Vol.110 愛知県の人口に起きている変化と継続している構造  -外国人の転入は増加したが東京圏への若者流出は常態化-

愛知県の人口は2020年に減少に転じ、2022年まで3年連続の減少となっている。社会増減では前年の減少から増加に転じたものの自然減が拡大して補えきれない構造だ。自然減の拡大は社会潮流を反映して少子高齢化が顕在化しているものであり、社会増は外国人の転入超過が顕著になった事による。一方、東京圏への大規模な流出傾向は常態化している。2022年の愛知県人口動向調査結果を概説した上で、今後の人口対策シナリオを考えたい。

1.3年連続の減少となった愛知県の人口  -自然減の拡大を社会増で補えない-

2022年10月1日時点の愛知県の人口は749万7,521人で3年連続減少となった(愛知県人口動向調査結果2022年年報)。2019年のピーク時(755万4,242人)から3年で56,721人の減少であり、注視と対策が必要な状況だ。コロナ禍の影響による変動と構造的な課題を紐解いておく必要がある。自然増減と社会増減について概況を述べたい。

自然増減は6年連続で減少が続いており、2022年は▲26,149人となって減少幅が拡大した。出生数が低下を続けている一方で死亡者数の増加傾向が強まったことが要因だ。死亡者数の増加はコロナ禍の影響というよりも高齢化の進展によるところが大きいものと解される。従って今後も自然減は拡大基調で推移すると覚悟しなければならない。

出生者数を増やすために、結婚や出産に踏み出せない若者の経済不安を取り除こうと、政府は「異次元の少子化対策」を掲げ、都道府県では高校の無償化などの教育費支援策などが打ち上がり始めている。但し、こうした経済支援は対処療法の域を出ず(vol.109ご参照)、近い将来子どもを持ちたいが躊躇している若者の多くがどこにいるかを念頭に置いた国土政策を打ち出すことが本源的だと筆者は考えている。この点は、後段でも述べたい。

一方、愛知県の社会増減はコロナ禍の影響を受けている。2020年~2021年にかけて外国人が顕著に減少したことで愛知県では社会増要因が急速に減退し、プラスが続いていた社会増減は2021年にマイナスに転じた。最新の2022年では12,107人と再びプラスに転じたのであるが、その主因は感染対策がウィズコロナに転換したことによる外国人の転入であり、愛知県土全体で外国人が増加したことによる。しかし、外国人ファクターによる社会増加だけでは加速傾向にある自然減を補いきれず、県人口の総数は減少した。

社会増減の構造を把握することは地域特性把握の観点から重要で、その上で戦略を立案し対策を講じていく必要がある。以降では、愛知県の社会増減を中心に紐解きたい。

2.愛知県の社会増減の構造  -増加要因は近隣県からの吸着と外国人、減少要因は東京への状態的な流出-

2022年の愛知県人口動向調査結果(図表1に抜粋)によると、愛知県の転出入の合計は12,107人の転入超過(社会増)となった。但し、この社会増を支えたのは外国人(0~49歳)の転入超過(19,395人)であり、日本人に限った場合は▲7,288人の転出超過(社会減)であった。日本人について5歳階級別に見ると、15~24歳で転入超過となっているものの、それ以外の全ての年齢で転出超過となっている。愛知県は、進学・就職期(15~24歳)に近隣県から若い人口を吸着している様が読み取れるが、25~39歳の年代で転出超過数が大きく、子育て世帯の年齢層が子連れで転出していると思われ、0~9歳でもまとまった転出超過となっている。

愛知県からの転出超過で最も大きな転出先は東京圏だ。図表1にあるように、ほぼ全ての年齢層で東京圏に転出超過となっており、合計では▲11,103人が東京圏に転出超過となっている。中でも15~34歳の転出超過が大きい。また、東京圏への転出超過を男女別にみると、20~24歳では女性の転出超過数が男性を上回っている事が目を引く。

こうしたことから、愛知県における社会増減の構造は、プラス要因は外国人と15~24歳の近隣県からの転入者である一方、マイナス要因は東京圏への人口流出である。東京圏には全年代で流出しており、とりわけ15~34歳の流出量が大きく、中でも20~24歳では愛知県の女性が東京圏に多数流出していると把握される。

