Vol.133 名古屋都市センター歴史まちづくりシリーズ④ 「金山の歩み」  -過去のハイライトは総合駅化。ダイヤモンドの原石が輝くときは?-

名古屋都市センターが2023年度「歴史まちづくり連続講座」を開催し「金山」を取り上げた。講師は名古屋市役所OBで名古屋の都市計画史に詳しい杉山正大さん。金山総合駅は中部圏で名古屋駅に次ぐ乗降客数を誇る拠点駅だ。構想されてから長い歳月をかけて多くの関係者が苦労を重ねた末に完成した金山総合駅だが、金山の街は新たな岐路に立っている。名古屋市にとってダイヤモンドの原石のようなポテンシャルを持つ金山の昔と今後を探訪した。

1.金山地区の歴史  -「線路はあるが駅はない」から「3つの駅が分散する」金山へ-

金山は、名古屋市の熱田台地の上にあり、浸水の恐れがない海抜があって地盤も安定していたことから、古代から人々の営みがあった事が判明している。名古屋市では、市民会館、アスナル、金山南ビルなどの建設に際して埋蔵文化財の調査を実施してきた結果、古渡遺跡群と命名された多くの遺跡からは、縄文時代、弥生時代、奈良時代、中世にわたり集落などの跡が確認されている。

江戸時代になると名古屋城下が形成され、名古屋城から熱田(神宮と渡し)に至る本町通が街の主軸となり、金山はこの軸上に立地した。本町通(美濃路)から佐屋街道が分かれる追分が金山に当たり、今もこれを伝える道標が尾頭橋付近に立っている。

近代に入ると、金山には複数の鉄道が敷設されることになった。1886年(明治19年)に国鉄が東海道線敷設に伴い名古屋駅を開設し、明治33年(1900年)には中央線の名古屋~多治見間が開業しているが、これらの線路はいずれも金山を通ることとなった。熱田台地の中に鉄道を通すにあたっては、金山周辺は人家が少なく田畑が多かったため、用地買収が容易だったからだと考えられている。

その後、明治41年(1908年)に名古屋電気鉄道(後の市電)熱田線が栄町~熱田駅前間で開業した。こうして、金山には東海道線、中央線、市電が通る鉄道の集中箇所となったのであるが、「線路はあるが駅はない」時代が続くこととなる(図表1ご参照)。

1922年(大正11年)に名古屋電気鉄道が名古屋市電気局(現、名古屋市交通局)になる前に市電・金山橋電停が開設され、金山に一つ目の駅ができる。1944年(昭和19年)には名古屋鉄道が神宮前~新名古屋間(後の名古屋本線)を開通させ、金山駅(後に金山橋駅に改称)が設置され、二つ目の駅ができた。そして、1962年(昭和37年)には中央線に金山駅が設置され、三つ目の駅が誕生したのである(図表1ご参照)。

こうして、近代における鉄道開花とともに金山は鉄道の結節点としての立地を固めていくのであるが、「駅のない時代」を経て「駅が3つに分散している時代」を迎えた。東海道線に駅はなく、国鉄中央線、名鉄名古屋本線、市電熱田線の各々に駅があるものの3つの駅の位置に隔たりがあるという奇妙な時代を金山は過ごしたのである。

2.金山に総合駅を作れ!   -世界デザイン博覧会の交通拠点として誕生(1989年)-

名古屋市は、先の大戦で大規模な空襲を受け、街の多くが焼失したが、終戦(1945年)を迎えると直ちに「戦災復興計画」を策定(1946年)し、現代名古屋の建設に着手している。この戦災復興計画の中で金山は副都心として位置づけられ、金山総合駅化(複数路線の駅の統合化)が構想されており、1950年(昭和25年)に都市計画決定されている。ここでの方針は、国鉄東海道線と中央線に駅を作り、名古屋市交通局は市電に代わる地下鉄を建設し、名古屋鉄道金山橋駅を移設する方針が打ち出されている。この時の計画図には、地下鉄駅の位置と形状、地上とを結ぶ6連エスカレータの位置、地上部における国鉄と名鉄の駅の形状などが既に描かれており、その計画力に驚嘆する。

このように、復興計画の策定と総合駅化の決定は、終戦とともに電光石火の速さで決定されたのであるが、この後、金山総合駅の実現には長い歳月を要することとなった。用地買収、電化への対応、複線化などを含みながら異なる鉄道事業者が結節する駅を建設するには、多くの困難が立ちふさがったのである。

1962年(昭和37年)に中央線が複線化されるとともに金山駅が設置(1962年)され、1968年(昭和43年)に地下鉄栄~金山間の開業に伴い地下鉄・金山駅が設置された。その後は高座橋(大津通)が幅員拡幅と径間拡張を伴う架け替え工事が行われ、ようやく準備が整った。しかし、総合駅建設に伴う鉄道各社と名古屋市の費用負担が簡単には決まらず、1970年代は金山総合駅実現の機運は高まらなかった。

