へとつながっていった。沿線の市町村からみれば、地価の上昇が固定資産税の増進に、人口の増加が個人市民税の増進に直結するから、税収増加に大きく寄与したのである。
一方、名二環の西部には広大なゼロメートル地帯が広がっているため、平面を走る道路は水害時に冠水して機能しなく恐れがあるが、名二環はこうした災害時にも強靭なネットワークとして機能することが期待されている。防災面でも緊急輸送ルートとして重要な役割を果たすことだろう。
また、名古屋市によると、市内の救急隊が出動した際の平均搬送時間(救急病院への到達時間)は、政令指定都市の中で最も短いのだという。これも名二環の完成によるところが大きいとの報告があり、市民生活においても重要な役割を果たしている実態が確認された。
3.企業活動から見た効果 -生産・物流活動を支える凄まじい実態-
名二環全通記念シンポジウムには、名二環と関わりの深い企業を代表して(株)デンソーと名港海運(株)が登壇した。名二環は陸上部と海上部に大別することもでき、海上部は「名港トリトン」で知られる伊勢湾岸道が担っている。つまり、名古屋港と産業集積地である西三河地域等を結ぶ道路としての性格も有しており、その代表例として当該2社が招聘された。
(株)デンソーによると、当社だけで大型トラックを1,500便/日、40ftコンテナ100本/日という大規模な物流を展開しているという。トヨタグループの生産・物流管理方式は「ジャストインタイム」が有名で、無駄な在庫を持たない効率的な方式として知られている。但し、この方式は、物流の時間厳守が大前提になるから、渋滞は大敵という事になる。名港トリトンが整備されたお陰で、デンソー社が名古屋港に整備している輸出入センターに出入りするトラック便は4万時間/年の運行時間削減ができているという。また、デンソー社は西三河地域に本社拠点工場があり、三重県北勢地域の大安町に大安製作所があるため、これらの2拠点間を結ぶトラック便で7万6千時間/年の運行時間削減ができているという。名港トリトンだけでも渋滞解消と運行速度の向上に多大な効果をもたらしているという報告であった。
一方、名港海運(株)は名古屋港を拠点とする代表的な海運会社であり、飛島ふ頭と弥冨ふ頭を中心に多くの物流拠点を設けている。加えて、国内輸送の効率化を図るために、内陸部の高速道路ネットワークの要衝である小牧市周辺にも物流拠点を配置しているため、名古屋港と小牧市周辺を結ぶコンテナ運送トラック便は1,100本/月に及ぶという。名二環開通によって飛島ふ頭~小牧間の輸送時間は、1往復当たりの平均で56~89分の短縮を実現しており、その結果人件費の削減、CO2排出量の削減、ドライバー負担の軽減につながっているという報告であった。
これら2社の報告だけでも、凄まじい効果を上げていることが想像できる。愛知県が日本一の製造業集積地であり、名古屋港が日本一の港湾であることを背景に、名二環がもたらした渋滞解消と輸送時間の短縮効果によって、産業活動の効率化に多大に貢献していることが理解できる。
4.今後のネットワーク強化に向けて -「名古屋三河道路」、「一宮西港道路」への期待-
さて、中部圏の高速道路ネットワークは確実に充実強化されてきた訳であるが、今後への課題について、中部経済連合会から提言があった。中部経済連合会は、2022年3月に「中部圏交通ネットワークビジョン」を発表しており、ここで提示されたのは「新たな環状道路」の整備である(図表5)。これを構成する高速道路は、東名・名神高速道路、一宮西港道路、名古屋三河道路であり、このうち「一宮西港道路」と「名古屋三河道路」が新たに整備すべき路線として掲げられた。
企図されているのは、岡崎⇔名古屋港⇔一宮を名古屋市の外側で結ぶ環状ネットワークであり、岡崎と名古屋港を結ぶエリアの渋滞頻発の解消、名古屋港と濃尾地域を結び東海北陸道と直結することでゼロメートル地帯のさらなる強靭化を図ることだ。
これに対し、登壇した愛知県、名古屋市および民間2社((株)デンソーと名港海運(株))は一様に賛同の意を表明した。名古屋周辺の東西方向と南北方向の高速道路ネットワークを強化することになるためで、名古屋港を介した更なる産業活動の効率化と安全・安心な地域社会の構築に寄与することが期待できることに共感するという意思が示された。
このシンポジウムでは、三大都市圏で最も早い環状道路の完成となった名二環の効果が、「じわる」中でも大きな役割を果たしてきたことが確認されたとともに、中部圏の更なる発展に向けて必要とされる新たな路線についても認識を共有できる好機となった。リニア開業後の国土において、中部・愛知・名古屋が、有効な立地選択の対象となるためにも、地域が有する発展課題に早期に焦点を当て、インフラアップに向けて地域一丸となって取り組む姿勢を掲げることは、大変意義深いものだ。「一宮西港道路」と「名古屋三河道路」の実現に期待が膨らむシンポジウムとなった。