3.愛知県に求められる社会増減対策  -産業構造の厚みを造る事。でもどうやって?-

愛知県から大量の若者が東京圏に流出している最大の理由は、製造業に特化した産業構造にあると筆者は考えている。製造業の集積が愛知県の誇りではあっても、男子も女子も全ての若者が製造業への就業を目指すわけでは決してない。多様な活躍機会を希求する愛知県の若者たちにとって県内には製造業以外に選択肢が少なく、このことが東京圏への流出の主因となっていると解すべきだ。

例えば金融関係に就職したいと考えた場合、愛知県にはメガバンクや大手証券会社の本社・本店はない。県内に留まりながらメガバンクを志望したい場合は地域総合職を選択せざるを得ず、キャリア志向を持つ若者にとっては忸怩たるところだろう。大手のデベロッパーや流通業、デザイン業やファッション産業、マスコミや広告代理店、IT産業やコンサルタント業界なども同様だ。また、R&D機能に携わりたい若者にとっても県内では自動車産業以外の選択肢は限定的だ。若者たちが東京に吸い上げられてしまうのは、このような著しく偏った産業構造に起因すると認識しなければならない。

製造業に特化した産業構造に厚みを持たせようとすれば、製造業以外の業種の集積を図ることになるのだが、しからば如何にして実現するか。愛知県や名古屋市は、起業家を育てるスタートアップ支援策に力点を置いている。また、愛知県はコンベンション産業の育成・振興にも注力している。これらの取り組みを支持したいと思うが、果たして現状打破に向けて十分だろうか。

筆者は、業種よりも機能に着目すべきだと考えている。対象としたいのは「本社機能」と「R&D機能」だ。日本の国土で本社機能とR&D機能が集積しているのは圧倒的に東京圏だが、そのために企業は多大な立地コストを強いられている。期せずして(DX+コロナ)でリモートスタイルが産み落とされ、東京23区の人口が流出した。リモートスタイルが過密リスクや高いコスト負担と決別することを促した格好だ。そして、今後リニア中央新幹線(以下、リニア)が開業すれば、「(DX+コロナ)×リニア」という環境が完成し、国土における東京依存から脱却する潮流が芽生えよう。特に、東京で高い立地コストを負担している企業の本社が愛知県に移転すれば、東京とのアクセス性は担保しながら立地コストが縮小し、安い諸物価ともあいまって法人も社員も生産的で豊かな活動環境を得ることとなる。

本社とR&D機能が愛知に移転すれば、20歳代の就業期の若者が近隣県以外からも愛知県を目指す流れが生まれ、30~40歳代の中堅社員は家族を伴って転入してくることになるから、先に見た東京圏への人口流出の常態化から脱却することが可能だろう。業種は拘らなくても良く、本社を移転してくれた業種が産業構造の厚みをもたらしてくれる。

愛知県から流出した若者たちが、配偶者と子供を伴って愛知県に帰ってくれれば、1人で出て行って3~4人で戻ってくれるのだから社会増加効果は大きい。特に、流出の大きい女性たちは、「(DX+コロナ)×リニア」となった時に「住み良さ回帰」に機敏に対応する可能性がある。働く機会があり、東京アクセスは担保され、生活物価が安くなるのであれば、東京にしがみついている事が滑稽に思われる時代になり得ると筆者は考えている。結婚して子供を持つことに経済的不安から躊躇している若者は、その多くが東京圏にあって、愛知県への転居が叶えば経済的余裕をもたらし、結婚と出産に前向きに考えることを促す可能性もある。東京一極集中という国土から転換していくことが、国全体の発展に良好な影響を与えることになるだろう。

また、本社が移転してくるということは、役員数が増えるという事でもあり、これによってアッパー消費が増進するだろう。その典型例として航空機のビジネスクラスの利用が考えられる。セントレアを利用するビジネスクラス需要が高まることが期待でき、就航便の増加へと繋がっていくだろう。その他にも、マンションや耐久消費財、買回り品等においてもアッパー消費の増加が地域経済の活性化に寄与するに違いない。

現状では、愛知県は東京圏への人口供給基地となっている。これを打破していくためには、本社移転の受け皿となっていくことが奏功する。但し、そのシナリオはリニアの実現がなされなければ水泡に帰す。リニアの開業こそが、国土利用の転換を促す契機となり、愛知県の立地を積極活用する国土へとステージが変わることになる。足元ではスタートアップ支援が重要だと考えられるが、長期的にはリニア実現とそれに伴う本社機能およびR&D機能の受け入れが愛知からの人口流出に歯止めをかける決定打になり得るだろう。リニアの実現に向けて、総力を挙げていくことが重要だ。

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