潮目が変わったのは世界デザイン博覧会(以下、デザイン博)の1989年(平成元年)開催が決定された事であった。デザイン博は、名駅会場、白鳥会場、名古屋港会場の3つの会場で分散開催される計画となったため、これらの中心に位置する金山には、来場者輸送を担う金山総合駅がどうしても必要だという機運になったのである。名古屋市、JR東海、名古屋鉄道の三者で協定が結ばれ、1987年(昭和62年)に行われた起工式後、JR東海道線ホームの新設と中央線金山駅の橋上駅化、名鉄金山橋駅の移設、総合駅の南北連絡通路(現、コンコース)の整備、地下鉄と地上を連絡する6連エスカレータの設置などが一斉に着手され、1989年(平成元年)7月9日に「金山総合駅」がついに誕生した。この時に各機関が負担した費用は、名古屋市14億円、名古屋市交通局5.3億円、JR東海9.9億円、名古屋鉄道34億円であった。

関係者の多大な努力により、戦災復興計画以来43年という長い歳月を要しながら種々の壁を乗り越えて誕生した金山総合駅は、今では年間約9,000万人が利用する拠点駅として鉄道の要衝となっており、市民会館、アスナル、金山南ビルなどの立地とも相まって市民の交流の舞台ともなっている。但し、戦災復興計画で位置づけられた副都心としての役割を担っているとは言い難い。

3.金山はダイヤモンドの原石だ  -リニア時代にオフィス集積拠点を目指せ-

リニア開業後の名古屋市は、東京一極集中是正の受け皿にならねばならぬと筆者は考えている。東京に強く依存する国土であるがゆえに、日本の企業も家計も高コスト負担を強いられており、日本の発展を妨げていると考えるからだ。リニア開業後の名古屋は、DXの進展とも相まって、東京への高いアクセス性を保持した日常の経済活動の場として優れた立地条件を有することとなる。「安くて便利」な名古屋を有効に使う事が、日本企業の経営環境の改善を実現するし、従業員の豊かなライフスタイルの構築に繋がる。

そのためには、名古屋に本社の立地が進むことが望ましいのだが、名古屋の都心部には十分なオフィス供給計画がない。名古屋の都心部における今後のオフィス適地として候補に挙げられるのが、名駅西口地区、金山地区、三の丸地区だ。中でも、金山地区は、総合駅化されているために駅での乗り換えが便利で、三河地域、中部国際空港へのアクセスに優れており、名古屋駅経由でリニア品川駅にもアクセスし易い立地を有する事になるから、立地ポテンシャルが非常に高い事が特徴だ。そして、極めて良好な交通条件を有していながら名駅や栄と比べると賃料が安い事が、筆者がダイヤモンドの原石に例える所以である。

この金山で再開発の動きが胎動を強めている。名古屋市住宅都市局は、R4年12月市議会にて金山駅北口地区の再開発方針を示した(図表3)。開発整備のコンセプトは「人・文化・芸術とともに育つまち」とされている。これは、アスナルと市民会館を中心に音楽を中心とした芸術・文化活動の拠点として知名度を高めてきた金山北地区の歩みをリスペクトしたものとなっている(図表3)。

ここで筆者の注目点を述べておきたい。図表3に示される計画は、アスナル跡地開発と市民会館の建て替えの2つの街区が、それぞれ隣接街区を取り込んで一体的開発を指向している事だ。これにより、各街区に導入される機能は複合化し高度化する事が期待できる。アスナル街区では商業機能、文化機能に加えて業務機能等が導入される可能性があるし、市民会館街区も大型化する事でホール機能が高度化し付帯機能が導入される事が見込まれ、金山の拠点性を高める上で望ましい。

その上で、リニア時代の金山には業務機能の更なる集積を望みたい。その他の街区(北口と南口)での再開発が進められることが前提だが、名古屋市における4つ目のオフィスゾーンとなることを期待したいのだ。名古屋市には、名駅地区、伏見・丸の内地区、栄地区の3つのオフィスゾーンがあるが、前述したように東京一極集中是正の受け皿となっていくためには、既存のオフィスゾーンだけでは不十分だ。現状の金山は賃料が安く、リニア開業後には広域アクセスが一段と向上し、「安くて便利」な名古屋を代表する地区となる。ここにオフィス機能の供給が進めば、国土利用における名古屋のお値打ち感を象徴する地区となり得ると考えるのだ。現勢の賃料水準より上昇するとしても、名駅地区を大きく超えていくことはあり得ない。栄地区に準ずる賃料水準のオフィス床を供給する事で、名古屋都心部における立地選択の多様性が向上することを希求したい。金山がこれまでに育んできた音楽を中心とした文化発信拠点としての性格と、オフィス機能の集積は共存できる。むしろ、オフィスゾーンとしての新たなブランドを確立する可能性が高い。

そのためには、名古屋市が主導する図表3の再開発以外のエリアにおいて、民間主導の再開発が進まねばならない。アスナル街区でオフィス機能が成立する事を契機として、金山にオフィス集積が進むことが、リニア時代に名古屋市がマイナーチェンジを越えた名古屋市2.0に進化することを意味している。問題はタイミングと開発リーダーの存在だ。名古屋市主導の北地区開発の動向を見据えながら、その他街区の再開発の牽引者となる民間デベロッパーの出現が必要となるため、誰がそうした主体として適切なのかを探索していきたいと考えている。

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